ソードアート・オンライン パラダイス・シフト   作:hirotani

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第4幕 デーモンズ・ストライク

 

   1

 

 異界戦争の最終決戦に、奇跡としか言いようのない現象が起こった。

 

 昼の色を映していた空が漆黒に染まり、その波紋を世界中へと広げていった。その時は暗黒界の赤かった空も、人界の蒼い空も、同じ暗闇へと転じた。

 

 その頃のわたしはまだ幼かったけど、あの空のことはしっかりと記憶に残っている。不思議な空だった。底なしの深淵のような闇なのに、押し潰されそうな重圧とか、世界の終わりとかの不吉めいた予感を一切感じさせなかったのだ。

 

 冷たいけど、微かに温かい。

 

 この夜の先の、明日が続いていくかのような、その明日は今日より良い日になるような、希望を予感させてくれるかのような夜空。

 

 その夜空にぽつり、またぽつりと光が灯っていった。それは星だった。夜空に星が次々と瞬き、暗闇を朧気ながら、でも燦々とした煌きが広がっていった。

 

 そしてわたしは、その星々に宿る人の祈りを聞いた。

 

 世界の行く末に想いを馳せる騎士。

 故郷に残してきた家族を想う衛士。

 戦場にいる夫の身を案じる妻。

 遠くへ出かけた親の帰りを待ちわびる子。

 

 人界人

 暗黒界人

 人族

 亜人族

 

 そこには一切の境界が存在しなかった。まったく同種で、清らかさの優劣などない魂の輝きともいうべき星々がその煌きを一層強め、南の方向――人界代表剣士がベクタと戦っていた地――へと駆け抜けていった。祈りを届けるかのように。

 

 光の尾を引くほうき星の奔流の中に、わたしの祈りはなかった。

 

 拉致された山ゴブリンの村にいたわたしはまだ絶望とか希望といった想いを知らず、無垢でちっぽけな魂をあのほうき星の中に放り込むことができなかった。

 

 何を祈れば良いのか。

 誰に祈ればいいのか。

 

 あの頃はまだ覚えていただろう親の元へ帰りたい、と祈れば届いただろうか。わたしはもしかしたら、当たりを確約された(くじ)を引き損ねてしまったのかもしれない。

 

 それでも奇跡というものは、人に夢を見させるものだ。

 

 どんなに絶望的な状況でも、いつか変わるかもしれない。変えてくれる存在が現れて、自分を絶望の沼から引っ張り出してくれるかもしれない。

 

 そんな根拠のない希望めいたものを抱いた無垢なわたしの想いは、もっと大きな人の欲動によって覆い潰された。

 

 男の手に弄ばれる日々を強いられていくうちに、希望という言葉を忘却することで絶望という概念も埋もれさせようとしていた。

 

 でもやはり、どこかでわたしは根拠なき期待をしていたのだろう。いつか自分を救い出してくれる存在の出現というものを。奇跡が起こってくれると。

 

 あの日ウンベールの首が炎の中に消えていくときに、高揚したわたしの胸がそれを自覚させた。

 

 まさかあんな血塗れな奇跡とは、思ってもみなかったけど。

 

 

   2

 

 ジーゼック家の屋敷を支えていた柱が崩れ、たちまち火の粉が煙と共に舞い上がる様子は美しく見えてしまった。

 

 どれほどの時間が経ったのかなんて考えもせず、わたしは焼け落ちていく屋敷をぼんやりと見つめていた。自身を縛り付けていた運命の象徴ともいえる物の消滅を、見届けておきたかったのだ。

 

 セツナはというと、村中に転がっている死体――主に衛士隊――から装備品を剥ぎ取っていた。なるべく自分に近い体形の死体から鎧を外して、着け心地を確かめ拝借していた。

 

 さっきはわたしを殺すことを拒否したけど、心変わりして背後からわたしの首をかっさらうかもしれない。そんな予感がしたけど、もうどうでもよかった。この村が滅んだ時点で、もう生きていくことなんてできないのだから。

 

 わたしは杭に縛られたままのエメラを見上げる。天命を全て失っても、肉体の形を保つために新たな天命が与えられる。

 

 でもそれは死体としての天命。目の前に立つエメラは物でしかない。その天命も生きていた時よりも大幅に低いものだから、ほどなくして枯れ果てるだろう。そうなれば、肉体も完全に消滅する。

 

 エメラの全身には、衛士たちが放った流れ矢が刺さっていた。破壊された肉体は人の形を崩してもはや肉塊と呼ぶべき代物だったけど、顔だった部分をまじまじと見つめてみると微かに生前の面影が残っている。そのせいか、骸に対する忌避以上に虚しさがわたしの胸を満たしていた。

 

「どう生きていけばいいのか、分からないよ………」

 

 もの言わないエメラに告げる。勝手なものだ。その辺に転がっている衛士や私領民たちのように、物として見られないなんて。

 

 屋敷は燃料がなくなって炎が小さくなり、篝火程度になったそれも消えて一条の煙が昇るだけになった頃には、もう赤い空はより暗い夜へと変わっていた。

 

 いつの間にかセツナも、きっと小屋から拝借してきたのだろうパンを頬張りながら、ウンベールのなけなしの栄光が崩れ去る光景を眺めていた。この光景を作り出した張本人に、わたしは訊いた。

 

「あなた、これからどうするの?」

「ここを離れる」

「そう………」

 

 訊いておきながら、さほど興味なさげな相打ちに自分でも呆れてしまう。

 

「気を付けてね、外は危険だから」

「あんたも行くぞ」

 

 その言葉には拍子抜けして、セツナの顔を見上げた。相変わらず彼は無表情のままで、

 

「俺はここがどこなのか何も知らない」

「わたしだって知らないわよ。村から出た事ないし」

「それでも、何も分からないよりはましだ。何が起こっているのか知らないまま死ねない」

「他人を殺しても?」

 

 わたしの指摘にセツナは押し黙ってしまった。しばし結んでから開かれた口から返ってきた答えはとても単純だ。

 

「ああ」

「勝手ね」

「そうだな」

 

 皮肉に対して反論はしないけど、自嘲しているようにも見えなかった。表情が微動だにしない彼は、本心から自身の身勝手を認めているかのような(いさぎよ)ささえ感じられた。一種の開き直りにも感じられるけど。

 

 着いていくしかない。わたしはそれを簡単に受け入れることができた。今までウンベールの手の中にあったわたしの運命が、今度はこの殺戮者の手の中へと移っただけ。それだけの事でしかない。

 

 決心、というより諦めがついたわたしの行動は早かったと思う。井戸水を水筒に汲んで、倉庫から持てるだけのパンと干し肉を持ち出した。家に戻り、必要か不要か自問自答した末にバイオリンを手にしてセツナのもとへと戻った。

 

 戻ったとき、セツナの腰には剣が据えられていた。ウンベールの剣だった。上級爵家に代々受け継がれてきた業物らしいのだが、セツナはありがたみも無さそうに無造作にぶら下げている。

 

「なに?」

 

 じっとわたしを見つめるセツナに訊いた。セツナは意外そうな口ぶりで、でもやはり無表情に、

 

「逃げなかったのか」

「逃げてほしかったの?」

「いや………」

 

 その選択肢がなかったわけじゃない。選ばなかった理由は単純で明快だ。

 

「逃げたところで、行く場所がないわ」

 

 なるほど、とばかりにセツナは軽く嘆息した。そこで彼の興味は別のものに移り、

 

「バイオリンか」

 

 風呂敷で背に掛けた楽器を見て呟いた。

 

「知ってるの?」

「ああ」

 

 つくづく奇妙なベクタの迷子だ。何も知らないと言っている割には、どうでも良さげな事は覚えているみたい。

 

 セツナはしばしわたしの背にあるバイオリンを眺めていたけど、何も言うことなく視線を外し歩き出す。わたしはその背中に着いていき、村を囲む森へ入る前に、一度だけ村を振り向いた。

 

 さようなら、わたしの忌まわしい故郷。

 

 別れを告げたわたしはセツナと共に森に入る――寸前でセツナは足を止めた。

 

 不意にわたしの口を手で塞ぎ、傍にあった屋敷の焼け跡に身を引っ込める。抵抗する暇もなく彼に身体を抱えられて、何が何だか分からず身を悶えさせた。

 

「静かに、誰か来る」

 

 耳元で囁かれ、言う通りにすると頷き身体を静止する。ようやく手を放してくれて、鼻まで塞がれていたから目いっぱい空気を吸い込んだ。さっきまで焼けていた炭の傍だから、酷く焦げ臭かった。

 

 セツナの言う通り、乾いた足音が幾重にも重なって聞こえてきた。続けて金具が軋むような甲高い鳴き声がする。

 

 これは、馬の鳴き声。最後に見たのは、ウンベールが私領民を率いてこの村を訪れた頃だ。すぐ食糧難になって、移動用の馬を食糧として屠殺(とさつ)してしまったからすっかり忘れていた。

 

「シェーン!」

 

 大声が村に響いた。絶え間なく「どごだー!」とその声は名前らしきものを呼び続ける。焦げた外壁の影から僅かに顔を出したセツナは、その姿を見たのか眉を潜めながら訊いてきた。

 

「あれは人なのか? モンスターか?」

 

 そのモンスターというのが何なのかは分からなかったけど、わたしも壁から顔を出して、その声を発する生き物の姿を見た。

 

 でっぷりと太った腹に、短い手足。短く突き出た大きな鼻は、わたしも初めて見るけど間違いない。

 

「オークね」

「オーク?」

「多分、あなたの言うモンスターってやつじゃないわ」

 

 やはり亜人族に関しても忘れてしまったらしい。神話の時代、人界から追放されたベクタが自らの眷属として創造したとされる闇の生き物の末裔を。

 

 人語を解すとは聞いていたけど、ややくぐもった声は口が人と異なる形をしているから上手く発音ができないのだろう。

 

 名前を呼び続けるオークに、馬から降りた人族の女が歩み寄って、その低い位置の肩に手を添えた。浅黒い肌をしているから、きっと暗黒界人だろう。灰色の髪を長く伸ばした姿が長身に見えるのは、オークの身長が低い故の対比だろうか。

 

 あまり長く見過ぎていたから、セツナに顔を引かれた。すぐに女のものらしき声がする。

 

「そこにいるのは分かっている。出てこい」

 

 そんな指示に従うような男じゃないことを、もうわたしは思い知らされている。セツナは息を潜め、念のためなのか再びわたしの口を手で塞ぐ。

 

「男に、女がひとりずつか」

 

 女の告げた言葉に、僅かばかりだけどセツナは目を見開いた。溜め息のように深く呼吸し、ゆっくりと立ち上がる。

 

「ここにいろ」

 

 わたしのほうへ振り向くことなく言うと、セツナは壁の影から身を晒した。わたしは顔だけ壁から出して、セツナの姿を認めた女の方を注視する。

 

 女の方はそれなりに人数を固めているようだった。村の衛士隊よりは軽装だけど、黒く磨かれた胸当てや籠手が光っている。

 

「この村、随分と酷いな。君がやったのか?」

 

 セツナは沈黙を返す。腰から剣を抜いた動作が、質問に対する返答のようにも見えた。

 

 何となくだが、わたしはセツナの狙いが読めてきた。彼らが乗ってきた馬。あれなら休憩と餌で天命をもたせれば長距離かつ長時間の移動が可能だろう。もしもの時には食糧にもなる。

 

「剣を降ろしてくれないか? まず話がした――」

 

 女の言葉を最後まで待つことなく、セツナは駆け出した。ウンベールの衛士隊を襲ったときのように、水色の光を剣に帯びさせて。

 

 その俊足は目で追うことさえ困難な速さだったのだが、女は見切ってみせた。セツナが肉迫していた時には既に剣を抜いて、迫ってきた水色に光るセツナの剣を受け止めている。

 

 周囲にいた剣士たちが、最初こそ呆気に取られていたのだがすぐ応援にそれぞれの剣を抜いた。それを見越してか、セツナは剣先を僅かにずらして拮抗を崩し、明後日の方向へと身体を跳ねさせる。女の腕力もあってか、セツナは剣士たちの包囲網から脱し村人の死体たちの群れへと飛び込んだ。

 

「システム・コール」

 

 女の口から神聖術――こちら側では暗黒術か――の式句が紡がれ始める。死体たちのひとりが、朽ちようとしている肉体を光らせ、細かい粒子へと分解を始める。

 

 かつて神聖術をかじっていたという農夫から聞いたことがある。高度な神聖術を行使するための神聖力を得るには花から取れる結晶を使わなければならない。だが空間神聖力の薄い暗黒界では、物の天命を神聖力へと還元する術があるのだという。

 

 となると、あの女は死体の天命を神聖力へと変えたのだろう。その証拠として、死体だった光の粒子は女の周囲に纏わりつくように漂っている。

 

 死体の一画が、もぞもぞと動きを見せた。そこから何かが飛び出してくるのを、女は見逃さない。

 

「ディスチャージ!」

 

 女の掲げた掌から炎の矢が飛んだ。矢と言うよりは、鳥だ。火だるまになった鳥が向かってくる人影に真っ直ぐ飛んでいき、触れた瞬間に爆発を起こす。

 

 煙の中から剣が宙を舞って、地面に深く突き刺さった。その近くで、身体から煙をくゆらせた人影が倒れている。

 

 生きてはいるみたいだ。動きが緩慢になっているから、それなりの火傷を負ったみたいだけど。

 

「まったく無茶な戦いを」

 

 溜め息をつきながら、女は服を焦げ付かせたセツナの身体を仰向けに返す。

 

「動かないでくれよ。今度こそ殺すことになる」

 

 流石に彼も観念したのか、囲まれた剣士たちの姿を一瞥して瞑目した。

 

「隠れている君も出てきてくれないか? 乱暴はしないと約束する」

 

 という女の呼びかけに、わたしも素直に応じるかしかない。もとより抵抗するつもりなんてかなったのだ。セツナが先走っただけで。

 

 出てきたわたしの姿に、女は意外そうに呟いた。

 

「背中のは………、武器じゃなさそうだな」

「ええ、ただの楽器」

「そうか。まあこっちに来てくれ」

 

 言われた通りに女のほうへ歩くと、セツナの状態がよく分かる。火傷は負ったみたいだけど、顔は思いのほか崩れてはいなかった。

 

「暗黒術も知らないとは。人界にも神聖術はあるだろうに」

「その人、ベクタの迷子なの」

「そうか、この男が………」

 

 納得したように嘆息しながら、女はセツナの顔を見つめる。

 

「村をこんなにしたのは君で、間違いはないね?」

 

 またも無言のみが返ってくる。セツナの焼けてかさかさに乾いた唇が動く気配がなく、あまり短期な性分じゃないのか女は気を悪くした様子もなく顔をわたしへと向け、

 

「間違いはないか?」

「ええ、その人がやったわ」

 

 正直に答えた。嘘をついたところで、いきなり剣で襲い掛かってきた人間が潔白だなんてこの場の誰も信じないだろう。

 

「あなたはどうしてここに?」

 

 ずっと気になっていた質問をぶつけた。外から人が来るなんて、10年の間で初めてだ。来たときには既に滅びてしまったけど。

 

「この辺りでオーク族が行方不明になってね、かねてから一帯を調査していたんだ。そしたら昨日、森を抜けて人界人がごった返してきて、村を支配していた貴族と衛士隊が殺されたとか言うんだ」

 

 そこで女はセツナの顔を見降ろし、

 

「殺したのはベクタの迷子だとね」

 

 ずっと大人しくしていたオークが、倒れたままのセツナの胸倉を掴んで無理矢理に起こした。

 

「お前、シェーンをどうした! どごにいるんだ‼」

 

 「落ち着け」と女はオークを制止させる。まだ興奮が冷めやらないオークをセツナから引き剥がしながら「すまない」と、

 

「行方不明になったのは彼の妻子らしくてね。旅行の道中で賊に襲われたそうだ」

 

 わたしは首を横に振った。生憎オークの親子なんて見ていない。そもそもオーク自体、この夫が初めて会ったのだから。

 

「死んだ」

 

 ようやくそこで、セツナが口を開いた。淡々としたその声に、オークの夫は一気に血が上り紅潮させた顔を押し付けんとばかりにセツナへと近付ける。

 

「でだらめなごとを! 本当にそれはシェーンだったのが!」

「名前は聞いてないが、一緒に赤ん坊もいた」

「お前が、お前が殺しだのか!」

「どの道死んでいた。俺はむしろ楽にしてやったくらいだ」

 

 いまいち容量は得ないけど、確かなことは彼の妻子はもう手遅れだということ。それと多分、引導を渡したのはセツナだったということだ。わたしと会う前の出来事だとしたら、森で行方不明になった衛士隊を殺した事と関係があるのか気になった。

 

「落ち着け」

「落ち着いでいられるか!」

 

 肩に置かれた女の手を、オークは乱暴に振り払い突き出した鼻から鼻水を垂らしながら喚く。

 

「もし本当なら俺はごいつを――」

「辛いだろうが落ち着け。奴にはまだ訊きたいこともあるんだ」

 

 オークの身体を引く女は、細身に見えるけどしっかりとした筋肉を付けているようだった。しなやかな腕に浮いた筋は、剣を振るい続けた鍛錬の賜物だろう。

 

「もし本当なら、説明をしてくれるか?」

「ああ。ただ、話す前に水が欲しい」

 

 その呑気とも、あるいは不遜とも取れる要求に女は呆れ顔を浮かべつつ、部下らしき剣士に「飲ませてやれ」と指示をする。剣士の男が「はっ」と腰の皮水筒をセツナの口に近付け、多少乱暴ながら飲み口を押し込んだ。

 

 口の端から水を零しつつも喉を潤したセツナは、擦れ声ながら当時の事を話し始めた。これが序文に綴った、彼がこの世界にやってきた直後に遭遇したものだ。

 

 セツナの口調は淡々としていたけど、内容のあまりの惨さに剣士たちと女はこわばった顔で閉口し、オークの夫は顔を歪めて涙を流していた。

 

「シェーン……、キュリオ………」

 

 妻子の名前を呼ぶオークに、誰も慰めの言葉なんてかける余裕もなかった。剣士たちはセツナをまるで狂暴な魔獣かのように見ている。

 

 わたしはふと、記憶を失う前のセツナは貴族なのでは、と思い始めていた。平民や私領民は、暴力という嗜虐を禁止されているために、血生臭い話はどうにも不慣れになりがちだ。

 

 でも貴族は、とりわけ皇帝家や上位爵家ならば裁決権を傘にいかなる暴力も、ひいては処刑という名の殺人をも許される。もしセツナが手に掛けてきた者たちを「人」ではなく「民」もしくは「罪人」とみなしていたのなら、殺すことへの抵抗は必要ない。

 

「こいつ、悪魔だ………」

 

 剣士のひとりが怖れを呟いた。ベクタが創造した、亜人族や魔獣よりも遥かに醜く狂暴とされる、おとぎ話の存在。

 

 後に神だなんて称される死神だけど、この時点ではただの醜悪な殺戮者だった。法をものともせず、生命の尊厳などお構いなし。

 

 そんな凶悪な生き物への対処は、殺す一択だ。畑を荒らす害獣や、集落を襲う危険性のある魔獣は駆除しなければならない。例えそれが人の形をしていようと。

 

 多くの者がそうだろう。わたしも、ここがこの男の最期なんだなと思っていた。

 

「馬車の中を整理しておけ、こいつは連れ帰る」

 

 女の何気なしな発言に、剣士たちは騒めきたった。「将軍、本気ですか⁉」と剣士の驚愕に、女は「そうだ」とだけ答える。

 

「しかし――」

「剣を交えた私にしか分からない事もある。これは命令だ、言う通りにしろ」

 

 毅然とした女の口調に、剣士は押し黙って馬車へと向かった。納得をしていないことは明白な顔をしていたけど、それでも従うべき立場に女は居るのだろう。少なくとも村ひとつ滅ぼしたセツナを一蹴できるくらいには、腕が立つことは素人のわたしにも分かる。

 

「なら俺はどうずればいい!」

 

 最も納得できないだろう者が、女に文字通り泣きついた。

 

「妻も子も殺ざれ、ごの想いさえ押し殺せどでも!」

「君の辛さは理解しているつもりだ。どうか今は堪えて欲しい」

「ぞんな………。俺は、俺は憎むごども許されないのか……………」

「憎むことは罪じゃない」

 

 唐突に放たれたセツナの言葉は、オークも女も黙らせた。

 

「憎んだだけで誰かが死ぬわけじゃない」

 

 セツナは言った。まだ喉が枯れているようだけど、それを言わなければならないような、強い意思めいたものを感じた。

 

「あんたの妻に止めを刺したのは俺だ。あんたには俺を殺す権利がある。でも、済まないが俺はまだ死ねない。この村の連中を殺したのはそのためだ」

 

 重い沈黙がその場を満たしていた。せっせと剣士たちが馬車の準備をする音だけが聞こえる。女はしばし熟考した末に、

 

「殺しが禁忌と知っていながらの言葉なら、姑息としか言いようがないな」

 

 その言葉で、この時のわたしは弱肉強食といわれた暗黒界でも殺人が禁忌であることを知った。丁度良い機会に、剣士が駆け寄ってきた。

 

「将軍、準備が整いました」

「よし、こいつは2番舎に入れろ。しっかり手足を縛るのを忘れるな」

「はっ」

 

 剣士たちは3人掛かりでセツナの手と足に縄をかけて担ぎ上げ、馬車へと荷物のように運んでいく。

 

「君は私と1番舎に乗ってくれ。色々と訊きたいことがあるんでね」

 

 と、女はセツナが運ばれていくものとは別の馬車を指さした。

 

「そういえば、どうしてわたし達が隠れてるって分かったの?」

 

 思い出してわたしが訊くと、女は「ああ」と微笑し式句を唱えた。すると伸ばした指先から空間に穴が空いたような、真っ黒な球体が現れた。それはふわふわと綿毛のように宙を漂って、ほどなくして音もなくほろほろと崩れて紫と毒々しい色をした霧へと変わる。

 

 その霧はまるで意思を持つように、わたしの周囲に漂い、やがて霧散していった。

 

闇素(あんそ)の探索術だ。身につけておくと色々と便利だよ」

 

 そう語る女の声は、セツナや剣士たちへ向けたものよりは優しく聞こえた。ぎこちなさのない、抱擁のような温かみのある響きに外見との乖離を覚えてしまう。

 

「そういば名前を言っていなかったね。私はアーウィン・イクセンティア」

 





そーどあーと・おふらいん えぴそーど4


キリト=キ
アスナ=ア


ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」

キ「解説のキリトです」

ア「はいというわけで、新キャラ登場です!」

キ「暗黒界人の女剣士だな。色々と語りたいけど、まだ登場したばっかだからあまり情報は出せないんだよなあ」

ア「因みにキャラデザは現在進行中です。完成する前に登場しちゃいました。はい作者はバカですね」

キ「言い方はキツいけど、まあ否定はできないな………。今回出てきたアーウィンのデザイン画のために、次回更新は遅れるらしい。まあ今回も結構遅くなっちゃったけどな」

ア「作者によるとプロットを何度も組み直したそうです。遅筆な作者でごめんなさい。無能に代わってお詫び申し上げます」

キ「当たり強いけど、アスナ作者に恨みでもあるの?」

ア「そりゃあるわよ! だってわたし達本編に出られないのよ!」

キ「根に持ってたのかよ! 最初あんだけ俺のこと煽っておいて!」

ア「だって出たいもんは出たいわよ! わたし原作ヒロインよ! 作中じゃ絶世の美女よ! わたし居ないと作品に華が無いじゃない‼」

キ「いやまあそうだけど――」

ア「この作品に出てくる女なんて今のとこアソコがガバガバなのと骨太ノッポよ! これから登場予定なのも《ピー》に《ピー》と《ピー》とかロクなのいない‼」

キ「やめて色々ネタバレしちゃうから! えー作者からの伝言で、アーウィンと今後登場予定のキャラビジュアルは読者様の琴線に触れるデザインにしますので、楽しみにお待ちください。だそうだ」

ア「どんな女が出てこようと、原作ヒロインのわたしに勝つことはないわ」

キ「ナンバーワン争いしてるキャバ嬢みたいだな………」

ア「あら、行ったことあるの?」

キ「行ける歳じゃないわ!」

ア「じゃあ気持ちを切り替えて、今回の趣旨を説明するわね。新キャラのアーウィン・イクセンティアについては続報をお待ちくださいとして、今回はこの作品の位置付けについての解説です」

キ「感想欄とかで早くも本作が別作品と繋がってるんじゃないか、勘付いている読者さんが多いんだよな」

ア「そう、作者が前に書いていた『ソードアート・オンライン パラダイス・ロスト』って作品なんだけど」

キ「まあタイトルが似てるし主人公の名前も同じセツナだから、普通は気付くよな」

ア「作者は完全に読者さんをバカにしてますね、許せません!」

キ「いやバカにしてないからね、決して。単に『パラダイス・ロスト』が5年前の作品で誰も覚えてないだろうと思ってたら意外と覚えてくれてた読者さんもいて驚いたって事だから」

ア「そんな訳で、本来ならもっと後に出すつもりの情報なのですが、今回前倒しで解説したいと思います。理由としては、下手に沈黙することで読者さんを混乱させて購読意欲を削がせてしまうからだそうです」

キ「まあ作品がまだ序盤なのもあって詳しく話しちゃうとネタバレになっちゃうから出せる情報は少ないんだけど、そこは勘弁してくれ」

ア「まず単刀直入に訊くけど、本作と『パラダイス・ロスト』ってどういう関係なの?」

キ「まず全くの無関係ではないんだけど、ストーリーが地続きになってるわけじゃないから本作は続編ではないな。何て言うか、本作は『パラダイス・ロスト』の作風を受け継いだ後継作品という位置付けなんだ。だから『パラダイス・ロスト』を前作って呼ぶべきかは作者も微妙らしい」

ア「何だか煮え切らないわねえ」

キ「仕方ないだろ。これはっきり言っちゃったら作品の結構なネタバレになっちゃうんだよ。『パラダイス・ロスト』の続編を書こうにも、さっきも言ったように5年前の作品だから、はっきり続編なんて言って読者さんにまた作品読ませるのも負担になっちゃうんだよ」

ア「じゃあ、本作読むのに『パラダイス・ロスト』のほうは読まなくてもいいの?」

キ「全く問題はないな。むしろ作者曰く読んだら混乱するらしい」

ア「そっか、分かりました。それじゃあ読者の皆さん『パラダイス・ロスト』は読まないでください!」

キ「ええ⁉」

ア「だって内容知っちゃったらむしろ混乱しちゃんでしょ? それならもう読まないほうが良いわ」

キ「こういう解説って大体前作の宣伝でやるもんじゃないの? 俺読まなくても問題ない言っておいて誘導してるなあ、て思ってたし」

ア「良いのよ。あ、作者から伝言預かってます。えーと、ゲームとかで続編出た時『前作知らなくても楽しめます』とか宣伝しといて前作の内容をプレイヤーが知ってるの前提でストーリー進むのが、あれ大っ嫌いなんです。だって」

キ「まあ制作側からしてみれば、新規ユーザーに続編と前作両方買ってくれれば単純に売上倍増だしな。続編て前作が売れてるから出せるもんだし」

ア「本作の場合、別に前作がバスった訳じゃないもんね。完全に作者の自己満足だし」

キ「………否定できないな。まあ作者もそれを分かってるから、本作は単独でも内容が分かるようにしてるみたいだ。あ、これ誇張は無いからな」

ア「例えるなら『ニーアレプリカント』と『ニーアオートマタ』みたいなものね」

キ「マニアックな例えだなおい」

ア「じゃあ『ラブライブ!』無印と『ラブライブ! サンシャイン‼』みたいな?」

キ「いやまあ間違っちゃいないけど………」

ア「『仮面ライダークウガ』と『仮面ライダーアギト』!」

キ「それはコアなマニアにしか分からない!」

ア「まとめると、本作と『パラダイス・ロスト』に繋がりはあります。ただしストーリーは繋がってないので読まなくて大丈夫です!」

キ「これで読者さんのもやもやが晴れればいいんだけど、まだ気になることがあれば感想欄に書いていってくれ」

ア「それでは今回はお別れの時間です。次回は新キャラ、アーウィンのビジュアルを公開します。多分作者のせいで遅れますが、お楽しみに!」

キ「気長に待ってくれよー」

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