魔法少女大乱Online   作:八虚空

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第36話 それは奇跡ではなく

 次々と襲い掛かってくる猟犬に彼は死力を尽くして抗い続けた。森の枝を伝い空中を飛翔し手当たり次第に物を投げつけ命を燃やし尽くす程に走り続けた。

 だが、それでも彼は所詮ゴブリン。風の微精霊を使役しているとはいえRランクにギリギリ届かない程度の力しか持ってはいないのだ。同格のウルフ10体が連携をとって延々と追跡し続けたのなら、どういう結果になるかは目に見えていた。

 

「ギィギャーッ!」

「グルルルッ」

 

 逃走劇の終わりは次の枝に飛び移ろうと狼から気を逸らした一瞬の隙を突かれ、彼の更に高所の木の枝から飛び降りたウルフに右肩を噛まれ、共に地へと墜落した事によるものだった。落下ダメージは等しく彼らに襲い掛かったがウルフには意思を同じくする仲間がいて、彼には手を差し伸べてくれる仲間など出来た試しがなかった。

 

 彼が最期に目にしたのは深い森の薄闇に浮かぶ無数の黄金の瞳。ただ静かにこちらを見つめる静謐(せいひつ)な眼差し。

 何処か尊敬の念すら抱いているかのような複雑な感情が籠もった眼差しに、彼はああと溜息を吐いて自分の終わりを悟った。

 

「オ前ラハ、イイナァ……」

 

 過ぎる走馬灯に誇れる物も好ましい物も見出せなかった彼は、女神の使命を誇り高く熟す猟犬達を心の底から羨ましく思う。

 ゴブリンには、少なくとも彼に与えられた知識には、そういう思わず胸が熱くなるような何かはひとつたりとも有りはしなかった。仲間も使命も誇りも彼には全て遠い向こう側の出来事だ。ただ冷たい悪意に絡め取られて何処までも深く深く沈んでいく息苦しさだけが傍にある。

 

「イ゛イ゛ナ゛ァ゛」

 

 何故か目から水滴を流しながら彼はそう繰り返した。

 

 何に向かって手を伸ばしているのか、何を欲しているのか彼自身にも分からず。

 ただ心の底から救いを求めていた。

 

 だが、有象無象の矮小な怪物に奇跡が起こるはずもなく。

 一斉に群がった猟犬の身体に彼の姿は覆い隠され。

 

「ストップ」

 

 気紛れな女神の声に至極当然のように救われたのだった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「ありがとう。よく頑張ったね」

 

 ハッハと周りに群がってくるウルフの頭を撫で僕は労りの言葉を掛けた。

 全身が泥だらけな上に何度も地面に打ち付けられたのかウルフ達の身体には血が滲んでいて白い体毛がマダラ色になっている。まさかゴブリンにここまで出来るのが居るとは思わず任せきりにしてしまった結果だ。ゴブリンが進化しきってなくて良かった。完全にRとなっていたら最終的な結果は逆になっていただろう。

 

「それにしても」

 

 小精霊に連れられて様子見をしていたけど、この精霊魔法を操るゴブリン。ゴブリンシャーマンとでも呼べば良いのかな。

 今、間違いなく。

 

「ゴブリンが信仰を抱くなんて」

 

 奇妙な感覚だ。僕に向けて注がれてるような違うような神秘の在り方。

 Nランク、いやRランクにしても濃い。切実な乞い願うような心の底からの信仰心。

 そうか。これが本物の信仰の萌芽というものなのか。何か凄いものを見た気がするな。

 

「君。まだ生きてるよね」

「ギィ……」

 

 薄らと目を開けるゴブリンシャーマンに僕は問いかけた。

 外見は他のゴブリンと何一つ変わらない。ああ、でも僕の眷属ゴブリンだって事は分かるな。まだ生き残りがいたのか。

 

「君は何が欲しい?」

「…………」

「欲しい物がないって事はないでしょ。遠くまで聞こえて来たよ。欲しくて欲しくて堪らないって」

 

 うるさいくらいに切実に響いていた。と、言う事にしておこう。

 下級とはいえ僕は女神だ。一心に祈られた願いぐらい聞き取れなきゃね。

 

「落ち着いて。心の中を覗いてごらん。そこに君が欲しいものがある」

「オレ……オレハ……」

 

 意識が虚ろなのか途切れ途切れの微かな声で、それでもハッキリと彼は己の望みを口にした。

 

「ナ、ガ欲シイ」

「名前?」

「誰カガ……オレヲ……オレノコトヲ」

 

 うわごとのように死に瀕しながらも呟かれた言葉には。

 

「ヨンデ、クレタラ……。キット」

 

 僕のゴブリンを滅ぼす決定を揺るがすだけの力があった。

 

 きっと。その言葉にならない続きの何かが彼の本当に欲しているものだ。それを与える事は僕にだって出来はしないのだけど。

 でも、それでも。それが手に入る可能性を女神ならば、神を名乗る者ならば与えなければならない。

 

「ウィッシュ」

 

 望み。願い。祈り。

 そういう意味を持った単語を僕は告げた。

 

「君の名前はウィッシュだ」

 

 今日、この日。

 僕の箱庭に種族滅亡の危機を救った一人の英雄が生まれた。

 矮小で弱くて孤独で、誇り高い。ゴブリンの英雄だ。

 

 僕は彼の望みが叶う日が来ることを信じている。

 

 

 

◆◆◆◆

 

氏名:サルマ・フィメル

外見年齢(実年齢):15(0)

性別:両性具有

身長:152cm

体型:ロリ巨乳(Eカップ)

色彩:緑髪翠眼

髪型:ストレートロング

 

陣営:デーモン

種族:ニンフ(森精)

階級:精霊王/下級女神

 

有利特徴:資源++、箱庭内強化+、神性+

不利特徴:箱庭外弱化--

 

◆◆◆◆


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