ソードアート・オンライン パラダイス・シフト 作:hirotani
1
静寂。
隻眼の騎士たちが、両目の揃った黒衣の男を見つめている。彼が玉座につき、王としてこれから創り上げる世界を夢想している。
そこは強者も弱者もない世界。誰も虐げられず、皆が平和で穏やかに暮らせる世界。その過程で、虐げてきた者たちが蹂躙される世界でもある。
それをもたらすと信じられる死神は、突き出した足を玉座の肘掛けに乗せ、蹴り倒した。高い背もたれが盛大に床と衝突する音は、静寂の中によく響いた。
「何の真似だ?」
立ち込める埃の中に佇むセツナに訊いたのはユーリィだった。振り返り、セツナは答える。
「俺はあんた達の都合の良い神にはならない」
都合の良い神。その言葉は、この隻眼の騎士団なる組織の本質を突いたものに思えた。自分たちの憎しみを肯定するための根拠として、殺戮者セツナを死神として擁立する。
それはまさに自分たちの罪を正当化するための、都合の良い存在だったのだ。
「セツナ様!」
団員の中から甲高い声と共に飛び出してきたのはわたしと同年代くらいの少女だった。
「あなたは、あたしに言ってくれましたよね。人を刺しても人は人のまま、憎しみは罪じゃないって。あなたは、あたし達の罪を肩代わりしてくれるんじゃないですか?」
その縋るような声音で、わたしは彼女を見るのが初めてでないことを思い出した。ローズール伯爵率いる商工ギルドの拠点を潰した日、憎しみからローズールに刃を向け右目の封印を発動した少女。あの日よりも肉付きが良くなっていて身なりも整っていたから気付かなかった。
あの日、越えずに済んだ一線はとうに越えてしまったんだなと、彼女の右目を覆う眼帯から理解できる。わたしがこの目で最初に見た死神の崇拝者と呼ぶべき人物だ。彼と同じ境地に往くことに躊躇はなく、喜んで右目を捧げたことだろう。
「彼女の言う通りだ。ここにいる皆は、自分たちの代わりに罪を背負う君と共に在るために右目を捨てた。君への忠誠の証としてな」
ユーリィが言った。セツナが望まなくても、走り出してしまったものはもう止められない。アーウィンが死んだあの日から死神伝説は始まり、ユーリィがそれを広めていった。引き返すことはできない。
そこにセツナの意思はなかった。自分の居ない間に死神だなんて祭り上げられ、更なる殺戮を求められる。伝説となる事柄を起こしたのは確かにセツナだったが、それに死神なんて神秘性を纏わせ世に触れ回ったのは彼の周囲にいた女たちだったのだ。
「あの時の言葉は嘘だったんですか?」
少女は涙声になっていた。わたしは嘘でも何でもないと叫びたかった。人を刺しても人のままとは間違いなくセツナの言葉だったと、同じ場にいたわたしも記憶している。だが憎しみは罪じゃないとはアーウィンの言葉だった。
どちらの発言も死神の教えと統合してしまったのは、少女がそのように記憶を自ら捏造してしまったからに他ならない。
「ああ、嘘だ」
でも、セツナはその間違いを指摘することはなかった。彼は自身のかつての言葉も行動の全ても、否定したのだ。
「救う気なんてない。あんた達が勝手に俺を神と勘違いしただけだ」
冷たく吐き捨てられたその言葉に少女は泣き崩れる。信じてきた者に裏切られた絶望の深さは、わたしにも多少は理解できる。きっと、ユーリィの右目の封印を解いた彼女の真実を知ったときのわたしと似たような感情だろう。
いや、裏切られたなんていうものは正しくないのかもしれない。セツナの言う通り少女の勘違いだ。セツナは自らを救世主と名乗り出たことは一度としてなかった。周囲がはやしたて、それが真実として固められただけのこと。
誰かを救うために殺すだとか、そんな崇高な志をセツナは微塵も持ち合わせていなかった。ただ殺せるから殺す。そんな虚しい空白に、人々が勝手に色を詰め込んで埋めていったに過ぎないのだ。
「死神は死んだのだな」
深い溜め息と共にユーリィが言った。
「使命を果たさないのなら、貴様はもう死神ではない」
「ならどうする。殺すのか?」
「ああ、残念だ。私はアーウィンから意志を受け継いだ。だから貴様からは使命を継ぐ。私が死神となる」
背中から抜いた槍が、真っ直ぐセツナへと向けられる。異界戦争では一閃すれば数百もの軍勢を葬ったと言われる神器を向けられても、セツナは眉ひとつ動かさなかった。
「勝手なものだな」
心底呆れたように、セツナは言う。
「立派な思想を掲げようが、あんた達のしていることは、そこに転がってる死体と同じだ。人としてみなさず、気の済むまで痛めつけて終いには殺す」
「………黙れ」
「そこに何の違いがある。被害者だったのを免罪符に、加害者と同じことをしている。俺を神だと言って、神の意思だからと自分勝手に責任を俺に擦り付けている。それは、法と身分を盾に好き勝手やっていた貴族と何も変わら――」
「黙れえっ‼」
激情と共に、ユーリィは床を蹴りセツナへと肉迫した。素早く抜かれた剣が骨のような槍を受け止める。力を拮抗させながら、ユーリィは怒声を飛ばした。
「彼らに信じられる神はなかった。ステイシアもベクタも、彼らを救ってはくれなかった。救ったのは死神だったのだ!」
「勝手にそう勘違いしただけと言っただろう。俺にそんな力はない」
「いいや、ある!」
ユーリィが槍を振り上げた。剣ごと頭上へと持ち上げられたセツナは宙を泳ぎながら、体勢を立て直しつつ間合いを取ったところへ着地を決める。
周囲にいた騎士団が、各々の持つ剣や槍といった武器を手に取った。本来なら抱くことを赦されない殺気。それを阻む右目を捨てた彼らは躊躇することなく放つことができる。
騎士団に襲撃された貴族たちはさぞ恐怖したことだろう。自分を護ってくれる法の効力が全く効かないのは、鎧を剥がされ裸にされるも同然だ。
「手を出すな!」
ユーリィは騎士たちを制す。
「この男は私が手を下す」
騎士たちはあっさりと武器を引き、観衆へと転じる。皮肉を感じられずにはいられなかった。従属のための封印から解放されたのに、騎士団長であるユーリィの命令に従っているなんて。
でも、この従属は彼ら自身が選び取ったもの。死神という同じ神を崇拝し、それに身を捧げる者たちの忠誠がなせるものだった。
「エンハンス・アーマメント!」
唱えた式句が、槍先に稲妻をもたらし集束させ光球を成形する。それが放たれた瞬間、セツナは横へと跳んだ。すぐ脇を光球が通り過ぎ、扉に命中して爆音と共に吹き飛ばす。それに振り向くことなく、セツナはユーリィとの間合いを詰めて剣を繰り出していた。
剣が黄金に光る名も知らない秘奥義を放ったのだが、ユーリィの神器はそれを受け止めてみせる。不発に終わり剣から光が消えると、ユーリィは槍を回転させ石突でセツナの脇腹を強かに打ちつける。
ごふ、と咳き込みながらもセツナは冷静だった。すぐさま反撃の剣を振り下ろすも、脳天の寸前で獲物を翻したユーリィの防御に決め手にはならない。
槍の長身はすぐ防御から攻撃へと転じることができた。ユーリィは回転させた勢いのまま柄で剣を叩き床に押し付ける。また回転させ構えを取り、刃の切っ先をセツナの胴へと突き出す。
だがセツナも速かった。下へと流された剣を持ち上げて槍に添え、その軌道を逸らしつつ相手の懐に潜り込む。彼の右足が橙色の光を帯びた。光の尾を引いた右足はほぼ一瞬と言うべき速さでユーリィの下顎を蹴り上げる。
同時に、ユーリィの投げ出した左脚がセツナの胸を蹴りその身体を突き放す。体勢を持ち直し再び間合いを取った両者は睨み合う。顎と胸の痛みなんて意に介さず。
今度はユーリィの方が速かった。セツナが構えようとした剣を槍で弾く。手から零れた剣が床を滑り、観衆となった騎士たちの中へと埋もれていく。
でもまだ剣はある。セツナが左手を振ると、籠手の中に隠されていた短剣がその切っ先を現した。拳で殴るかのように左手を突き出すが、それはやはり槍で防がれる。
「はあっ!」という声と共に、ユーリィは刃を仕込み剣に打ちつけた。瞬間、セツナの仕込み剣が根本から枯れ木のように折られる。
たたらを踏んだセツナの肩を、ユーリィは刃がない槍の中腹で殴りつけた。膝を折ったところで、更に石突で下顎を突き上げる。
「無様なものだな」
嘲笑いながらユーリィはセツナの胸倉を掴んで立ち上がらせる。唇を切ったのか口端から血を涎のように垂らしながら、セツナは訊いた。
「この軍勢で、あんたは何をするつもりだ?」
「民を虐げてきた貴族ども、どこかへと逃げ延びた人界の皇帝たちを探し出し殺す。彼らのような弱者を生み出した責任を取らせる。そして最後は、人界統一会議と暗黒界五族会議を滅ぼすのだ」
「あんた達が新しい支配者になると」
「支配ではない。民を自由へと導く。全ての民に掛けられた右目の封印を取っ払ってやる」
「何があんたをそうさせる? それがアーウィンの大義か?」
「そうだ!」とユーリィは槍でセツナの顔面を殴打する。
「彼女は自らの志を貴様に託し天命を捧げた。その責を貴様は理解しているのか! この世界は偽りと過ちまみれだ。最高司祭は支配のために民を虐げ、挙句の果てには私の記憶を消し整合騎士などという人形に仕立て上げた」
「その記憶のない虚しさを、埋めようとしているのか」
その言葉に、ユーリィは殴打の手を止めた。その目に動揺を浮かべ、目の前の弱々しく顔が腫れた青年を凝視する。
「記憶がなくても、想いは残っている。それが何なのか思い出せず、足掻いても戻らない虚しさは俺にも分かる」
「何が言いたのだ貴様は!」
「記憶が戻ったとしても、俺たちはその頃には戻れない。それだけのことをしてきた」
「戻れないなら往くべきところまで往き、その務めを果たしてみせろ!」
唾を飛ばさんとばかりに叫び、ユーリィは槍を振り上げる。瞬間、騎士たちの中から鈍色に光る影が飛び出した。それは一直線にユーリィへ向かっていき、風を斬るその音に気付いた彼女は咄嗟に背後へと槍を回した。
槍に弾かれた影が、金属特有の甲高い音を立てて床を転がる。それは、先ほど失ったセツナの剣だった。
困惑の色を浮かべたユーリィの顔に、好機とセツナは赤色に輝いた鉄拳を浴びせる。すぐに後方へと跳び、間合いを取ったところで右手をかざした。すると床にあった剣がぶるぶると震えだし、浮かび上がる。まるで糸で引かれたように剣はセツナのもとへ飛んでいき、その右手に柄が収まった。
「心意の
殴られた頬を腫らしながらユーリィは驚愕の声を漏らす。ずっと一緒にいたが、セツナがいつあのような能力を得たのか、わたしは知らない。初めから行使するだけの素質はあったのかもしれない。本人が扱い方を知らなかっただけで。
セツナは剣を逆手に持ち直し、ユーリィ目掛けて投げ飛ばした。歴戦の元整合騎士にとっては遅かったらしく、容易に槍で弾かれる。それを見越していたのか、セツナは既に駆け出していた。宙を舞った剣がまた糸で引かれたように持ち主の手に戻り、肉迫し再びユーリィの懐を突こうとする。
それもユーリィは受け止めてみせた。槍を回し、セツナの剣を絡め取り再び弾こうとする。素早い槍の動きが、甲高い音と共に静止した。受け止めたのは第二の剣。
いや、とわたしはセツナの左手にいつの間にかあった剣を凝視する。剣に似た輪郭のそれは、セツナの腰にぶら下がっていたはずの鞘だった。入れ物でしかないその長物を、セツナは第二の剣として振るいユーリィの肩を斬る、というより叩く。
「二刀流………」
知らぬ間にわたしの服の中に移動していた顎門が呟いた。
「否、それを模した疑似二刀流と呼ぶべきか」
鞘自体はそれなりに天命のある金属か木材で造られたものだろうけど、刃は当然付いていない。武器として使うとしても、それは剣じゃなく鈍器。それでも手数が単純に倍に増えたセツナは更に速くなった。
一刀を繰り出し、間髪入れず次の一刀を繰り出す。ユーリィが防ごうが防げまいが、もう構うことなく剣と鞘を一瞬の間すら置かず振るっていく。敵を確実に殺すための剣技。
もはや視覚することすら難しく、武器を打ちつけ合う音が絶えることなく響いている。ユーリィの顔に焦燥が浮かんでいたけど、わたしの目はセツナへ向いていた。
いつもと同じ無表情。躊躇も慈悲もなく、ただ死をもたらす神に相応しい顔。ほんの数舜、その顔が少しばかり幼くなった気がした。わたしと同じくらいの、10代半ばほどの年齢に。
セツナの剣と鞘が水色に光った。光の尾を引きながら跳び込む。宙では踏ん張りがきかず丸腰も同然になり、その隙をユーリィが見逃すはずなく槍を突き出した。
槍の切っ先は、セツナの左手の鞘で下から弾かれる。鞘を振った勢いのままセツナの身体が回転し、右手の剣がユーリィの肩口から腹にかけて斬り裂いた
整合騎士団の鎧なら高品質の逸品だろうけど、それは未知の二刀流秘奥義には耐えられなかったらしく傷口から鮮血を溢れさせた。手負いの敵に死神が慈悲など与えるはずもなく、着地と同時に血に染まった胸元を蹴飛ばす。
受け身も取れず床を転がったユーリィのもとへ、わたしは駆け出した。まだ間に合う。傷の手当ても、彼女の過ちも。
「ユーリィ、もうやめよう。こんなの、あなたの娘は望んでない」
「………何故、お前なのだ?」
血を零しながら出てきたユーリィの問いにわたしは「え?」と思わず訊き返す。一瞬の間を置いて、ユーリィの両手がわたしの首を掴む。
「力もなく穢れた身のお前が、何故奴の隣に立つ。何故、私では駄目だったのだ?」
ひたすらに問い続けるユーリィの左目には明確な殺意が宿っていた。殺意の根源にあるものを、わたしは悟ることができる。同じ女としての性だからか、不思議とその確信は持つことができたのだ。
「ユーリィ、あなた………」
絞り出した声を抑えつけるように、ユーリィは更にわたしの首を締め付ける。
「哀れみで私を見るな! この
気道を塞がれて呼吸ができない。抵抗しようにも元整合騎士に敵うはずもなく、掴んだ彼女の腕は微動だにしない。
不意に、ユーリィの胸が反れた。同時に胸当てから、赤色に光る刃が突き出す。首にかけられていた手から解放されたわたしは咳き込みながらその背後に立つ死神の姿を見上げていた。
その目に慈悲はない。剣を抜き、力なく倒れるユーリィの姿を、ただ無機質に見下ろしている。
「私の娘に何をするの?」
聞き覚えのあるその艶めかしい声に、わたしは朦朧としていた意識を明瞭にさせる。
ユーリィの完全武装支配術で破壊された扉から、ふたりが玉座の間に入ってくる。ひとりはヘスティカ。もうひとりはフードで顔を隠した黒衣の剣士。ふたりの姿を認めたユーリィは「ヘス…ティカ……」と口から溢れる血と共に声を絞り出す。
「あなたの騎士団を作るのに手を貸してあげたのはこのため。ふたりをここに来させた時点で、あなたの役目は終わったのよ。お疲れ様、ユーリィ」
ヘスティカの絶望に突き落とそうとする言葉は、当人には届いていないようだった。ユーリィの消えそうな意識が向けられていたのはただひとり。自身に引導を渡し、そして密かに思慕を抱いていたセツナだったのだ。
セツナを見上げるユーリィの瞳は整合騎士としてではなく、隻眼の騎士団の宗主としてでもない。そこに横たわっていたのはただひとりの女だった。
「私を、見て………」
その声音は今までの凛々しさが消え失せたものだった。ふらつきながら彼女の手が差し伸べられる。
「握ってあげて」
とわたしはセツナの手を掴み、強引にユーリィの手と触れさせた。自らの手を包み込む感触に、ユーリィは穏やかに微笑した。
わたしはその顔が、きっとユーリィが整合騎士になる前の、村娘だった頃の顔だったのだと思った。この笑顔を友人や愛娘に向けながら日々を過ごしていたのだろう。
セツナの手の中からユーリィの手が滑り落ちた。微笑を浮かべたまま左目がゆっくりと閉じられ、心地良い眠りに誘われたかのような表情のまま呼吸が止まる。
貫かれた胸の穴と、顔を濡らす血が酷く不釣り合いなほどに穏やかな死に顔だった。でも余韻に浸っているのは、あの女が待っていてはくれなかった。
「やり方は分かっているわね?」
「はい、マザー」
そんな短すぎるやり取りの一瞬後、黒衣の剣士は駆け出した。凄まじい速さでわたしとユーリィの亡骸を抜け、セツナに剣を突き立てる。セツナは防御してみせたが、押しが強く数メルほど後退してようやく足元の踏ん張りがきくほどだった。
セツナは剣を弾き、身体を回転させ左手の鞘で追撃しようとする。獲物が2本だからこそ繰り出せる攻撃に、黒衣の剣士も防ぎようがない――はずだった。
鞘が甲高い音を立てて防がれる。受け止めたのは、黒衣の男の第二の剣。腰の剣帯から外した彼の鞘だった。
同じ疑似的な二刀流。セツナも目に驚愕が浮かぶ。黒衣の剣士は鞘を弾き、同じ二刀での猛攻を叩き込んでいき、セツナはそれを防ぐのに必死だ。顔に驚愕を貼り付けたまま。
「前に見た時も思っておったが、あのふたりの剣は似ておる。まるで鏡写しだ」
顎門が呟いた。剣に関しては素人のわたしから見ても、確かにふたりは似ていた。黒衣であることも、細身の剣を使っていることも。
繰り出された剣を弾くと同時、セツナは跳躍し敵の背後に回り込んだ。そこで二刀を叩き込むのだけど、敵は鞘を背に回し防ぐ。奇妙な鞘だった。先端に矢じりのような刃が付いている。
間髪入れず黒衣の剣士は身体を反転させ勢いに乗せた剣を振り下ろす。咄嗟にセツナは鞘をかざし防御態勢を取るのだけど、刃が中腹に触れた瞬間、乾いた音を立てて鞘が真っ二つに折れた。剣に見立てていても所詮は急場しのぎの武器だ。耐久値は雲泥の差だろう。
その剣捌きにヘスティカはさも満足そうに、
「強いでしょう、あの子。あなたの守護者になるよう最強の剣士として調整したのよ」
セツナが水色に光る剣を突き出した。ほぼ一瞬と言えるほどの速さだったけど、黒衣の剣士は状態を逸らし避けつつ、金色に光る右足を蹴り上げ剣を弾く。
振り上げた刃が赤く輝く。その獲物を黒衣の剣士が振り下ろすと、中腹に命中したセツナの剣が金属の破片を散らして折れた。アーウィンの形見とも言える、彼女の相棒とも呼べる剣が、ただの鈍になってセツナの手から零れる。
床に落ちた剣の切っ先がひとりでに浮き上がる。《心意の腕》というものか。不意打ちに飛んできた剣に驚きもせず、黒衣の剣士は容易に自らの獲物で弾いてしまう。
繰り出された剣がセツナの右肩を貫いた。貫かれた勢いのまま床に倒され、更に腹には膝を食い込まされる。黒衣の剣士は唐突に左手の鞘を投げ捨て、懐から取り出したものを掲げる。
掌に収まるそれは宝石のようだった。角錐状に削り磨かれた面が紫色に光っている。黒衣の剣士はそれを、叩きつけるようにセツナの額に突き立てた。
瞬間、宝石が眩い光を放つ。同時に絶叫が響き渡った。それは目を見開いたセツナの声だった。単純な痛みとは異なる叫びは、何かの侵食を受けているようにも聞こえた。
絶叫する彼を愉悦の表情で眺めるヘスティカは言う。
「ユーリィから色々と聞かせてもらったわ。整合騎士。よくできたシステムね。ならその子も、私とあなたを護る整合騎士の定義に当てはまるわね」
光が徐々に弱まっていく。セツナは苦悶に呻きながら、自身に覆いかぶさる黒衣の剣士のフードに手を掛けた。
「そういえば、あの子にちゃんとした名前をまだ付けていなかったわ。ああでも、今の公理教会に整合騎士が何人いるかは訊き忘れたのよね」
ヘスティカは口端を歪め笑う。
「そうねえ、さすがにゼロ号なんて騎士はいないだろうし、この名前がぴったり」
フードがはだけた。ずっと影に隠されていた黒衣の剣士の顔が露になる。初めて見るその顔――いや、初めて見る顔じゃないという事実に、わたしは呆然と立ち尽くすしかなかった。
「セツナ・シンセシス・ゼロ」
そーどあーと・おふらいん えぴそーど27
キリト=キ
アスナ=ア
ユーリィ=ユ
ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」
キ「解説のキリトです」
ア「今回のゲストは、死んじゃったこの方です。どうぞ!」
ユ「整合騎士、ユーリィ・シンセシス・トゥエニワンです」
キ「おおユーリィ。何て言うか、よろしく………」
ユ「代表剣士殿、何やらぎこちなくありませんか?」
キ「いや俺とアスナ劇中だとユーリィの上司になるから、それ考えたら変に緊張しちゃって」
ア「本編じゃキリト君は登場しないんだから、かしこまる必要ないのよ」
キ「そうだけど、でもユーリィ俺のこと裏切ってるよね?」
ユ「まあ今回で報いを受け死んだのです。過去の事として、ここは水に流してもらいましょう(キリッ)」
キ「ああうん、そうだな。何かもう本編とのギャップで突っ込むのも疲れてきたよ」
ア「さあて本編の解説にいくわよ! 色々と凝縮された回になったわね。まずはセツナが《心意の腕》を使ったことについて!」
ユ「あれは驚きました。《心意の腕》は整合騎士の中でも指折りの者しか使えませんから」
キ「騎士の中で使っている描写があるのはベルクーリさんと無理矢理騎士にされたユージオくらいだもんな」
ア「キリト君も使えてたのはシステムに介入してのチートだったものね。セツナはそういった描写はなかったのにどうしていきなり使えるようになったの?」
キ「セツナは短期間で動的オブジェクト、つまり人を殺しまくったことで権限レベルが爆上がりしてるような状態だったんだ。だからもう神器レベルの武器も使えるし高度な秘奥義もバンバン使える。既に《心意の腕》を使えるだけのステータスがあったんだ」
ア「つまりは、はぐれメタルやメタルキングを狩りまくっていて、いつの間にか技やら呪文をたくさん習得していたって感じ?」
キ「まさにそれだな。心意となるとイマジネーションが必要になるわけだけど、セツナが使えたのは剣なしでもユーリィと戦おうとする戦意というか、殺意というべきかな。それがイマジネーションになって《心意の腕》が開花したんだ。セツナの場合、イメージの力というより殺気が具現化したような感じかな」
ユ「奴の私に対する殺意というのはそれほどまでだったのですか………」
ア「まあ絶対殺すマンな主人公なんだから仕方ないわ。ところでセツナの強さって現段階でどれくらいなの?」
キ「まあ戦闘描写も大量殺戮が主だから分かり辛いけどかなり強いよ。今回整合騎士で神器持ってるユーリィを倒したわけだし。今回初出の《疑似二刀流》も、俺の《二刀流》の劣化版みたいなもんだけどいくつもの剣技を完全習得しないと扱えないユニークスキルみたいなものだから」
ユ「粗削りと思っていましたが、意外と奴の剣は洗練されていたのですね」
ア「まあ戦い方が完全にヒールだものね。作者曰くセツナは《強い》というより《酷い》そうなので」
キ「思いっきり顔面狙って斬ってくるし死体を肉の盾にするしで汚れまくってるもんな。作者も戦闘描写はいかに野蛮に書くかに注力してるせいで秘奥義出すの忘れることがよくあるらしいし」
ア「今回ユーリィとの戦いも、最初決め手は《心意の腕》で背後から奇襲かけて倒す予定だったらしいものね。《疑似二刀流》を出したから二刀流剣技で倒すことに変えたみたいだけど」
キ「因みにユーリィを倒した秘奥義は《ダブルサーキュラー》っていう二刀流ソードスキルだ。GGOで俺が
ア「一応作者もオマージュするほどの原作リスペクトは持っています! さあ、次に話したいのはユーリィのことよ!」
ユ「わ、私ですか?」
ア「そうよ! 実はセツナのこと好きだったのね。いつから好きだったのどこが好きなのやっぱ好きな人で《ピー》したりするの?」
キ「やめろおおっ‼」
ユ「行為を妄想するのは、ほぼ毎晩………」
キ「あんたもそんなの答えんでいい! で、真面目に訊くけど何で好きになったんだ? 唐突だったからびっくりしたよ」
ユ「私が隻眼の騎士団を作ったあたりの頃に、セツナが私たちを導いてくれるのだと思うと彼の全てが麗しくなっていって………」
キ「完全に恋する乙女の顔になっちゃってるよ………」
ア「ユーリィ(肩ポン)」
ユ「副代表剣士殿?」
ア「あなたは若作りしてるけどBBAで子持ちだってことを忘れないでね?」
キ「台無しだ‼」
ユ「年齢など些末なものです。それに娘のことなど忘れました、整合騎士になったせいで!」
キ「あんたも張り合うな‼」
ア「まあ結局、暴力の世界じゃ強い人がモテるってことなのよ。原作でもキリト君がザコだったらハーレムなんてできないもんね」
キ「おおい誤解を招くようなことを言うな。次は黒衣の剣士の話題いこうとしたのにもう流れ的に無理だぞ」
ア「あのキャラに関しては顔と名前が明らかになったところで続きは次回に持ち越しよ。それでは今回はここまでね。また次回お楽しみに!」