ソードアート・オンライン パラダイス・シフト   作:hirotani

8 / 37
第7幕 ヒーリング・サウンド

 

   1

 

「システム・コール――」

 

 覚えた式句を口ずさむと、周囲の見えざる神聖力が視認できる光へと転換されていく様子を感じられる。光は細かい粒になって手に持った穂先へと収束し、松明に火が灯るように穂の持つ神聖力を糧として光を定着させようとする。

 

 でも、それは永くは続かない。穂先に灯った光は周囲を照らすほどの勢いはなく、ただ己がここにいる事を示すだけ。それもすぐに消えて、神聖力を使い果たした穂はぼろぼろと崩れていった。

 

 神聖術。暗黒界では暗黒術と呼ばれるこの術は、世界に存在する神聖力または暗黒力という力――呼び名が異なるだけで、全く同じものだという――を触媒とし、力に働きかける古代神聖語を唱えることで操作し発動できる。神話の時代、人に与えられた創世神ステイシアの力の一部と伝えられている。

 

 神の力を行使するということで、神聖術を上手く扱える術師はそれだけで高い地位に就くことができるという。戦前に人界を統治していた最高司祭は、まさに術師の頂点にあり神の化身と崇められていたそうだ。

 

 そんな神の力の一端をわたしも使ってみようと試みてはみたのだけど、結果はこの通り。貴重な草の1本を無駄にしただけに終わった。

 

「上手くできているよ」

 

 そんなわたしに、式句を教えてくれたアーウィンは微笑んでくれた。

 

 異界戦争では大いに重宝された神聖術だけど、平時の日常生活においても利便性は高い。現に今、野営で炊いている焚火だってアーウィンが熱素の術式で火を灯してくれたのだから。神聖術が使えなければ、火を起こすのだって火打石で火花を散らし続けなければならない。

 

 覚えておいて損はない。そんな訳でアーウィンから初歩的な術式を教えてもらっている。単純な式句と微量な神聖力でも扱えるそうだが、ただ微かな光を数秒だけ灯せただけだった。

 

「最初は式句を唱えても何も起こらないのが殆どだ。その点で君は筋が良い」

「何だか、不思議な感じ………」

 

 初めて扱った神聖術。成功とは言えないけど、その感覚はどう言葉にしたら良いものか迷いどころだ。

 

「何だか力が集まってきたような、暖かいものに包まれているみたいな感じがした」

「君はきっと、暗黒力との親和性が強いのかもしれないな。優れた術師には、そういう感覚の鋭い者が多いと聞く」

 

 これは、わたしの特技になるのだろうか。煤けた穂先をぼんやりと眺めながら、そんな事を思った。ただ腰を振るしか能がないと思っていたのに。

 

「今からでも遅いなんてことはない。腕を磨けば、きっと優れた術師として身を立てることもできるだろう」

「また、教えてくれる?」

「もちろんさ。私でよければいつでも。まあ、暗黒術師ギルドの連中ほどの術は私にも使えないけどね」

 

 焚火に照らされるアーウィンの穏やかな顔を見ると嘆息が漏れる。こんなに安心という言葉が浮かび上がる夜もまた初めてだ。昼間より一層暗さを増した夜空には星ひとつ浮かんでいないし、周囲には岩ばかりで時折魔獣らしき唸り声も聞こえてくるけど、それでも彼女がいるだけで心配がいらないように錯覚してしまう。

 

 ふと、アーウィンの目がわたしの隣にある布で包まれたものに移った。村からわたしが持ち出してきた、唯一の所持品と呼べるものに。

 

「それは楽器だったかな?」

「ええ」

「良かったら見せてくれないか?」

 

 頷いたわたしは布を解き、艶出し剤が塗られた木材を煌かせる楽器を外気に触れさせた。焚火に照らされてか、材質が少し赤みを帯びている。アーウィンはその奇妙な形をした楽器を物珍しそうに見つめ、

 

「これは、何という楽器なんだ?」

「バイオリン。大昔に人界の皇帝が持っていたものらしいわ」

「大昔………。そんなに長く天命を保ち続けているのか」

 

 アーウィンの言葉に、わたしも重要な部分を見落としていたことに気付いた。元の持ち主から細かい年代は聞いていないが、大昔なんて言い方は数十年前程度ではあるまい。恐らくは百年以上は昔の時代に、この木材は切り出され、削られ、塗装されたに違いない。そんなに長い時代もの間、この木製楽器は妖しげに艶を出し続けている。

 

 普段から使っているものだから、そんなこと考えもしなかった。手入れはしているけど、これほどの天命を備えられるのは手掛けた職人の腕か、それとも素材か、もしくは塗料か。もしくは全ての条件が揃ったことで長く保たれているのかもしれない。

 

「聴かせてくれないか?」

 

 好奇心を瞳に溢れ出させたアーウィンの頼みを拒否する理由なんてなく、わたしは一緒に包んでいた弓を手にしてバイオリンを弾いた。いつものように、その時の気分で音を奏でていく。この夜の気分を象徴するように、穏やかにしっとりとした音色を連ねていった。

 

 弾きながら、奇妙な緊張がわたしの肌を(あわ)立たせる。他人の前でバイオリンを弾くなんて初めてだった。演奏とはわたしにとっては自分のため。精神の安寧を一時でも得るための儀式のようなものだった。たったひとりだけの時間を誰かと共有するというのは、特別な秘密を一緒に抱えているように思える。

 

 不意に、ばさりという摩擦音が楽器の音をすり抜けてわたしの耳朶に入り込んできた。ちらりと視線をくべると、我知らずとばかりに眠っていたセツナが被っていた毛皮をはだけさせ、わたしの方をじっと凝視している。

 

 睡眠を妨げたことに立腹なのか。そう思いかけるも、セツナの目からは怒りの火めいたものは感じられなかった。

 

 演奏の長さはいつも、その時の気分次第だ。音として吐き出したい感情が、自分の中で空っぽになるまで弾き続ける。この日の演奏は、それまで色々な事が立て続けに起こったせいかとても長かった気がする。悲しみだったり、戸惑いだったり、不安だったり。その全てを吐き出し終えたところで、曲とも呼べない乱雑な音の連なりが終わった。

 

「素晴らしかったよ、とても」

 

 アーウィンはそう言って拍手をしてくれた。

 

「とても綺麗な音だね。まあ、私は音楽に関してはからっきしだが、それでも良いものだと思えるよ」

「そんな――」

 

 面と向かって褒められると、何だか気恥ずかしいものだ。何と言えば良いものか応えあぐねているうちに、アーウィンは悪戯っぽい笑みをセツナに向けた。

 

「君にも音楽を聴く感性があったとはね」

 

 からかいが気に障ったのか、セツナは毛皮を被ってしまう。「うるさかっただけだ」とだけ呟き、そのまま無言になってしまったから再び眠ったのかも分からなかった。

 

 さっき一瞬だけ見えた彼の目元。そこに光るものは、わたしの見間違いだろうか。もし本物だったのなら、わたしの演奏の何が彼の深淵に響いたのだろう。訊いたところで答えるほど、この奇妙な男は素直な性格をしていないだろう。

 

「さあ、ナミエも寝るといい。火の番は私に任せて」

「でも――」

「なあに、馬車の中で十分休んださ。それにこういった見張りは暗黒騎士の頃によく押し付けられたから、平気だよ」

 

 あっけらかんと言ってのけるアーウィンにそれ以上に遠慮したところで困らせるだけと思い至り、わたしは「うん」と頷くほかない。この女剣士の厚意は、甘んじることが互いに最善なのだ。

 

 暗黒界の夜は特に冷える。すっかり獣臭さの抜けた毛皮を被るとすぐに眠気は訪れた。

 

 眠りに落ちる前、わたしは闇が濃くなった空を見上げた。厚い雲に覆われた空は月光も注ぐことなく、今にも押し潰してきそうな圧迫感があった。

 

 

   2

 

 浅黒い肌に緑色の肌。中には毛に覆われた肌もあれば、毛が1本も生えていない肌もある。

 

 そんな多様な種族が一緒くたに同じ大部屋に居て、対立も牽制もせずに共存している。ボールで遊んだり、絵本を読んでいたり。このような光景を作り出せるのは、彼らのまだ邪な心を持たない子ども故の純真さだろうか。

 

「済まないね、騒がしくて」

 

 所在なさげに笑うアーウィンは、両腕にしがみ付く人族とゴブリン族の相手に文字通り手一杯になっている。

 

 暗黒界の中枢とも呼ぶべきオブシディアの郊外に、この孤児院は構えられていた。かつてアーウィンが話してくれた、彼女の師であるリピア・ザンケールが設立した施設。彼女の死後に運営をアーウィンが継ぎ、悲惨な人生を辿るしかなかった子ども達の受け皿になっている。

 

 親と引き離され、もしくは捨てられた者たちの吹き溜まり。にも関わらず、子ども達の顔に悲哀の情は感じられない。彼らにとってはここが家であり故郷。

 

 わたしと同じ境遇のはず。それなのに、この子たちとは越えられない一線を感じざるを得ない。わたしはあの子たちのように笑えない子だった。アーウィンのように優しく笑ってくれる大人は皆無で、それでも無理にでも母のように笑ってくれる人はいたけど、わたしがそれを拒んでいた。

 

「こうして保護できているのは、ほんの一部でしかない」

 

 幼児からやっと解放されたアーウィンが、少し疲れたように言った。

 

「見ての通り小さいところでね。受け入れも限りがあるのが現状だ」

 

 それはつまり、世界には悲惨に身を置いている子ども達がまだ大勢いるということだ。時代と人の業によって弄ばれ、食い潰されていく者たちが。辛うじてこういった場に保護してもらえた子たちとの差は、運だ。

 

 目の前の事で精いっぱいだ。他所を気遣うほど暇じゃない。無力であることを言い訳に目を背けるのは簡単だ。でもアーウィンは一度向けてしまった目を背けることができていない。ある意味での純粋な精神が彼女を突き動かしている。

 

 ふと、わたしは大部屋の隅で座っている少女に目が留まった。年齢はわたしより少しばかり下に見える。薄手の絨毯が敷かれた床に座り込んだその身体は枯れ木のように細くて、頭をゆらゆらと首の座っていない赤子のように揺らしている。

 

「あの子は?」

「奴隷市で保護した。酷く衰弱していてね、辱めの跡もあったよ」

 

 近寄ってみても、少女は何の反応も示さなかった。伸ばし放題で顔に垂れた前髪の間から覗き込んだ目は虚ろで、目の前にいるわたしを映してはいない。

 

「あの………、こんにちは」

 

 迷った末に、口から出たのはそんな間の抜けた挨拶だ。でも少女から嘲笑や怒声とかは返ってこなかった。彼女の半開きにした口端からは涎が垂れていくばかりで、言葉はない。

 

 アーウィンが嘆息と共に「話せないんだ」とごちる。

 

「こんなものだから名前もどこで生まれたのかも分からない。言葉らしい言葉は彼女から失われている」

 

 言葉がないからといって、少女にまつわるもの全てが白紙なわけじゃない。袖口から伸びた腕の皮膚には広範囲にわたって酷い火傷の跡がある。抉れた箇所を自然治癒に任せた結果、そこの皮膚だけ不自然な形で修復されてしまっていた。適切な治癒術を施せば、跡は残らない。

 

 足首には切り傷があった。両足に、綺麗に1本ずつ鋭利な刃物の跡が。きっと逃げられないようにされたのだろう。表面の傷は治っても、内部の組織までは自然には治癒しきれない。重い足枷を付けるよりは手軽ではある。

 

 言葉を失っても、少女の肉体自身が受けた仕打ちを物語っている。もはや思考も困難になったのか、彼女の顔には何の感情もない。傷を付けた者への怒りも、自らの運命に対する悲しみも。

 

「心に酷い傷を負った者はこうなってしまうらしい。異界戦争から帰ってきた兵たちの中にも、こういった心が壊れてしまう者が多かったそうだ」

 

 この少女はわたしと同じ――わたしよりも更に酷い環境にあった。どん底と思っていた自身の更に深いところを知ったわけなのだけど、わたしの中に安堵は沸かなかった。

 

 自分以外にも絶望を味わう者が確かに存在している。目の前にその現実を突き付けられたら、もはや恨みは通り越してしまうものだった。

 

「今度、ナミエのバイオリンを聴かせてあげてほしい。ここは娯楽が殆どないから子どもたちも喜ぶ。彼女の心にも何か響くものがあるかもしれないしね」

「わたし、そんなに上手くないわよ」

「そうかな? 私は好きだけどね」

 

 アーウィンがそう言ってくれるなら、不思議と前向きな気分になれる。自分のためだけだった楽器を誰かのために弾くのも、案外悪いものじゃない。

 

「アーウィン様!」

 

 不意に怒声にも似た大声が響くけど、子ども達の声に埋もれてしまっている。子どもでも大勢集まれば頼もしいなんて思いながら振り向くと、施設の者らしき女が胸に拳を当てた姿勢で礼をしていた。

 

「準備が整いました」

 

 報告を受けたアーウィンに着いていき、大部屋の外に出る。女の隣で控えていたように立っていたのは、黒い男だった。足元まで覆う革のコートから突き出した頭に生えている髪もまた黒い。

 

 アーウィンはそんな肌以外を黒く塗りつぶしたような青年を足元から品定めするように眺め、

 

「そんな軽装で良いのか、セツナ」

「鎧は重くて動き辛い」

 

 セツナの身に着けている鎧らしき金属の装備品は胸当てと左腕の籠手くらいしかなく、普段着と言っても差し支えない。だがアーウィンは「そうか」とだけ言ってそれ以上の言及はしなかった。

 

 

   3

 

 政権の恩恵に(あずか)れるのは都市部のみ。

 

 アーウィンから聞いた話を裏付けるかのように、首都――かつては帝都と呼ばれていた――オブシディアといえど城下町から離れてしまえば、街灯カンテラの数も減り闇が一層濃くなっていく。どこからか漂う()えた臭気も増して、鼻で呼吸するのも億劫になってくる。

 

 道脇にちらりとだけ視線をくべると、みすぼらしい服――というよりぼろきれしか着ていない人族の老人がうずくまっているのが見えた。

 

 その頭がゆったりとだが動いたのを認め、わたしは咄嗟に前を歩くアーウィンの背に視線を戻した。女子どもがひとり表を出歩けば秒で奴隷市に攫われるという彼女の言葉を思い出し、冷たい汗が背を伝う。

 

 これでは、暗黒界が弱肉強食の世界と言われるのも頷ける。弱ければ死ぬ。アーウィンの鍛えられた体躯は同姓のわたしも羨ましいほどにしなやかだが、その肉体は美貌のためではなく生きるためのもの。細腕では腰に提げた剣は飾りにしかならず、女としての魅力を削がれるほどに腕を太くしなければならない状況がここには広がっている。

 

 これでも、異界戦争後は改善に向かっているらしい。だが改善の糸口は見えても道程が長すぎて10年という月日では足りないのだ。

 

「兄ちゃあん、買わないかあい。ひと晩30ベックでいいよお」

 

 間延びした擦れ声に思わず足を止めて目を向けてしまう。さっきの老人のように道脇に居たのは、ろくに手入れなどしていなさそうな白髪を汚く伸ばした人族の老婆だった。もはや老齢の皮膚は血が通っているとは思えない色を映していて、手招きする指先から伸びる爪も腐ったような黒紫色になっている。

 

 兄ちゃん、とはセツナの事か。彼に向けているだろう下卑(げひ)た笑みから覗く歯は何本か欠けている。目も半ば白濁していて、果たして見えているのかも危うい。

 

「ふたりとも何をしている!」

 

 飛んできた怒声で我に返り、わたしとセツナは急ぎ足で先を歩いていたアーウィンのもとへ向かった。

 

「あの人は何を売っているの?」

 

 とわたしは訊いた。30ベックとか言っておきながら、老婆のもとには何も商品らしき物が置かれていなかったのだ。

 

「己自身だよ」

 

 アーウィンの口から出た回答にわたしは息を呑んだ。それはつまり、女の専売特許と言えるもの。

 

「でも、あんな歳で――」

「若い頃からそういった生き方しか知らなかったんだ。多くの者は病で若くして死ぬが、たまにああしてずるずると生き永らえてしまう者もいる」

 

 そこまでして、どうしてあの老婆は生にしがみ付いているのだろうか。きっと天命も長くはない。30ベックという値がどれほどの相場かはこの頃のわたしは知らなかったが、それでも何となく低価格であることは察しがついた。

 

 そんなに安い値で自分を売らなければ生きていけない世界が、ここには広がっている。戦後に法整備が急速に進みどん底へ落とすまいと防護網を張っていても、ふるい落とされてしまった者が存在する。孤児院にいた心を壊した少女に、路頭で自らに値札を貼る老人。

 

 アーウィンの怒りが、本当の意味で理解できたような気がした。法があるようで無いのだ、この世界には。便利な発明品や支援政策という表面上のものだけを誇示し、その実中身を伴っていない薄っぺらい統治。

 

 零れ落ちてしまった者たちの叫びには耳を貸さず忙殺し、時代が過ぎて弱者たちが死に絶える時を待ち続ける。そんな世界の実態を、アーウィンは知ってしまったのだ。

 

「急ごう。もうすぐだ」

 

 アーウィンは歩く速度を速め、わたしとセツナはそれに着いていく。「おおい………」という虫の羽音みたいな老婆の声は、すぐに聞こえなくなった。

 

 

   4

 

「いやはや、お待たせしてしまい申し訳ないイクセンティア殿」

「いえ、こちらこそご足労を感謝します。ローズール伯爵」

 

 中年の男性は整えられた口ひげを指で撫でながら、アーウィンに促されるままソファに腰掛けた。背後には護衛らしき男たちがふたり控えていて、武闘派らしく服を着ていても筋肉の盛り上がりが分かるほど。

 

 そんなローズールの対面に備えられたソファにアーウィンも座り、その背後には相手と同じように護衛――と思わしき若い男女が控える。女のほうは剣など持てそうにない細腕のわたし。男はお世辞にも屈強とは言えない細身なセツナ。

 

「調子はどうです? あなた程の方なら、さぞ上手くいっていることでしょう」

 

 鷹揚な笑みで尋ねるローズールにアーウィンは苦笑を浮かべ、

 

「いえ、私のような若輩者が活動を興しても、なかなか耳を傾けてはくれません」

「騎士団で活躍された経歴をお持ちでも、苦労なさるのですな」

「伯爵のように経験が豊富な方のお言葉こそ、価値を持てるのですが」

「買い被りですよ。ギルド全体の景気が厳しいのです。皮肉ながら、平和な時世は私どもにとっては悩みどころですよ」

 

 まるで、互いに探り合っているみたい。一見すれば他愛もない会話だけど、わたしはどこかふたりの間に漂う冷たさを感じずにはいられなかった。

 

 ローズール。事前にアーウィンから聞いたところによると、商工ギルドの幹部で戦後という武器が売れない時世において新たな商売で富を築き上げた人物と聞いている。

 

 武器ではなく、武器を扱う兵の育成。怪我や年齢を理由に前線から退いた騎士や拳闘士、または暗黒術師を師範として招き育成するという商売を確立させつつあるとか。

 

「それで今日は、何のお話でしたかな? 失礼、立て込んでおりまして。確認する暇もなく」

「難民の受け渡しです」

 

 アーウィンの返答は鋭かった。さっきまでの声音が建前であり、この場をどんな想いで迎えているのかを示すほどに。

 

 「ああ、そうでしたな」と応じるローズールは声音こそ変えなかったけど、その眼差しの変化はわたしにも分かった。相手をまるで物を見るかのような、どれほどの価値があるのかしか興味を持たない値踏みするような目。わたしが散々見てきた、人を人と思わない者の目だ。

 

「確か以前も言わせて頂いたと思うのですが、彼らは我がギルドの一員として保護しています」

「ギルドに入ることに、彼らの意思はあったのですか?」

「何と?」

「彼らはまだ子ども。本来なら幼年学校に入れるべき年齢です。自分で自分の進退を決められるとは、到底思えないのですが」

「恩を感じてのことでしょう。健気な子たちです。我々の善意というものを、感じ取ってもらえたのですな」

 

 すらすらと並び立てるローズールに、アーウィンは笑いつつも眉間を指で押さえつけた。

 

「戦で食い扶持を稼ぐあなたが善意とは、見事な矛盾だ」

 

 最大限の皮肉が込められた、ある意味で嘲笑でもある言葉に、ローズールは眉間に深くしわを寄せる。初めて見せる表情だけど、さっきまでの鷹揚な顔よりは似合っていた。

 

「何を言ったところで、あなたに誤魔化しはきかないようだ。そもそも、最初から我々を疑っていたわけですな」

「お察しが良くて助かります」

「ええ、確かに子ども達をギルドに入れたことに、彼らの意思などありません。ですが、それのどこが問題なのか私には理解しかねる」

 

 あくまで口調は穏やかで丁寧なまま、ローズールは語る。ただし笑みは先ほどとは全く異なる様相だ。

 

「死ぬかしかなかった彼らに衣食住とギルドという場を与えたのです。これはあなたがやっている難民救済と同じ活動ではないですかな?」

「そこで何が行われているのか、私は既にそちらの被害者から知っていますよ」

「ああ、そういえばひとり消えたとか聞いていますよ。間抜けな部下が奴隷市に放ったとか。ですが、それはもう口もきけないはずだ。我々が何をしていようと、証拠は出ないですよ」

 

 わたしがその時に思い出したのは、孤児院で会った彼女だった。人としての尊厳を破壊し尽くされ、立つことも喋ることもできなくなった少女。彼女が抱けなくなった怒りを代行するかのようなアーウィンの声が刺すように聞こえる。

 

「その発言自体が証拠と、私は捉えますが?」

「だが、言葉はその場で消えるもの。ここで話したことを総司令部に告発したとしても動くことはない。証拠がないのですからね」

「確かに証拠はないし、あの木偶の坊が動くこともないでしょう」

「言いますな、あなたも」

 

 ふたりの顔が、邪悪な笑みを鏡写しのように向かい合わせた。しかしアーウィンの方は更に口端を歪め、

 

「だが、私は動いてもらうつもりなど最初から無いよ」

 

 右手を掲げて、真っ直ぐに揃えた掌を振り下ろす。まるで剣のように。その動作に笑みを止めて眉目を潜めたローズールは「何を――」と口を開いたが、続きを発すことは叶わなかった。

 

 その右肩に、鈍色に光る剣が突き刺さっていたからだ。 

 

 






そーどあーと・おふらいん えぴそーど7


キリト=キ
アスナ=ア
ユウキ=ユ


ア「こんにちは、そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」

キ「解説のキリトです」

ア「さあ今回はしっかりとネタを考えてきたわよ!」

キ「安心、して良いのかは分からないのがこのコーナーの怖いところだよな………」

ア「まずは素敵なゲストの紹介です、どうぞ!」

ユ「こんにちは、ユウキです!」

ア「ユウキー、よく来てくれたわね!」

ユ「えへへ、何か楽しそうだったから来ちゃった」

キ「おいアスナ、ユウキまでこのコーナーに染めるつもりか?」

ア「そんな下衆な真似するわけないじゃない。見なさいユウキのこの無垢な顔。この生まれたての雛みたいなピヨピヨ言ってそうな顔は絶対に汚したりなんてしないわ!」

ユ「生まれたてと言っても、ボクもう死んでるんだけどね。ハハハ」

ア「……………………………」

キ「自分からブラックジョーク言っちゃってるぞこの子」

ア「良いのよ! そういうのひっくるめてユウキはユウキなんだから!」

キ「親バカ――いや姉バカか………。まあともかく、今回は本作『パラダイス・シフト』の作風についての裏話を深夜のラジオ的な感じて話していくぞ」

ア「まず本作のシリアス路線ですが、作者としては最初の頃は王道の笑いあり涙ありな作風にしたかったそうです」

ユ「うわあ、何か想像できないね。ボク中身読んだけど本編に出たいと思えないもん」

キ「スグも同じようなこと言ってたな………。てかこんなの書いてる作者に王道ストーリーなんて書けるのか?」

ア「キリト君も酷いわねえ。作者だって王道なの書けるわよ。今回は書かないだけ。というのも、まずハーメルンでSAO原作だとどんな作品が多いのかリサーチしたそうよ」

キ「意外とマメなんだな」

ア「作者分析によると、評価が高い作品はアインクラッド編からストーリーが原作準拠で進んで、オリ主がキリト君の相棒かライバル的なポジションで、それでヒロインがユウキで、病気を克服する設定の傾向が多いみたいね」

ユ「え、ボク?」

キ「まあユウキって分かりやすいほど悲劇のヒロインだからな。二次創作という場で救いたくなる気持ちは分かるな」

ア「それにキリトハーレムからは除外されてるから、オリ主の相手役として動かしやすいのよね」

キ「誤解招くような言い方やめてね。俺がユウキにまで手を出しそうな感じになってるから」

ユ「ということは、ハーメルンだとボクをヒロインにするのが王道ってこと?」

キ「そうなるな。あとオリ主が俺の相棒やライバルになるってところでも」

ユ「そういう意味だと、本作はかなり邪道になるよね。ヒロインもオリキャラで、キリト達も登場予定はないんでしょ。それってどうして?」

ア「その答えは簡単よユウキ。王道でプロット組んだらとてつもなく面白くなかったから!」

キ「ザ・シンプル!」

ユ「何かスタ〇ドみたいだね………」

ア「出来たプロットはありきたり過ぎて、沢山ある作品に埋もれていくだけだから変化球を目指したみたいね。つまりはオンリーワンってことよ」

ユ「作者もそんな純粋に書こうとした時期があったんだねえ」

キ「変化球させまくった結果が本作になったわけか………」

ア「あとついでに、ユウキみたいな元気いっぱいな王道ヒロインは書き辛かったそうです」

ユ「ええ⁉」

キ「王道ヒロインって書きやすいから王道なんじゃないのか?」

ア「作者にとってはそうじゃなかったみたいね。万人に好かれるようなキャラは書き甲斐がないみたいよ。だからセツナやナミエはもう読者さんから好かれないだろうなって割り切ってるわ」

キ「もはや作者は王道を書く素質が無いだけなんじゃ………」

ア「結果として邪道に活路を見出したのよ。下手に王道で読者さんに媚びるより、そういう趣味をお持ちの人だけ読んでもらえばいいの」

ユ「何ていうか、開き直りってことなんだね」

ア「そういうことよユウキ。よく出来ました、ナデナデ」

ユ「えへへー」

キ「えー何か無理矢理よさげな雰囲気に持っていけたところで、今回は終わりだ。ゲストとして出てどうだったユウキ?」

ユ「んー、できればもう出たくないかな。それにこの小説もう読みたくないし」

キ「原作キャラにNG食らう二次創作とは………」

ア「読者の皆さんもご覧いただきありがとうございます。感想コメントも毎回読ませてもらっているので、ツッコミ所があればどしどし送ってくださいね」

キ「そーどあーと・おふらいん、お送りしたのはキリトと――」

ア「アスナと――」

ユ「ユウキでした!」

キ・ア・ユ「ばいばーい」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。