魔法少女大乱Online   作:八虚空

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第50話 ライトエルフとティータイム

「どうぞ。アテモヤの輪切りです。クタリでお召し上がり下さい」

「うん。ちゃんと事前に冷蔵庫で冷やしてあるね。あとクタリだとギリシャ出身以外には意味が通じないと思うからスプーンって言おうか」

「分かりました。スプーンですね」

 

 メイド服を着たR蛇娘のリーダーであるオーカの給仕に僕は満足して頷いた。

 庭に面したテラスでメイドの女性に恭しく料理を提供されると裕福なお嬢様気分を味わえるから、最近では遊び半分に蛇娘達にメイド教育をするよう無茶ぶりしたりしている。まあ教官役であるアウルムすらメイドの事をよく分かってないから、なんちゃってメイドに過ぎないんだけどね。僕が満足してるからこれでヨシッ。

 あ、流石に15人もの人手を遊び半分の給仕役に専念させるなんて勿体ない事は出来ないから普通に他の仕事も任せてるよ。あとラミアに伝わる薬師としての修練もアウルムに任せている。こっちの方はガチでやってる。

 

「うん。美味しい。少しパイナップルっぽくて繊維質な感じかな。でも、思ったよりずっと甘いし、舌触りが凄い滑らかだね。流石は森のアイスクリームと称されるだけはある」

 

 地味ライダー2号の灯さんを通じてフルーツマジックの皆に教えて貰った女子高生の間で今トレンドの熱帯果実アテモヤ。

 食感がアイスクリームみたいで甘いのにカロリーがアイスの半分以下のヘルシーな果物として最近人気なんだそうだ。

 

 西インド諸島やペルーなどの中南米が原産地のシュガーアップルの別名を持つバンレイシと、同じく南アメリカのペルーやエクアドルが原産地のカスタードアップルの別名を持つチェリモヤを掛け合わせた品種改良フルーツ。栽培可能な期間が12月から2月までと短い上に熱さにも寒さにも弱く受粉に手間が掛かる栽培が難しい熱帯果樹だと言われている高級果実だ。

 日本じゃ沖縄で栽培されてて通販で買えるんだけど、2kg5千円もするらしい。皮が黒くなるまで常温で数日くらい放置して柔らかくなったら冷蔵庫に入れて冷やして食べる。この熟成期間を置くかどうかで甘さが全然違うとキュウイちゃんが力説してたみたいだ。流石は最年少の現役女子中学生。アンテナが高い。

 

 現役女子高生で幼馴染みのイチゴちゃんとライチちゃんも一緒にアテモヤの話題で盛り上がってたらしい。

 一回り干支が上のミカンさんが微妙について行けてなくて、それを見てた灯さんも何だか無性に悲しくなって二人で酒盛りしたとかどうとか。飲み仲間が出来て良かったねミカンさん。

 あ、女子大生のグレープさんは我が道を行くタイプの人だから何も気にせず差し入れに貰ったアテモヤをツマミに一人でワインを飲むみたいだね。何時もフルマ5専門の研究所か大学院にいて論文を読みふけってるらしい。流石はフルーツマジックの頭脳担当。アナフィラキシーフルーツも彼女の作品みたいだし色々とお世話になる事も多そうだ。

 

「美味しいですけど栽培は難しいのですよね? 熱帯気候以外の地球エリアを新しく設けるんでしょうか」

「ううーん。今の人手じゃ採算が合わないし、やるとしても箱庭の住人をもっと補充してからかなぁ。蛇娘の皆が加わってくれてやっとトロピカルフルーツの採取に余裕が出来たぐらいだしね。その余裕も山羊デーモンを新しく購入したから消えたし、そろそろ地球から人間を買おうか」

 

 一緒にテラスでアテモヤをつついていたアミールの言葉に僕は3Dウィンドウのショップ画面を呼び出した。

 今では当たり前のように人間がPL間で売買されるようになってきている。特にインベーダー陣営のクローン人間が魔素で売られている事が多い。魔法少女でもない単なる人間なら一人400魔素ぐらいの値段だ。たとえ普通の人間でも特殊な技能を保持してたりすると値段が跳ね上がるらしいけどね。繊細な職人の手捌きや感覚なんかを再現する事は宇宙人にも難しいんだってさ。

 逆に面の皮を再現する事は容易だから愛玩用クローンは大量に出品されてる。Rデーモンの値段としては微妙に高いと思うけど、洗脳が施されているクローン人間は地球から浚われただけの一般人とは違い従順で扱い易く色々と便利なんだとか。綺麗に着飾られている女性の写真が大量にコピー商会のショップページに載っているね。

 

「試しに一人買ってみようかな」

 

 ただ、掲示板の箱庭スレでもっともらしく言われてる事なんだけど、クローン人間は洗脳装置で脳に処置を受けてるせいで領民にするには微妙らしいんだよな。根本的な価値観がインベーダーの科学至上主義に染まってるらしくってデーモンに信仰心を抱きづらいようなんだ。

 大量購入しても本当に作業用の人手確保にしかならないって訳。

 

「クローンの場合、人間としての過去がないから眷属化した時も神秘値が低くてRデーモンになるか微妙らしいんだよね。400魔素なんて割に合わないかなぁ……ん?」

 

 

――――――――

 

〇骨董ハンターfdal4-σ2g9さん

・コーカソイドの少女 千ドル

 交通事故の影響で植物状態。相乗りしていた家族も死亡済み。

 後始末の為、密かに売却するよう依頼されている。

 

――――――――

 

 

 うわ、何というか社会の闇を見た感じだな。

 この依頼をした人間って事故相手か病院の人間か、それともまさか親族だったり……。

 ろくな想像が出来ないね。顔に包帯が巻かれてるせいで容貌も分からなくて痛々しいし彼女を購入するのって食肉目当てのミュータントくらいなんじゃないかな。

 

 値段は日本円で10万ちょいか。十分買えるな。

 でも、植物状態か。脳死の場合は現代社会じゃ死亡判定されるんだけど眷属化で治せるのかな。

 うーん。ま、試すだけ試して見ても良いか。このくらいなら端金だしさ。

 

「購入」

 

 よし振り込み手続きまで進めた。

 これで彼女は僕の物だね。競合相手がいなくて助かった。

 

 

◆◆◆

 

Rライトエルフ(1/10)

有利特徴:精霊魔法+

不利特徴:食性制限-

 

白い肌と尖った耳が特徴の元人間。

故郷を捨てデーモンに降った種族であり、精霊との親和性が高い。

 

◆◆◆

 

 

 そんで眷属化の結果がこれ。

 重傷を思わせる表記は何処にもないから治療は出来たと思うんだけど、やっぱ肌の色は生前から変わらないんだね。

 しかも名前がライトエルフか。肌の色以外はダークエルフの説明文と全く変わらないんだけどね。明るい暗いと翻訳するんじゃなく、光と闇って解釈されたらマズい気がするな。別にダークエルフの娘達は闇属性って感じは全くしないんだけどさ。日本人だって同じ肌色の隣人を陽キャ陰キャって区別して争うからなぁ。

 将来、何らかのトラブルが起こるのは確定しているような気がする。

 

「リリース」

 

 だからってアイテムボックスの肥やしにする訳にはいかないと彼女をカードから解放した。

 フワッと控え目な白い光が舞ったら目前に白磁の肌と金髪碧眼の美少女が立っていた。

 年頃はアミールと同じくらい。ビスクドールみたいな可憐な娘だ。

 

「あ、私……」

「何があったか覚えている?」

「はい。まるで夢を見てるようでしたけど、私。わたし。ずっと、意識はあって。意識はあったのに。聞こえてたのに」

 

 周囲の声が聞こえていたパターンか。運の悪い。

 植物状態になった、重度の昏睡状態に陥っている人間は2種類のタイプに分れるんだ。

 昏睡と覚醒を繰り返す意識が朦朧としつつもハッキリしているタイプと、植物状態だった期間の事をまるで覚えていないタイプ。

 

 彼女は前者で。自分を売り飛ばす算段をずっと聞いていた訳だ。

 しかもこの反応からすると身内の犯行っぽいなぁ。まあ、日本ほど保険制度の整っていない国で植物状態の回復する見通しが立たない患者の医療費を負担し続けろなんて部外者が気軽に言って良い事じゃないんだけどさ。何だかなぁ。

 

 世の無情に溜息を吐きながら黙って彼女を抱きしめた。一応、これでも女神だしね。

 言葉にならない声を上げて泣き続ける彼女を抱きしめて無言で背中をトントンとあやす時間が暫く続いて。

 

「女神様。新しい人?」

 

 ノシノシと大きな身体を揺らしながら歩いて近付いてくるイノシシに跨がったアルマが泥だらけの身体を気にせず目を期待に輝かせて聞いてきた。

 すっかり仲良くなってるね。周囲にいるチィとフゥがアルマの身体に付いた泥を現在進行形で掃除してるのをイノシシ達も気にしてないし。

 

「うん、そうだよ。これから一緒に暮らすライトエルフの、名前は言える?」

「……うっく……ずっ……ぅ……にぃな……です」

「無理をさせてゴメンね」

「いえ……。大丈夫、です」

 

 涙を堪えた碧い宝石のような瞳に至近距離から見つめられてちょっとグラッときた。

 庇護欲を誘うタイプだね。状況も相まって悲劇のヒロインみたいだ。

 

「ニーナちゃん? 私はアルマ。あ、何か食べてる。それは何? オヤツ?」

「アテモヤっていうアイスクリームに似た果実。美味しいよ。アルマの分も残してあるからね」

 

 子供らしく興味が次々に移り変わるアルマに優しくアミールが声を掛けて少し空気が変わった。

 蛇娘のメイド頭オーカが用意してくれていた椅子にニーナを誘導して人心地がついた。

 冷え切った心を少しでも癒やそうとしてるのかオーカが奥からホットココアを入れたカップを配ってくれた。冷えたアイス果実との組み合わせは意外と悪くない。

 

「ありがとう、ございます」

「いえ。職務ですから」

 

「小精霊の皆やイノシシの分は?」

「うっ。女神様。購入したのは2kg分でしたよね。ナフィーサの分も加えると」

「確かにイノシシは雑食でしかもデーモンだし食べられるのか。でも小精霊の数を含めると……。ああいや、大丈夫。食べる分だけなら僕が直に生成できるから。ニーナも遠慮しないでいっぱい食べて良いよ。オーカも蛇娘の皆に持っていってあげて」

「はい……。その。ありがとうございます」

「ありがとうございます主様」

 

 オーカが僕が空中から生み出したアテモヤを受け取り他の娘達に差し入れに行き、ナフィーサが土の調合の仕事から戻り、ティータイムの時間が賑やかに過ぎていった。この騒がしさで彼女の心の淀みが少しでも洗い流せたらなんて思う。


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