ソードアート・オンライン パラダイス・シフト 作:hirotani
2026年7月に発生したオーシャン・タートル襲撃事件について、現状判明した事項をここに追記報告する。
本項に記載するのは、予備室に保管されていたソウル・トランスレーター(以下STLと記載)7号機と8号機で発見されたふたりの遺体に関してである。
STL7、8号機はフラクトライトへの接続素子に不具合が発生し修理不可能という報告を受け廃棄予定となっていたが、解析した結果問題は確認されず、アンダーワールドへのダイブは可能な状態だった。これに関しては報告元であり、襲撃者と内通していた柳井進一の偽装工作とみられる。
また、8号機は稼働自体に問題はなかったが重大な欠陥が確認された。それについては後述する。
2機で発見された遺体の身元は所持品から判明した。7号機で発見されたのは
8号機で発見されたのは
ふたりとオーシャン・タートルを襲撃した勢力との関係性だが現状捜査中。だが襲撃者たちが第1STL室で死亡したとみられる者の遺体を回収したのに対し真広直子と早速刹那が回収されなかったことから、ふたりの目的は襲撃者たちとは別にあったと推測される。
まず真広直子についてだが、スマート・インテリジェンスはアリシゼーション計画のスポンサーであり、過去に何度かオーシャン・タートルにも視察歴があった。また彼女は2022年に発生したSAO事件で娘の波絵を喪っており、アリシゼーション計画の一端として娘をボトムアップ型AIとして復活させる計画を推進していた。
ラースとしても資金提供継続のため協力をしていたが、看過できない要求を提示されたため事件発生の1カ月前に取引を停止していた。
要求とは波絵を模したフラクトライト養育を目的としたアンダーワールドへのダイブと、娘とは別の高度な戦闘能力を持った忠実なフラクトライト作成である。
アリシゼーション計画の根幹から逸脱するとして拒否したが、柳井のPCから娘のフラクトライトがライトキューブクラスターに転送された記録が検出された。
この事実から捜査を進めたところ、柳井の携帯電話から真広直子との通話記録が数件確認された。このことから、真広直子と早速刹那のオーシャン・タートル侵入とSTL7、8号機の使用を手引きしたのは柳井と推測される。
また真広直子は総務省が回収していたナーヴギアを受理している。聴取の結果、当事者の官僚は金銭を受領したことを証言した。この流出したナーヴギアは波絵ではなく早速刹那の使用した個体である。
娘とは別に作成していたフラクトライトだが、柳井のPCに保存されていたデータから早速刹那がSAOで使用していたアバターをモデルとし、真広直子が使用したとされるヘスティカという名のスーパーアカウントに付随する形でアンダーワールドにダイブしていた。
真広直子はダイブから約0.02秒――限界加速フェーズ中のためさらに短い可能性もあるが計測不能――で死亡している。アンダーワールド内部時間で約2ヶ月と推定。STLのバイタルログから死因は心臓麻痺。約2年前から心臓病での通院歴があることから、アンダーワールド内で何らかの事象が発生し発作を起こしたとされる。
次に早速刹那について。彼は2022年、当時中学3年生でSAO事件に巻き込まれた。2024年のゲームクリアと同時に覚醒したが、総務省の調査にてゲーム内で253件ものプレイヤーキル、即ち殺人歴が発覚した。
生還者たちの証言を集めたという書籍『SAO事件全記録』でも言及された、犯罪者狩りを行っていた死神と呼ばれたプレイヤーこそが早速刹那である。このことは本人も聴取にて証言している。
事件直後に取られた聴取記録によると、動機はゲーム内で恋人を犯罪者プレイヤーに殺害されたことだった。その恋人こそが、真広直子の娘波絵である。
SAOにログインした理由も、真広直子から勉学の妨げとして接触を禁止された波絵と再会するためだった。回収したナーヴギアの記録から、ゲーム内のシステムで結婚していたことも判明している。
仮想世界という特殊な環境下にあったことや未成年者という事情を顧み、精神病院に移送し保護監察という措置を取っていた。
病院での経過は至って良好であり、オンラインでの教育課程も真面目に取り組み週に1度のカウンセリングも欠かさず受けていた。
事件の5日前に真広直子が面会に訪れており、前日には病院からの外出が許可されている。本来ならば外出は保護者の同伴が義務付けられていたが、病院の職員が真広直子から金銭を受け取り許可証を発行したと証言している。
以上のことから、真広直子は娘のAI作成計画のため柳井と共謀。早速刹那を伴い襲撃者たちと接触しオーシャン・タートルに侵入しSTL7、8号機を使用したと推測される。
また早速刹那が使用したSTL8号機について特記事項がある。先述した重大な欠陥だが、それは頭部ユニットから脳組織を破壊するほどの高出力電磁パルスが発生するものだった。また、電磁パルス発生はアンダーワールドでアバターが死亡した際に起こるよう設定されていた。
まるでナーヴギアのように。
このことから真広直子が早速刹那を計画に参加させたのは、娘をSAOで失う遠因を作った彼への復讐のため。彼を模したフラクトライトの作成も彼を殺害するために用意したと思われる。
だが、早速刹那はアンダーワールドにダイブ後8秒で死亡している。死因はSTLから発生した高出力電磁パルスであり、アンダーワールド内で死亡したとみられる。
当時は限界加速フェーズ中のためアンダーワールド内部時間で早速刹那は約80年生存していたと計算される。
真広直子とどのようなやり取りがあったのか、娘と自身を模したフラクトライトとの接触があったのかは観測不能のため、内部での出来事は一切が不明である。
以下は私の個人的見識であり閲覧は不要だが、私自身の気持ちの整理として記載しておく。
私が目撃したSTL8号機に横たわっていた早速刹那の亡骸は、とても安らかな表情を浮かべていたことが印象的だった。まるで何かを成し遂げ満足したかのような顔をしていた。
SAO事件での聴取で、彼は犯罪者狩りの理由について波絵を愛していると証明するためと証言していた。
誰かを愛するという精神を持ち合わせていながら、殺人行為に走ってしまったことに同情の余地はある。
真広直子と共にアンダーワールドに行くことを決断したのは、生還後も彼女のことを愛し、喪ったことに苦悩していた故のことだろう。
もしくは、SAOで犯してきた罪の根源とも言える波絵に懺悔したいという想いがあったとも考えられる。
アンダーワールドで誕生しただろう娘のフラクトライトと接触したと仮定し、それが彼にとって幸福と呼べるものだったのかは定かではない。
だが彼が内部で約80年という長い月日を生きたのならば、それだけの意義があったのだと思いたい。
微笑んでアンダーワールドからも現実からも去った彼は罪を償ったのか。そう思える根拠を見つけることができたのか。確かめる術がないのが残念でならない。
彼がアンダーワールドで生きる道を見出せたのであれば、それが正しい道であったことを心から祈る。
2026年9月10日 菊岡誠二郎