魔法少女大乱Online   作:八虚空

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第5話 信仰とは勝者のトロフィーである

「良かった。シュブ=ニグラスの落とし子でも豊富な魔素さえあれば問題ないんだ」

 

 掲示板の有識者による解説を見て僕はホッと安堵の溜息をこぼした。

 解放こそしちゃいないんだけど、僕もSRモンスターに釣られて黒き仔山羊を購入していたんだ。しかも2枚。

 

 他のデーモンより初期魔素は多いし時間経過で増加していってたから、ここは投資するべきだと思い切った。インベーダーの超望遠レンズと潜入偵察機のカメラ映像で魔法少女の実力を思い知らされた後だったし戦力が欲しかったんだ。

 その後、購入者の阿鼻叫喚が掲示板に溢れてめちゃくちゃ後悔したけどね。1000魔素で罠を売りつけられたと思った。

 

 ショップに売り出されていた黒き仔山羊が売れなくなって在庫を抱えたデーモンが掲示板に現れて事態の経緯が判明したんだけど酷かったな。アイテムボックスでモンスターカードとして死蔵するのも、ショップに商品として出品するのも数量制限があったらしく、このままじゃ維持費で潰れるから助けてくれと懇願するデーモンと早く死ねと罵倒する住民達。

 おまけに眷属との子供は野生扱いなのか、兄弟を売り払われて怒った一部の黒き仔山羊が暴れ始めて、それを見たデーモンが売り上げの魔素で他の仔山羊を眷属にして自衛し始め。

 

 最後には売り物にならんなら挽き肉にして魔素に還元してやるわと掲示板で宣言して姿をくらませた。

 相手は貴方のお子さんですよって引き留める良識者もいたけど少数派だったな。そのまま自滅して死ねという書き込みばかりだった。実際、黒き仔山羊を出品していたショップアカウントは消えたし自滅したんだろう。屑に相応しい最期だったのかもしれない。

 

 いや、マジで死んでくれて助かった。下手に生き残ったらURシュブ=ニグラスとSR黒き仔山羊の尽きぬ軍勢を従えたデーモン王が爆誕していたからね。怖すぎ。

 落とし穴はあったけどURの性能はヤバい。戦略を左右する力がある。

 

「眷属の子供は眷属じゃない。高レアカードの扱いは慎重に。魔素さえあれば格上のモンスターでも従えられる。学びの多い事件だったな」

 

 おまけに将来の主戦力カードが2枚手に入った。自分の箱庭だろうと襲われない訳じゃないみたいだし、もうちょっと買い足しても良かったかもしれない。

 そう、このまま引き籠もって箱庭の運営に専念してても必ずしも安全とは限らないんだ。

 

 

 地球の神話でも世界創造に携わった神がそのまま主神となった例ばかりじゃない。

 メソポタミア神話の原初の海の女神ティアマトは殺害された上に亡骸を二つに引き裂かれて天地創造の材料にされ、日本神話の国生みの女神イザナミは醜いと黄泉の国へ死後に大岩で閉じ込められ、ギリシャ神話の大地母神ガイアは子供を化物だと幽閉されて怒り狂って夫や息子を唆して殺し合わせる鬼と化した。

 

 大量の魔素を放出して箱庭の環境を整えるニンフは地母神の立ち位置に近い。

 それでゴブリンやコボルトと意思疎通が取れなくて、信仰心を集められず神秘値が増えないのは凄いフラグ染みてる。

 

 唯一、神秘の蓄積に貢献してくれてるトレントは挿し木をしてクローントレントを生み出さないと繁殖できない。トレントは魔法文明によって品種改良された遺伝子組み換え植物なんだろう。ニンフ程じゃないけど魔素を生み出せるようだし換金目的の商品作物かな。

 

 似たような立場にバナナの果樹がある。

 

 バナナもまた種を植えても育つ事はない。バナナの果実を輪切りにすると中心に見える小さい黒ゴマ。これがバナナの種の名残だ。

 食べられる実の部分が多い子孫を残せない突然変異のバナナを大切に増やして、世界中に根付かせたのがスーパーで売ってる果物のバナナなんだ。掲示板越しにミュータントの有志に協力して貰って調べたネット情報だから間違いない。

 

 で、このバナナの増やし方。何が問題かというと遺伝子的には全く同じ物だから病気で絶滅する恐れがあるって事だ。

 そういう可能性もありますよって呑気な話じゃなく、実際にかつて最も世界で栽培されていたグロスミッチェル種がパナマ病によって大被害を受けて生産量を全体の1割にまで減らしている。

 今じゃパナマ病に耐性があるというキャベンディッシュ種が代替品として全体の半数を占めてるけど、最近になってそのキャベンディッシュ種に感染する新パナマ病の発見が報告されてしまったのだ。

 

 下手をしたらバナナが二度と食べられなくなる。

 

 衝撃に思わず高値で買い取るからバナナを送ってとミュータントの有志に強請ってしまった。ミュータントは魔素とか要らないって断られて断念したけど。

 何とかして日本円を稼がなきゃなんないな。

 

 ああ、いや。バナナの事は良いんだ。よく考えたら地球の食べ物全般が現代社会が崩壊したら入手困難になるし。

 問題なのはトレントも同じ弱点を有しているって事。

 病気になってもトレントは伝承種族だし魔素で健康は維持できるんだけど、そういう状態になったら魔素収支は良くてプラマイゼロ。多分、世話のコストの分だけ赤字になる。トレント繁殖事業に極振りはリスクが高い。

 

 でもトレントが自然に育つのを待っていたら60年から80年は必要らしいし成長短縮に魔素を使わないのは時間の浪費だ。やはり神秘値で考えたら20年で成人になる人間とは比べ物にならない。

 

「人間が欲しい。何十億もいるし、ちょっとくらい浚っても構わないのでは?」

 

 やっべ原作のデーモン達の気持ちが凄い分かる。人間、便利すぎ。副業としてトレントの世話を任せたらめっちゃコスパが良い。

 まあ、魔法少女を敵に回すリスクに釣り合うかと言われたらNOだけどね。

 

 

 でも例え地球に攻め込まなくても戦力は整えなきゃならない。箱庭は次元の壁で遮られているから意図した侵略の可能性は低いけど、偶に漂流物は流れてくるから万が一はあるってトレントも言ってたし。

 そう、恐ろしい事に崩壊した箱庭から放り出されたシュブ=ニグラスや黒き仔山羊の群れが、次元の向こうから偶然うちの箱庭にやって来る事も可能性としてはあるらしいのだ。マジかよ。

 

 でも、そうやって外敵を警戒して高位のモンスターを繁殖させると箱庭内に反乱分子が湧く可能性があるとも思うんだよね。

 

 ニンフは膨大な魔素を放出してるから実力のあるモンスターを養う事自体は容易い。手に入るかどうかは兎も角、入手後の魔素不足の心配はいらないだろう。どうにかしてニンフと高位モンスターをバランス良く増やして共存共栄を築く。これで最初は上手く行くはず。恐らくそうやって精霊種がこの世界を広げていったんだと思う。

 

 だけど、実力が明らかに劣る種に野生と変わらない高位モンスターの子供が何時まで黙って従うだろう? 従ったとしても信仰心は別に向かうんじゃない?

 それが不安。高位モンスターの信仰は実力に準じて質が高く神秘の蓄積も早いらしいし。多少の時間は覆してしまう。

 多くのニンフがそうやって下克上をされたから今の被差別種族という地位に甘んじているんじゃないかという気がしてならない。

 

「戦力は揃える。自力も上げる。両方やらなきゃならないのがデーモンの辛いところだな」

 

 ふっと格好付けて、だから自力を上げるには高位モンスターの信仰が必要なんだってと自分に突っ込んだ。

 ん?

 高位モンスターの信仰を得るには畏怖される程の強さが必要。

 畏怖される程の強さを得るには高位モンスターの信仰が必要。

 

 妙だな。詰んでるように見える。


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