魔法少女大乱Online   作:八虚空

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第10話 エレメント

 デーモン進化スレにスライムとニンフの組み合わせの種族進化の報告をしたら、予想通り弄られまくった。

 掲示板はムキになって過剰に反応したら負けみたいな所があるから捨て台詞を吐いてサッサと撤退。これで義理は果たした。まあ、進化デーモンの情報を隠していたと後で粘着されるリスクを考えたら軽傷だった……か? うん。軽傷だ。こんなのカスリ傷みたいなもんだ。

 

 でも、進化デーモンのランクアップ方法がアレなのと魔素の資金繰りが絡んでいるせいで治安が最悪だな、あのスレ。

 同類が掲示板のコメント以外にいないってのと、プレイヤーが寿命を克服してて長い付き合いになる事が確定してるって理由で、これまでは前世に比べたら匿名でも馴れ合いが多い印象だったんだけどね。やはり金は人を変える。

 

 ああ、寿命に関しては魔法少女大乱の原作に記述があったらしいんだけど読み飛ばして覚えてなかったから原作情報列挙スレで詳しく調べてみた。インベーダー・デーモン・ミュータントそれぞれで寿命克服の仕方が違ってて面白かったよ。

 

 まずインベーダーは自分の体組織から採取した細胞から培養したクローンに魂を移し替えてるらしい。他にも肉体を捨てて完全な機械生命体と化したり。人間の脳の情報処理の働きを再現したニューラルネットワーク、人工知能の作成法を利用して自分のニューロンをインターネット上に移植して電子生命体になったり。科学技術でもって不老不死へ到達している。

 

 ミュータントは喰ったエネルギーや構成物質を使って自分の肉体改造を行う突然変異。その強化内容には寿命の延長も含まれている。

 寿命ってのは生命体の細胞分裂の限界と言い換える事も出来る。細胞分裂の度にDNAの遺伝子情報は複製され続けて行くんだけど、染色体の末端部分が破壊されないよう保護する構造『テロメア』は細胞分裂の度に短くなっていく。このテロメアの長さの限界が細胞分裂の限界、つまり寿命なんだ。

 

 テロメアの長さを伸ばす事自体は難しくない。テロメアはテロメラーゼという酵素によってDNAを修復されている。この酵素が強い活性化をしている単細胞生物は細胞分裂の限界なんてない。老化は進化の過程で獲得した機能なんだ。

 進化・退化を自在に操るミュータントに老いなんていうデバフは効かない。

 

 デーモンはそもそも物理法則に縛られた存在じゃないからね。魔素で誤魔化すまでもなく老いない。

 いや、伝承され続ける事で神秘を増す種族だし時間経過の影響は受けてるのか。デーモンは永久に成長し続ける種族だって言った方が正しいかな。

 トレントのように古木という伝承が残ってるような種は場合によっては生まれた時から老人の形態を取るし。デーモンの見た目は当てにならないんだ。

 

「苗木トレントは何か可愛い感じの声をしてたけどね」

 

 合計で1500魔素を注ぎ込んだ事でやっと安定期に入った苗木トレントは既に箱庭人口にカウントされてる事もあって凄い可愛く思える。神秘を捧げてくれているというのはそれだけ慕ってくれてるって意味だからね。ゴブリンに掘り出されそうになった時に止めた甲斐があった。大人トレントの信仰は何か打算ありきでイマイチ素直に喜べないだけに嬉しい。

 まあ、魔素放出量が大人トレントの3分の1程度なのは痛いけど、それでも3年くらいで元は取れる。

 

 うん。トレント、Rランクだけあって当たりデーモンだったな。

 同じRランクのマンドレイクの方は活用できるだけの薬学の知識がなくて持て余してるけど、繁殖させたらそこそこの値段で売れるらしいし。Nランクでも精霊種のコボルトは鉱物を与えときゃコバルト鉱石の糞をするらしいし、糞の処理が憂鬱だけど美味しいモンスターだ。

 

 進化デーモンのスライムも引き当ててた事を考えると僕のガチャ運はめっちゃ良いらしかった。

 魔素欠乏のデーモンに嫉妬されないよう出来るだけ内緒にしておこう。只でさえ魔素が無限に湧き出るニンフだって事で美味しい獲物としてデーモンプレイヤーに目を付けられてるんだし。見てよコレ。このショップアカウントのアドレスに届いたメール。

 

 

――――――――

 

〇黄昏ゴブリン

 助けて下さい。魔素の残量が足らなくて箱庭が崩壊しそうなんです。

 もうどうにもならなくって、箱庭を売り出そうと決心しました。

 せめて眷属のモンスター達だけでも救いたいんです。

 助けると思って私の箱庭を買い取って頂けないでしょうか。

 格安でお譲りしますんで一度、下記の次元座標へと来て下さい。

 

〇両性ニンフ

 何故、デーモン国家へと箱庭を売りに出されないんですか?

 僕よりも余程、高額で買い取ってくれると思いますよ。

 後、ニンフの僕が見知らぬ次元座標に行くなんて自殺行為はしません。

 

〇黄昏ゴブリン

 素直に騙されてアンアン喘いどけよ下等種が。

 

――――――――

 

 

 嫌がらせや詐欺メールなんてレベルじゃない。間違いなく相手は僕を奴隷にして搾取するつもりだった。

 相手はゴブリンプレイヤーだけど、なめちゃいけない。

 ニンフが戦闘力をオミットされてる代わりに魔素収支が圧倒的にプラスなように、ゴブリンプレイヤーにもアドバンテージはある。

 

 それが圧倒的な繁殖力だ。デーモンプレイヤーは全員が次元転移が可能な高位デーモン。子供は当然、高ランクのモンスターとなる。向こうの箱庭にはSR最低値の戦力を瞬殺できるだけの軍隊が待ち構えていたんだろう。もしかしたら課金ガチャで有用なモンスターを手に入れて繁殖すらさせていたのかもしれない。

 

 ヒヤッとしたけど、メールに添付されていた新しい次元座標をゲット出来たのは幸運だった。

 全く知られていない箱庭の次元座標は高値で売れる。まあ、搾取目的じゃなく完全な嫌がらせ目的だったら、全く別の次元座標を記入しているかもしれないけどね。適当な次元座標を入力してるだけなら次元の狭間に飛び出るだろうから簡単に帰還できるけど、太陽の次元座標あたりに狙って放り出されたりでもしたらマズい。

 その可能性を加味しても、この一連のやり取りと次元座標は高値で売れると思うけど。発展したデーモン国家には専門の調査員までいるらしいしね。売りに行くハードルは高いけど、大事に保存しておこうか。

 

 んー。でも、ショップアカウントに紐付けられたメールアドレス以外の捨て垢や捨てアドの入手方法は見付かっていないし、メールを送った相手の特定、次元座標がなくてもそのうち出来ると思うんだけど……考えないのかな。魔素成金とか言われるくらい魔素が湧き出す僕は大口のお客さんや取引相手になり得る相手だって。敵対したらマズいかもなって。考えないんだろうなぁ。ニンフが弱いってのは周知の事実だし。

 

 魔法少女大乱2のデーモン国家突入編で魔法少女達が奴隷にされていたニンフを解放して味方にしたエピソードがある。

 デーモンは侵略してくるような悪辣な奴だけじゃないんだってプレイヤーと魔法少女に印象づけたシーンだった。その時のイメージが強いから、ニンフは善良で弱くて金になる種族なんだって魔法少女大乱を遊んだプレイヤー皆に刷り込まれている訳だ。

 

 うん。箱庭を出ちゃ駄目だね。カモにしか見られない。

 

「気持ちを切り替えよう。やる事は幾らでもある。そうだよね」

「それな」「かもね」「そかな?」

 

 言葉の意味が分かって言っているのかイマイチ不明瞭だけど、きゃらきゃら笑いながら後を付いてくる娘達は可愛くて、今まで足りなかった潤いをもたらしてくれる。

 小躍りしながら僕の周囲を浮かんで回っている半透明で小柄なデーモン。彼女達が僕の進化デーモンであり、元スライム達だ。

 人によってはスライム時代の方が癒やされたって言うかもしれないけど、僕の周りには今まで人のように見えるデーモンは全くいなかったからね。個人的には人化してくれて、とても助かった。

 

 

◆◆◆

 

N小精霊(水)(1/10)

有利特徴:事象具現+

不利特徴:魔素枯渇-

 

掌大の大きさをした半透明な少女のエレメント。

万物を構成する四大元素の一つであり、対応する現象を引き起こす。

 

◆◆◆

 

 

 エレメント。四大元素。

 古代ギリシャの哲学者によって唱えられた万物の根源。原初的要素だ。

 

 世界は火・風・水・土から成り立ってるというゲームの属性でも有名な概念だ。今では原子が物質を構成する具体的要素を指すのに対し、元素が性質を包括する抽象的概念だとされている。要は燃焼は火の概念があるから起こるっていう類いの話だね。

 彼女達はこの四元素論を下地に錬金術の大御所パラケルススが提唱した元素を司る精霊、の雛形かな。まだNランクモンスターに過ぎないし、現象そのものと言える程の力はない。せいぜい対応する元素に由来する魔法を使えるってくらいだ。そう魔法を使える。

 

 スライムからエレメントとなったこの娘達は対応する元素の魔法を使用する事が出来るんだ!

 つまり、魔素から水や石を生み出せるという訳。めっちゃリーズナブルに。

 

 不利特徴に魔素枯渇があるように彼女達は生きてるだけで現象を無意識に起こしてしまうから魔素の枯渇してるような箱庭じゃ問題になるかもだけど、うちの箱庭なら全く問題ない。いや、スライム達の放出する程度の魔素で賄えてるから消費が気になるような箱庭はもう詰んでいると思うけどね。

 むしろ役割的には彼女達が増えれば増える程、箱庭は魔素で満たされていく事になるはず。

 

 そもそも、箱庭の環境はおかしいんだ。僕の箱庭は土地一面全てが森で覆われている。なのに森林に必要な水は存在してなくて地面の栄養もスカスカで砂漠の土のよう。太陽の代わりの太陽結晶の光も弱くて光合成に必要な光量に届いてない。箱庭の端の方はずっと暗いままだ。これは僕があくまで森の精であって、火・水・地に対応する属性を持ち合わせていない事が理由で起こっているんだと思う。

 

 その不具合の全てを補って森を存続させているのが魔素だ。にも関わらず僕は一日120魔素の貯蓄を個人で生み出している。

 つまり僕の放出している魔素は120魔素程度じゃ収まらないって訳だ。たぶん。

 

 対応する現象を引き起こせる小精霊達なら、森に水をもたらし土に栄養を与え日の光を届け大気に循環を起こしてくれる。箱庭に雨が降るようになれば万々歳だ。

 空気も乾燥してて肌がピリピリするんだよね。魔素で無理矢理、誤魔化してたけど。

 

 うん。一個気付くと連鎖的に足りない物が浮かんでくるな。こんな環境で豊かな森を維持する魔素の偉大さよ。

 まあ、たった小精霊3体でどうにか出来るような規模の話じゃないんだけど。そこは長い目で見ていくしかない。そもそも、生まれたのは水・土・風の小精霊だから火の小精霊が足りないし。

 

「ホント仕事は幾らでもあるから、頼むよ」

「そかな?」「そかも?」「そだよ」

 

 首を傾げたり頷いたりする小精霊達。

 彼女達こそが僕の進化デーモン。

 

 僕の箱庭の主要眷属だ。


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