ソードアート・オンライン パラダイス・シフト   作:hirotani

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第26章 ネイキッド・キング

 

   1

 

 暗黒界の南端に残された遺跡。異界戦争の際には戦場となった地として有名なのだが、そこが遥か昔に誰が何のために築いた地なのかは後世に一切の記録が残されていない。

 

 崩れかけた神殿が何の神を祀っていたのかも、建ち並ぶ石造が誰を象ったものなのかも。

 

 少なくとも鉄血の時代には既に無人の廃墟として打ち捨てられていたことは分かっている。暗黒界五族が殺し合っていた時代、戦況は混迷を極め人族の暗黒騎士団でも内部分裂が起きていた。

 

 当時眠りに就いていたベクタ帝を打倒し自らが新たな皇帝となることを宣言した暗黒騎士ブランバル・メフィリムは自身に同調する騎士たちと共にオブシディアを離れ、南端にある遺跡を見つけ拠点にしていた。遺跡の中に奴隷とした亜人族に建てさせた城が、支配者の名にちなんだブランバルの古城とされている。

 

 その場所と歴史を役場で聞いてすぐにオブシディアを発ったわたしとセツナは、砂塵の尾を引きながら荒野を駆けていた。甲高い音を響かせる乗り物は馬車じゃなく、ふたつの車輪で馬車よりも速く走れる二輪車という乗り物だった。リアルワールドにもある代物なのか、セツナはバイクと呼んでいた。

 

 オブシディアの馬車乗り場にあったそれは人界で開発された試作品だと商人が言っていた。駆動装置に熱素を灯すと力を車輪に伝達させて自動的に走らせることができるのだという。ここぞという見せ場とばかりに商人が簡単な熱素術で駆動させると、セツナは彼を殴り気絶させて、重低音の唸りをあげる乗り物に我が物顔で跨ってオブシディアを出発した。

 

 セツナは慣れた様子で二輪車を操縦してみせた。車輪が縦にふたつだけという構造だから平衡感覚にかなり不安があったけど、走り出せば不思議なことに安定するものだ。

 

 とはいえ屋根もなく吹きさらしなわけだから、風や砂ぼこりが容赦なく顔面を叩きつけてくる。後部座席につくわたしはともかく、前に座り操縦桿を握るセツナは目元を保護するために備え付けの眼鏡を掛けなければならない。

 

「ねえ」

 

 車体があげる音に掻き消されないよう、大声でセツナに訊いた。

 

「これ、乗ったことあるの?」

「さあな、覚えてない。だが多分自転車と大して変わらない」

「自転車って?」

「エンジン――駆動器が付いてないバイクだ」

「それって速いの?」

「人の足よりはな」

 

 わたしは不安になってきた。乗る前は乗り物に対してだけど、今度は乗り手のほうに。

 

「あなたって、これ乗っちゃいけないんじゃない?」

「こうして乗れてるなら問題ない」

 

 はあ、と盛大な溜め息をついた。馬よりも速いのだから、万が一転びでもしたら天命は全損するだろう。いつ死んでもおかしくない状況は珍しくないけど、この人のせいで死ぬのは勘弁願いたい。

 

 目の前で風に揺れるセツナのフードへ「ねえ、顎門」と呼んだ。

 

「危なくなったら、あなたに乗せて」

「まあ、致し方ない」

 

 顔こそ出さなかった裁定者の飛竜も、この無鉄砲というか無計画な死神様に呆れかえっているようだった。

 

 時代に忘れ去られた遺跡の奥に、明らか趣の異なる建築物が見えた。オブシディア城と比べたら遥かに控え目ながらも荘厳な黒の城こそが、主が病没という呆気ない最期を迎え一派も壊滅し打ち捨てられたブランバルの古城だ。

 

 かつてはジャイアント族も出入りしていたのだろうか、人の背丈の倍以上はある高さの正門の前には人族の門番がいる。二輪車を停めたわたし達へと剣の柄に手をかけながら近付いてくる。

 

「何者だ!」

 

 随分と威勢のいい門番に自らも剣を取ろうとしたセツナを制しつつ、わたしは臆すことなく言った。

 

「ユーリィ・シンセシス・トゥエニワンはここにいるの?」

「貴様らまさか人界統一会議の者か?」

「違うわ。わたしはナミエで、こっちはセツナ。ユーリィに会わせて」

 

 右目に眼帯をした門番はわたし達を交互に怪訝な左目で眺めつつ「少し待っていろ」と扉の奥へと引っ込んだ。数分ほど待っただろうか、再び扉が開き中か金属鎧をかき鳴らしながら走ってきた騎士がわたしを抱きしめた。

 

「ナミエ、探したよ!」

 

 身体を離し真正面から見たその顔は紛れもなくユーリィ・シンセシス・トゥエニワンのものだった。いつも堅苦しい顔ばかりだった彼女が、わたしに満面の笑みを向けている。

 

「無事だったか?」

「うん、何とか」

 

 「良かった」とユーリィはわたしの頭を撫でた。正直籠手をはめていたから痛かったけど、悪い気はしない。ユーリィは傍で所在なく立っているセツナへと目を向け、

 

「セツナも、久しぶりだな」

「ああ」

 

 「入るといい」とわたし達を城へ招き入れるユーリィの傍に控えている何人かの付き人の中には、顔を青ざめたあの門番もいた。

 

 わたし達のことを知らなかったのだから仕方ない。対応については黙っておいてあげようと思いながら、わたしはユーリィに訊いた。

 

「どうしてここに?」

「ここしばらくの間にたちまち大所帯になってね。オブシディアのあの孤児院では、もう収まりきらなくなったんだ」

 

 広間にはたくさんの子ども達がいる。追いかけっこをしたり、積み木遊びをしたり。歌を合唱している子たちもいれば、玩具を巡って喧嘩をしている子たちもいる。それを止めている大人も。

 

「あんたは央都に戻らなかったのか?」

 

 何気ないセツナの質問にユーリィは顔を僅かに渋めた。

 

「ああ、どうしてもあの子たちのことが気掛かりでね。もう整合騎士じゃない。今の私はただのユーリィだよ」

 

 そこでわたしは気付いた。ユーリィの纏っている胸当て。そこにあしらわれていた整合騎士団の紋章が、創傷で潰されていることに。

 

「以前の私なら公理教会を離れることなんて考えられなかった。これも右目の封印を破った影響なのかな」

 

 ユーリィは眼帯で覆った右目に触れる。

 

「その目、治そうとは思わないの?」

「そうだな。これはいうなれば誓いだ。私が良いように行使される人形ではなく、人間であるということのね。記憶を消されても、子を想う心までは消すことはできない。私はこの心のままに生きると決めた」

 

 その左目と声音に迷いはない。正直なところ、整合騎士だった頃よりも誇り高い騎士らしい。

 

「アーウィンはこのために、あなたに右目の封印を解かせたと思う?」

「もしそうだとしても悪い気はしない。あの子たちの世話を放ってアーウィンが逝ったのは、赦せないがね」

「変わったね、ユーリィ」

「そうかな? そういうナミエも雰囲気が変わった」

「そう?」

「君も色々とあったのだろうな」

 

 わたしとセツナを交互に見ながらユーリィは含み笑いを零した。わたし達の間にあるものは、傍から見て分かりやすいのだろうか。

 

「君たちこそあれから何をしていたんだ。人界で顎門らしき飛竜が目撃されたと聞いてあちこち探していたというのに」

「色々あったの。落ち着いたら、詳しく話すわ」

「ゆっくり聞くとしよう。ああ、そうだ」

 

 「君、あれを」とユーリィから指示を受けた付き人が、急ぎ足で広間の奥へと行った。すぐに戻ってきたその手には布で包まれた長物が抱えられている。

 

「ストピリアの宿に忘れていっただろう」

 

 付き人から受け取ったユーリィが布を捲ると、中にあったのはバイオリンだった。わたしの唯一と言っていい所有物。

 

 受け取りながら、わたしは「ありがとう」と最大の感謝をこめて言った。

 

「ユーリィ様」

 

 広間の奥からゆったりとしたローブを纏った女性がこちらへとやってくる。彼女が「そろそろ」とだけ言うとユーリィは「分かった」と頷いた。

 

「君たちも来てほしい。見せたいものがある」

 

 そう告げるユーリィは晴れ晴れとした顔だけど、どこか妙な緊張を感じさせた。

 

 

   2

 

 城は7階建てになっていて、最上階まで階段を上るとさすがに疲労が出てくる。せっかく戻ってきたバイオリンも、そう重くないにしても風呂敷で長いこと背負うと鬱陶しくなってくる。

 

「さあここまでだ。あとは自分の足で行こう」

 

 ユーリィの背中から降ろされた男の子が「ええ」と口を尖らせる。他の大人たちがおぶっていた子たちも同じように。

 

「あと少しだ。頑張れ」

 

 とユーリィが発破をかけると、子ども達は不満げな顔のまま「はーい」と素直に応じて成長真っ盛りの足を動かし始める。

 

 辿り着いた両扉を開けると、そこは1階ほどではないが十分な広さをもった大広間だった。大広間の奥、無骨な石造りの壁を背にすっかり朽ちた玉座が鎮座している。新たな闇の皇帝になろうとした者の夢の残骸。そこから扉の前までにはまるで近衛隊のように人々が立ち並び、ユーリィの姿を認めると右の拳を左胸に当てる。

 

 そこには人族と亜人族がない交ぜになっていた。種族の区別なんてない。誰もが横並びだ。

 

 独自の敬礼を返したユーリィが歩き始めると、その前にいた人々は左右に分かれ道を空ける。「まるでベン・ハーだな」とセツナが呟いたのだけど、どういう意味かは分からなかった。

 

 道を空けた彼らの中心。丁度玉座の間の中央にある位置に、ひとりの壮年の男が跪いている。

 

 少なくとも来客ではないだろう。もてなすのに手を後ろに縛られたり、口に縄を噛まされたりする必要はないのだから。

 

 それを最大の蔑みを込めた目で見つめる人々を見て、わたしは違和感に気付いた。彼ら全員の目が、左目だけなのだ。どの右目も眼帯で覆い隠されている。

 

「こやつら、まさか――」

 

 セツナのフードの中から、顎門のくぐもった声が聞こえた。全知の竜も、この状況はさすがに息を呑んだらしい。

 

 ユーリィは高らかに声をあげた。

 

「諸君。この儀式もようやく最後だ。残ったこの子らの魂を解き放ち、君たちと同じ誉れへと導く」

 

 一斉に「おお‼」という声が轟いた。ユーリィは捕えられた男へと歩き、背負っていた神器の槍を抜き後頭部に渡された縄を切る。

 

「人界爵家サンバルド・ランジール。罪状は無辜(むこ)の民を戯れに拷問した罪。少女の純潔を奪った罪」

「違う! 俺は民を躾けていただけだ! 禁忌目録も帝国基本法も犯してはいないのだ。何のいわれもな――」

 

 言葉は、ユーリィの蹴りで打ち切られた。顔面を蹴飛ばされた貴族の男は口を切ったのか血を吐きながら倒れ込む。

 

「己の身分に(おご)る者に罰を与える」

「貴様らにそんな資格が――」

「あるさ。我らに法や神などという枷はない。そしてまだ枷に囚われている者たちを解放するために、貴様には礎になってもらう」

「何を――」

 

 耳障りなのか、ユーリィは再び貴族の顔面を蹴飛ばした。

 

「子ども達をこちらへ」

 

 ユーリィの指示で、大人たちに促されるまま子ども達が強張った表情を一様に浮かべながら罪人とされた貴族のもとへ歩いてくる。その中に見知った顔があった。

 

 わたしより少しばかり年下で、暴力の末に歩くことも話すこともできなかった、名も知らない少女。でも、わたしのバイオリンで笑ってくれた子。そんな彼女がしっかり自分の足で歩いている。根気強く治癒術を施され治すことができたのだろう。

 

 連れられた子たちの中で年長の彼女に、ユーリィは懐から出した短剣を手渡す。

 

「やり方は何度も見ているね? これで奴を刺すんだ。痛みは伴うが、それは一時のこと。すぐに終わる」

 

 優しい口調で囁いたユーリィは少女の背中を押す。だけど、彼女は1歩を踏み出せずにいた。右目が赤く光っている。

 

 他の子ども達も短剣を持たされていて、罪人を囲むように立っている。もれなく全員に右目の封印が発動していた。これ以上の一線を越えることはできない。本来ならそのはずだ。

 

「ああ痛いだろう。だが君が受けた仕打ちは、それよりも遥かに痛かったはずだ。その痛みは奴が与えた。その報いを受けさせる資格が君にはある!」

 

 ユーリィの声が響く。少女の脚が震えている。それが痛みなのか、怒りなのかは分からない。

 

「君たちは奴のような者どもに大切なものを奪われたのだ。親、友、自らの人としての誇りを」

 

 握り絞めた短剣もぶるぶると震えだす。ユーリィの語りは更に続いた。

 

「復讐が間違いなどと誰かが言っていたな。そんなものは奪われる痛みを知らない者のたわごとだ。復讐を果たすことで初めて、君たちは失った誇りを取り戻すことができる。そして知るのだ。人を真に裁けるのは神ではなく、人だということを!」

 

 「さあ」とユーリィは強く促すのだが、手を出して強引にやらせることはしなかった。これは自らの手でしなければ意味がないと、彼女自身が知っている。他の右目を失った者たちも同じように、ただ子ども達を見守っている。

 

「やるのだ!」

 

 「うわあああ‼」と少女が叫び、短剣を振り上げた。その切っ先が貴族の背中に突き刺さったと同時、彼女の右目が血飛沫をあげて吹き飛んだ。

 

 叫びは伝播する。他の子たちも甲高い声をあげ、右目から鮮血を散らしながら貴族に短剣を突き刺していく。一度それが外れてしまえば、もう躊躇することはない。子ども達は何度も目の前の肉体に刃を立てて切り裂いていく。

 

 肉を抉り、骨が断たれ、血が流れる音が聞こえた。今まで何度も聞いてきた音だけど、この時ばかりは何かが崩れていくような音に感じた。あの子たちの、子どもだからこそ持つことのできる大切なものが壊れていくような。

 

 いつの間にか、貴族の悲鳴は聞こえなくなっていた。その身体がどうなっているのか、子ども達に囲まれているせいで見えなくなっている。

 

 わたしはただ、その光景から目を背けることができなかった。足が床に結合されたように張り付き、身体は凍てついたように固まっている。

 

 そんなわたしに、ユーリィは告げる。

 

「これが《隻眼の騎士団》だ」

 

 片目を、右目を失うことで初めてその資格を得る騎士たち。失うのは左目ではなく右目でなければならない。痛みを抑えつけるほどの強い意思によって。

 

 アーウィンが大衆の前で《死神》であるセツナの手によって死ぬこと。それによって起こる事とは、彼女の死の意味とは、この事なのか。

 

 これが彼女の望んでいた《死神》の在り方なのか。

 

 子ども達がひとり、またひとりと血の海に倒れた。ユーリィがすぐさま駆け寄ってひとり抱きおこし、首元に指を当て脈の確認をすると「この子らの治療を」と指示を飛ばす。我に返って激痛に気付き失神してしまったのか。

 

 ローブを着た者たちが慣れた様子で、倒れた子ども達を抱きかかえて玉座の間から出ていく。運ばれていた子たちの中にはあの少女もいた。全身が血に塗れていた。閉じられた右の目蓋からも血が流れていたのだけど、顔面に浴びた返り血と混ざり合っていてどの部分が彼女の血なのかはもう分からない。

 

 子ども達がひとり残らず運ばれていくと、血の海の中心には死体しか残らない。いや、人としての形を留めていないほどにまで破壊されたその肉塊は、果たして死体と呼べるのだろうか。子どもの非力な腕では、刃が奥まで刺さらずにすぐ絶命できなかったことだろう。

 

 人界の貴族が、何とも憐れな最期だ。人を人とも思わなかった者が、人としての形を失うなんて。

 

「これで全ての儀式は終わった」

 

 ユーリィが《隻眼の騎士団》員たちに告げる。

 

「ここに集う皆の魂が解き放たれた。我らは遂に、死神と同じ境地へと至ったのだ!」

 

 石造りの天井や壁を突き破りそうなほどの歓声が沸き立った。ここにいる全員が、あの子たちのように私腹を肥やした者たちを捉え殺すことで右目の封印を破ったのだろう。

 

 皆が罪を犯すことで、罪の意識から解放されている。何て矛盾だ。

 

 歓声の中、わたしはユーリィのもとへ駆け寄った。血のぬかるみに足を取られそうになりながらも、彼女の耳に届くよう近くでも声を張る。

 

「ユーリィ、どうして………?」

「アーウィンが死んだあの日からずっと考えていた。彼女は何のために、私に右目の封印を解かせたのか。彼女の死を伝えようと孤児院に行ってあの子たちを見た時に分かったんだ。この子たちから親や故郷を奪った者どもに報いを受けさせるためだと」

「報いって………」

「アーウィンの言った通り、暗黒界の各地で人界から流れてきた貴族や司祭に虐げられる者たちを大勢見てきた。彼らに抗う力を授けること、もう悲しみを繰り返させないことが、私がこの右目を失った意義なのだ」

 

 わたしは気付いた。オブシディアへ向かう道中で見た号外。そこに載っていた、暗黒界の各地で起こっていた殺人事件のことを。

 

「だが私たちには右目の封印という叛逆への枷がある。力を得るには、まずは枷を外さねばならない。死神のように」

 

 ユーリィが右手を上げた。すると皆が一斉に口を閉じ歓声がぴたりと止む。静けさの中に、ユーリィの声がよく響いた。

 

「これも運命か。この記念すべき日に、死神が我らのもとへやって来た。彼こそが、我らの死神だ!」

 

 とユーリィがセツナを手で指し示す。再び歓声――とはいかなかった。どよめきが騎士団の者たちに漂う。それもそうだ。いくら彼らを統べるユーリィが言ったとしても、いきなり現れた両目が揃っている青年が死神だなんて受け入れられるものじゃない。

 

 だがユーリィは彼らの反応を予想済みだったらしく、いたって平静な顔をしている。

 

「もうひとりの罪人を」

 

 彼女の指示で、団員たちの中からさっきの貴族と同じく腕を縛られ口を縄で塞がれた若い男が引っ張り出されてきた。男はユーリィの足元に転がっている肉塊を視界に収めると恐怖に目を見開き腰を抜かす。

 

「何を怖れている。最愛の父だというのに」

 

 呆れ顔で言いながら、ユーリィは男の手と口の縄を槍で切った。解放された手をだらりと下げ、開け放たれた口では歯をかちかちと鳴らして震えているだけ。

 

 そんな貴族の子息に、ユーリィは腰帯から外した長剣を差し出す。

 

「貴様に慈悲をやろう。あの黒装束の男と決闘し勝てば解放してやる」

「ほ、ほ、ほ、本当か……?」

「ああ本当だとも。人界に戻るなり新しく村を開拓するなり好きにすればいいさ」

 

 目の間にぶら下げられた機会に、男は口を固く結び歯をくいしばる。剣の柄を握り手の震えを抑え込む。目にはまだ恐怖の色が残っているが、それでも確かな闘志、そして殺意をセツナに向けていた。

 

 男は貴族なだけあって剣術の心得もあるのだろう。迷いのない所作で鞘から剣を引き抜き、「うおおおおおお‼」と雄叫びをあげながらセツナへと走っていく。

 

 間合いに入り、男が剣を振り上げた。だがそのときにはもう、男の首から上は無かった。気付けば足元に血気盛んな表情を浮かべた頭が転がっていて、制御を失った身体が力なく倒れて首から血の海を更に広げる。

 

 それを見下ろしながら、セツナはいつの間にか抜いていた剣の血をはらい腰の鞘に収めた。

 

 ほんの数秒。戦いとはおおよそ呼べないやり取りだったけど、それは団員たちに再びの歓声を今度こそもたらした。殺人を犯しても右目の封印が発動しない。そもそも右目に封印が施されていない神の存在を確信したのだ。

 

 満足げに微笑みながら、ユーリィは広間の奥に鎮座する物を指し示す。

 

「さあセツナ、玉座につくといい。ここにいる者たちは皆、死神のもとに集う騎士だ」

「俺に傀儡になれと?」

「希望だよ。新しい世界、虐げられた者たちの光になるんだ。アーウィンは君がそうなることを望んで天命を捧げた」

 

 違う。

 

 わたしは声にならないその言葉を裡で繰り返した。

 

 違うよユーリィ。

 

 アーウィンは、あの子たちにあんな惨いことをさせるためにセツナを死神にしたんじゃない。

 

 石のように固くなってしまった足を懸命に動かし、セツナのもとへ行く。彼の腕を両手で掴み、歓声のなか彼に聞こえるかも危ういか細い声ですがった。

 

「お願い、ユーリィを止めて。こんなの大義なんかじゃない」

 

 セツナは何も答えてはくれなかった。一瞥もくれることなく、わたしの手を振り払い歩き出す。彼の前にいた団員たちが道を空け、玉座への歩みを阻む者は誰ひとりとしていなかった。

 

 玉座の前で彼が歩みを止めると、歓声が止む。そこにいた全員が、自分たちの死神が王になる瞬間を目撃しようとしていた。

 

 






そーどあーと・おふらいん えぴそーど26


キリト=キ
アスナ=ア


ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」

キ「解説のキリトです」

ア「いやー今回凄いわね。何たって冒頭からバイク乗っちゃってるのよバイク。ファンタジーな世界観なのにもうメタル感丸出しよね」

キ「ああ、うん………」

ア「バイクは確か鉄道とか自動車の発明の合間でキリト君が趣味で作ってたって設定なのよね。馬代わりとして」

キ「まあ、そうだな………」

ア「因みに作者によると本作でセツナが乗っていたバイクのモデル車種はハーレーダビッドソンのファットボーイだそうです。あの名作映画『ターミネーター2』でシュワちゃんが乗っていた車種ね。作者の憧れがモロに出ています」

キ「うん………」

ア「やっぱアメリカンバイクって良いわよねえ後ろの人が乗り心地良さそうで。私もキリト君のバイクよく乗せてもらってるけどキリト君のってオフロード車でしょ。ああいうのってシート小さいし固いしですぐお尻痛くなっちゃうのよ」

キ「……………………」

ア「セツナも普通に馬車借りてもよかったのにわざわざ商人さんぶん殴って強奪するとかよっぽど乗りたかったのね。男の子ってみんな1度はバイク乗ってみたいものなの?」

キ「ものなの? じゃねーよ‼」

ア「どうしたのよキレちゃって。まさかDV?」

キ「違うわバイクのことなんてどーでもいーよ! そんなの霞むくらい本編がヤバかっただろ!」

ア「ヤバいってどこがよ? やっと再登場したユーリィがなんかカルト団体作って子どもに人殺しさせてセツナを教祖に仕立てようとしてただけじゃない」

キ「その全部がヤバいだろうが! ユーリィっていうなればパーティキャラクターでしかも整合騎士だろ! 何で闇堕ちしたみたいになってんだよ!」

ア「別に整合騎士が公理教会を裏切るなんて初めての事例でもないじゃない。原作でもアリスが右目の封印破ってアドミニストレータと戦ってたんだから」

キ「アリスは人界を守るために右目の封印破ったんだよユーリィと一緒にすんな!」

ア「もうかっかしないの。そもそも作者はこの展開のためにユーリィっていうキャラを創ったんだからいわば今回は予定調和なのよ」

キ「何て作者だ……!」

ア「作者からメモ預かってるわ。えーっと、ユーリィはセツナと一緒にいるうちに感化されて彼を死神として擁立するキャラとして構想していたそうです。ただプロット組んだら登場時期が遅くなることが予測されたため、場繋ぎも兼ねてユーリィのコンセプトを一部引き継いだアーウィンが構想されたとのことです」

キ「てことはもしアーウィンが出ないストーリーだったらセツナに処刑されていたのはユーリィだったってことか」

ア「そういうこと。何はともあれこれで本作の大きな伏線がひとつ回収されたわね。物語冒頭からしつこく語られてた死神が救世主として祭り上げられるきっかけは今回のエピソードなのよ」

キ「そのために子ども達に人殺させる必要ある?」

ア「大ありよ。絶対にできないタブーをしてこその作品なんだから。作者はむしろ『仮面ライダーブラックサン』を観て本作のぬるさを反省したくらいなんだから」

キ「何を参考にしてるんだよ!」

ア「さあて、次回はどうなることでしょう。セツナはユーリィの興した《隻眼の騎士団》の教祖になるのかい? ならないのかい? どっちなんだい!」

キ「某筋肉芸人さんのネタで次回予告するな! 多分だけどもう嫌な予感しかしないよ。この作品にもう希望を持つのはやめる」

ア「うん、正しい判断よ。読者の皆さんが予想するよりもヤバい展開にできるかに作者の腕が懸かってるから。さあ次回もお楽しみに!」
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