ソードアート・オンライン パラダイス・シフト   作:hirotani

7 / 37
第6幕 カーム・ナイト

 

   1

 

 ほろほろ、と崩れてしまうほどに肉は柔らかかった。フォークに刺しても零れてしまうほどだから、乗せて口まで運んでいかなければならない。口の中で噛むと煮込んだスープの味が溢れ出してきた。

 

「スープは残しておくといい。パンを浸して食べると絶品だよ」

 

 すぐに具を平らげてしまったわたしは、アーウィンに言われた通りパンを千切って赤いスープの中に入れた。生地に染み込んだ滴を垂らしながら口に運び、麦の香りとスープの味を噛みしめた。

 

「おかわりもあるよ」

 

 すぐに完食してしまったわたしに微笑しながら、アーウィンが言った。自分のがっつきぶりに羞恥を覚えつつも、生まれて初めてとも言える美味な料理に食欲を抑えられないのは仕方ないものだ。

 

「そんなに美味かったのか?」

「うん」

 

 ほのかに酸味がある肉のスープは濃厚で、パンもアーウィン曰く固いからスープに浸して食べるらしいが村で食べていたものよりは各段に柔らかい。

 

「これ、何の魔獣の肉なの?」

「魔獣じゃなくて、人界で育てられた牛の肉だよ。赤いのはトマトという野菜らしい」

「わざわざ人界から暗黒界まで牛を連れてきて調理したの?」

「いや、冷素を溜め込んだ箱があってね、そこに食材を入れておけば天命が長持ちするらしいんだ。確か、冷蔵庫とか言ったかな」

 

 それはまた、便利な発明品があったものだ。それがあれば、人界から新鮮な食材をいくらでも暗黒界へと運ぶことができるだろう。

 

「こういった物ばかりは、統一会議に感謝もできるのだがね」

 

 嘆息と共にアーウィンは微笑を漏らした。統一会議への恨み節をわたしに語っておきながら、恨むべき相手からもたらされた恩恵を享受しなければならない。その板挟みというものは、わたしの感触した料理の皿を見る度に思い知らされるのだろう。

 

「私はこれから彼と――セツナと話をするが、どうする?」

「どうする、て?」

「気になっているみたいだったのでね。一緒にどうかな?」

 

 そんなにわたしは分かりやすい表情でもしていたのだろうか。さっき馬車の中でわたしの事を全て見透かしていそうなんて言っていたのに。矛盾を禁じ得ないのは、彼が気掛かりであることが否定できないからだろうか。

 

「会ってみる」

 

 答えると、アーウィンは無言のまま微笑した。君ならそう言うと思ったよ、とでも言いたげな顔が少しばかり意地悪に感じられた。部屋から出てすぐ、ドアの隣に守衛らしき男が佇んでいた。

 

 「あの男はどこに?」とアーウィンが訊くと、男は「こちらです」と案内をしてくれたけど、正直なところそれは必要のない気遣いだった。何故なら、そう離れていない部屋の前には剣を携えた男ふたりが見張りのためドアの両隣に構えていたのだから。それなりに鍛えているらしく筋肉で肩回りが隆起している彼らに臆すことなくアーウィンは訊いた。

 

「彼の様子は?」

「縄で拘束していますが、必要ないんじゃないかってくらい大人しいですよ。不気味なくらいです。本当に殺しなんてしでかしたんですか?」

「殺すところを見てはいないが、私に有無を言わさず斬りかかってきたのは事実だよ」

「はあ……。ですが、一見まともな奴に見えますな」

「まともじゃないからこそ、まともを装うものだよ、ああいった輩は」

 

 後になって思うが、伝説にまでなった男の印象が「まともな奴」なんて滑稽なものだ。わたし達の世界は、一見では普通の青年によって乱されたことになるのだから。世の安寧が叡智を積み重ねた人によってもたらされたのなら、それを乱すのも業を積み重ねた人という事なのだろう。

 

 ノックもせずに、アーウィンはドアを開けた。一見無防備だけど、彼女の腰にしっかりと剣が提げてあったことから一応警戒はしていたのだろう。

 

 わたしも部屋に入ると、セツナはベッドに縄で縛られていた。これでは仰向けの姿勢のまま寝返りすらうてない。さっき下で見た時は気付かなかったけど、馬車で治療を受けていたらしく火傷は殆ど消えていた。顔の皮膚は僅かに薄皮が乾いて裂けているけど、それはもう自然治癒できる範囲だろう。

 

「調子はどうだ?」

「腹が減った」

 こんな拘束された状態で食事なんてできるはずがないだろうが。その不遜さを予想していたのかは分からないが、アーウィンは呆れて深く溜め息をついた。

 

「なら大丈夫そうだな」

 

 わたしの案内されたのと同じ広さの部屋だから、同じようにベッドの他にはテーブルがひとつあるだけ。そのテーブルに備え付けられた椅子にアーウィンは座ると、じっとセツナの顔を見据えた。

 

「君はベクタの迷子のようだが――」

「そのベクタの迷子とは、一体何だ?」

「記憶喪失の者を私たちはそう呼んでいる。闇の皇帝ベクタが気まぐれに人をさらい、記憶を奪った上で遠くの地へ放ってしまうという言い伝えだ」

「まるで神隠しだな」

「かみ――何だそれは?」

「ベクタとかいうのは迷惑な奴だって話だ」

「まあ確かに、君からしたら迷惑な話だな。そんな迷惑を被ってしまった君は、失った記憶を取り戻したいとは思わないか?」

「俺の過去がまともならな」

 

 セツナの言葉に、わたしの背筋に冷たいものが走った。殺人が罪と自覚しながらもそれを実行できるこの男の過去が決して善良なものでないことは、考えなくても想像できることだ。アーウィンもそれは同じだろうか、紡ぐ言葉を慎重に選び取っているようにわたしには見えた。

 

「あまり良い過去ではなさそうだが、君は記憶がない故に自分が何者かすら分からず、これからどうすれば良いのかも分からない。違うか?」

「そうだな。今の俺が何者かというと、あんたの言うベクタの迷子だ」

 

 皮肉とも自嘲とも取れる返しにアーウィンは苦笑を零し、

 

「ここからは取引になる」

「拒否すれば?」

「君がさっき私に攻撃してきた時点で、人界禁忌目録の下私には防衛のため君を斬り捨てる権限が与えられている。今この場でも執行は可能だ」

「あんたに人を殺せるのか?」

「もしできなかったら人界の整合騎士に迎えに来てもらって、統一会議に裁いてもらうさ。犯罪など起こらんと思い込んでいるあそこでも、処刑せざるを得ないだろうね」

 

 いくら殺人が平気な罪人でも、この状況下で自らの立場を理解できないほど傲慢でもなかったらしい。

 

「これが取引だなんて言えるのか。とてもフェアに思えないな」

「ふぇあ?」

「公平、という意味だ」

 

 時折セツナの口から出てくる古代神聖語。それが彼の得体の知れなさをより際立たせる。肌の色から人界人であること、髪と瞳の色から大体の出身地は絞り込めそうだが、そんなことは些末事(さまつごと)にしか思えなくなっている。彼はどこで生まれたとか、そんな次元で知り得る存在ではない気がした。

 

「まあ、確かに公平ではない。だが我々も君に殺されやしないかと肝を冷やしているんだ。それを理解してくれ」

「どちらにしても、俺に拒否権はないんだな」

「理解が早くて助かるよ。話を戻すが、単刀直入に言えば私に協力してもらいたい。私に君の記憶を取り戻す術を授けてやることはできないが、代わりと言っては何だがすべきことは与えることができる」

「人を殺すことが、俺のすべき事だとでも?」

「嫌か?」

「好きで殺していたわけじゃない」

「仕方なかった、とでも?」

「殺さなければ俺が殺されていた」

「真っ当な理由ではあるな」

 

 仕方なかった。殺すしかなかった。俺は悪くない。こうして言葉を並べると、往生際の悪い言い訳でしかない。良心に対して蓋をし、自らの所業を正当化するしかないとも捉えられる思考を、アーウィンは否定しなかった。

 

「確かに望まぬ事だったのかもしれない。けど、犯した事実は消えない。その事に対する責任はあるはずだ」

 

 責任、と聞いてセツナの眉が僅かに動くのを、わたしは見逃さなかった。アーウィンは続ける。

 

「君は他の者にはできない事をやってのけた。それは強力な力だ。その力によって既に多くの者たちの運命を決めてしまったのは、分かるね」

 

 自らも力を持ち、それを自覚しているからこその強かな響きを帯びた言葉の連なりだった。同時に、アーウィンが自らの力の及ばない領域を羨望しているかのようにも感じられた。

 

「力を持つのなら、それを必要とする者のために振るうことだ。少なくとも現に今、君は彼女の命に対する責任を果たさなければならないはずだ」

「命への、責任………」

「救ったのなら最後まで面倒を見ろということだ」

 

 セツナはその目を虚ろに、視線を宙へと漂わせた。生気というものをあまり感じさせない土気色の肌が、沈黙して横たわる姿と相まって死体を想起させる。本当に、ここまで考えの読めない人間というものを、わたしは見た事がなかった。無表情、無機質、と片付けてしまうのにこの男の眼差しは冷たすぎる。

 

 返事を待つことなく、アーウィンは椅子から立ち上がる。

 

「言っておくが答えは聞かないよ。拒否権がないと、君は理解しているのだからね」

 

 部屋を出るとき、ちらりとセツナを一瞥するも彼は微動だにせず、縛られていることに身を任せたまま横たわっていた。

 

「彼に食事を用意してやってくれ」

 

 「はっ」と威勢よく返事をした見張りの片割れが、素早く廊下を駆けていく。階段を降りる足音が小刻みに聞こえていた。

 

「済まないね、君をダシに使うようなことを言って」

「気にしてないわ」

 

 わたしに対しての責任。あの場で咄嗟に出た言葉じゃないだろう。取引の材料として引き合いに出すため、それとなく場に誘ってみせるアーウィンの抜け目なさに、胸の裡でわたしは緊張を飲み下していた。

 

 アーウィンがセツナを使って行おうとしていることを、わたしはまだ知らない。けど、崇高な理念とか、善良さだけで動けることではないと、漠然とだが理解はできていた。

 

「私は明日にでもオブシディアに行く。彼も連れていくが、悪いが君も来てくれないかな?」

「わたしも?」

「ああ、ここで他の難民たちと一緒に居てもらうのも良いんだが、君の場合は村の者と一緒にするのは危なそうだからね」

 

 村の農夫の視線に、彼女も同じ女として感じる不快というものがあったのだろうか。ウンベールのいない場所でわたしの身体をよく触っていたあの男たちの欲望が、領主亡き後で暴発させることもあり得るかもしれない。

 

 その可能性を浮上させても、恐怖といった感情はあまり湧かなかった。わたしの人生や運命とは、常に誰かに握られていたのだから。無力な存在というものは、いつだって力ある者に平服するしかない。アーウィンのように強く、セツナのように惨くは、誰もがなれるものじゃない。

 

 それでも、アーウィンは優しかった。これまでのわたしを労わってくれているかのように。

 

「君はあんな男たちに汚されるための存在じゃないはずだよ、ナミエ」

 

 

   2

 

 ゆっくり休むといい。

 

 明日の出発まで自由にして良いとアーウィンに言われて、暇を持て余していたわたしは部屋のベッドでぼんやりと天井を眺めていた。下の階で簡単な食事を摂ることや酒を楽しむこともできるらしい。この建物は表向き交易中継地の酒場だから多くの人が出入りするらしいのだが、この日のわたしはあまり人と会う気分にはなれなかった。村の人たちと遭遇するのが面倒、という理由も大きいけど。

 

 アーウィンはそれを察していたのか、夕刻になると部下らしき人が夕飯の盆を部屋に持って来てくれた。

 

「下では落ち着いて食べられないだろうから、て」

 

 そう言っていた部下が女性だった事も、わたしへの配慮だったのかもしれない。不用意に男に近付けまいとする彼女の気遣いは有難いのだが、わたしはそこまでしなければならない腫れ物なのか、という戸惑いも否定できなかった。

 

 人として尊重されることなんて、今まで無かったから。

 

 夕飯もパンとスープといった簡単な食事だったけど、わたしにとってはご馳走とも言って良い味だった。麦の香りが際立ち湿気を含み柔らかく焼き上がったパン。鶏肉と野菜が汁気を吸ったスープ。どれも、村に居た頃には味わえなかった。

 

 入浴もまた初めての経験だった。井戸水をそのまま被るのではなく。大きな鍋みたいな風呂釜にたっぷり溜めた水を、熱素を封じたカンテラ石で沸かす。

 

 人は皆、生まれる前は母親の体内で体温と同じ温度の水に満たされた状態で育つと聞いた。人肌よりは少し熱めな湯に安らぎを覚えるのは、生まれる前の母に護られていた頃を思い出させるからだろうか。

 

 ゴブリンに攫われる前の記憶が殆どないわたしに、生まれる前のことなんて覚えているはずもない。わたし以外でも、乳飲み子以前の頃を覚えている者なんているのだろうか。親に抱きかかえられる感触。飲んだ母乳の味。初めて吸った外の空気。真っ暗で狭い産道の窮屈さ。小さな肉体を包み込んだ羊水の温度。

 

 わたしは湯に浸かるへその下あたりを撫でてみた。こんな小さな場所に赤子が宿るなんて、不思議なものだ。自分が赤子を宿すことのできる女であるとしても、実感は湧かない。ずっと赤子を宿すための行為を毎日のようにしてきたというのに、わたしの中に新しい命の芽吹きはなかった。当然だ。司祭から神の名の下の祝福を受けて夫婦と認められなければ、神からの贈り物である子は望めないのだから。

 

 部屋に戻り手触りの柔らかい肌着を纏いベッドに腰かけたところで、こうして穏やかな夜を過ごすのが初めてであることに気が付いた。今まで夜は身体を好きに弄ばれてきたから。盛んな日は朝まで相手をさせられ、寝られるのは早朝。

 

 いつもの就寝時間とは異なる時間帯だけど、予期せぬ事に振り回されたのと満腹が手伝って疲労はすぐに訪れた。ベッドに横たわりながら、わたしはふと考えてしまった。

 

 これからどうなるんだろう、と。

 

 明日も今日と同じことが繰り返される。そんな日々は唐突に終わりを告げた。明日はオブシディアという、暗黒界の都へと行く。セツナも連れていくということは、きっと血生臭いことが起きるのだろうと確信できた。

 

 不安はある。わたしはこれからどうなるのか。無惨にも殺された村の衛士隊や肉塊にされたエメラのように、わたしも血と肉に塗れていく運命が待ち構えているのか。

 

 もしそうなったら、わたしは成す術もなく死んでいくんだろうな、と思えた。アーウィンの憂う世界の現状において、わたしは最下層にいる人間。何か強大なことが起きれば、真っ先に犠牲として淘汰される存在なのだから。

 

 恐怖はある。でもどうしようもない。そう割り切ることができたのは、単に眠気のせいだろうか。思考に耽ることの疲れがそうさせているのなら、目が覚めたら自らに待ち受ける不条理に対する反発も芽生えるだろうか。

 

 考えても仕方ない。眠気で思考を遮断されたわたしの意識は、深く暗い眠りへと落ちていった。

 

 

   3

 

 よほど疲れていたのか、目が覚めた頃にはもうアーウィンは出発の支度を済ませてしまっていた。「急がなくてもいいよ」とは言われたけど、何となく後ろめたさからわたしは用意された朝食のパンを口に押し込んで服を着替えた。

 

 あの血に塗れた惨劇から着ていた脚の露出したドレスは、既にわたしの体形に馴染んでいるようだった。平時に着るような服ではなさそうだけど、生憎ただの中継地でしかないここは物資が十分ではないらしく、わたしが着られるような衣類は他にない。

 

 酒場の前には既に馬車が待機していて、アーウィンとわたし、そしてセツナが乗り込むと馬が走り出した。それほど広くはない馬車の中で、縄から解放されたセツナは足を組んで木偶人形みたいに沈黙していた。

 

 この男を自由にして大丈夫なのだろうか。隣に座るアーウィンを見上げると、彼女は悪戯っぽく微笑んだ。

 

「安心するといい。首輪は着けておいたよ」

 

 見れば、セツナの首には確かに首輪が巻かれている。

 

「首輪に熱素を込めたカンテラ石を付けてある。怪しい動きをして、私が術式を唱えれば首が吹き飛ぶ仕組みだ」

「あんたが死んだら意味が無いな」

 

 セツナの鋭い指摘にアーウィンは余裕な佇まいを崩すことなく、

 

「殺せるつもりかな?」

 

 酷く物々しいやり取りにわたしは溜め息をつき、気晴らしになるかと窓へと目を向けた。

 

 馬車の窓から見えるのは、砂塵吹き荒れる荒野。赤い空の下に広がる岩と、時折枯れ木ばかりが景色を流れていく。殆ど初め見ると言っていい村の外。そこは何もない不毛な大地で、自ら村を出たとしても生きていける場所でないことは明白だった。

 

「暗黒界って、本当に何も無いのね」

「ああ、雨も降らないし作物も満足に育たない。殆どがこういった草木の生えていない不毛の地だよ」

「こんなところで、暗黒界の人たちは何百年も生きていたなんて………」

「ああ、今に思えばよく生きてこられたものだよ。人の執念というものだ」

「執念?」

「ああ、このような過酷な大地に追いやったステイシア神と、人界の民への復讐心。怨念と言ってもいいな」

 

 アーウィンはふう、と深く息を吐き、続けた。

 

「神話の時代、ステイシア神に敗れたベクタ帝と共に、私たち暗黒界の民はこの地に追放されたと言い伝えられている。皇帝が眠りに就いたオブシディアを守りながら、長い年月をかけて大地を彷徨っても、こちら側に安住の地はとうとう見つからなかった。見つけたのは濁り水しか湧かない水脈と、何とか食べられる術を見つけた草の育て方。それも採れるのはほんの僅かで、人々の飢えを癒すには到底足りない。鉄血の時代とは、そんな僅かな食糧を種族間で奪い合う時代だった」

 

 アーウィンの口調は主義に満ち溢れているけど、そこに激情の介入は一切見えなかった。彼女の行動の原動力は師匠の無念だったのかもしれないけど、だからといって理性を失っていたわけではなかったのだ。

 

「そうして戦い合っていくうちに、私たちの先祖の中に芽生えたのはこんな地に追いやった人界への憎しみだった。あの果ての山脈の奥には光と緑溢れる大地がある。東の大門が崩れ、人界人を皆殺しにした時こそ我らは約束の地に至ることができる。そんな怨念が、親から子へと受け継がれ続けた」

 

 視界に広がる景色の隅に、石壁らしき残骸が見えた。すぐ砂嵐に隠れて消えてしまったが、あれも繰り返された戦乱で破壊された一部なのだろうか。幾度となく血が流れ、その血が黒くなるまで塗り固められた大地。深い根まで染み込んだ赤黒さは、散っていった者たちの怨念を閉じ込めているかのようだった。

 

「復讐でも何でもいい。私たちには縋るものが必要だった。この業苦は永遠ではなく、終わる日が来る。こんな不条理な世界でも生きる価値がある。今は無理でもいつか――子や孫、後の子孫の時代には全てが報われる。そんな根拠のない希望を信じ続けるために、私たちはベクタ帝という神を見出した」

 

 神か、とわたしは裡で反芻した。大昔に存在していたとされても、今を生きる者たちで見た者はいない。それなのに信じられるほどの敬虔さ――いや、たとえ無根拠でも信じる以外に救いはなかったのだろう。

 

「神は死んだ」

 

 語りの合間を縫うようにして、セツナは呟いた。

 

「誰かがそんな事を言っていた気がする。神からの啓示じゃなく、自分の意志で成すべき事を見出せという意味だ」

 

 何とも強い意思を感じられる言葉だった。結局のところ何かを成すのは神ではなく人。神へ依存するのをやめ、自分たちでこれからの時代を創っていこうとする、新たな神話のようでもある。でも、その神話はアーウィンには刺さらなかったようだ。

 

「恵まれた人界人らしい考えだな。それは生きることが当然になった者だからこその言葉だ。私たちの先祖は、死ぬことを前提にして生きてきたと言っていい」

 

 どんな強靭な意志でも、それを覆う現実の前ではあっけないほど脆く崩れ去る。それを目の当たりにしてきたのだろうアーウィンの言葉は重かった。

 

 セツナもそれを理解していたのか、反論しそれ以上の理想論を垂れようとはしなかった。セツナもまた、神は死んだなどと詭弁に過ぎないことを知っていたのかもしれない。

 

 外では砂塵が止む気配もなく吹き荒れている。その地で確かに生きていた者たちの魂が渦巻くような錯覚を覚えながら、わたしの耳にアーウィンの言葉が突き刺さった。

 

「世の不条理を呪いながら死ぬか、後世への祈りを抱いて死ぬか。そのふたつの選択しか残されていなかった」

 





そーどあーと・おふらいん えぴそーど6


キリト=キ
アスナ=ア


ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」

キ「解説のキリトです」

ア「さあ、今回も素敵なゲストを――と言いたいところですがわたし達ふたりだけでコーナーを回します」

キ「ん、どうしたんだ?」

ア「直球に言うとネタ切れです」

キ「もうか! まだ6回目だぞ!」

ア「作者によるとエピソード毎に設定やキャラの解説をしていく予定でしたが、思いの外ストーリーが進まずここで解説するためのネタが出ないそうです」

キ「まさかの停滞かよ………」

ア「しょうがないじゃない。書くべき事が多すぎて、なかなか先に進められないのよ。戦闘描写もたくさん入れたいけど戦闘まで行くのが長引いちゃってるのよね」

キ「まあ大変なのは想像できるけど、下手に長引かせたら作品の目指す所が分からなくて読者さんに飽きられるだろ」

ア「10年以上連載してる漫画とか終盤あたり読むのがダルいくらい展開遅いわよね」

キ「言い方に気を付けてね」

ア「というわけでネタが切れたので今回はここまでです」

キ「本編の方も何とかストーリーを進められるよう作者も頑張るから、待っていてくれよな」

ア「本当に、本当に申し訳ありませんでしたー!(エア土下座)」

キ「え、これ謝罪会見?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。