魔法少女大乱Online   作:八虚空

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第23話 黄金の蛇アウルム

 尽きぬ軍勢を率いたクトゥルフ系URデーモンという新勢力の存在が突如としてポップしたけど、僕に出来る事って特に何もないよね。所詮SRデーモン。地球に持ち得る影響力なんて微々たるもの。せいぜい知り合いに可能性を警告して用心して貰うくらいかな。

 まあ、魔法少女なら上手くやるでしょ。これまでだって似たような状況で延々と終わりのない消耗戦を地球で繰り広げてきたんだ。

 URが二桁はいるデーモン国家に損害が大きいと軍の派遣を取り止めさせたってのは伊達じゃない。地球はURでさえ命の保証がない死の星って訳。

 

「あの顔色が悪いですが、どうかしましたか?」

「ううん、何でもない。ゴメンね変な質問しちゃって」

「いえ、それは構わないのですが……」

 

 心配そうなラミアに笑って箱庭の案内を続ける。僕にとっては地球の未来より今日の畑の方が心配だ。ゴブリンに荒らされてないか見回りしなきゃ。

 魔素が1万を超える程に貯蓄できたのはショップで販売してる地球産の品種改良フルーツのオカゲだからね。埋め込んだ魔石を掘り出されて魔素が地球エリアに侵食でもしたら結構な損害になる。確か貯蓄魔素の半分近くはショップの売り上げだったはず。それに土地を区切る為だけに10魔素の魔石を100個近くも導入したんだ。再利用なんて出来ないんだからな。工事リトライなんて悪夢はやめろよマジで。

 

「ここが地球エリア。魔素を意図的に薄くしてあるんだけど分かる?」

「はい。何処か呼吸し辛いような独特な環境ですね」

 

 故郷では補給こそ制限されて不可能でしたが魔素自体は有り触れていましたからねとラミアは笑った。

 ピンと来ないけど水道料金みたいに空気にもお金が必要だったけど、高山地帯のように空気が薄い訳じゃなかったって事かな。それか乾燥してて空気に水分が足りなくて保湿が大変ですね的な。

 

「呼吸が苦しいのは魔素が薄いからってだけじゃなく地球の熱帯気候を再現してるからかもね。バナナはトロピカルフルーツだから高温多湿にする必要があってさ。沖縄だって平均気温が23度くらいなのに地球エリアは27度もあって参っちゃうよ」

 

 その上、火の小精霊の数が足りなくて作付け面積も狭い。

 ダークエルフ達に純粋な顔で、もっと増やせないんですか?と尋ねられた時は頭がどうにかなるかと思った。

 

 しかもトロピカルフルーツって日本じゃ馴染みが薄くて顧客の反応が微妙なんだよね。特にドリアンとか臭いが駄目って苦情が凄かった。逆に纏め買いするから販売を続けてって熱心な愛好家も居るけど。何時かの転売ヤー的な奴じゃなくってガチのドリアンファンだ。感想メールが滅茶苦茶に長くて読む気になれなかったもん。

 他にもパパイア・ココナッツ・マンゴー・アセロラ・ドラゴンフルーツ・パイナップルを販売中。この中で人気が高いのはやっぱマンゴーとパイナップルかな。

 

 なんかドリアン、マンゴー、マンゴスチンが3大トロピカルフルーツとか呼ばれてるらしいから懐かしの山菜果物詰め合わせを削除してマンゴスチンをショップに出品予定だ。これで9品目。ショップに出品可能なのは1アカウントに付き10品目までだから、ちょうど良い。最後の品目は生産してるカカオをチョコに加工して出す予定。カカオ100パーセントだと苦くて売り物にならないからバニラビーンズと一緒に甘くなるよう試作中だ。

 

 ニンフの力で収穫段階まではすっ飛ばせるけど収穫だけでもこの規模になると大忙し。まだ幼いけどダークエルフ達も毎日必死に働いてる。

 ショップでの販売分だけじゃなくてミュータント用の支援食料も確保しなきゃなんないからね。僕もアイテムボックスに収納して送付して連絡を取り合って魔素濃縮フルーツの研究をしてリンゴの果樹トレントの繁殖を試してチョコとバニラの試作をしてとクッソ忙しかった。そんな中、愛好家がいるからと在来種を採取に行ってたのに転売してたとか絶許。

 

 ま、だから悪いけど幾らレビュアーに要望されようとメロンやブドウなんかの別環境が必要なフルーツ生産は無理なんだ。辛うじてイチゴなら栽培できるけど、あれは繊細な果物だし。3人しか人手がないのにダークエルフ達の収穫の手間を増やすのは可哀想だ。日本じゃマイナーだけど今はトロピカルフルーツオンリーで勝負しようと思ってる。

 

「こんな感じでうちはニンフの力を生かした大規模農業で魔素を稼いでるんだ。販売中の地球産NO魔素フルーツは内包魔素が少なくて栄養にはならないけど美味でデーモンにも売れてる。一つどう?」

「ありがとうございます」

 

 手渡したマンゴーに豪快に齧りついたラミアはへえと感心したような声を漏らして残さず平らげた。気に入って貰って良かった。

 でも、始祖が人だっただけあって蛇とは違って雑食な上に変温動物じゃないっぽいね。暑そうにはしてるけどそれだけだ。これなら扱いは人に準じたもので良いかな。

 

「住人は意思疎通の難しいN種の他にはトレントとダークエルフ。ああ、あそこに居る彼らがそうだね。地球出身の元人間の子達」

 

 おーい、と声を掛けて3人の作業中のダークエルフに呼び掛ける。

 作業着として配布した長袖のエプロン服を着た子達が笑顔で振り返った。デーモンだから多少の怪我なら魔素で治るけど、薄着だと作業中に草で肌に傷が付くんだよね。一応、熱中症予防として水筒も持参させてる。

 

「年長者の男の子がアミール。同じく年長の女の子がナフィーサ。年少の女の子がアルマ」

「そうですか。可愛らしい子達ですね」

 

 まだ幼いダークエルフの姿を見て艶やかな笑顔でラミアは微笑んだ。うーん。このくらいなら常識的な範囲の反応かな。

 とりあえずはセーフだね。下手したら元人間と聞いた瞬間、飛び掛かるんじゃないかって心配してたから良かった。何が切っ掛けで暴走するかは分からないけど、共存を試みるくらいは可能そうだ。

 

「女神様。新しい住人の方ですか?」

「うん。今日から一緒に暮らすラミア。ああ、そういえばまだ名前を聞いてないね」

 

 アミールの言葉にふと気付いてラミアに尋ねた。僕の名前は告げてあるけど、ラミアからは薬師だという事くらいしか聞いてない。

 運営から配られたカードだからといってプレイヤーのように突如として世界に混入した異物じゃないんだ。彼女には歴とした過去がある。課金ガチャで地位を引いたミュータントみたいにね。それが運営にインストールされただけのエピソード記憶じゃなきゃ親や知り合いだっていたはずだ。

 

「そうですね。折角ですから私の名前は主様がお付けになってくださいませ」

「元の名前に拘りはないんだ」

「ええ。眷属になるというのは生まれ変わるのと変わりないですからね」

 

 ニコニコと楽しそうに笑いかけてくるラミアは可愛らしいんだけど、名付けか。何か呪術的な意味とかなかったっけ。真名を知られると逆らえないとか。

 いや、そういうのはデーモンの場合、眷属関連に集約されるから穿ちすぎてるな。女神の呪いって記述を見て過敏になりすぎてる。油断するのは駄目だけど端から信頼しないで疑惑の目で見続けるのは良くない。僕は主として相応しくありません。どうぞ裏切ってくださいと言ってるようなもんだ。

 

 んー、名前か。名前。ラミア種族だから始祖の国リュビアから名を……縁起が悪すぎる。もっと単純な名にしよう。

 下半身の蛇の鱗が薄い金色に光ってるし、そっから。ゴールド・オール・ゴルド・オーロ・オウロ・ハルトゥ・アウルム。うん。ラテン語で金のアウルムかな。

 

「アウルム」

「はい」

 

 姿勢を正すラミアに僕はハッキリとした言葉で告げた。

 

「これから君はアールヴヘイムの黄金の蛇アウルムだ」

 

 よろしくね。

 そう悪戯っぽくウィンクをするとラミア、いやアウルムは嬉しそうに微笑んで頭を下げた。

 

 

 

 で、その夜。早速事件が起きた。

 例のあの小精霊を増やそうと寝室で頑張っていた時だ。

 

 単なる性欲の発散と甘く見ちゃいけない。小精霊を日に何人眷属に出来るかで今後の蓄積神秘と農作地帯の広さに影響してくる訳だからね。

 でもその。そろそろこの世界に来て2ヶ月近くは経つから。鏡を見てるだけじゃ刺激が少なくって日に3回とか4回とかは厳しくなってきてて。いや日に最低2回はしてるって相当な好き者なのは分かってるんだけど。肉体的には全然平気なんだから10回20回するのも理屈としては可能だから変な義務感に突き動かされてた訳でして。

 実際、SRを何人も借金して買い取り、子作り用と成長促進の魔素を大量に借り入れてバンバン子供を産ませて売り払ってるプレイヤーはその頻度でヤってる。そこまで突き抜けりゃ相当儲かるんだ。ニンフの僕より一月の純利益が高いっていう信じられない状況。僕は何もしないでも3600魔素は無から湧いてくるのに追いつけないんだ。ホントに信じられない。

 

「みゅみゅ」

「狙いが外れるから動かないでね」

 

 何時ものようにベッドにスライムを置くと勝手に動き出そうとするから命令で縛って動けないようにする。下手に手で押さえると潰れちゃうから毎回予め命令して位置を固定するんだ。一回、小精霊に進化させ損ねたスライムと一緒にベッドで寝てたからね。もうちょっとで潰しちゃう所だったよ。

 

「ふっ……んぅ」

「わくわく」「どきどき」「はらはら」「ふれーふれー」

 

 それで時たま小精霊が覗いてる事があって。最初は怒ったけど何度も続くからそのうち慣れた。

 どうやら自分達の後輩が生まれてくるのを純粋に楽しみにしてるみたいで、エロい事だって認識してないんだよね。それなのに怒ったり追い払ったりすると泣きそうな顔で見つめてくるから変な罪悪感に襲われるんだ。

 だから、その。見られても気にしない方が良いって言うか。妙な背徳感があるって言うか。日に2回も欠かさず出来てたのは彼女達のオカゲです。はい。

 

「うっく……ハッ……ハッ……」

「まあ」

 

 そういう感じだったから他人の声が聞こえても気にならなかったというか。小精霊の声だと思い込んでたというか。

 流石に耳元で囁かれたら嫌でも気付いたけど。

 

「気持ち良いですか?」

「ぴゃ!?」

 

 ビクンっと跳ね上がった拍子に一匹小精霊が生まれて頭が真っ白になって意味分かんなかった。

 へ? ふぇ? って言葉にならない声を出してると今日名前を付けたばかりのアウルムに背中から抱きしめられて大きな胸を押し付けられてた。未体験の感触に更に混乱してると耳元でもう一度囁かれて。

 

「折角なのでお手伝いをさせて頂きますね」

「ま、まっへ。いいから」

「はい。分かりました。良いんですね」

 

 優しく抱きしめられてお腹をさすられながら囁かれ続けてると脳ミソが溶けてもう何も分からんってなる。なった。

 その日はさわさわって敏感なとこの周辺部だけを触られて肝心な所には一切触れられなかったんだけど、それが逆にヤバい。背中に押し付けられた胸とかふと零れる吐息とか囁き声とかジンワリと伝わる体温とかが余すところなく感じられる訳で。

 

「んんんっ!」

 

 最終的に五体の小精霊が仲良く手を繋いで踊ってた。

 限界が来て僕がふにゃっとしてたら身体をお湯に浸した手ぬぐいで拭いてくれたようで朝はサッパリとした目覚めだった。

 

 一瞬、夢だったのかなって思ったけど、起床はアウルムの腕の中だったから間違いなく現実。

 これがSRデーモン。

 

 そりゃ寵愛されるよ。もう一日で骨抜きにされた感あるもん。


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