空が綺麗だ。雲一つない空。改めてじっくり眺めると案外綺麗に感じるんだな。
魔法とは、魂の強さ。気持ちの強さ。努力の数。これらによって強い魔法を使える。
しかし、超えられない壁がある。それが『ジダヌス』。魂、気持ち、努力の数、そんなものは彼らの前では一切の意味を持たない。だから言われる、目の前にしたら逃げろと。
配属されて早一ヶ月。先輩に扱かれ身体中が悲鳴を上げている。それは僕の同期も同じ。
アディワク。同期の名前。軍は寮で生活する事を義務付けられており、同じ隊の彼が同室となった。日に焼けた肌、髪を後ろに撫でつけたオールバックの男。身長は僕よりも高い180センチ程だろうか。最初は近寄り難い雰囲気があったが話してみると案外気さく。
「オレもうボロボロや」
昼休憩をしていると隣に寝転がった彼が話しかけてくる。
「僕なんかズタボロだよ」
それから休憩中は他愛もない話で時間を潰す。
「そういえば医療部隊にめっちゃ可愛い子おるらしいで」
それは興味深い。
「詳しく教えて」
「確かミレムナズリって名前だったかな」
なんでも僕らの三個上の先輩で、髪を肩口で切り揃えた小柄な人だそうだ。
「髪に緑のメッシュ入ってて一目でわかるらしいで」
今度コッソリ見に行こう。
翌日の昼。トイレに行くと言って医療部隊を見に行く。隣には一緒に行くと言ったアディワク。
「あそこが医療棟だって」
見た目から清潔感が溢れ出ている。人を治療する所であるから当たり前であるが、ここ一ヶ月居た場所と比べるとより一段綺麗に見える。
「君たちどうしたの?」
建物を見ていると後ろから声をかけられる。振り向くと目当ての人がいた。
「訓練で傷が出来たんですよ。あと筋肉痛が酷くて」
一応それらしい理由を述べる。
「君たち見た事ないけど新人さんかな?」
そう言うとミレムさんが部屋に案内してくれる。建物に入って右に歩く。四個目の部屋が簡易治療室だそうだ。
「とりあえず君から診るね。名前は…」
「アディワクです!よろしくお願いします!」
治療を受ける人の割に元気だ。それから一分も経たず治療が終わる。
「軽い傷に軽度の筋肉痛だったよ」
あれだけ厳しい訓練を受けてて軽度の筋肉痛で済んでいるのか。実は今までの訓練終わりの疲れた表情は演技で僕に合わせていんじゃないのか。
「次は君だね」
「イズキパージです」
僕の場合は二分くらいで終わった。
「パージくんはアディワクくんより少し疲れてるのかな」
やってる訓練の内容は同じ。ならばこの場合は僕の方が真面目に訓練に臨んでいると言えるのではないだろうか。いや、ないか。
「ミレムさん可愛いかったな」
医療棟からの帰り道。アディワクはそれしか言っていない。確かに可愛いかったが。
「もしかして惚れた?」
「ちゃうわ!オレはそんな簡単に惚れへんで!」
多分惚れたんだろう。もしも本気なら応援する。同じ隊の唯一の同期だ。先も長いだろうし。
「自分の心に正直になった方がいいぞ」
小声で否定しているが聞こえないフリをしておこう。
午後の訓練が始まる。入隊してからは体術と筋トレの日々だったが、今日からは魔法を使える。ミレムさんに身体を癒やしてもらったので気分上々絶好調。心なしか学生時代より魂が研ぎ澄まされている気がする。気のせいかもしれないが。
僕に魔法を教えてくれるのはウェジュブさん。入隊して十五年のベテランで、髪をアップバングでセットした歳より若く見える人だ。彼は僕と同じ赤と緑のツーカラーであり、教鞭を執るのに適任である。
「さぁー始めようか」
ゆるりと動くウェジュブさん。その所作一つに無駄の無さが見える。
「より強力な魔法を行使するには強靭な魂や気持ち、あとは努力だな。まぁー今はそんなこと置いといて好きに魔法を使ってみ」
魔法を使う時にはイメージが大事。想像を超える魔法は基本的に使うことができない。
イメージしろ。相手を焼き尽くす炎。苦痛無き終わり。
〈厭離穢土〉
前方に設置された木製人形が火に包まれる。時間にすれば一分も経たない。しかし、火が消えた後に残るは灰のみ。
「やるねぇー。けど実戦では相手は魔法使い。まだまだそんな程度じゃ防御されるよー」
僕の今出せるイメージで、最高出力で放った魔法はまだまだだそうだ。
魔法の相性。それは実力が拮抗している時にのみ存在する。もしも相手が自分より実力のある者なら、例え有利な魔法を放ったとて押し負ける。それが魔法による戦闘の常識。
本当にそうなのだろうか。
ただの魔法使いが『ジダヌス』を一対一で圧倒した伝説がある。倒し切ることはできなかったそうだが。
それは伝説として今も語り継がれている。今から三百年前ということで本当の話かどうかは不明であるが、多くの人が知っている話。
今は存在しない大国「ビアリフ」。その国が領土拡大を目論んで仕掛けた戦争。相手は小国「メンデレヲ」。兵力で圧倒したビアリフは勝利を確信したそうだ。しかし、メンデレヲにはある男がいた。
「ティカザフ•ヒストリア」。ただの魔法使いとして、人類で初めて神の領域に到達した男。奇跡の存在。
彼が戦場で台頭をしはじめてからはメンデレヲが優勢となり、戦争を勝利した。その戦争で彼は『ジダヌス』を圧倒し、「奇跡の魔法使い」と呼ばれるようになった。
彼の死後、自らも奇跡の存在になろうとする者が現れては消えていったそうだ。
『ジダヌス』を除き、歴代最強の魔法使い。それが「ティカザフ•ヒストリア」という男。
「まぁーその戦争があったのは本当だしメンデレヲが勝ったのも本当だ。だけどそんな男がいたという証拠は今まで一切見つかっていない。伝説は伝説のまま」
ウェジュブさんは楽しそうに話す。
「今後本当にそんな人が現れたら伝説は真実に変わりますね」
「そうだな」
魔法の訓練は終わり帰路に着く。
「パージ聞いてくれよー。オレについてくれた先輩鬼だった!魔法を打ってこいって言うから打ったら反撃されたんだぜ!」
それは可哀想に。アディワクは身体中ボロボロで文句を言っている。
「飯食って風呂入ってさっさと寝よーぜ」
ボロボロだが元気そうだ。弱音は吐くが辞めたいとは言わない。例年であればこの時期に三分の一は郡を辞めていくそうだが、この男は辞めないだろう。そう確信した。
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