ソードアート・オンライン パラダイス・シフト   作:hirotani

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第30幕 ディサイシブ・バトル

 

   1

 

 オブシディアは一夜をかけてようやく静かになった。あの襲撃からしばらく何も起こらなかったことから、ようやく人々も安心できたらしい。

 

 街にはそこかしこに暗黒界総司令官直属の暗黒騎士や拳闘士が険しい目を光らせていたけど、その緊迫がいつまで保てるか。

 

 わたしとセツナは民家でひと晩の休息を摂ったあとに街を出た。街を出るのに検問があったけど、わたし達はふたりとも怪しまれることなく通過した。隻眼の騎士団と名乗る不審人物たちの特徴は右目がないこと。両目に眼球がしっかりはまったわたし達じゃない。

 

 街の外縁に沿って歩くと、影の濃い地点がある。街の中枢としてそびえ立つオブシディア城の落とす影に覆われた場所。ソルスの光が薄い暗黒界で、そこは特に視界の悪い地点だった。

 

 なぜわたし達がそこへ向かったのか。ほぼ直感のようなものだが、音がしたのだ。ただ乱雑な物音じゃなく、一定の感覚をあけて紡がれるしらべ。

 

 つまりは、歌が聞こえた。

 

 不思議な歌だった。重厚な音だったけど優しい響きで、そこへ近付くことに恐怖は感じなかった。

 

 そこに、赤い飛竜はいた。歌は飛竜の息吹がそう聞こえていただけだったのだ。

 

 巨体を丸めた姿は傍から見たら眠っているようだけど、近付くとその両目はしっかりと見開かれている。その目を見たわたしは違和感を覚える。そこには顎門が100年という年月で蓄えた叡智や哀愁というものがごっそりと抜け落ちていた。

 

 まるで生まれたばかりの何も知らない赤子のような、それか全てを忘却してしまった老人のような無知さを湛えていた。

 

 飛竜はわたし達の姿を認めると丸めていた身体を開くように伸ばす。巨体で隠れていた場所には切れた尾が地面に突き刺さっていた。見れば飛竜の尾は先端が鋭利に斬られていて、出血もなく切断面は完全に塞がっている。

 

 セツナは尾に手をかける。まるで柄のようにそれは掌に収まった。触れた瞬間、どこからか声がした。紛れもなく、それは顎門の声だった。

 

「これが我の選択。お主らの選ぶ道を切り開くべく、この身を力としよう。

 

 この剣には我の権限全てを込めた。整合騎士の神器と同等の力になるはずだ。完全武装支配術も記憶開放術も、使い方はおのずと分かる。

 

 銘は、痴竜剣(ちりゅうけん)。知性を失ったそこの竜に相応しい名だろう。

 

 ナミエ、お主の選び取ったことの行く末を見届けてやれぬことを、どうか赦してほしい。無事を祈ってはやれぬが、救いがあることを願う」

 

 セツナは尾を引き抜く。柄から先は鋼のような細身の刃だった。残された鞘も抜く。竜の皮膚のようなごつごつとした質感の先端は、それだけで武器としても使えそうなほど鋭い。

 

 わたしは目の前にいる飛竜の顔を見上げる。それはもう顎門ではなかった。顎門たらしめるものを全て喪失した抜け殻だった。

 

 わたしがどんな想いで見ていたのかなんて理解できないだろう無垢な飛竜は、主に甘えるように喉を重く鳴らした。

 

 

   2

 

 知性の全てが抜け落ちても、顎門の背中の乗り心地は以前と変わらない。わたし達を振り落とすまいと、姿勢を保ちながらの飛行を維持していた。

 

「どうして着いてきた?」

 

 しがみ付く背中越しにセツナに訊かれ、わたしは「見届けるため」と答えた。

 

「顎門から託された気がしたから。顎門だけじゃない。あなたを見てきた人たち、皆から」

 

 わたし達ふたりの出会いで始まったこの旅が、色々な人たちと出会った末にわたし達ふたりだけで終わろうとしている。そんなことに感傷的になったところで何の意味があるだろう。

 

 楽しい旅なんかじゃなかった。こうして今セツナが最後の戦いへ向かっているのも、決して幸福を得るためのものではないのだ。

 

 それでも、とわたしは神や運命といった絶対的なものへのささやかな抵抗として、セツナの背に強くしがみ付いた。どうか、少しでもこの人の感触を記憶に留めておきたい。

 

 ブランバルの古城を目指す途中にある謎の古代遺跡。そこに群衆が見えた。無数の天幕が並び、オブシディア目掛けての行軍なのは見て明らかだった。

 

「顎門、降下」

 

 セツナが指示を飛ばすと、顎門はすぐさま雲間を抜けて地上へと降りていく。野営地の全容がはっきり見えてくると、向こうもこちらに気付いたらしい。すぐに「敵襲!」という怒号に似た声が轟き、天幕から右目に眼帯をした剣士もとい騎士たちが飛び出してくる。

 

 地上から矢が飛んできた。それに混ざって神聖術による火矢も。それらを避けつつ顎門は降下し続ける。

 

「焼き払え!」

 

 とセツナが告げると、顎門は裂けた口を大きく開いた。背中からでも、口から溢れんばかりの炎が渦を巻いているのが分かる。知性を失っても飛竜としての力が残された顎門なら、上空から一方的に息吹で火の海にするのは容易い。

 

 その見立ては甘かった。わたし達よりも上の方から、何かが風を切る音がする。セツナは後方を振り返りながら、咄嗟に「回避、右!」と飛竜に指示を飛ばした。

 

 顎門が身を翻し、わたし達は振り落とされまいと必死にしがみ付く。瞬間、すぐ脇を火球が横切った。目標から外れた火球は遺跡の朽ちかけた塔に命中し、その柱をへし折る。

 

 顎門が姿勢を変えて一気に上昇する。同じ高度を飛ぶそれは、ヘスティカの飛空艇だった。

 

 飛空艇からまた火球が飛んできた。今度は一直線に進むようなものじゃない。旋回する顎門を追うように、いくつもの火球がしつこく付きまとってくる。

 

 後ろを向きながらわたしは「システム・コール――」と神聖術を詠唱し、初歩的な火矢を飛ばした。こちらへ向かってくる敵は狙いやすく、ひとつに命中し爆発させると他のも巻き込んで空に爆発の連鎖を起こしていく。

 

 顎門が立て続けに息吹を吐き出した。飛空艇もその巨体さに見合わず身軽な動きで避けていく。

 

 飛空艇がまた追尾型の火を放った。セツナが顎門の背を踵で叩く。意を汲み取ったように、顎門は翼を畳み重力に任せ急降下した。地面に接触しようとした寸前で翼を広げ、地面すれすれを滑空する。

 

 火球たちはその動きについてこられず、地面にぶつかって土をめくり上げ砂塵を巻き上げていく。

 

 舞い上がる砂塵に視界が悪くなったが、顎門は抜け出そうとはせず砂塵の中を飛び続ける。

 

 セツナは腰に挿した痴竜剣を抜いた。顎門が一気に砂塵から脱出する。それと同時、セツナは上空へと剣を向け叫んだ。

 

「エンハンス・アーマメント!」

 

 痴竜剣の切っ先から黒煙が噴き出した。黒煙は雲へ到達するとその範囲を広げ、その領域に僅かなソルスの光を完全に遮断する。

 

 吹き続ける黒煙に赤が混じり、その赤は炎になった。今度は炎が黒を塗り潰し、まるで蕾のように膨らんで空に燃え盛る花を咲かす。

 

 剣先の炎が細くなっていく。勢いが落ちたというより、熱を凝縮しているようだった。今度は色が赤から紫へと転じ、まるで金属を引っ掻くような甲高い音を鳴らしながら1本の線になって真っ直ぐに伸びていく。

 

 熱線はまだ黒煙が漂う空を駆けた。何かが触れたのか小さな爆発が起こる。あちこち煙まみれだから見づらかったが、何かが煙の尾を引いて落ちてきた。熱線の光に照らされてそれが飛空艇と分かる。

 

 痴竜剣が熱線を止めて、セツナは鞘に収める。顎門が上昇し、もはや制御がきかなくなった飛空艇にとどめの火球を放った。命中した炎は内部機関を誘爆させ、更に爆発を大きく咲かせる。

 

 炎に包まれた中の者がどうなったか、もはや確かめる術なんてない。でもまだ終っていないだろうことは分かった。命中する寸前、箱のようなものが飛空艇の腹から落ちていくのが見えたからだ。

 

「まだ死んでない」

 

 わたしの呟きにセツナは「分かっている」と応じ、顎門を降下させる。目標へ近付くにつれて、今度は地上にいる隻眼の騎士たちの矢が飛んできた。その頻度は増していき、もはや回避も間に合いそうにない。

 

「降りるぞ」

 

 と有無を言わさず、セツナはわたしの腰に手を回して顎門の背から跳び下りた。以前と同じようにわたしは風素術を地面に放ち、降下速度を抑えていく。セツナも剣を抜き、風にまみれながら着地すると同時に切っ先を地面に突き刺して叫んだ。

 

「リリース・リコレクション!」

 

 周囲の地面が隆起する。亀裂を走らせた土くれがひとりでに積み上がり、わたし達を囲もうとした隻眼の騎士たちは恐怖のあまり足を止めた。

 

 土の柱はあちこちで無数に間隔を空けずに生じていた。人と同じ高さにまで積み上がると、その表面が滑らかに整っていく。そうして形作られたのは、人そのものだった。人だけじゃなく、ゴブリンやジャイアントにオーガ、そしてオークといった亜人まで。

 

「これは、ミニオンなのか………」

 

 騎士たちのひとりが戦慄の声を絞り出す。確かに似ているかもしれない。でもミニオンのような化け物じみたものはなく、どれも人そのものだ。肌は土と同じ茶色をしているだけ。土から作られた人の中には、わたしの知っている顔もあった。

 

 ウンベール・ジーゼック。商工ギルドのローズール伯爵。トルソ村のモレノ村長に、暗黒術師のイー・ジェイ・エム。

 

 そう、この土人(つちびと)たちは死者だ。わたし達の旅の道中で現れては死んでいった人々。記憶開放術とは武器の記憶を力として解放するものらしいが、この記憶は剣になった顎門だけじゃなく、セツナの記憶でもある。

 

 蘇った死者たちは、自身の身体と同じ土で作られた剣や槍、中には拳と各々の武器で騎士たちに襲い掛かった。反撃で手足を斬り飛ばされるが、土なわけだから出血もせず切断された部位をくっつければすぐ元通りになって戦いを再会する。

 

 剣を地面から引き抜いたセツナはわたしの手を引いて乱戦の中を駆けていく。途中出くわした騎士を斬り伏せながら。

 

「あそこ!」

 

 わたしがそう言って指さした先には遺跡の高台がある。かつて神に祈りを捧げた祭壇だろうか。そこに男女が並んで立っているのが見えた。

 

「システム・コール――」

 

 足元に風を発生させ、わたし達の身体を高く舞い上がらせる。一気に飛んできたわたし達を、ヘスティカは笑みを浮かべながら迎え入れる。

 

「お気に入りのお城だったのに、随分と派手に壊してくれちゃって。まあいいわ、ここで全部おしまいなんだし」

 

 セツナは痴竜剣を抜く。自らに向けられた刃にヘスティカは動じることなく嘲笑い、傍に控えるシンセシス・ゼロは無表情にたたずんでいる。

 

「私を殺すつもり? あなたにその資格がある? 私は娘を奪われた被害者。あなたがナミエをエスエーオーに連れて行かなければ、こんなことにはならなかった。見なさい、この戦場を」

 

 ヘスティカが手でわたし達の後方に広がる光景を指し示す。警戒してか動こうとしないセツナに代わり、わたしが振り向いた。そこには死が広がっている。隻眼となった騎士たちが土人たちと死ぬか殺されるかの戦いを繰り広げている。

 

「あのミニオンみたいなゴーレム達はその剣の記憶開放術で作った、この世界で殺したフラクトライトかしら? 随分と殺してきたのね」

 

 空から滑空しながら、顎門が火炎を放っていた。騎士団も土人たちも関係なく、全てを消し炭にしていく。炎で穿たれた轍には、赤黒い人形のようなものが残されていくのみ。

 

 天幕から小さな人影たちが出てきた。子ども達だ。右目のない幼子たちに飛竜は容赦なく火炎を浴びせ、その甲高い叫びも打ち消してしまう。

 

「ここは仮想世界だって忘れてしまいそうね。フラクトライト達と話してみて、本物の人間とまったく区別がつかないもの。既存のエヌピーシーがマネキンに思えてくるわ」

「エヌピーシーなんかじゃない」

 

 セツナが静かに、でも力強く言う。

 

「作り物だろうと彼らの魂は本物で、この世界こそが彼らの現実だ。皆生きていた。死ぬとき、もっと生きたいと願っていた。向こうで散々殺してきた俺には分かる」

 

 それは、誰よりも死を真正面から見てきたセツナだからこそ出た言葉だったのだろう。傍から見ていただけのわたしにはない重さだった。

 

 その重みをヘスティカは鼻で笑う。

 

「あなたが生命(いのち)を語るの? たくさんの生命を奪ってきたあなたが。娘を奪われた私がどんな想いでこれまで過ごしてきたのか分かる? あなたがしてきたことは生命への冒涜なのよ」

「同じ穴の(むじな)だよ、マヒロさん」

 

 リアルワールドでの名前が気に食わないのか、その名で呼ばれたヘスティカが顔を渋めた。

 

「俺は生きる価値がないと勝手に決めつけて、あんたは生命を作り直せると思い上がった。皮肉なものだな。俺たちは本物の魂を持っているとはっきり言えるのに、その価値をまったく分かっていない」

 

 セツナの表情には大義も正義もない。ただ悲しさのみがあった。その顔が若返り、背が少しばかり低くなる。《ナミエ》を喪って、復讐に生き死神と呼ばれていたかつての世界での姿。そうなるとシンセシス・ゼロとの見分けは手にしている剣以外につかない。

 

「終わらせよう。俺たちが始めてしまったことを、俺たちの手で」

 

 悲しげに言いながら、セツナは歩き出す。一瞬にして元の青年の姿に戻った。俺はもう過去の自分には戻らない。そう主張しているようだった。

 

 その歩みはヘスティカの守護者に阻まれる。シンセシス・ゼロが剣を抜き、セツナに肉迫した。セツナは向けられた剣を受け止め、腰帯から外した鞘を振り下ろす。シンセシス・ゼロも対抗し、同じように鞘で受け止めた。

 

 剣と鞘を押し合ったふたりの身体が高台から落ちていく。地上に降り立ったふたりはすぐさま戦いを始めた。

 

「ナミエ、よく見ていなさい」

 

 ヘスティカがわたしの肩を掴む。

 

「あなたの居るべき場所は彼じゃなくて母親のもとだということを」

 

 シンセシス・ゼロが跳躍し、宙で身体を回転させて一瞬で二刀を連続で繰り出してくる。後方に飛んで回避したセツナの剣が赤く輝き、相手が着地した瞬間を見計らって痴竜剣を斬り上げた。

 

 防御されたが勢いは抑えきれず、シンセシス・ゼロの身体が弾き飛ばされる。接近し剣を振り上げたセツナに、仰向けになっていたシンセシス・ゼロは金色に輝いた右足を突き上げた。

 

 腹を突かれ「ごふっ」と嘔吐に似た声をあげて、今度はセツナが地面を転がる。だがすぐに立ち上がり、目の前に迫った剣を受け止めつつ鞘を敵のみぞおちへ振るう。だけど相手も疑似二刀流。同じく鞘で受け止められ、拮抗はすぐに互いに入れ合った蹴りで崩れた。

 

「ねえナミエ。私がどれほどあなたを愛していたか分かる? あなたが望むものは全部あげて、私は最高の母親になろうとしたのよ」

 

 同じ顔と剣術同士の戦いをまるで舞台鑑賞のように眺めながら、ヘスティカはわたしに語った。まるで本当の娘に言い聞かせるように。

 

「でも向こうのあなたは全部拒絶してきた。音楽の才能があるって分かってその筋の学校に入れてあげようとしたのに、いきなり普通の学校に行きたいなんて言い出して。それもあの男のせいね」

 

 ふたりの剣が青の光を帯びる。それぞれが剣を構えた瞬間、同時にそれが光の尾を引いてぶつかり合う。まるで流れ星が衝突したような衝撃派が生じた。衝撃の中心にいたふたりの剣は切っ先同士がぶれることなく拮抗している。

 

 光が消えた瞬間、シンセシス・ゼロは更に剣を押し込んだ。剣先がずれ込み、セツナの右肩を掠める。傷が浅いからかセツナは意に介さず、足を踏み込んでシンセシス・ゼロのまだ幼さの残る鼻面に頭突きを見舞う。

 

 鼻血を出しながらたたらを踏んだシンセシス・ゼロに剣が振るわれた。咄嗟に上体を逸らして避けつつセツナの下顎を蹴り上げる。

 

「男で人生を狂わされるのは、女の辛いところね。私もそうなりかけたから。色んな男と寝てきたけど、つい気を赦したらすぐあなたができちゃうんだもの。まあ、慌てて結婚した人のお金で全部誤魔化せたけど。あなたが本当の父親じゃなくて私に似てくれたのが幸いだったわ」

 

 その独白じみたことを聞いて、わたしのヘスティカへの不信は確かなものになった。娘を喪ってしまった故と思っていた彼女の凶行は、元来のものだったのだと。

 

 本当の《ナミエ》が実の母親を拒絶していた理由が分かる気がする。どこかで母の本性を察していた彼女は、自分も同じように汚れた女になってしまうことを怖れていた。拒絶は子どもなりの必死な抵抗だったのだろう。

 

 成長し、肉体が女として出来上がっていくにつれてその恐怖は増していった。複製されたわたしはまさに彼女の忌避していた姿そのものじゃないか。

 

 確証はないけど断言はできる。《ナミエ》が清い乙女でいられたのはセツナの隣にいるときだった。同じ悦びを享受していたわたしと同じように。

 

 ふたりのセツナが構えた剣と鞘、4本の刃が紅く光った。両者が互い目掛けて駆け出し、血を被ったような両手の刀身を叩き合っていく。

 

 もはや軌跡を視認するのも不可能なほど速かった。それでいて一瞬の間を空けることなく剣戟が繰り出され、互いの肩や腕や脚を掠め血飛沫を散らしながらも止まる気配がない。

 

 力強い両者の一撃が、甲高い剣戟音を辺りに響かせる。ふたりとも光を失った剣を構えたまま完全に身体を静止させていた。アーウィンが教えてくれた、秘奥義を放った後の硬直時間。強力な技ほど、神の力が働いて長く動けなくなるらしい。

 

 いくら死神と呼ばれたセツナでも、肉体を持っている以上はその法則から外れることはできない。

 

 でも、セツナは呻き声をあげながら強張った腕を引いた。その両手に握った剣と鞘がまた青く光る。相対するシンセシス・ゼロはそれに目を剥きながら、動くこともできずただ睨み続けている。

 

 セツナが地面を蹴った。青い光で十字を描くように剣を繰り出す。直前で硬直が解けたのか、シンセシス・ゼロが防御の姿勢を取った。だけど秘奥義の勢いは防ぎきれず、弾かれるように吹っ飛ばされる。

 

 地面を転がるその左手には、零したのか鞘がなかった。セツナのほうは再び硬直で動けなくなっているように見えたが、膝を折った彼の左胸に鞘の先端が突き刺さっていた。

 

 金属製の胸当てを付けていたお陰で深くは刺さらなかったようだけど、留め具を剣で無造作に斬り外すと服の裂け目から血が垂れている。

 

 そこへ、シンセシス・ゼロが跳び込んできた。左手の鞘を蹴飛ばし、剣1本同士へと持ち込む。

 

 数度剣を打ち合い、シンセシス・ゼロが後方へ跳んで間合いを取った。再び跳躍して剣を繰り出す彼に、セツナも地上から痴竜剣を突き出す。刃を擦り合わせ、すれ違いざまに互いの胸元を薄く斬った。

 

 直後、同時に蹴りが繰り出される。ほぼ同じ拍子だったから、脛同士が鈍い音を立ててぶつかった。

 

 セツナが渾身の力を込めて剣を振り下ろす。痴竜剣の刀身が剣の根本を打ち付け、シンセシス・ゼロの手から引き離した。シンセシス・ゼロのほうも腹へ膝蹴りを見舞い、一瞬だけ生じた隙にセツナの右手から痴竜剣を蹴飛ばす。

 

 ふたりとも、取りこぼした剣を拾おうとはしなかった。そうなると素手での殴り合いになって、そこにはもう剣術も何もなくただの暴力が繰り広げられるだけになった。

 

 顔面に拳を打ち合い、胴に蹴りを入れていく。もう金属を打ち鳴らす音は聞こえない。節くれ立った拳が骨を砕こうとする純粋な残虐性に、戦いの儀礼じみた覆いはなかった。

 

「マザーは――」

 

 セツナの胸倉を掴みながら、シンセシス・ゼロは端から血の垂れた口を動かす。

 

「マザーはお前を殺させるために俺を作った。ならお前は何のために生きている?」

 

 それは初めて聞く、彼の荒んだ声音だった。まさに魂の叫びで、その魂に抗っているようだった。

 

 これまで自己を規定してきた根拠。すなわちセツナを殺すために作られた戦闘人形という自らの生命が背負ったものへの自負が崩れていくように聞こえた。

 

「殺されるだけの命になんの意味がある!」

 

 純粋な、悲痛ともとれる疑問と共にシンセシス・ゼロはセツナの頬に鉄拳を見舞った。セツナの身体が崩れ落ちる。健気に自らの役目を果たそうとするシンセシス・ゼロは、傍に落ちていた自分の剣を拾った。

 

「意味なんて……無い………」

 

 地面に伏したセツナのか細い声に、シンセシス・ゼロは咄嗟に剣を構える。もはや腫れ上がって上手く動かせないだろう口で、セツナは言葉を紡ぎ続けた。

 

「誰だってそうだ。ただ生まれて死んでいく。意味なんて……、無意味さに耐えられないから、勝手に付けられただけだ」

 

 震える脚で立ち上がる。丸腰も同然ながら、セツナは獲物を手にした自身の複製に問う。

 

「それでも、生きたいと願うのは………罪か?」

 

 短い逡巡を経て、シンセシス・ゼロは剣を振り上げた。怒りに任せたばかりにがら空きになったその顔面に、セツナは右の拳を沈めた。

 

 シンセシス・ゼロは剣を持ち上げたまま、セツナは拳を突き出したまま静止している。不気味なほど静かだった。あれほど騒がしかった戦いの喧騒はすっかり消えている。

 

 見れば、もう騎士団と土人たちの戦いも終わっていた。そこかしこに血塗れになった手足や頭部、どこの部位か分からない人体の一部が転がっている。土人たちの姿はもうなく、死者たちは文字通り土に還っていった。

 

 最後に残った、同じ顔の生者ふたりは同時に倒れた。でもまだ、どちらも死んではいない。息が粗く胸が上下しているのが高台からでも見えた。

 

「立ちなさい、セツナ! その男をここに連れてきてとどめを刺すのよ!」

 

 ヘスティカが命令を下す。がくがくと震えながら、シンセシス・ゼロは健気にマザーと呼ぶ母の命令に従って起き上がる。傍で寝ているセツナの身体を肩で担ぎ、とても重症の身とは思えない脚力で一気にわたし達のいる高台まで跳躍してきた。

 

 流石に着地は決められず、倒れたその肩からセツナが転げ落ちる。駆け寄って近くで見るとその体中に創傷が刻まれていた。拳で赤黒く腫れ上がった顔をヘスティカはさも愉快そうに見下ろしている。

 

「惨めなものね。そんなにまでなって何で抗おうとするの? 何をしたところで、あなたの罪は償えないのに」

 

 答えは、酷く掠れた声で紡がれた。

 

「抗うことしか、俺には残されていなかった………」

 

 期待したほどの答えじゃなかったのか、ヘスティカはつまらなさそうに溜め息をつく。

 

「もういいわ。セツナ、殺しなさい」

 

 命令を受けたシンセシス・ゼロが起き上がり、剣を引き摺りながら近寄ってくる。セツナと同じく満身創痍な彼に、わたしは対峙した。

 

 「よしなさいナミエ」とヘスティカは告げる。

 

「その男は死ぬことで初めて赦されるのよ」

 

 母を気取る彼女を睨んだ。ヘスティカは眉間に深くしわを刻み込む。若作りしているが、中年相応の顔にようやくなった気がした。

 

「どうしてあなたは、そうやっていつも私に逆らうの?」

「わたしはあなたの娘じゃない」

「いいから来なさい。あなたが現実に来れば、皆が私たちを見てくれるの。娘をエーアイとして蘇らせた母親として、私は欲しかったもの全部手に入れられるのよ。あなたにだって分け前をあげられる」

 

 もはや怒りとか通り越して憐れにさえ思えてきた。この人は母親になることなんて望まず、永遠に女であることを望んでいたのだろう。

 

 同情はする。でも共感はできない。

 

「どうしてなのよ。私はこんなにあなたを愛しているのに………」

「きっと、ナミエはそれを愛と思えなかった」

 

 言いながら、わたしは懐からナイフを抜いた。ここに赴く前にセツナが気休めと渡してくれた護身用。初めて握る武器は重く、人を殺せる力という重圧で手が震えた。

 

 右目の奥から強烈な痛みが走る。右半分の視界が赤みかかって、脈打つように痛みは増していく。

 

「馬鹿ね。あなたにもコードハチナナイチは組み込まれているのよ。子は親に逆らえないの」

 

 この世界の住人に漏れなく施された右目の封印は、わたしにも例外なくある。それを破ることがどれほどの苦痛を伴うかも見てきた。

 

 素直にこの女に従えば、この痛みからは解放される。これかれ先も、これまでのように誰かに隷属することを受け入れれば、一生痛みがやってくることはない。

 

 誘惑じみた考えを横切るように、故郷の村でわたしと一緒にいた人の顔が浮かんだ。ヘスティカのような華やかさも力もないけど、わたしを想い最後にそれを貫いてくれた人。

 

「お母さんに、なって欲しかった人が……言ってた。子どものために……死ねるのが親だって………」

 

 わたしと親子になってくれるはずだったエメラ。子のために罪を犯し整合騎士にされたユーリィ。多くの子たちとわたしを案じていたアーウィン。

 

 母としての役目に散っていった死者たちに背を押されるように、わたしはヘスティカに叫んだ。

 

「あなたは、お母さんなんかじゃない!」

 

 瞬間、右側の視界が真っ赤になり、そして暗転した。遅れて眼球を失った右の眼孔が痛みに満たされて、意識が朦朧とする。何とか意識を保とうと残った左目を見開くわたしを、ヘスティカは冷たい目で見下ろしていた。

 

 その目にはもう、偽りの慈しみさえこめられていない。

 

「セツナ、先にこの子を殺しなさい」

 

 シンセシス・ゼロはその命令に目を剥く。「しかし――」と抗議しようとする彼を撥ねつけるようにヘスティカは更に言う。

 

「もう娘じゃないわ。ただの壊れた人形よ。私の思い通りにならない子なんていらないもの」

 

 初めて見る同様の眼差しが、わたしとヘスティカに向けられる。

 

「俺の、役目……。マザーと、娘を……護る………」

 

 うわ言のように同じことを何度も繰り返す。主張なのか自身への言い聞かせなのか分からなかった。

 

「これだから人口フラクトライトは。命令と深層規定が矛盾したらすぐに壊れる」

「優先事項……マザーの命令………!」

「そう、あなたを生んだのは私よ。私があなたの主人で従う相手なの。命令よ、この女を殺しなさい」

「娘の保護………」

「違うわ、もう娘じゃない。それとも何? この子にほだされたの? あなたに女を教えてあげたのも私でしょ!」

 

 シンセシス・ゼロは頭を抱えた。剣で斬られ拳で殴られても表情ひとつ変えなかった顔が苦悶に歪んでいる。

 

「この役立たず!」

 

 ヘスティカの掌に火球が渦巻いた。詠唱なしでの神聖術に驚く気力も、右目の痛みに意識を削がれたわたしには残されていない。

 

「今度は良い子に作ってあげるわ、ナミエ」

 

 醜い笑みを浮かべながら、ヘスティカは掌の炎をわたしへと向け――

 

「うあああああああああああああっ‼」

 

 少年の絶叫と共に、ヘスティカの腹から剣が突き出た。遅れてじわりと血が服に滲みを広げていく。ヘスティカの背後で剣を握っていたシンセシス・ゼロの右目が赤くなっていた。作り物の魂に刻まれた封印が。

 

 俺は何をしたんだ。そう言いたげなシンセシス・ゼロの右目が血飛沫と共に吹き飛び、その勢いのまま仰向けに倒れた。

 

「いい……、痛い………。痛いわ……あああっ」

 

 痛みとは無縁に生きてきたのか、自分の腹に刺さる剣と血にヘスティカは涎を垂らしながら喚く。

 

 とうとう倒れた仮にも母親に、わたしは取りこぼしかけたナイフに力を込めて足を踏み出した。

 

 皆は信念のために剣や槍を取り戦った。なら、わたしだって――

 

 だが、わたしの信念は横から伸びた手に止められる。右側の視界が潰されたせいで、ナイフの刃を素手で掴んだセツナに気付けなかった。縋るような彼の目に、手を振り払うことは躊躇われた。

 

 ヘスティカが自らの左乳房を揉みしだく。いや、抑えている。金切り声をあげ、もはや口から出ているものに言葉はない。初めて会ったときに言っていた、心臓の病の発作だろうか。

 

 傍で倒れていたシンセシス・ゼロが、ヘスティカの胸倉を掴んで匍匐(ほふく)前進を始める。高台の縁へ到達すると、その顔がわたし達へと振り向いた。

 

 残された左目が、じっとわたしを見つめていた。殺意も敵意も感じない。セツナと同じ寂しそうな、泣いているような眼差しだった。

 

 ヘスティカの手中に燃えていた火の素因が暴発して彼女と、彼女を掴んでいるシンセシス・ゼロの身体に燃え移る。彼の顔が炎と、ヘスティカの叫びに包まれて見えなくなる。

 

 燃える手が縁にかけられ、燃えるふたりは高台に落ちていく。わたしはセツナと肩を支え合いながら高台の端に立ち、地上でまだ燃えている炎を見下ろした。

 

 地面に叩きつけられたふたりはもう事切れてしまったのか、もう動くことはなく揺らめく火にされるがままになっている。そう時間は掛からず炎は篝火になり、煙を立てて消えた。

 

 並んだふたつの焼死体は共に真っ黒で、どちらが誰なのか分からなかった。人間、誰もが同じだ。死ねばそれはただの肉の塊。焼けて黒焦げになり、骨になってしまえばもうそこに生前の姿なんてない。

 

 本物の魂だろうと、作り物の魂だろうと、例外なんてない。生命はみんな等価値だ。死はそれを確実に証明する。

 

 膝を折ったセツナの目から、一筋の涙が頬を伝った。その涙をわたしは、自分のことのように理解できた。

 

 ヘスティカ、シンセシス・ゼロ。ふたりはセツナの罪から生まれた存在だった。ふたりだけじゃない。アーウィン、ユーリィ、隻眼の騎士たち。死神であるセツナがこの世界に降り立ったことで、多くの人々が運命を狂わされてしまった。

 

 多くを殺めた殺人者でありながら自らの過ちに無感覚でいられるほど、この死神は鈍感じゃない。最初は愛と呼べた自らの想いが、巡り巡って引き起こした惨状全てに対する後悔の涙だった。

 

 そんな酷く矛盾に満ちた彼がいとおしくもあって、まだ右の眼孔が痛むわたしはセツナを優しく抱きしめて耳元でささやいた。考え得る限りの、セツナが最も求めただろう言葉を。

 

「もういい。もういいよ」

 

 彼が求めていたのは、自らの行いの全てを知る者から赦しの言葉を受け取ること。この手記で真実を知った諸氏の中には、彼を赦せない人もいるだろう。その嫌悪は否定しない。

 

 わたしが無責任に彼を赦そうと赦さなくても、本質はきっとどちらも無意味なのだろう。全ての生命に意味がないように。

 

 でも、そんなことはもうどうでもいい。この人がこれ以上、苦しまずにいてくれるのなら。

 






そーどあーと・おふらいん えぴそーど30

キリト=キ
アスナ=ア


ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」

キ「解説のキリトです」

ア「激戦……、だったわね!」

キ「激戦……、だったな。もう読者さんも余韻に浸りたいだろうときにこんなふざけたコーナーやってる場合じゃないだろ」

ア「何言ってるの。こんな回だからこそこういう息抜きコーナーが必要なんじゃない。さあ解説いくわよ」

キ「あんまり気乗りしないなあ。まあいつもだけど」

ア「まず序盤で披露されたセツナの完全武装支配術について!」

キ「いわばドラゴンブレスだな。痴竜剣が顎門を原型にしてるわけだから、その力を完全再現したわけだ」

ア「黒煙から炎に変わってそこからビームになってたわね」

キ「元ネタは『シン・ゴジラ』の放射線流みたいだ。竜が元の剣といえば必殺技はブレスで、後に伝説になるわけだからかなり強烈な技にしようってことでああなったらしい。あと完全武装支配術はもっと長い詠唱が必要なんだけど、痴竜剣に込められた顎門の意識が働きかけてくれたお陰で詠唱が短縮できていたんだ」

ア「じゃあ、セツナはどんな技になるのか知っていて使ってたってこと?」

キ「そうなるな。ようは完全武装支配術ってのは神器と使い手の信頼関係の証みたいなものだから。本来なら長い時間をかけて神器の元になったオブジェクトの記憶を探っていくものだけど、顎門は最初からセツナに力を貸すつもりで剣になったから信頼関係が元からできてたってわけだな」

ア「にしてもまあ、ファンタジー世界のアンダーワールドでドラゴン対飛空艇の空中戦なんて冒険したわね」

キ「せっかくドラゴンいるんだから空中戦ないとか嘘だろっていう作者のこだわりみたいだ。現実世界から持ち込まれたテクノロジーってことでミサイルなんて近代兵器を登場させたらしい。一応、ミサイル的な追尾機能を持った神聖術っていう設定だけどな」

ア「なるほどねえ。じゃあ次は記憶開放術について。まさかのネクロマンシー!」

キ「記憶開放術については作者もかなり悩んだみたいだな。軍勢を殲滅できるってことで土人形の兵を作るってことになったんだけど、ドラゴン関係ないからどうしようってなったらしい」

ア「じゃあ何で結局採用されたの?」

キ「痴竜剣が解放した記憶は顎門だけじゃなくて、武器と深く繋がったセツナのものでもあるんだ。つまりは顎門とセツナふたりの記憶開放術で、セツナ以外は使えない技だな」

ア「だから土人形のモデルが作中で死んだ悪役たちってことね」

キ「まあ正直ネクロマンシー能力なんて主人公が使うもんじゃないけどな」

ア「次にセツナとシンセシス・ゼロの一騎打ち! 作者も気合入れて書いたそうね」

キ「ああ。構想初期から温めてたバトルらしい。原作じゃ実現しなかった疑似だけど二刀流同士の戦いだな」

ア「ふたりが何か凄そうなソードスキル打ち合ってたけど、あれってキリト君の使ってたスタスト?」

キ「スターバースト・ストリームね、略さないで。ふたりが使ってたのは疑似二刀流スキルの明王覇斬(みょうおうはざん)だな。15連撃でスターバースト・ストリームより1手少ないんだ」

ア「えー、何かパチモンみたいね」

キ「まあ疑似二刀流自体が二刀流の下位互換みたいなものだからな。一応ユニークスキルなんだけど、茅場晶彦がセツナに与えたのも俺が万が一死んだときのための保険だったらしい」

ア「本当にパチモンじゃない」

キ「そもそもセツナ自体、もし俺がアスナを喪ったらっていうところから生まれたキャラクターだからな。いうなれば別ルートを辿った俺がセツナなんだ。それでも強さは本物だよ。今回もスキル後の硬直時間を破ってたし」

ア「そうそう。あれってどんな現象? シンセシス・ゼロと同じソードスキルってことは硬直時間も同じよね。なのにセツナのほうが早く解除されてたし」

キ「あれは単純に心意だよ。アンダーワールドで戦いの経験を積んだからこそできたもので、SAO時代のセツナを完全再現しただけのシンセシス・ゼロはできなかったってだけの話なんだ」

ア「まあそれでも決め手にはならなかったわね」

キ「シンセシス・ゼロの強さを見るにSAOの頃からセツナの戦闘センスは化け物並だったってことだな。剣を落としても拾わずに殴り合い始めちゃうんだから。因みに武器がなくなってどつき合いになるのは『逆襲のシャア』のオマージュらしい」

ア「自分同士の戦いだから互角なのは分かるけど、原作キャラと比べたらセツナってどれくらい強いの? 劇中じゃあんまり強さが分かんないシチュエーションばかりだったし」

キ「作者曰く対人戦じゃ最強らしい。単純なパワーだとアスナ以上俺以下で、スピードは俺以上アスナ以下って感じだ」

ア「何かどっちつかずね」

キ「バランスタイプってやつだよ!」

ア「次にふたりのバトル中にヘスティカが不穏なこと言ってたけど、あれってどういうこと?」

キ「作中じゃ裏設定なんだけど、ヘスティカは若い頃から男遊びが激しくて俗にいうパパ活もしてたんだ。何股もかけてた男のひとりの子としてナミエを妊娠したんだけど、パパ活相手だった男と結婚して不貞を揉み消した過去があったんだ。まあ、結婚後も不倫しまくってたんだけど」

ア「うわあ、超絶ビッチなのね」

キ「作中じゃ心臓病を患っていて本人は娘を亡くした心労って言ってたけど、本当の原因は中年になっても夜がお盛ん過ぎたせいなんだ。アンダーワールドでもシンセシス・ゼロが性処理の相手だったくらいだからな」

ア「ようはあれね、毒親ね」

キ「うん、毒親だな。ナミエを人口フラクトライトとして復活させたのも愛情じゃなくて娘をAIとして蘇らせた母親っていう名声欲しさだから。もう作者も感情移入できないくらいクズに設定したらしい」

ア「クズ設定は作者の得意分野だもんね………。ま、そのお陰で最後はスカっとしたけど!」

キ「否定できないのが悲しいとこだな………」

ア「てか、シンセシス・ゼロは何でヘスティカを裏切ったのよ? あのBBAに従うよう設定されてたんでしょ?」

キ「人口フラクトライトとはいえ本物と遜色ない魂だから意思が芽生えたんだ。ナミエを救うために主人を裏切ったのは、まあ、そういうことだよ」

ア「え、どういうこと?」

キ「ナミエを好きになったってことだよ! 気付いて!」

ア「ああ惚れたのね。てかシンセシス・ゼロの最期も何かのオマージュ?」

キ「ヘスティカを引き摺って一緒に落ちていくっていうのは『ターミネーター:ニュー・フェイト』のオマージュみたいだ。最期に何か台詞言わせようとしたんだけど、キャラに合わなかったから無言になったらしい」

ア「ふーん。にしても作品のラスボスとも言えるふたりが自滅だなんて呆気ない決着だったわね。もっと大技でバーンてやるべきとこじゃない」

キ「最初はヘスティカもシンセシス・ゼロもセツナが引導を渡すよう構想してたらしいけど、途中で作者が勝者なき戦いにしたいって心変わりしたらしんだ」

ア「勝者なき戦い?」

キ「これはセツナが勝つためじゃなくて過去を償うための戦いだから、明確な悪役を倒してそれで終わりにしたらチープになるって考えたらしい」

ア「面倒くさいテーマにしたわねー」

キ「まあセツナの行動の是非は読者さんそれぞれの考えに任せよう」

ア「そんなわけで最終決戦も終わり、この作品も残り僅かになりました!」

キ「戦いを生き残ったセツナとナミエがどうなるのか。最後までお付き合いください」

ア「それでは、また次回お会いしましょう!」

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