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〇両性ニンフ
今日はタケノコと椎茸と人参の混ぜご飯+高菜の油炒め+鮭の切り身ね。
デザートはバニラアイス。あ、バニラは合成香料を使った偽物じゃ駄目だよ。
〇ミュータント互助会取締役
待った。バニラに本物とか偽物とかあるのか?
〇両性ニンフ
この前、食べた奴は科学的にバニラの香りを再現された模造品だった。
バニラビーンズの値段が高騰してて使えない苦肉の策っぽいね。
聞いた話だと本物のバニラは銀以上の値段で取り引きされてるんだって。
〇ミュータント互助会取締役
はぁ!? アイスの材料が銀以上の値段!?
〇両性ニンフ
うん。僕の箱庭で栽培できないか試してみようと思ってる。
発酵・乾燥を繰り返すキュアリングが必要らしいけどニンフの僕なら魔法で再現可能だし。
ミュータント商会もバニラビーンズなら引き取るってさ。
〇ミュータント互助会取締役
そうなのか。上手く行きそうで良かったじゃないか。
〇両性ニンフ
そっちはどんな感じ?
最近、結構な量の食料を購入してるけど商会に睨まれてない?
〇ミュータント互助会取締役
安価な食料を欲してるミュータントは多い。購入したのはせいぜい自家消費の範囲。問題ないはずだ。
いや、その前に何で課金ガチャで偶々URを引いた奴のルールに従わなきゃいけないんだ。
納得いかねえ。
〇両性ニンフ
相手は日本でも上から数えた方が早い大企業の社長だ。仕方ないよ。
〇ミュータント互助会取締役
まあ、それはそうなんだがな。でも、お前は良いのか?
俺を間に挟まない方が間違いなく利益になるぞ。
〇両性ニンフ
デーモンに1魔素で売ってるバナナをミュータントには千円以下で販売なんて不公平だからね。
僕の名前で売買はしたくない。
それに目を付けられたらミュータント商会と取り引きが出来なくなるかもしれないし。
〇ミュータント互助会取締役
そうか。お前の場合、商会との繋がりが消えたら日本企業との繋がりそのものが消えるのか。
俺にとっちゃ幾つもある企業の一つだし最悪の場合でも問題ないな。
それにあっちもミュータント個々人が食う飯に口を挟む程、暇じゃないだろう。
〇両性ニンフ
でも、まさか食べきれないバナナを僕に黙って売り捌いたのが最終的に僕の利益になるだなんて。
不思議なものだね。
〇ミュータント互助会取締役
アイテムボックスにだって収納容量の限界はあるからな?
あれは最早、一種の嫌がらせ……。
〇両性ニンフ
何てこと言うんだ!
傭兵ミュータントは泣いて感謝したんだぞ!!
〇ミュータント互助会取締役
いや、紛争地帯で牢屋に入れられてた奴と一緒にすんなよ。
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よしよし、良い流れが続いている。
これまで懸念事項だった地球のお金の入手方法にある程度の目処が付いた。
一つ目は貧乏くじミュータントを通したミュータント貧困層への安価な食料販売。
ミュータントは個体戦闘力の代償と言うかの如く、経済的に困窮してる人間が多い。無料十連で手に入れた僅かな金も一月で使い果たしたのに異様な風貌が人間社会に忌避され中々職にありつけないんだ。これはミュータントの人権を保障してる国もしてない国も同じ。一般人にとってミュータントは未だに得体の知れない化物って訳。地球のネットではミュータントの顔写真が広まってて、指名手配をされてる気分だとミュータントプレイヤーが愚痴っていた。
人型でも完全擬態のミュータントの割合は少ないから大変だ。変身タイプじゃなきゃ身体の一部にミュータントの証である異相が浮かんでるからね。
日本じゃUR日本財閥総帥の地位を引き当てたミュータントが掲示板を通じてプレイヤーに求人してるからマシなものの、海外じゃスラムに堕ちるか犯罪を犯すか野生に還るか戦場に赴くからしい。相手は人を食料にできる危険な生物だってのに飢えさせてどうすんだろうね。人間って愚か。
まあ、だから僕の生産する安価な食料がバンバン売れてるんだけど。僕にとっては魔素より現金の方が貴重だから嬉しい話だ。
最初は好意で贈ったプレゼントを転売されて怒ったけど、最終的に一番良い形に落ち着いた。流石はバナナ。今のとこバナナが全ての問題を解決していってるぞ。マジで。凄いぞバナナ。
でも申し訳ないけど、ちょっとバナナを食べ過ぎて食傷気味だから今は別の果実も栽培中だけどね。
口にさえすれば品種改良植物を栽培可能になるニンフは便利で、500円ちょっとしかしないスーパーのカットフルーツ盛り合わせを食べただけで何種類もの果物を生やせるようになった。ショップにも既に出品していて地球産NO魔素フルーツとして人気を博している。
もう太る心配はないんだけど購入者の女性っぽい人からはヘルシーだと人気だ。配信で食レポした様子は可愛らしくてホッコリした。
頭がバグるから元の性別は気にするな。
「ああ、ナフィーサ。地球エリアの様子に異常はなかった?」
「はい女神様。小精霊のフゥとチィも大丈夫と言っていました」
居間に設置したソファからダークエルフの年長組の女の子がログハウスに帰ってくるのが見えたので声を掛けた。
フゥとチィは風と土の小精霊の中でも一番早く僕の箱庭に生まれた娘達だ。小精霊の纏め役として働いてくれている。
それで地球エリアっていうのが、魔素を意図的に薄くした土地の名前だ。
接ぎ木で魔素の豊富な品種改良品を作ろうとして試行錯誤をした時の研究の副産物。魔石を利用して土地を区切り内部の魔素を吸収していったら地球に近い環境を再現できたんだ。
他の在来種植物が進出しようとしない土地を箱庭内にいる小精霊を集中運用する事で改造。水分や土の栄養、空中の窒素や酸素の濃度、太陽結晶の陽光の強さを調整して地球の植物が生息できるように持って行った。
今、思い返したら酸素濃度とか全く気にしてなかったね。最初にリリースした子供達が弱っていたのはまさか……いや、気のせいだな。うん。全部、貧乏と政治が悪いんだ。でも、次からは人間は地球エリアでリリースしよう。
それで、このエリアを作成できたオカゲで継続して地球産食品を生産可能になった訳。
魔素が薄いせいで魔法を使用するのが難しいエリアだけど魔石を持っていったら問題ない。繊細な魔法使用能力を鍛えるのにちょうど良いからダークエルフ達に全面的に任せている。
二つ目の現金入手方法として目を付けたバニラビーンズの栽培も地球エリアでやる予定。
ミュータント商会の人に相談に乗って貰って目星を付けたバニラビーンズだけど、最大の生産国であるアフリカでは価格が高騰し過ぎていて強盗や盗難が相次いでいるらしい。只でさえ世界的なオーガニックブームで天然バニラの需要が増大してるのに巨大サイクロンが現地を襲って供給量が減った為だ。
取材に行ったメディア関係者にバニラ農家は、もう農家より泥棒の方が多いと悲鳴を上げている。
農地付近では死者すら出ている。夜中に山刀で武装してバニラ畑を見張る農家を複数の強盗が同じく武装して襲い掛かるんだ。
農家も強盗も何人も死に続けている事からメディアは一連の事件を『バニラ戦争』と呼んだ。
この件ではプレイヤーも無関係じゃなくて、ミュータントプレイヤーが農家側と強盗側に分れて熾烈な争いを繰り広げているという話が出ている。
ミュータント傭兵の携わった仕事がバニラ戦争関連なのかは聞いていないから分からないけど、もしかしたらもしかするかもしれない。
農家側か強盗側にダークエルフ達の親御さんがいたかもしれないって思うとマジで洒落にならない。
ちょっとでも価格を落ち着けようとミュータント商会の人が栽培を薦めてきたのも分かる。
「魔素の豊富な地球産フルーツはまだ出来てないけど品種改良に挑戦してみて良かった」
接ぎ木を閃いた時は勝ち確だと思ったけど、そう簡単にはいかない。
僕の依り代でもある森の木を伐採して地球のリンゴ果樹を貼り合わせたまでは良かったんだけど放置すると接合面から腐り始めるんだ。
どうやら下部の台木がエネルギーを魔素で補給してるのが悪さしてるみたい。
例えると車にガソリンじゃなく灯油を入れてしまったかのような状態だ。もう燃料ポンプもエンジンも丸ごと交換するしかない。同じ事が魔素が急激に入り込んだリンゴの果樹でも起きていた。
つまり魔素吸収量を無視して過剰な量を無理矢理に流し込むと患部が壊死する訳だ。
僕が眷属を作る時も似たような事をやっている気がするんだけど、細胞を破壊した後に再構築でもしてるのかな。魔素不足で眷属化はマズいのかもね。
あ、だからSR黒き仔山羊は暴走を。箱庭を破壊するまで止まらなかったのはそれでか。
魔素吸収量の仕組みを解明した後は接ぎ木の際に台木から上の穂木に流入する魔素の量を抑えようと何度も挑戦して。
その成果として土地から魔素を吸収する方法と魔石で土地を区切る方法を身に着けたんだ。
接ぎ木は結局、無理だったけど。
今の僕では魔素を一気に放出するか一気に吸収するかしか出来ない。練度不足だ。長い修練がいる。
そう、接ぎ木は僕には無理なんだ。僕は生まれながらのデーモンじゃないからね。
「果樹トレントか。了承してくれるかな?」