ソードアート・オンライン パラダイス・シフト 作:hirotani
1
「俺はお前に会いに来た」
セツナのその言葉は、自らの経緯を総括するものだった。
あの村の外れの森でわたし達が出会ったことは必然だったのだ。死で別たれたふたりの感動の再会とならなかったのは、彼が記憶を失いわたしが自分の生命の意味を知らなかったから。
セツナは部屋の隅に目をやる。そこに立て掛けてあるのは、紆余曲折あってわたしの手に戻ってきたバイオリンだった。
「彼女もバイオリンを弾いていた」
呟いたセツナの声には、何の感情もこもっていない。いつも通りの声音だ。でも、この時ばかりは裡の想いを必死に抑えつけ耐えているように思えてならなかった。
この時、わたしの中で全ての得心がいった。初めてわたしのバイオリンを聴いたとき、初めてわたしと肌を重ねたとき、何故セツナは涙を零したのか。それは、心のどこかでわたしと《本物》のナミエを重ね合わせていた故だったのだ。
記憶をなくしたところで、心の奥深くにまで根付いた感情までは消すことができない。ユーリィに同じことを言っていたのは彼自身だった。
「そんなに、わたしとナミエは似ているの?」
自分の名前のはずなのに何故か違和感を覚えながら尋ねた。セツナのずっと逸らしていた顔を向けられたとき、思わず身を強張らせてしまう。
とても悲しそうな顔だった。目が赤く、今にも泣きだしてしまいそう。必死に堪えているだろう彼は声も震えていた。
「ああ、そっくりだよ。すました顔も髪も、子どものくせに大人ぶった物言いも全部同じだ」
不意にセツナはわたしの両肩を掴んだ。射貫くような鋭い目は憎しみがこもっているように思えた。いつも人を殺すときは顔色ひとつ変えなかったこの男が、たったひとりの女に感情をむき出しにすることに恐怖すら覚えた。
「ずっと会いたかった。こうなることを望んでいたはずなんだ。それなのに……、虚しいままだ………」
彼の目から涙が溢れた。わたしの肩にあった手から力が抜けてすり落ちる。崩れるように彼は床に座り込み涙を流し続ける。
これを読む諸氏に想像できるだろうか。数多の生命を無慈悲に奪ってきた死神が、オブシディアの片隅にある安宿の一室でむせび泣いていたなんて。
だけど、これが死神の本来の姿だ。過去の悲しみと憎しみを思い出し、その末の虚しさにどうしようもできず幼子のように泣くしかない。
彼もまた、殺し救ってきた者たちと同じ弱い人間でしかなかったのだ。
失望するだろうか。それも良い。どう捉えるかは各々の自由だ。わたしに限って述べれば、このとき抱いたのは哀れみだった。弱い者が抱く虚無というものは、かつてのわたしに近しいものだったから。
「わたしは、良いよ」
わたしは逡巡することなく、セツナを抱きしめることができた。ナミエに限りなく近付けられたわたしは、最初からセツナに惹かれるよう作られたのかもしれない。それでも、構わないとも思えた。
「セツナが望むなら、わたしがナミエの代わりでも――」
「お前はナミエじゃない」
その声には静かな怒りがあった。わたしの腕を振り払ったセツナは顔を見つめてくる。まるでわたしの瞳の中を探っているようだった。
「彼女はお前みたいに、何かに立ち向かえるほど強くなかった。だから守りたかった………」
セツナは立ち上がった。部屋の隅にあったバイオリンを掴んで、それを押し付けるように渡してくる。
「どこにでも好きなところに行け。どこか遠くの村や町で暮らそうとお前の自由だ。アーウィンもそれを望んでいた」
わたしは口を開きかけた。自分でも何を言おうとしたのか、はっきりとは分からない。多分、嫌だと言いたかったんだろう。それを察してかセツナは更に言葉の針を刺す。
「俺のことは忘れろ」
そう言って彼は背を向けた。今度はわたしが涙を流していた。彼の傍に居るという奥底での自負が砕かれて、自分が特別でないことを思い知らされた。
ヘスティカの娘として魂を作られ生み出されたわたしでは、セツナの恋人だったナミエの代替にはなれなかったのだ。
気付けば部屋を出ていた。バイオリンを抱えたまま宿を飛び出し、夜の静けさに包まれた街を泣きながら駆けていった。
2
中央広場の屋台はどこも閉まっていた。テーブルは酔い潰れたのか酒樽を抱えた人族の男がひとり寝ているだけだった。
空いたテーブルでひと息ついても、わたしは泣いていた。そんなわたしの服の中から顎門が出てきてテーブルに翼を休める。小さくても飛竜の溜め息は熱くわたしへと吹いてきた。
「あやつとお主に、あのような因果があったとはな。にしても、救いのないものよ」
とても話をする気にもなれず、わたしは黙って服の袖で涙を拭う。察してか、顎門は独り言のように話し続けた。
「慰めにはならぬが、我も長いこと人間たちを見てきた。人はいずれ死ぬ。寿命や病、事故や他者の手によって。死者の家族や友が嘆き、蘇りを神に祈ることはそう珍しくなかった。そう思えば、セツナの願いもありふれたものだ」
「分かってる。死なんてたくさん見てきた」
「そうだな。ならお主も理解はしていよう。最も人を狂わせる死とは殺人。本来なら死すべきでない生命が不条理に奪われる。残された者は、死者への愛故に殺した者を憎むのだと」
「愛?」と思わず上擦った声をあげた。血塗られた恐るべき行為に結びつくとは到底思えない、美しい言葉だった。顎門は「左様」と頷き、
「憎しみとは愛から生まれる。セツナは多くの者を殺めるほどに恋人を愛していたのだろう」
「あなたは愛を理解していると言えるの?」
知った風な口をきく飛竜に皮肉を飛ばす。裁定者として世界を滅ぼす役目を与えられたこの使い魔が、どうして人間に寄り添った物の見方をできるというのか。
わたしの皮肉に、顎門はどこか寂しそうに眼を伏せた。
「我にお主らヒューマンユニットのような魂と呼ぶべきものは与えられていない。が、永く生きていくうちに芽生えるものはある」
自分勝手な罪悪感に「ごめんなさい」とか細い声を漏らした。「よい」と顎門は裂けた口から微笑を零す。
「同情の余地はある。だがあやつの重ねてきた業は、もはや愛という美しい響きで取り繕うことはできなくなった」
「じゃあ、セツナはどうすれば赦されるの?」
「赦しなど得られんよ」
顎門は熱気を含んだ息を深く吐いた。
「赦しとは犯した相手から施されることで果たされる。殺しが最も忌むべき罪なのは、殺した者から赦しの言葉が決して得られないからだ。死人に口はない。あやつもそれを理解している。だが赦しを欲する想いも捨てきれず、その矛盾に苦しみ続けているのだろう」
セツナがこの世界に来た理由。それは、単に恋人との再会を望むだけじゃなかった。再会の先。死なせてしまった彼女に自らの罪を懺悔することが、セツナをこちら側に向かわせたのだ。
「わたしじゃ、あの人を赦せないの?」
「生命とは唯一無二。代わりを求めたところで、その者に成り代わることはできんよ。我が主の代行として作られながら、結局は役目を果たせていないことと同じように」
彼の涙。その意味がようやく分かった。もし恋人を模したわたしに会えば、赦しを得られるのではないか。ずっと足掻き続けてきた彼が抱いた一抹の希望が、わたしと死者が所詮は別人という事実によって完全に消えてしまったからだ。
わたしにとってもそれは絶望だった。まやかしのわたしが彼に赦しの言葉をかけたとしても、それもまたまやかしでしかない。模造品は本物になれない。
「セツナを赦せる者などおらぬ。例えお主でも」
顎門は残酷すぎる事実を告げる。分かっている。彼のしてきたことは、ようは八つ当たりでしかない。恋人を殺された虚無を埋めるために、憎む相手の同類をも巻き込んできた。
殺した者たちもまた罪人。そんなのは免罪符にならない。
「して、お主はどうするのだ?」
唐突な顎門の問いにわたしは「え?」と返した。
「あの母親と共にリアルワールドへ往くか、アーウィンの望み通り辺境の地で穏やかに生きるか。その選択はお主が決めることだ」
「どうしたら良いのか分からないよ」
「我もお主に強いるつもりはない。ただ、責務ではなく己の願いで答えを出すのだ」
「願い?」
「正しさではない。お主が何を望むのか。そこから選んだことが
諭すような口ぶりの竜が少しばかり優しい顔つきになったような気がして、思わずわたしは笑みを零した。おじいちゃんやおばあちゃんと話していたら、こんな感じなのかなと思いながら。
「何か変な感じ。顎門にそんなこと言われるなんて」
顎門も「そうだな」と微笑し、
「世を俯瞰してきた我がヒューマンユニットに情を抱くなど、思いもしなかった。我が主が世の管理者でありながら人の世を憂いていたことに疑問を抱いておったが、今なら理解できる。これが、心なのだと」
そう語る顎門は自嘲しているように、でも嬉しそうにも見えた。人間よりも高位な存在という自負が消えたことに。
「じゃあ、見守ってくれる? わたしがこれからすることを」
「答えは出たのだな」
「うん」とわたしは首肯する。答えは既に出ていたのだ。わたしが目を背けていただけで。
立ち上がろうとしたとき、遠くのほうで赤い光が炸裂した。同時に破裂音が耳をつく。あまりの轟音に頭蓋を貫かれたように錯覚した。足がふらつくのは意識が飛びかけたからな、地響きのせいかは判断がつかなかった。
テーブルで酔い潰れていた人族の男が飛び跳ねるように起きて、何がおきたのか辺りにせわしなく首を回している。
「おい、何があった⁉」
こちらに気付いた男が喚くけど、わたしに分かるはずもなくただ首を横に振った。
音のした方角には赤黒い煙が立ち昇っていた。遅れたように悲鳴やどよめきがオブシディア中に伝播していく。眠っていた人々が街中に出てきて煙とは逆方向へ逃げようとする人、事態の把握のため煙へ向かおうとする人が縦横に入り組んですぐに混沌が出来上がった。
空を見上げると、一点に光る星があった。いや違う、とすぐに分かる。あれは星じゃない。逃げ出した時に一瞬だけしか見たことがないけど、あの巨大な魚みたいな奇妙な形は忘れようがない。
間違いなく、ヘスティカの飛空艇という空飛ぶ城そのものだった。
星が分かれて、片割れが降りてくる。星が速度を増して、最初のときとは別の場所にその光を突っ込ませた。さっきよりも場所が近くだからか、音は各段に大きく爆風で尻もちをついてしまう。
「立つのだ、ナミエ!」
耳元で飛びながらはやしたてる顎門の声に頷きつつ立ち上がった。逃げ交う人々に何度か足を踏まれて痛かった。捻挫しているかもしれないけど、そんなのを気にしていられる場合でもなく、わたしは宿屋を目指して足を引き摺った。
街を包む阿鼻叫喚を貫くように、その声は響き渡った。
「偽りの和平に生きる民に告ぐ」
その声は何かの道具か神聖術を介しているように反響していた。後ろを振り返ると、大通りを埋め尽くしていた人々の中に空白ができている。その中心には3人ばかりのローブを着込み剣を持った者たちがいた。全員が右目に眼帯をしていて、その足元には胴体を両断された死体を中心に血だまりができている。
「我らは隻眼の騎士団。死神と同じ誉れを受け、魂に施された封印を破りし者」
言葉を発する男は初めて見る顔だったが、多分ブランバルの古城にも居たことだろう。あそこにいた人々をヘスティカとシンセシス・ゼロが牛耳ったことは容易に想像できる。だとすれば、彼は宗主もしくは幹部に使命された者だろうか。
これを言えと命じられた言葉なのか、それとも彼自身の言葉かは分からないけど、その声は淀むことなく街中に告げられた。
「我々はかねてから、暗黒界の各地で裁きを逃れていた罪人どもを粛清してきた。
信じられぬ者には、証左としてこの憐れな民の死体を見てもらおう。このように、我々は法で罪とされる物事でも実行できる力を持つ。
この力で我々は新たな世界を創造する。それは人が人として、身分で虐げられることなくありのままに生きられる世界だ。
人界統一会議は身分制度を撤廃し皇帝も貴族も平民もなくなった。暗黒界は五族平等を謳い差別を禁じた。
だが、差別は未だに起こっている。元貴族どもは過去の栄華を忘れられず民を虐げ、奴隷商たちは幼子たちから人の尊厳を奪い値を付ける。そんな現状に政府は見て見ぬふりをし、表面上だけの支援ばかりを行い、真に助けを求める弱者たちの声に耳を塞いだ。
宣言する。我ら隻眼の騎士団は人界統一会議と暗黒界五族会議を打倒する。これは開戦の狼煙である。3日後にこのオブシディアに進軍し、あの城にふんぞり返る五族会議の者たちは粛清されるだろう。
我々が望むのは支配ではなく解放である。真に人を救い裁くのはステイシアでもベクタでもない。死神である」
死神。その言葉を最後に声は聞こえなくなった。既に声の渦中からかなり離れていたわたしは、その後の彼らが何をしたのかは知らない。
すぐに去って身を隠したか。その場で虐殺をしでかしたのか。ただこの時は、まだセツナがいるという保証もないまま宿屋を目指していた。
「システム・コール――」
少し頭が冷えたおかげか、神聖術で脚の怪我が治療できるという考えに至ることができた。不測の事態というものは常識さえも霞ませてしまう。術で治癒した脚は軽く、すぐに駆け出そうとする。
不意に腕を掴まれてよろめいたところ、耳元であの声が囁いた。
「奴は一緒じゃないのか」
咄嗟に振り向く。混沌の中で無表情に立っていたのはシンセシス・ゼロだった。
「奴はどこにいる?」
「言えば、あなたは殺しに行くの?」
「ああ」
「なら言わない!」
手を振りほどこうとするけど、剣を軽々と振り回す彼の力に敵うはずもない。無駄にもがくわたしにシンセシス・ゼロは冷たく告げる。
「一緒に来い。あんたが居れば奴は来るだろう」
「どうしてそこまでセツナを………!」
「そのために俺は作られた」
はっきり言ってのけるこの少年に、わたしは恐怖以外の感情を見出していた。ヘスティカをマザーと呼び従い、彼女からの命令と仕打ちを全て享受するよう魂を調整された、もうひとりのセツナ。
わたしと同じ作られた魂という親近感からだろうか。その問いは何の皮肉や侮蔑もなく出てきた。
「セツナを殺すことは、あなた自身の望みなの?」
「望み?」
「別に憎んでもいないのに、命令だから殺すの? あなた本当にそれで良いの?」
シンセシス・ゼロの瞳が揺れた。逡巡と捉えるべきだろうか。もしそうならば確信できる。この少年にも魂がある。わたしが完全な《ナミエ》じゃないのと同じように、彼もまたセツナとは別人なのだ。
シンセシス・ゼロの頬に拳が突き刺さる。不意打ちに地面を転がり、腕を掴まれていたわたしも倒れかける。
わたしの身体を誰かが受け止めてくれた。見上げるとそれはセツナだった。殴られた頬を押さえながら立ち上がるシンセシス・ゼロは冷たい目でセツナを見るけど、やはり憎悪は感じられない。
セツナが膝を折った。粗く息をする彼の脇腹に剣が刺さっている。シンセシス・ゼロがわたしを押し退けて、セツナに刺さった剣の柄を握り軽く捻った。痛みに呻くセツナに、現身が「ここでは殺さない」と告げる。
「マザーはお前の死に様を見ることを望んでいる。逃げたところで無駄だ。俺たちは必ず見つけ出す。それに、逃げれば誰かが死に続ける」
腹から剣が抜かれた。栓が外れたように血が流れ、咳き込んだ拍子に口からも血が飛び散る。
剣を納めたシンセシス・ゼロは人々の中に埋もれていき、すぐにその姿は見えなくなった。
わたしは刺されたセツナの腹を手で押さえつけながら、肩を支えて街中を歩き出す。混乱はまだ続いている。終わりの見えないまま。
3
住民が逃げ出したのか、無断で上がり込んだ民家は無人だった。ずっと血の雫を垂らしていたセツナをベッドに寝かせて神聖術を施す。夜は空間神聖力が希薄だから傷口を塞ぐ程度しかできない。しばらく療養が必要だろう。
外を見やると、星が落ちてきたところからはまだ煙が上がっていた。喧騒もさっきよりはましになったけど、まだ街は混乱の中にある。
そんな状況では落ち着いて眠れないのか、セツナは軽く呻きながら起き上がった。「無理しないで」と傍に寄るわたしには目もくれず、シャツを捲り跡が残った脇腹を一瞥する。
ようやくわたしに目を向けるも、すぐに逸らして撥ねつけるように言った。
「もういい、行け」
「行かない。決めたから」
視線がわたしへ戻る。目が困惑の色を帯びていた。喪った恋人でも、それの模造品でもない。まるで初対面の、今まで出会ったことのない人間と対峙しているかのような目だった。
そう、わたしは彼の想っていたナミエじゃない。だからこそ決めたことを、わたしは宣言する。
「あなたの想いを受け止める。怒りも、憎しみも、悲しみも、虚しさも。わたしが受け止める。全部ひとりで抱え込ませないから」
これがわたしの答え。何があっても彼の隣にいる。この人からどんな弱く情けない感情を向けられても、全部受け入れる。たとえ死者と重ね合わせられたとしても。
セツナの目が少しだけ穏やかになった気がした。それでも険しい顔つきはいつもと変わらない。でも、わたしに向けられた悲しみも含んだ眼差しがとてもいとおしい。
「やっぱり、お前はあいつとは違うな。あいつはお前ほど強情じゃなかった」
「そうよ。だってこれは、わたしの選んだことだもん。あなたの好きだったナミエじゃない」
多分わたしがどれほど《ナミエ》と違ったとしても、セツナは彼女とわたしを重ねてしまうだろう。それは苦しみかもしれない。ならそれもわたしは受け止めてみせる。
「逃げよう。ここにいたらあの人たちが――」
「もう逃げられない」とセツナはかぶりを振った。わたしの服に入っていた顎門が出てきて尋ねる。
「なら、どうするというのだ?」
訊いてはみたけど、顎門にはもう彼の選択が分かりきっていたのだろう。わたしも同じだ。彼の答えに、わたしも顎門も大して驚きはしなかったのだから。
「全部、終わらせる」
決断を告げた声に勇ましさはなく、ただ悲しさだけがあった。
「俺がこの世界を荒らした。だからあの女ともうひとりの俺を殺して、この地獄に始末をつける」
分かっていた。恋人への愛を憎しみで塗り潰し、憎悪のまま重ね続けた罪から解放されようと足掻いてきた彼なら、そうするだろうと。
それはつまり死に場所を定める決断なのだ。だからわたしは逃げようと言った。無責任ながら罪なんて忘れて、ふたりでどこか遠くで隠れようと。
「嫌よ」とセツナに抱き着いた。そうしないと彼が遠くへ行ってしまうように思えた。
「こんなこと起こしたのはあの人でしょ。何でセツナがそこまでしなきゃならないの?」
「それが、俺の生きてきた意味なんだよ。死んで赦されるなら喜んで死ぬ。でも俺は自分のやったことの後始末をしないまま死ぬのも、赦されないんだ」
セツナがわたしの背中に腕を回した。俺の想いを受け止めるのなら、この決断も受け止めて欲しい。縋るような彼の抱擁を拒むことはできなかった。決めたのなら、わたしもそうするだけだ。
彼は、彼であるために戦うのだ。《ナミエ》を愛した故に復讐という罪を犯したのなら、その罪を背負うことだけが愛した証明になる。
「これが、お主らの意思か」
顎門が嘆息する。窓辺に飛び移った赤い小竜はわたしたちへ首をもたげ、
「明朝、街の外へ来るがよい。待っておるぞ」
それだけ言って顎門は窓から飛び経っていった。
そーどあーと・おふらいん えぴそーど29
キリト=キ
アスナ=ア
ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」
キ「解説のキリトです」
ア「いやー、最終決戦前夜って感じね!」
キ「何かやっとセツナが主人公らしく見えたな」
ア「そこよ!」
キ「急にどうしたんだ?」
ア「作者も今回、何かセツナの台詞多いなーて違和感があったらしいのよ。今まで無口キャラだったから1話の中で台詞ほとんど無かったのに」
キ「まあキャラ同士の掛け合いは殆どアーウィンやユーリィだったからな」
ア「原作じゃ初期はコミュ障設定だったキリト君でさえ台詞たんまりあったのよ」
キ「主人公だからな! それにアインクラッドじゃ攻略組だったし、強さの基準は体格や顔じゃなくてレベルだったから多少凄まれても大丈夫ってある程度の自信もあったんだよ」
ア「ようはイキってたのね」
キ「イキってはないからな、断じて!」
ア「まあおしゃべり担当だったふたりが退場したらパーティはふたりと竜1匹なわけだから、必然的にセツナの台詞も増えるってわけね」
キ「そうだな。それに記憶が戻ってセツナの心中も明らかになったわけだから、恋人にそっくりなナミエを前にしてだんまりなのも無理があるよ」
ア「やっとクライマックスって感じね。というわけで終盤に入ったところで今回はキャラについてのあれこれについて話すわよ!」
キ「おお、何かサブコーナーっぽいな。本来こういうの話す場だよなこれって」
ア「まずはタイトルね。『パラダイス・シフト』はどんな意味か」
キ「作者はタイトルを決めるとき、元になった『パラダイス・ロスト』となるべく語呂が似てる感じにするとは決めていたみたいだ。割と早く『シフト』が出てきてそれに決めたらしい」
ア「英語で移動するとかの意味よね」
キ「そうだな。『パラダイス・ロスト』の舞台だったアインクラッドから本作のアンダーワールドに移るっていう意味合いになってるんだ」
ア「直訳すると楽園は移動するって意味だけど、楽園ていうより悲劇の舞台ね」
キ「セツナの行く先々は楽園どころか悲劇が起こるっていう皮肉込みだな」
ア「それじゃあ次はキャラの名前について掘り下げていくわよ。まず主人公のセツナはどういう由来からなの?」
キ「キャラの名前は結構適当に決めたみたいだ。セツナは作者が『ガンダム00』を観て何気なく主人公の名前をそのまま付けたらしい。因みにセツナは漢字表記だと早速刹那っていうんだ」
ア「うっわ本当に適当ね。てか漢字表記が速い単語ばかりじゃないギャグなの?」
キ「PCで漢字変換したら最初に出てきたのが早速だったみたいで大して考えもせず決めたらしい」
ア「ふーん、じゃナミエは?」
キ「作者がドはまりしてたゲームの『キングダムハーツ』に出てくるナミネっていうキャラから取って日本人ぽくアレンジしたらしい。因みに漢字だと真広波絵な」
ア「こっちも大した意味はないのね。じゃアーウィンは?」
キ「アーウィンは正直作者も何を由来にしたのか思い出せないくらい適当に決めたみたいだ。アンダーワールドって名前に何らかの意味とか法則とかがあるんだけど、多分アーウィンに関しては何も考えてないな。イクセンティアっていう姓も『ファイナルファンタジー』に出てきそうな名前って感じでふと浮かんだらしい」
ア「えー(ドン引き)」
キ「登場直前になって急遽作られたキャラだから特に適当みたいだ。父親が暗黒騎士で母親が暗黒術師っていう設定にしていわゆる魔法剣士的なキャラにするのも考えてたんだけど、特に使えそうにない設定だから没になったらしい。生い立ちとか掘り下げるエピソードもないしな」
ア「ユーリィは?」
キ「ユーリィも何となくっていう感じにしたらしい。最初はユーリって名前にするつもりだったけど同じ名前のアニメキャラがよくいるから語尾を伸ばしたみたいだ。あとユーリィは最初男の予定だったけどハーレム要素を入れようってことで急遽女性に変更されたんだ。名前は中性的な響きだからそのまんまで」
ア「顎門!」
キ「整合騎士の飛竜が
ア「じゃあ何で顎門になったの?」
キ「作者が本作の前に書いてたのが『仮面ライダーアギト』だったから、自分の作品を読んでくれてる読者さん達へのファンサービス的な感じで決めたんだと」
ア「何か、聞けば聞くほど適当ね」
キ「うん、適当だな。俺も説明しながら呆れたよ………」
ア「えーっと……。こんな感じで適当に考えられたキャラとストーリーの本作もいよいよ終盤です。読者の皆さん、どうか切らないでください!」
キ「今回ばかりは俺も同感だ。最後までよろしくお願いします!」
ア「では、また次回!」