魔法少女大乱Online   作:八虚空

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第18話 果樹トレントの魔素濃縮フルーツ

「果樹の台木、ですかの」

「そう。抵抗がある? 接ぎ木は地球ではポピュラーな手法なんだけど。トレント的にはあり得ない?」

 

 豊富な魔素を内包する地球産フルーツの作成は今の僕では無理だと判明した後、大人トレントに果樹化の話を持ちかけた。

 眷属だから命令すれば理不尽な内容であっても無理矢理に従わせる事も出来るけど、それをやると神秘上の問題が発生するから可能な限り同意の下で話を進めたいんだ。たぶんトレントだけじゃなく苗木トレントの世話を任せているダークエルフ達にも動揺が伝播するからね。

 

 何よりまだ繊細な魔素操作が要求されるだろう果樹の接ぎ木をトレント達が実行できるかも判明してない。

 捕らぬ狸の皮算用に目が眩んで信用を損なうのは悪手だ。

 

「我々も長らく改良されて生態が変化してきた一族ですからな。接ぎ木とやらは初耳ではありますが、他種の樹木を取り込んで樹体が変容する魔法処置を受ける事はよくありますわい」

「デーモン流品種改良か」

 

 どっちかというと錬金術の技に見えるな。原作ではホムンクルスを作成するマッド魔術師も登場していたしデーモンは必ずしもインベーダーに技術的に劣っているとは限らないんだ。

 まあ、魔法は歴史の積み重ねが物を言うから、新進気鋭の天才が台頭しにくくて老害ばっかだと原作のデーモンキャラも吐き捨てていたけどね。おまけにデーモン陣営は国家毎に知識が分断されてて銀河を超えた規模のネットワークを形成してるインベーダー陣営に技術競争での勝ち目がない。

 

 そういう不利な点は他文明から頭脳労働者を略奪してきて酷使する事で補うスタイルだ。

 マジでインベーダーが次元転移を再現できてなくて良かったな。もし再現されてたら歴史の流れに取り残された騎馬民族と同じく駆逐されてたぞ。

 

「ですが、おそらく我々が台木となるだけでは満足されるような結果にはなりますまい。魔素の豊富な地で育まれた歴史が浅すぎる」

「地球で品種改良されてきた果物だっていう歴史が魔素の吸収を邪魔するって訳ね」

 

 うーん。これは現代兵器を大量輸入して箱庭の防衛に回すのも止めた方が無難かもなぁ。

 この地で育まれた技術って歴史が付随してないから現代兵器も神秘的にはマイナスで、先祖代々の鍛冶師が作った古代兵器に性能が劣る恐れがある。それに信仰的な問題が発生するかも。地球人やインベーダーを崇められるとマズい。デーモン国家から魔法文明の産物を職人ごと招待した方が何倍もマシだ。

 

 だって必要以上に地球人の現代兵器やインベーダーのSF兵器がヤバいってデーモンが怖じ気づいちゃったら神秘の逆作用で敵陣営が強化される恐れがあるし。

 全デーモンの不利特徴に銃弱点が追加されてしまう可能性がある。それは万一を考えると避けたい。

 

「なので接ぎ木で我々が地球の樹木を取り込んだ後、魔素による再眷属化をしていただく必要がありますな」

「んん? 詳しく」

 

 トレントの言によると眷属化とは即ち魔素による存在の上書きなのだそうだ。

 リンゴの果樹の実験結果みたいに魔素の過剰浸透によって細胞が破壊された後、破壊された細胞を材料に別物の存在へと急激に作り替える工程を眷属化と呼称してるっぽい。だからゴブリンは本能に『主の命令には絶対服従』という条文を刷り込まれてて従うのに種族の本能通り僕に嫌がらせをしてくるし子供世代にまでは影響しないんだ。元々無理のある書き換えだからね。

 

 なる程。道理であれ程、過剰な魔素を必須材料として要求される訳だ。

 成長促進なんてレベルの話じゃない。一度、完全に生まれ変わらせてるんだ。

 

「存在を再構築される際に我々側から取り込んだ樹木に存在を寄せましょう。そうすれば問題はないですの」

「ああ、地球産フルーツの品種改良をするんじゃなくて、トレントの品種改良をして果実を実らせるよう調整するのか」

 

 微笑むトレントに納得した僕は種が変わる事に抵抗はないかもう一度だけ聞いて実行する事にした。

 

 植物の価値観は分かりづらいけど僕の理解できる話に例えるなら。

 御家の事情で政略結婚して別の家に嫁入りした事で名字が変わる程度の忌避感だ。

 

 いや、よく受け入れたなトレント。覚悟の決まり具合が半端ないって。

 たぶん苗木トレントには簡単に受け入れては貰えないだろうから、トレントの品種改良は最初にリリースした10体限定か。

 どの品目が良いのか慎重に選ばないとな。

 

 

――――――――

 

〇ミュータント傭兵

 その成果がこの送られてきたリンゴなのか……。

 

〇両性ニンフ

 そうそう。無事に品種改良は成功して果樹トレントになった。

 施工費に200魔素が必要で維持魔素がマイナスに突入したのは誤算だったけど。

 それだけの価値はあるよ。

 

〇ミュータント傭兵

 確かにちょっと見た事がない美味そうな色艶をしている。

 でも、トレントの犠牲を聞かされると心が痛むんだが。

 

〇両性ニンフ

 昔の日本でも結婚は親が決める事柄だったでしょ?

 デーモンに恋愛結婚なんて概念はまだ広まってないからね。問題ないよ。

 

〇ミュータント傭兵

 一切、悪びれない所がお前らしい。

 だが私もまた果樹トレントの恩恵を受ける者だ。批難できる立場ではないか。

 

〇両性ニンフ

 そんな事より、どう? 魔素がギュッと濃縮された高魔素フルーツは。

 ミュータントは魔素を食べて強化される訳?

 

〇ミュータント傭兵

 ちょっと待て。今、口に―――。

 

〇両性ニンフ

 ん?

 

〇両性ニンフ

 もしもーし。

 

〇両性ニンフ

 あれ、返事が来ない。

 

〇両性ニンフ

 マジか。ミュータントにとって魔素は毒だった?

 うわ、どうしよう。今、戦場にいないよね? え、死んだ?

 

〇両性ニンフ

 落ち着け。原作じゃデーモン国家の高級食材を口にした魔法少女だって居たはず。

 いや、あの娘らは参考にならないじゃん! 人間カウントしたら駄目な奴じゃん!

 

〇両性ニンフ

 そういや地球の植物だって魔素で腐って。いや少量だったらセーフだ。地球にもある。魔素が豊富と言っても人間が即死する程の量じゃない。

 でもミュータントは突然変異だから魔素に弱いって裏設定があっても不思議はなくて。

 

〇ミュータント傭兵

 不穏な話はそこまでにしてくれ。人体実験をされたような気分になってくる。

 

〇両性ニンフ

 生きてた! 返信、遅いよ。マジで死んだと思ったじゃんか。もう。

 

〇ミュータント傭兵

 そこで怒るのは納得いかないが、まあ良い。

 結果的に最初にこのリンゴを食べられて良かった。

 

〇両性ニンフ

 そんなに美味しかった?

 

〇ミュータント傭兵

 ああ。涙が出るくらいうまかった。

 味覚を美味いという概念で殴りつけられた気分だ。

 

〇両性ニンフ

 ふぅーん。魔素の薄い地球出身はそう感じるのか。

 身体に必要な栄養が不足してると豊富な食材が美味しく感じるって奴かな。

 

〇ミュータント傭兵

 そうだろうな。元人間のミュータントは魔素が不足してるんだろう。

 だから摂取すると影響が大きい。

 警告するぞ。魔素濃縮フルーツは現金じゃ売るな。

 

〇両性ニンフ

 お、そこまで言うほど凄いんだ?

 

〇ミュータント傭兵

 私は人間を30人は食べたと自慢するミュータントと戦場で会った事がある。

 正直、化物だった。元軍部の傭兵団全員で対峙してようやく引き分けだ。

 逆に最近まで牢屋に入ってて食事を取っていなかった私は弱い。初期値に近い。

 

 その差がリンゴを一つ食って埋まった。

 サルマ。ミュータントに簡単に魔素を支給するな。人を選べ。

 

〇両性ニンフ

 ごめん。

 

〇ミュータント傭兵

 お、おい。まさか……。

 

〇両性ニンフ

 懐かしの山菜・果物詰め合わせ。

 たぶんミュータントに転売されてた。


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