コバルトインゴットの銀河帝国企業への売却ルート確保に成功して僕は思わずニヤッと笑み抑えきれなくなった。詐欺行為をした訳じゃないんだけど、金メッキを施された石を金塊だって売りつけたような気分。魔素コーティングされた特殊鉱石素材と言えば凄そうに聞こえるけど要はデーモン産鉱石を格好良く言ってるに過ぎないからね。次元の狭間に存在する箱庭の物質は全てが魔素コーティングされてるようなもの。デーモンにとっちゃ極普通の鉱石と変わらないんだ。
まあ、デーモン産鉱石で作られた武具は逸話を蓄積すると強化されていくから魔素コーティングが全くの無価値な訳じゃないんだけど、数打ちの量産品がそんな逸話を積める訳がないから大して意味はない。腕の良い職人が手掛けて始めて本領を発揮する訳。で、腕の良い職人は霊山や聖地とかから産出した素材の段階から厳選された物で武具を作るから、普通の鉱石には見向きもしなくてさ。コボルトのウンコ石なんてろくに売れないんだよね。
うん。純度１００パーセントのコバルトインゴットだって説明してもデーモン国家じゃ何処まで評価されるか分かんないし、やっぱインベーダーに売るのが正解だね。地球人には魔素コーティングを活かせるだけの技術はないから、これまでに売り払ったコバルトも普通のレアメタルに多少、色を付けるくらいだったしさ。レアメタルは何故か暴落してるし。現金に困らなくなった今、生産量がさほどないコバルト鉱石を安値で売るのは勿体ないと思ってたんだ。
「特殊な生産過程を経てるからかコバルト鉱石は肥満オークさんのとこから仕入れた鉱石より魔素が豊富で、黒き仔山羊の魔素熟成を必要としないから一番効率よくインゴット化できる。それでコボルトの餌は内包魔素が豊富な肥満オークさんとこの屑石を与えるのが良い。ウンコに含まれるコバルトの比率が目に見えて違う。それで地球人に魔素コーティングなんて意味ないから高値で売れる銀河帝国に魔素コバルトのインゴットを売り鉄鉱石を仕入れる。仕入れた鉄鉱石は黒き仔山羊によって不純物を取り除き鉄の純度を上げ地球に売却。そして地球から稼いだお金で色々と今後に役立つ物を仕入れて箱庭を発展させる……。あ、確か肥満オークさんも地球の紙幣を欲しがってたよね。他にも地球のお金を欲しがってるデーモンＰＬは多い。円で魔素を買う事も可能かもしれないな。うん。良い循環だ」
経済はこうやって循環して回せれば弾みが付いてドンドン大きくなっていくから面白い。
中国からヨーロッパへの貿易航路であるシルクロードは一種の伝説になるほど儲かったみたいだし、ショップやメールの添付機能によって世界を超えて貿易が可能なＰＬはまさしく金のなる木なんだ。需要の違いを把握するまでが大変だったけど、これからはもうお金に困ることはないぞ。
まあ、エレクトロワイフさんとの密貿易がバレたり地球との超高純度鉄交易を日本のマスコミにすっぱ抜かれたり黒き仔山羊が亡くなったりしたら循環は崩壊しかねないんで他の事業展開を疎かにしたら駄目だけど。資源産出国が資源の枯渇と共に落ちぶれるのは有名な話だ。一つの事業に頼り切った国家経営はいずれ破綻する。これを経済用語で資源の呪いと言う。
「おっと、まだ超高純度鉄の販路確保に成功してないんだしぬか喜びしちゃ駄目だ。うん」
でも１億円ものキロ単価で取引きされてる超高純度鉄を割り引いて販売すると魔法少女の経路を通して交渉を持ちかければ頷かないはずがないと思う。
特にこの戦時下でＳＲ級の戦力となる強化人間の必須材料とか。もうそれ重要な戦略物資じゃんか。キロ単価１億円ってつまり先進国の間で超高純度鉄が取り合いになっているって事でしょ。敵陣営のインベーダーから購入しちゃう程にさ。キロ１億円の高額だろうと現物がない程に需要が絶えない訳だ。魔法少女クローンならもっと安く仕入れられるだろうけど、決戦戦力の魔法少女に睨まれるから表立っては使えない。というか、暴走しそうで怖くない？ それならまだ高く付いても既存の軍人を強化して部隊編成した方が良い。
「ふふふ。マジで黒き仔山羊を買っといて良かった」
環境改変型デーモンだったらしい黒き仔山羊は今、巣作りの最中で火星のオリュンポス山の土を魔素熟成してるから体内の収納スペースにあまり余裕がなくて分解機能の方しか使えてないけど、２，３ヶ月もすれば巣作りも終わるらしいから地球の物品を魔素コーティング可能だ。トレントと違って取り込まなくても物品の魔素濃度を飛躍的に上げる事が可能な黒き仔山羊にはまだまだ色んな使い道があると思う。デーモン国家の売却価格は７千魔素くらいだって情報がスレに書き込まれてたのを発見したけど、それじゃまだ安いと思うね。是非、居心地の良い巣を作って増えていって欲しい。
というか、火星の土が触手生物にとって最適な住居になるってテンカスさんの影響かな。確かに火星人は百年くらい前からタコのイメージだけど。銀河中にテンタクル星の出身ですと嘯いた影響は大きいと思う。
「地球エリアの熱帯気候維持も火星の土を触媒にしたら楽になったし土コレクションも無意味じゃなかったな」
空中の酸素濃度も地球から仕入れた空気を解放したら上がったみたいで少し快適になった気がするし。やはり地球との交易は実利が大きい。
空気に関しては家電製品を揃えるより先に補充しとくべきだった気もするけど、デーモンの身体だと気のせいかなってレベルにしか感じないんだよね。人間とはやはり別の生き物だな。
「そういえばお風呂の電気はあの小型発電機の電力で賄えるのかな。それに設置工事とか僕には出来ないし浴室ごと業者に頼む必要が……いっそ、一軒家を地球で建築した奴をカード化して送って貰う？ 僕のお手製ログハウスより居心地良いだろうし」
もしくはそういう技術者を地球から誘致するかだね。箱庭内に技術者を抱え込む事のメリットは大きい。
デーモン国家や銀河帝国の技術者もお金さえあれば手に入りそうな気がするし夢が広がるね。科学文明と魔法文明の良いとこ取りを目指すなら、やはりアステカ帝国の技師奴隷を購入するのが近道かな。アウルムにオリュンポス帝国以外のデーモン国家に出向して貰うのは危険な気がするし、新しく販路を構築しなきゃ。それにはやっぱりお金が要る。
「よし。まずは依頼されてたアナフィラキシーフルーツの果樹トレント栽培から手を付けよう。納品実績を積んでパイプを太くしないと」
もうすぐラミア一族から追加のトレントも送られてくるし魔素濃縮フルーツの種類も増やさないとね。
「女神様、この陶器の入れ物はなんでしょうか？」
「薪でお湯を沸かせるポータブルバスタブ。野外キャンプ用のお風呂だよ。燃料も加味すると一番これがうちにちょうど良くてさ」
そう僕は言ってバスタブへとアイテムボックスにカード化して仕舞っておいた淡水を注ぎ込んでいく。
鈴原に相談して正解だった。わざわざ高いお金を支払って業者に頼まなくてもお風呂に入りたいだけなら日本には昔懐かしの五右衛門風呂があるんだよ。他人に言われるまで完全に盲点だったな。
ネットで調べて貰ったらティーカップみたいな小洒落た代物があったから思わず衝動買い。掲示板機能にカメラ撮影モードがあって良かった。めっちゃ可愛い。超高純度鉄の販売が実際に成功するまでは現金の余裕もないし、このくらいがベストだね。
本格的なお風呂は後々、専門家の入手後に着手しよう。
「この飛び出た鉄のバネみたいな所に燃えた薪を入れてお湯を沸かすんですね。確かに木々が生い茂ってる箱庭内では一番使い勝手が良さそうです。火の小精霊に協力して貰えば火付けに関しても容易いですし。野外で使用するには水の補給に難がありそうですけど」
「うん、そこが一番の難点だったみたいだね。山や海の大自然で贅沢なお風呂を満喫しようとしても水の運搬が大変で、結局は水道が使える文明的なとこでしか使用されない訳。外でお風呂に入りたいだけならビニールプールみたいな数千円の安くて狭いタイプの方が人気。四人くらい入れるゆったりした広さが逆に徒になって売れ残ってた」
僕の場合、水汲みもカード化異能で一瞬で終わるから楽々。これなら毎日入っても良いな。
ああ、一応、目隠しや防犯用に周囲に木製の仕切りを作ろう。今はまだ女ばっかだけど、そのうち男奴隷の購入もする予定だしさ。
「湯気が出て来た。もう入っても良いの？」
「いや、アルマ。私達は後で入ろうか。まずは女神様からだ」
「え？ あ、うん。そうだね」
そういえば男でもないけど、あそこに余計な物が付いてる女神が一匹いたね……。
うん。健全な意味で混浴するにはちょっと色々し過ぎてるし、いかがわしい意味で混浴する姿をアルマに見せる訳にはね。悲しくない。悲しく何てないぞぅ。
「ふぅ。この身体が温まる感じ。久しぶり」
檜の木板の覆いの中、お風呂に入るのはまるで露天風呂に来たみたいで気分が良い。小精霊の数に余裕が出来たら本物の露天風呂を用意したいね。
これで空に星空が見えたら最高なんだけどな。太陽結晶が箱庭の下方に沈んで暗くなる夜は一切の光源がない完全なる暗闇が世界を覆う。文明の灯火が弱々しい今、夜は怪物の時間だ。遠くにウルフ達の遠吠えが聞こえる。もしかしたら野生のゴブリンでも侵入して来たのかな。箱庭碑文による補正があって尚、凶暴な個体が完全にいなくなった訳じゃないからさ。偶にこうやってウルフ達が狩りをしてる事がある。
トレント広場近くまで入り込んだ強い個体、もしくは不運な個体は肥満オークさんの奇祭を経験したイノシシ達によって歓迎されるからエルフ達が危険に陥った事はあれからない。今はそこに最終防衛ラインとして黒き仔山羊まで加わる訳だ。僕やアウルムにだってこの陣容は突破できない。ちょっと過保護が過ぎるかもね。多少は戦いの経験を積ませた方が良いのは分かりきってるんだけどさ。
でもアミールやアルマはともかくナフィーサは襲われて抗おうともしなかったらしいし、どうしても向き不向きはあるからなぁ。多分ライトエルフのニーナも無理だろう。まあ、デーモンだからって非戦闘員が全くいない訳じゃない。そこは地球文明と同じくデーモン国家も防衛部隊を充実させて対処している。内政要員や生産職だろうと戦闘力が要求される東勝神州のような極端な国家は少ない。
ちなみにＲゴブリンであるウィッシュだけは携えたレガリアを見せれば厳重な警戒網を無視して僕に謁見できるようになっている。僕にしか対処できない緊急事態がゴブリン集落にあった時の為に特別に許可した。念の為ウルフの付き添いが必須だけどね。コボルトにも似た役目の人材が欲しいんだけど、まだＲに進化した個体が出て来てないんだよなぁ。いっそ、デーモン国家から新しく購入しようか。でも部外者にイキナリ頭ごなしに指図されるのは嫌だろうし、それで新しいＲコボルトが下手な支配をしようもんなら折角の僕への信仰が途絶えかねない。時間が解決するのを待つのが一番かな。
「め、女神さま。お背中を流しに来ました」
おずおずとした声に振り向けば洋服を脱いだ一糸まとわぬ姿でニーナが耳の先まで真っ赤にして立っていた。
「私の番ですと伝えれば分かるとナフィーサちゃんが……」
「そ、そっか」
もしかして前に伝えたハーレム計画。その構成メンバーとしてニーナを買ったとナフィーサに思われた？
いや、アミールの時もそういえば順番がどうとか言ってたな。僕のいないとこでどんな話をしてるんだろうか。
あのねナフィ。別に僕はさ、箱庭の女性全員をお嫁さんにしようとしてる訳じゃないんだよ？
真っ白な裸体を恥ずかし気に隠すニーナを見れて凄い役得だとは思ったけども。
うん。説得力ないなって自分でも思った。
教育に悪いから、まだそっちの情緒が発達してないアルマだけは巻き込まないよう後で言っておかなきゃな。
手当たり次第に女を襲いかねないと誰もが納得したギリシャ主神のような逸話だけは残さないようにしないと……。
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