魔法少女大乱Online   作:八虚空

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第24話 ゆうべはお楽しみでしたね

「朝でーす」「あっさあっさ」「ぴよぴよ」「ちゅんちゅん」

 

 んぁ……。

 今日も元気に小精霊達が朝が来たと騒いでいる。

 日が差しても鳥の鳴き声の一つも聞こえないのが寂しくて、戯れに一度教えてみたら気に入ったのか日が差す事にこうやって騒ぐようになった。

 

 ニンフの力があれば地球の農家のように早起きする必要はないんだけど、夜明けの朝日が気持ち良くって差し込む太陽結晶の光を全身で浴びて目を覚ますのが箱庭に来てからの日課なんだ。睡眠も別に本来は取る必要なんてないし人間だった頃に比べたら遙かに寝起きが良いんだよね。

 でも今日は何というか、心地の良い倦怠感で起きるのが億劫。久しぶりに二度寝を満喫するかなぁ。

 

「ふみゃぁ」

 

 柔らかい抱き枕を引き寄せて顔を埋める。何か、プルプルもちもちしてて気持ちが良い。水枕とか買ったっけ。覚えてない。

 魔素資産には余裕があるんだし、ダークエルフの子達にも買ってあげようかなぁ。でも遠慮して3人で一つのベッドで寝てるくらいだし断られる気がする。

 中学生の年頃で同衾とかエッチッチな感じだけど、まだ男女で添い寝しても気恥ずかしいって気持ちになるくらいの年頃に過ぎないから特に問題は起こってない。現実で同人誌的な展開なんてそうは起きないって事だろう。そもそも年長者組のアミールとナフィーサは親戚同士でお互い意識してないしね。

 

 むしろ、そういう同人誌的な展開は僕の方に起きたじゃんかって、あれ?

 そういえば昨日。

 

「んふ」

 

 プルプルもちもちの肌触りを楽しんでいた水枕から色っぽい声が聞こえて来て、一気に頭が覚醒した。

 あ、これ胸って。下着すら着けてない! 巨乳に直で顔、埋めてた! 頭の下にあるのは腕だ。腕枕されてた! ていうか無意識に僕が抱きしめてたのか!

 

 うわわって慌てる僕をアウルムが長い金髪を乱れさせた妖艶な格好で、碧い透き通った瞳で微笑ましげに見ていた。

 

「おはようございます主様。ご満足頂けましたか?」

 

 うん。

 めっちゃ快適な目覚めでした。おはようございます。

 

 もう、ちゅんちゅん言ってる小精霊の声が朝チュン以外に聞こえなかった。

 

 

 

 ログハウスの2階に配置した寝室からアウルムと一緒に階段を下りて1階のダイニングルームへと向かう。蛇体でもズルズルと器用に身体を使ってラミアは階段の上り下りが可能みたいだ。その気になれば垂直な壁すら伝って移動できるんだとか。

 

「おはよう、ございます。女神様」

 

 ダイニングルームのテーブルにはナフィーサがいてココナッツに専用の器具を使って穴を空けていた。若いココナッツの果実は果肉が少なく内部が殆どゲル状で飲料向きだ。産地ではココナッツジュースとして販売されていて人気を博している。

 味は仄かに甘くて爽やか。ヨーグルトみたいな濃い感じなのかと思ったら意外とサッパリしていて水分補給に最適なんだ。一晩、冷蔵庫に入れておけば喉越しも良く身体にスーッと浸透してきて生き返る。地球エリアの高温地帯で作業をしなければならないダークエルフ達にとってなくてはならない果物だ。

 

 でも、穴を空けたココナッツの実にストローを差して各々の定位置に配っているナフィーサだけど様子がおかしい。

 頬が仄かに赤くて目が泳いでいる。さっきから僕とアウルムを交互に見てあうあう言ってる。

 

 ははーん。何となく展開が読めたぞ?

 これは僕が徹底的に辱められるパターンだな?

 

「さわさわ」「しゅっしゅ」「どぴゅどぴゅ」「ぱんぱかぱーん」

「それで一気に仲間が増えたんだね!」

 

 楽しそうに笑い合う声に振り向けば小精霊達が楽しそうにダークエルフ幼女のアルマとお喋りしていた。

 擬音を聞いただけで何の事を言ってるのか僕にだって分かる。言外の情報すら精霊相手なら詳しく知覚できるダークエルフなら僕以上に分かる。

 

 確か精霊魔法には精霊が見聞きした事を同期した術者に伝えられる諜報能力があったな。

 まさかそこまではやってないよね? もうそこまでやったら覗きだからね? 信じてるよ?

 

「お、おはようございます。女神様」

 

 ギィッとログハウスの扉を開けて部屋に入ってきたアミールがドモリながらも僕に挨拶してきた。

 全身がビッショリと汗に濡れていて外を走ってきたのが分かる。うん。ランニングかな。熱心だね。でも何時もやってる訳じゃないのにな。何で今日、突然ランニングなんか始めたのかな。アハハ。

 

 いっそ、殺せ。

 

「女神さま。あのね。スィちゃんとヒィちゃんが仲間が増えたって大喜びしてるの」

 

 そうダークエルフ幼女のアルマが言った。眩しい笑顔だなぁー。そっかー。仲間が増えてつい、はしゃいじゃったんだねぇ……フフフ。ん?

 スィとヒィが大喜び。水と火の小精霊が増えた? 何時もは土と風の小精霊の方が多目に増えるのに。

 

 森は水分を吸い取り火で燃え上がる。だから森精のニンフである僕とは微妙に相性が悪くて小精霊の生まれる割合も偏ってきてたんだ。それが今回は何故か逆転したって事に。ああ、そうか。蛇は日本ではミズチ。水神の一種として扱われる。そんで西洋では蛇はドラゴン。火の化身。破壊の化身か。

 つまりラミア種族であるアウルムに手伝って貰えれば不足していた火と水の小精霊を効率よく増やせるんだな。

 

「なる程、そうですか。水と火の小精霊はレアなんですね。お役に立てて何よりです」

 

 姿勢を低くしてアルマと視線の高さを合わせて話を聞いてたアウルムが嬉しそうに微笑み幼女の頭を撫でた。母性が溢れ出ている。

 こんな種族に消えない子殺しの呪いを刻み込むってやっぱギリシャ女神、性格悪いわ。

 

「あー。何て言うか。うん。ご飯にしよう」

 

 ちらちらっと視線が泳ぐ年長組の二人を誘導して皆で食卓に着いた。

 女の人が視線に敏感って本当だったんだな。すっごい胸とかアソコを見られているのが分かる。

 

 思春期だからね。気持ちは分かるけどね。もう。何て言うかもう。んなぁぁ。

 

 

 

「そういう訳で、アウルムにはこの品種改良したトレントの魔素濃縮リンゴをデーモン国家で売り払うのを手伝って欲しいんだ」

 

 そわそわする何とも言えない空気を無理矢理に仕事の話で吹き飛ばす。

 ダークエルフ達もデーモンの先進国に上京するって大仕事に真剣な表情となった。少し怖がってる感じもあるかな。ニンフの僕が行くのは危険過ぎて無理だって前提があるからね。小精霊達を付き添わせるのは色んな意味で不安だから魔法だって微精霊頼りだし。でも、ポロっと僕の存在を匂わすような言動をされたら困るから付き添いは許可しません。

 

「これが主様の改良されたトレントの実ですか。少し味見をさせて頂いても構いませんか?」

「うん良いよ。四等分にするから君らもお食べ」

「ありがとうございます女神様」

「女神さま。ありがとうございます」

 

 アイテムボックスから小皿に置いた魔素濃縮リンゴをスパッと魔法で四等分にする。他の箱庭産植物と違って、加工がめっちゃ難しいな。出来て切るくらいか。

 Rランクに位置するトレントは僕の依り代である森の木々と違って眷属とはいえ歴とした一体のデーモンだ。無意識にログハウスを建設できるくらいに卓越した木材加工もトレントには通じない。それは本体から切り離した枝や実でも余り変わらないんだ。接ぎ木をトレントの魔素操作に委ねたように命令してワンクッション置かないとならない。

 

 もう、トレントを加工したいなら植物操作能力じゃなく物理的に刃物で加工した方が早い。でも、それだと苗木トレントの怪我を自然治癒に任せるしかなかったように手を出せない領域が生まれるんだよね。普通の樹木なら損傷なんて魔素で一瞬で消せるのに。トレントの場合は深手を負ったら有効な治療法がない。

 いやまあ、怪我の治療が無理なのはダークエルフやコボルト達も変わんないから気にする事でもないんだけど。そこら辺は薬師だというアウルムに期待してる。

 

「あっまーい」

「これは」

「美味しい」

 

 魔素濃縮リンゴを頬張ったダークエルフ達が歓声を上げた。地球産フルーツと違って魔素が豊富だからね。デーモンにとっては水分の抜けたドライフルーツと採れ立て新鮮なもぎたてリンゴくらいに味が違って感じるだろう。ミュータントには更に美味に感じるんだっけ。インベーダーや地球人にはどうだろう。摂取できない毒を口に含んだ感じでマズく感じるのかな。原作の魔法少女は美味しそうに口にしてたけど。

 

「この濃厚な魔素。実一つ分で7魔素は含まれていますね。これを10魔素で販売する予定、ですか……」

「うん。魔石を直接摂取した方が腹持ちは良いけど、食事って娯楽を知らないRやNランクデーモンになら売れるんじゃないかって」

 

 難しい顔でアウルムが唸る。箱庭でリリースして初めての表情だ。

 でも、デーモン国家に住む低ランクデーモンの魔素収入は一月30~100魔素付近。

 Nランクにも売れるような値段にしておけば果樹トレントを増やしても供給が需要を上回る事はないだろうと思うんだけど。

 

「Nランクデーモンを顧客に想定するのは止めてください。話になりません」

「デーモン国家のNランクは長生きしてて野生の奴らより頭が良いって聞いたけど?」

「それは実態と少し違います。Rランクの群れの主に逆らわないよう徹底的に躾けられてるだけでNランクである事に変わりはないんです」

 

 だからNランクデーモンを相手に商売をする時はRランクに責任を負わせて群れ単位で考える必要があるのだとか。

 なる程ね。Nランクデーモンをどうやって経済活動に参加させてるのか疑問だったけど、頭目のRランクに絶対服従させて行動を強制させてたのか。眷属化と暴力を併用すれば確かに可能そうだ。

 

「それにNランクに販売するのは余りに勿体ないですよ。彼らに美食なんて概念は理解できません。ドブに捨てるのと同じです」

「随分Nランクに厳しいけど、小精霊達だって同じNランクなんだよ?」

 

 興味深そうにふよふよ漂ってるフゥとチィが幼女ダークエルフにリンゴを分けて貰えて笑顔になってるし。味覚はあるみたいなんだけど。

 

「彼女達はNランクの中でも上澄みじゃないですか。その上、眷属化で思考能力も強化されてます。実質Rランクデーモンですよ」

 

 小精霊は例外だと前置きした上でNランクが買える値段設定はマズいとアウルムは言い放った。

 これはアレか。もしやまた、想定外の安さで売ったせいでトラブルが起きる所だったのか。転売程度なら兎も角、今回はダークエルフ達を売り子として動員する予定だ。トラブルは出来るだけ避けたい。

 

「じゃあ、Nランクが買えないように30魔素で販売する? これ以上、高額にするとRランクにも買って貰えなくなるし」

 

 そう言うとアウルムはちょっと迷うように言葉を選んだ。

 

「需要はあると思います。このトレントの実が改良種以外の従来の物だったなら、それぐらいが適正価格のような気もしますね。ですが」

 

 Rランクに食事という概念は浸透していません。

 そう、アウルムは言い切った。

 

「300魔素。それが恐らくこのリンゴがデーモン国家で売買されるだろう適正価格です」

 

 

 SR利権。デーモンにとって食事という娯楽は上流階級のみが享受できる権利である。

 故にデーモン国家において100魔素未満の食品など存在しない。


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