ポチポチとミュータント傭兵にメールを送ってちょっとした布石を打った。もし全て想定通りに上手く行けば結構なアドバンテージを得られると思う。
地球は危険だけど、その分リターンも大きいんだ。
「人口規模や土地面積だけじゃなく歴史的逸話にも価値がある感じだからね。箱庭スレの住人は伝説上の武器に注目していたけど偉人の墓とか暴けば良質な死霊兵を配下に出来そうだし、世界遺産を箱庭にもってくれば神秘の向上に留まらず箱庭碑文を新たに入手可能かもしれない」
チャレンジするのはリスクが高すぎるから挑戦しようとは思わないけどさ。
今後はそういう方面も考慮して商売するのも良いかもしれないな。
「あとはそうだね。人間を眷属にする際にも特殊な血筋の家系なら変わったデーモンに変化したりして」
ラミアの始祖も海神ポセイドンの血が流れる古代リュビアの女王だった訳だしね。半人半蛇となったのは呪われたのが原因じゃなくて血筋による力の発露だった可能性の方が高いんだ。
そういう事を考慮するとアフリカで存続している精霊信仰、特に西アフリカのベナンで国教となっているブードゥー教の神官を取り込めたら凄い事になるかも。
ブードゥー教は現地でヴォドゥンと称される精霊を敬い、祖霊信仰とキリスト教の聖人を一部取り込んだアフリカの民間信仰だ。
宗教の開祖が逃亡奴隷のリーダーだった事もあってキリスト教により徹底的に弾圧されてきた背景を持つ。２０世紀になって尚、邪教だと信者や神官は西洋諸国では逮捕・投獄されていたというガチ具合だからね。魔法に類する物が少なくとも表立っては存在していなかった前世ですら恐れられていた教義なだけはある。
なんてったって発祥の地であるカリブ海のハイチでは１９５７年の近現代に大統領に選ばれた人間が呪術による恐怖政治に用いたくらいなんだ。もっともリアルで信じられていた呪い師がブードゥー教の神官な訳。
奴隷の宗教として徹底的に迫害され続けた背景に、迫害してきた宗教を一部自らに取り込んだ寛容さ、現代になっても負の連鎖が続く地域性、全世界で５千万人にも及ぶという信者の数の多さ、植民地政策による加害者であるという罪の意識、その全てが複合してブードゥー教の呪術的神秘性を向上させ続けた。
あのハリウッド映画がゾンビを面白おかしく題材にしてブードゥー教のイメージダウンを図ったくらい洒落にならない話なんだ。
熱心なカトリック信者ほどブードゥー教を恐れていたという事の証。
でも、ゾンビは今じゃサブカルチャーに引っ張りだこなメジャー種族だ。大本のゾンビと違って生前の知性をそのまま宿す賢いゾンビだってアニメやラノベにはよく存在している訳でさ。そういうデーモンが生まれるに足る信仰は十分にあるんだ。ブードゥー教の高僧を眷属として取り込めば死霊術を操るデーモンが手に入るかもしれない。その上で、魔法少女の死体を入手できれば……。
「だめだめ。何を考えてるんだ。せっかく人畜無害なデーモンかもしれないって立場を得られそうなのに自分から崩してどうするんだよ」
ブンブンと首を振って妙な思考を脳裏から追い出す。
それに色んな使い道がありそうな魔法少女の死体なんて僕が入手できるとは思えない。ミュータントが食べれば、それだけでURの力が入手可能な極上のパワーアップアイテムなんだ。インベーダーだってクローン作成の為に目を付けるだろう。それくらい魔法少女達だって自覚してる。下手に利用されないよう死んだら遺体は残さないと思う。
ピロン、とメールの着信音が鳴ってビクッと僕は震え上がった。
相手は地味ライダー２号の灯さんだ。変なタイミングで連絡が来たから妙に怖い。
「あー、例の件が駄目だったって報告か。良かった。いや、良くはないんだけどさ」
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〇地味ライダー２号
ごめん。魔素強化果実の件だめだった。
〇両性ニンフ
あー、まぁそうだよね。
UR強化アイテムなんて危険な物をそう簡単にくれたりはしないか。仕方がないよ。
〇地味ライダー２号
その上で、厚かましい話なんだけど。
アナフィラキシーフルーツの量産には協力して欲しいって（震え声
――――――――
「え、それはちょっと本気で厚かましくない？」
――――――――
〇両性ニンフ
僕の頼みは聞いてくれないのに君達の頼みは聞けって？
〇地味ライダー２号
うう……仰る通りです……。
でも、生産された果物はちゃんと魔法少女支援組織が買い取るって。
〇両性ニンフ
まあ、そりゃね。
無償で提供する義理なんてないから金くらい支払って貰わないと話にならないからね。
もしかしてだけど。まさかだけどさ。
只で協力させようなんて話になってたりはしてないよね？
〇地味ライダー２号
そこは大丈夫！ ちゃんと断ってたよ！
〇両性ニンフ
ほー。誰かがそんな無茶ぶりをして来てた訳なんだね。
〇地味ライダー２号
ぐふっ。
その、ね。地球に侵攻してきた受刑者デーモンは一定期間の無償奉仕が義務づけられてて。
今回もそのお試しの試用期間に能力を測って支払う対価を決めようと支援組織の人は思ってたみたいでね。
〇両性ニンフ
へー。デーモンだからって問答無用で始末しないんだ。しかも給料すら出る。
思ったより遙かに人道的というか甘いというか。捕縛したデーモンの戦力化に熱心なのかな。
〇地味ライダー２号
そ、そうでしょ。魔法少女支援組織は基本、善意で動いてるから。
フルーツマジックの支援担当者さんも普段は凄い優しい人で。
〇両性ニンフ
僕を顎で使える都合の良い齣だって思ってそうだけどね。
優しい（魔法少女に限る）かな。
さっきから伝聞系だけどさ。よく思い返してみてくれないかな。
君、その担当者さんとちゃんと喋った事ある？
〇地味ライダー２号
え？ そういえば……ないような。
でもそれは交渉は最年長のミカンさんが一手に引き受けてくれてるからで。
〇両性ニンフ
もっと詳しく聞いて良い？
魔素強化果実を却下したのは誰な訳。最初に相談したフルーツマジックは何て言ってた？
〇地味ライダー２号
えっとミュータント強化を前提とした食人禁止の魔法フルーツ栽培の話には目から鱗が落ちたって騒いでたよ。
最高峰のSSR級果実の作成はグレープちゃんが反対して流れたけど、SRの、人肉を食べたら激痛が走るレベルの奴なら提供しても構わないんじゃないかって。密かに流通してるクローン食肉を食べたミュータントに対抗可能な人材は少しでも多い方が良いって結論になったんだ。
〇両性ニンフ
フルマ５が作成可能な上限はSSRなんだね。
まあ、魔法少女でも場合によっては苦戦する怪物を故意に生み出そうとはしないか。それで、どうなったの？
〇地味ライダー２号
自分達では国外の事には責任を持てないからって支援組織の担当さんに相談して許可を貰おうとしてたんだけど……。
〇両性ニンフ
却下された、と。
〇地味ライダー２号
一応、言っておくけど、担当者さんの一存で決まった訳じゃないよ。
ちゃんと上に報告して裁可を貰ってくるって手続きまでは進んでたから！
〇両性ニンフ
ううーん。まあ、上の方が難色を示すのは分からないでもないしなぁ。
ミュータント傭兵の国は地球でも珍しいミュータントが人を支配する国家な訳だしさ。そりゃ強化アイテムなんて渡したくないよね。他に幾らでも強化アイテムはあるし裏目だと思うけど。
〇地味ライダー２号
あ、そう言われれば確かにそうだね。
なる程、だから許可が下りなかったんだ。
〇両性ニンフ
自分達ではいざという時に手が届かない海外の件を支援組織に相談したフルマ５の判断も間違いだとは思えないし、今回の件は仕方ないかなぁ。
〇地味ライダー２号
力になれなくてゴメンね。
〇両性ニンフ
思ったより頑張ってくれてたみたいだし気にしてないよ。
こっちこそ、八つ当たりしてゴメン。
〇地味ライダー２号
ううん。それで、魔素強化果実の他に何か要望はある？
ミュータント商会への情報工作の報酬もまだ支払ってないし可能な限り融通を利かせるって。
〇両性ニンフ
んー、じゃあ取り敢えず、フルマ５が作成可能なフルーツの中で最低限の魔素で作成された物を頂戴。何の効果も付与されてない奴ね。
〇地味ライダー２号
そんなので良いの？
〇両性ニンフ
うん。
あ、それとバナナの品種改良に協力して欲しい。
ほらバナナは一度、実を収穫したら二度と実を生やさないから切り倒しちゃうでしょ。
草である以上仕方ないし１年であの大きさまで成長するのは凄いと思うけどさ。
でも、トレントに合体させるのはちょっと不安で。
継続的に実を付けるリンゴみたいな果樹に出来ないかなって。
それが駄目だったら起源種のように種で増殖可能で魔素を栄養源とする美味な、おいしい所取りの豪華なデーモンフルーツの開発がしたいんだ。それなら地球エリア外の広い箱庭を有効活用できるようになるし。
〇地味ライダー２号
あ、うん。
サルマちゃんがサルマちゃんしてて何か安心した。
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