魔法少女大乱Online   作:八虚空

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第43話 情報開示のリスクとリターン

 地味ライダー2号こと灯さんとのメールを終えて僕はふぅと溜息を吐いた。

 これで、何とかミュータント傭兵の強化プランに目処が付いたね。本人的にはミュータントでも人と共に歩む事が可能だって証明して、迫害され続けているミュータントの社会的地位を向上させたかったんだろうけど、僕的には副次効果のパワーアップの方が目的なんだ。

 

 今回のミュータント商会の一連の事件で地球にはSR級の強化食材を恒久的に支給可能なクローン製薬って違法組織が存在する事が明るみに出た。

 今後、一部の裕福層に限るだろうけどミュータントPLはSR食材の限界まで強化されるだろう。しかも貧困層と違って飢えた事のない人肉食に抵抗が薄いサイコパスや人間性の薄れた怪物寄りな人物ばかりが強化される訳。このままじゃ、まともな感性を残した善良なミュータントが馬鹿を見るから、下手をしたら人肉食がミュータントPL界隈のスタンダードになりかねない。

 これがゲームだったら皆、自キャラに間違いなく魔法少女のクローン肉を食わせようとするでしょ。現実なんだからあり得ないって否定するには捕食補正が強すぎる。腹が減ったら何の肉かなんて気にならないらしいし。

 

 そういう状況になる前にミュータント傭兵が別の道がある事を身をもって証明すれば多少は迷うはず。

 一度でも人肉を口にしていたら摂取不可能な魔法少女産の強化アイテムって要素はゲーマーなら見逃さないと思う。ホントはそういう制限を付与する果実じゃなくてもフルーツマジックならミュータント強化は可能なんだけどさ。プロテイン的な筋肉量を増やす効果なんかを果物に付与してくれれば効率はアナフィラキシーフルーツの比じゃない。まあ、そんな要望を出してたら話すら聞いてくれなかっただろうけどね。今の提案すら通るかは微妙なライン。

 

 意外な事にミュータント傭兵の評判って魔法少女達の間じゃ悪いんだよね。

 インベーダーに唆された売国奴を捕まえて司法の場に引きずり出して紛争を終わらせた傭兵ミュータントは現地じゃ英雄なんだけど、元々はその売国奴の手駒の傭兵部隊に所属していたんだ。ミュータントの力を利用して暴れ回っていた奴が何を今更、改心したフリをしてるんだって目で国外では見られている。

 

 最大限、良い方に解釈されても、纏まらない当事国の紛争を終わらせる為に指導者の一人に納まっちゃったから戦争を機に成り上がった油断のならない曲者って評価だ。今は状況的に余裕がないから見逃しておくかって様子見されてる総帥と似たような立ち位置。密かに人身売買に手を出してるって噂もあるから疑いの眼差しは消えない。

 

 ミュータント傭兵の事を敵視しているPLの仕業だと思う。ダークエルフ3人娘は衰弱してて、放置してたらマズかったって事情は無視されて顧みられない。これが偏向報道って奴か。

 噂を否定するのなら僕が取引き先のデーモンだって白状してフルマ5に説明するのが手っ取り早いんだろうけど、流石にそれは無理。そこまで魔法少女を無条件に信じられないし、今後も人身売買を続けるつもりの僕の言葉に説得力なんてないでしょ。隠し通すしかない。

 

 一応、ミュータント傭兵の事を誤解してるって灯さんに主張しておいたけど何処まで効果があるだろう。もどかしい。

 

「強化プランがポシャったらどうするかなぁ。僕が提供した果樹トレントのリンゴは所詮R食材だし、それじゃ地球のインフレにはついていけない」

 

 ミュータント傭兵はデーモン国家じゃ雲の上の存在であるURすら容易く死にかねない修羅の惑星で一国家の英雄なんて立場にまで上り詰めちゃったんだ。

 死なせたくないなら可能な限りの手を打たなくては……。いや待った。

 今、僕がやってる事、まんま神話の女神そのものだ。だいぶデーモン的な在り方に引っ張られちゃってないか?

 

 本当に友人を死なせたくないなら危険な星からは逃げるように提案すべきなんだ。

 危なかったら僕の箱庭においでよって。

 

「頷くとは思えないけど、一応。一応ね。誘うだけは誘っとこうかな」

 

 何故かドキドキしながらメールを打っていたら、突如グォンと空中に黒い歪みが生まれてきた。

 緊急事態に咄嗟に戦闘態勢に移行しながらも黒い穴から現れる人影に、ああ、そういえば帰ってくるタイミングだったと手に生成した木製の槍をアイテムボックスへと仕舞った。魔素から物質への変換は可能でも物質を魔素へと再変換は出来ないんだよね。だから一度、生み出した物は可能な限り無駄にしないようにしないといけない。

 有利特徴に神性+が生えてから一日の魔素生成量が120魔素から280魔素に跳ね上がったし、そこまで節約しなくても良いっちゃ良いんだけど。

 

「お帰りアウルム」

「主様。ただいま帰還いたしました」

 

 綺麗にカーテシーを決めて妖艶に微笑むラミアのアウルムに僕は笑い返して、後ろにいる多くの蛇娘達に首を傾げた。

 

 

 

「アウルム。その娘達は?」

「我が一族から主様への贈り物です。煮るなり焼くなり好きにして良いと仰せつかっています」

「そうなんだ」

「ほら、隠れてないで前に出て来なさい」

「「ふぁっ……ひゃい!」」

 

 緊張でガチガチに固まっている蛇娘達はうわずった声で返事をしてちょっとだけ前に這いずった。皆、頭を下げていて視線が合わない。何か怖がられているね。

 容姿はアウルムと同じラミアだけど、内包魔素は少なく全員が十代前半と幼い。これが掲示板で言われてたSR種族に生まれるRランク個体って奴かな。

 ええっと、全員で15人か。多くない?

 

「Rデーモンってラミア種族にも結構生まれてくるんだ」

「そうですね。各集落に一人は居るものです」

 

 アウルムの言葉に僕は首を傾げた。

 帝都在住のRデーモンなら自活してるか、とっくに売られてるだろうから田舎の方から連れて来たと思うんだけど。

 

「もしかしてラミアの全集落からかき集めてきた?」

「付き合いのある地域のみですが。今は少しでも数を欲していると思いまして」

 

 只で人手が、しかもRランクデーモンが大量に入手できるのなら確かに助かる。

 ラミア種族の為ではなく僕の為に蛇娘を頑張って集めてきたのか。

 ゴメンね。もしかして箱庭をラミア種で乗っ取る策略を巡らしているんじゃないかって疑っちゃって。

 

「助かるけど本当にただで貰っちゃって良いの?」

「はい。それだけ魔素濃縮リンゴの価値を評価されたという事です。一流食材の流通に食い込めるのは大きいですからね」

「一流か。内包魔素的には大した事はないんだけどな」

「素材の段階から味を引き上げる発想は今までにないものでしたから。地球の果樹が知れ渡っていない今、ここまでの味わいにトレントの実を品種改良するのは長い歴史が必要でしょうし」

 

 ああ。なる程。評価されたのは地球の美味しいフルーツの歴史か。

 流石は数万年も美味しい果樹を引き継ぐようなグルメ種族。その執念はデーモンすら唸らせた訳だ。

 

「他にも地球には色々な果実が伝承されていますよね。そちらの取り扱いはしないのかと詰問されてしまったのですが」

「ううーん。最近まで僕もトレントを地球の果実を実らせるよう品種改良するつもりだったんだけど……」

 

 フルーツマジックの魔法少女と伝手が出来た事で別の選択肢も生まれたんだよね。

 たとえば、この前のミュータント商会への裏工作で出してたアナフィラキシーフルーツの量産とか。

 

 僕には魔法少女を理解する事が不可能だったから生産できないんだけど、トレントなら再眷属化を経由する事で存在そのものを向こうに寄せる事が出来る。この方法なら原理不明の果実だろうと魔素的に釣り合ってるなら量産する事そのものは可能なんだ。伝承存在は格下だからってなめちゃいけないね。

 そんで魔法少女がアナフィラキシーフルーツを量産しないのは永続的な効果を望めない失敗作だからって理由だけじゃなく、人手と時間が足りないからって理由もある。

 

 空中からポポンと気軽にフルーツを量産していた魔法少女達だけど、実は彼女達は僕のように果樹を実らせて生産を自動化させる事が出来ないんだ。

 能力が足りなくて果樹を生み出せないって訳じゃない。僕以上の面積を彼女達なら樹木で埋め尽くす事も出来るだろう。

 だけど、その樹木を維持するだけの魔素が地球にはないんだ。次元の狭間で地球の樹木を生み出しても環境を整えないと直ぐに枯れるように、地球で魔素植物を生み出しても簡単に枯れ始めてしまう。魔法少女の魔法はあくまでも彼女達の体内魔素を消費して発動されるから、果樹園を維持しようとすると常に魔法を発動させ続けなければならない。

 

 勿論、有用な樹木なら、そうする価値はある。実際にヒーリング効果のあるキュアフルーツシリーズは常に栽培していて魔法少女達に振る舞われている。

 でも魔素の少ない地球で無理やりに生き長らえさせている魔素植物はURと言えど多くは養えない。必然的に栽培する樹木は選ばざるを得ないんだ。

 

 こういう点だけなら常に魔素を放出するニンフである僕と魔素を保つ性質を持った箱庭の組み合わせは魔法少女達を上回っている。

 なる程ね。友好的なデーモンとの繋がりを求める訳だ。URだからって万能でも無敵でもないんだね。

 

 アナフィラキシーフルーツは効果の弱さと、食人を禁じてもミュータントの凶暴性を抑えられる訳ではないって理由で量産されてない。

 だけど、あれば嬉しいのは確かだよね。商品価値は十分ある。

 そこら辺の諸々の話し合いと情報共有を彼女達と今までずっとして来てて、フルーツマジックの長年の研究目標を知ったんだ。

 世間話に情報を知らせたミュータント傭兵がそれに食いついて、彼の強化プランを実行するチャンスだと僕が後押しをした。それが今の状況。

 

 今じゃ初代ノーマルトレントは重要な手札になってる。

 だから単なる美味しい果物に品種改良が出来ないんだよね。残念だけどさ。

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