PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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9:Her behavior is unpredictable…?

5/7 土曜日 晴れ

 

 

 清廉な白い壁に囲まれ、消毒液と薬品が混ざったような独特な臭いが蔓延する病院。

 突然、この場に呼び出された雪雫は、訝し気に眉を顰めながら、渡された物を見つめていた。

 

 

「班目展……?」

 

「ああ、君も知っているだろう。日本画界の巨匠。世界にすら名を轟かせる生きる天才、班目一流斎。その展覧会のチケットだよ」

 

「………なぜ、私に。」

 

「彼と私はちょっとした交流があってね。是非に、と渡されたのだが、生憎仕事が忙しくて行けそうにない。そこで、日頃からお世話になっている君に、と思ってね」

 

 

 そう語るのは少し腹の出た中年の男性、大山田省一。

 背の低い雪雫を見下ろしながら、その油の浮かんだ顔に笑顔を浮かべる。

 

 

「なぁに、そう警戒しないでくれ。気分転換に、と思ってね。君も君で多忙だろうから」

 

 

 ニタリと粘着質な笑顔を浮かべる彼に対して、嫌悪感を隠すこと無く、眉間に眉を寄せる。

 

 

「…………そう、それだけなら、帰る」

 

 

 口早に言葉を紡いで身を翻し、雪雫は白く長い廊下を進む。

 

 

 

「……ああ、そうだ」

 

 

 ふと、思い出したかの様に大山田は声を上げた。

 わざとらしく、タイミングを見計らったかの様に。

 

 

「来月から何だが…、少しばかり額を増やして欲しい」

 

 

 距離にして20m程、離れているのにも関わらず、その声はハッキリと雪雫の耳に届いた。

 

 

「……どうして? 貴方の言う人付き合いを続けるためには、十分の筈」

 

「そっちでは無いよ。また別だ。どうも最近、規制が厳しくてね。全く、薬を横流しするのも楽じゃない」

 

「………」

 

「彼女に今まで通りの暮らしをさせたいのなら…、わかるね?」

 

「………っ」

 

 

 雪雫は言葉を紡ぐ事無く、やはり足早にこの場を去った。

 

 

 

 

 人々の往来が忙しなく行われる渋谷の中央通りを雪雫は歩く。

 すれ違う人は様々で。故郷とは違って、毎日沢山の人々がこの場に訪れていることを改めて実感させられる。

 

 

「………最近増えた」

 

 

 人の波に流される様に歩みを進めながらも、視線は進行方向では無く、一通りの少ない裏路地へ。

 

 そこに居るのは煙草を咥えながら、ハイエナの様な目付きで表通りの人々を観察するガラの悪い男達。

 半グレというらしい。

 半グレ、暴力団に所属せずに犯罪を行う組織の総称。

 一般人からしてみれば同じに映るかもしれないが、暴力団よりも半グレの方が一線を越えやすいらしい。

 

 要するに、統制の取れていない野犬の群れ、だ。(大宅談)

 

 

「ん」

 

 

 目が合った。

 どうも見つめ過ぎてしまったらしい。一人の男がマジマジとこちらを見ている。

 

 触らぬ神に祟りなし。

 視線を外し、そそくさと人の波に紛れて駅へと向かう。

 

 スクランブル交差点を抜け、演説準備をしている政治家の横を通り、ハチ公前に差し掛かった、その時。

 

 

「いやぁ~! 何だあのとんでも空間!!」

 

「渋谷の地下にあんな場所が……」

 

「刺激的だったな」

 

 

 最近よく見かける3人組と黒猫が、突如現れた。

 文字通り、何も無かった空間から、いきなり。

 

 

「……ドッキリ?」

 

 

 雪雫の呟きに、3人と1匹がぎょっとした表情で彼女の顔を見つめる。

 

 

「あ、天城さん……」

 

「え、えーと…、これはね……、その…」

 

「マジック……、そう! マジックの練習で!」

 

「マジック……?」

 

 

 「余計にややこしくするな!」と杏が竜司に突っ込みを入れているその横で、雪雫はただただ小首を傾げる。

 

 

「流行ってるの?」

 

「「「へ?」」」

 

「だからマジック……流行ってる?」

 

 

 3人と1匹はポカンとした表情のまま、雪雫を見つめる。

 

 

「私の友達もマジックの練習って言ってた。その時はテレビの前だったけど。」

 

「おー……、おう?」

 

「りせにコツ、聞いてみる。練習頑張って」

 

 

 5人の中で漂う微妙な空気感に気付く事無く、雪雫はそう言い残してこの場を後にする。

 

 

「……天然、なのか………?」

 

「何かと勘違いしてたね…。はぁ助かった…。」

 

 

 緊張の糸が切れたのか、4人は大きく溜息を吐いてその場に座り込む。

 

 

「今後はもう少し様子見が必要かもな……」

 

「って言ってもよぉ、向こうからこっちの様子見れなくね?」

 

 

 4人は雪雫が居なくなった後もその場に留まり、意見を交わす。

 しかし、答えは出る事無く、ただ日が暮れていくだけだった。

 

 

 

その夜

 

 

「前にジュネスでやってた何も無い所から出てくるマジックのコツ、教えて?」

 

「うぇええい!?」

 

 

 

◇◇◇

 

 

5/8 日曜日 晴れ

 

 

 

 その日、激震が走った。

 

 

 

天城雪雫@I_LOVE_RISE

今から新曲3つ作る。

今月中に公開する。ぶい

 

 

 

 きっかけはSNSに投稿された一つの呟き。

 まだ日が昇り始めて間もない時間帯にも関わらず、その投稿は大きな反響を呼んだ。

 喜びの声を上げる者。声援を送る者。雪雫の身体を労わる者。

 その反応は人それぞれだ。

 

 そんな中、話題の人物と一番近しい存在であり、自他ともに認める最古参ファンである少女。久慈川りせは現場へ向かう新幹線の中で、狼狽えていた。

 

 

「…あー………、マジ?」

 

 

 一抹の不安を拭えない。そんな複雑な表情を浮かべながら、紙芝居の様に変わっていく景色を眺める。

 

 

「………大丈夫かな…」

 

 

 

 

 

【朗報】雪ちゃん、本気を出す。

 

 

1:名無しの雪ファン 2016/5/8 5:48:12 ID:Txz17H6bn

 

朗報:雪ちゃん、重い腰を上げる模様。

 

 

 

2:名無しの雪ファン 2016/5/8 5:49:33 ID:Y58Y78Ot7

 

新曲きちゃぁ!

 

 

 

3:名無しの雪ファン 2016/5/8 5:50:49 ID:XncPcSSpv

 

前のが12月だったから、5か月ぶりか。

 

 

 

4:名無しの雪ファン 2016/5/8 5:52:14 ID:v2AlN/s2l

 

一気に3曲とかようやるわ

 

 

 

5:名無しの雪ファン 2016/5/8 5:53:26 ID:DaJYFRurJ

 

今回はちゃんと事前告知出来ててえらい

 

 

 

6:名無しの雪ファン 2016/5/8 5:54:40 ID:Qbi2LGI1L

 

確か今年から高校生だったよな?

新生活落ち着いたのかな

 

 

 

7:名無しの雪ファン 2016/5/8 5:56:15 ID:ay97i+OzM

 

年末から音沙汰無いと思ったら、一気に三曲リリースとか戦略性も何も無くて草

 

 

 

8:最古参の雪ファン 2016/5/8 5:57:31 ID:akMS+0nVT

 

≫6 雪ちゃんなら無事に引っ越し終わって、高校生活を満喫してるよ。

制服姿が可愛すぎてヤバイ。流石私の雪ちゃん。

 

 

 

9:名無しの雪ファン 2016/5/8 5:58:47 ID:rP0wutCdc

 

≫8 おはりせちー

 

 

 

10:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:00:06 ID:WLNYm55dW

 

≫8 定期的に現れるけど、本物……、な訳ないよな?

 

 

 

11:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:01:43 ID:nkmQnlQ/j

 

≫10 大人気アイドルがこんな所に居る訳無いだろ!

……ないよな?(過去のアーカイブを観ながら。)

 

 

 

12:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:03:00 ID:83q14lx/P

 

≫11 無いとも言い切れないのが何ともね…

りせちー、雪ちゃんになるとネジ何本か飛ぶらしいからなぁ……

 

 

 

13:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:04:31 ID:6LAX/zQdz

 

雪ちゃん投稿少ないから、純粋に心配になるときある

生存確認する方法でオススメ無い?

ちな社会人なのでゲリラ配信はキツイ

 

 

14:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:05:45 ID:Hx3wHK/36

 

雪ちゃんのアカウントのIDどういう経緯であれに……?

 

 

 

15:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:06:59 ID:iLMcWodDS

 

≫13 りせちーのアカウントがオススメ。よく雪ちゃんの事呟いてるし、たまにツーショットも上がる。

 

 

≫14 アカウント作る時にりせちーが設定したらしい。

 

 

 

16:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:08:14 ID:7SZJuTJOA

 

≫15 サンクス、フォローしてみるわ

 

 

 

17:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:09:37 ID:C1THUZWLU

 

歳下の女の子にデレデレのアイドル……。

悪くないわね

 

 

 

18:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:11:11 ID:hYbZzx93x

 

りせちーの雪愛は営業なのかガチなのか……

 

 

 

19:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:12:44 ID:TykxS9UU2

 

≫18 ガチだろ

 

 

20:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:14:10 ID:Mqfj26RIc

 

≫18 流石にガチ

 

 

21:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:15:36 ID:dPNNsSZca

 

≫18 ガチ

 

 

22:最古参の雪ファン 2016/5/8 6:16:54 ID:1HHMK6ihG

 

≫18 は?営業な訳ないじゃん

 

 

23:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:18:28 ID:WjyBr0Q1X

 

ほら、本人もそう言ってる

 

 

 

24:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:19:39 ID:7co/qBu44

 

≫23 草

 

 

 

25:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:21:07 ID:MvdzVpTYB

 

りせちーの雪ちゃんを見つめる目が獣のそれの時あるからガチ

 

 

 

26:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:22:24 ID:54dB3weCF

 

ついでに一見クールに見える雪ちゃんもガチ

 

 

 

27:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:23:46 ID:vZhu8uTXC

 

≫26 ゲームの生配信中にゲームをほっぽり出して、帰ってきたりせちーのお出迎え行ったもんな……

 

 

 

28:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:25:04 ID:mMJ3e95I1

 

あれは可愛かった

 

 

 

29:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:26:30 ID:wFDvmwZhn

 

りせゆきは神

 

 

 

30:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:27:49 ID:nlWH5HD7j

 

≫29 ゆきりせだろ

 

 

 

31:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:29:16 ID:CJMr8j32b

 

その論争は不毛だからやめよう

2人が幸せならいいじゃない

 

 

 

32:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:30:38 ID:ifCGT93mI

 

それはそうと1人暮らしで高校始まったばっかりなのに、三曲作るとか大丈夫かな

 

 

 

33:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:32:02 ID:plqYC7MC/

 

割とハードスケジュールだよね

 

 

 

34:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:33:15 ID:GkYB0zgrl

 

雪ちゃん、一回エンジンかかると止まらないからね……

 

 

 

35:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:34:32 ID:wRIzwEfmN

 

話聞いた感じ、生活力はあまり無さそうだけど……

 

 

 

36:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:35:51 ID:0Awqgr2fX

 

手料理ご馳走してあげたい

 

 

 

37:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:37:17 ID:c07agHG64

 

 

38:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:38:39 ID:Fnjwx+0Bk

 

 

39:名無しの雪ファン 2016/5/8 6:40:12 ID:ViLLTVAG/

 

 

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

同日 17時

 

 

「ふわぁ…。朝から暇な奴らねぇ……」

 

 

 思わず口から綻びる生理現象を必死に噛み殺しながら、スマホに映る掲示板を眺める。

 

 

「流石に夜勤明けはきついな…」

 

 

 自身の体力を過信してフルタイムでシフトを入れたものの、前日の業務の疲れが残っている様で。

 もう私も若くないってことかな……悲しい。

 

 予約が入らなければ特にやる事も無い。

 この手の仕事の場合、若い子達の方が指名が入りやすいのが世の常だ。

 一応、家事代行サービスだけど。

 

 

「フルで入ったのは悪手だったかな―――」

 

「べっきぃ! 予約入ったよ!」

 

 

 おっと、どうやら物好きが居たらしい。

 さてさて、今日はどんな野郎か。金を持て余した寂しい独身か、行き遅れた芋男か……。

 言ってて悲しくなってきた。

 

 

「はぁい」

 

 

 しかしお金を貰えるなら誰でも構わない。

 私に、そんなより好みをする資格何て無いんだから―――。

 

 

 

 

「いや、マジで?」

 

 

 予約の入った住所が書かれたメモと目の前の建物の名前を何度も何度も見比べる。

 番地…合ってる。

 建物名…、合ってる。

 

 

「……マジか」

 

 

 目の前に聳えるのは天を突くほどの高層マンション。

 24時間常駐の警備員がいるタイプの都内有数の高級住宅。

 

 

「いやぁ……、お金は欲しいけど流石にこれは緊張するわ…」

 

 

 ガチガチになった身体に鞭を打ち、マンションのエントランスへ向かう。

 警備員から突き刺さる視線が痛い。

 そうですよね、不審者に見えますよね。メイド服ですもん。

 

 ここで取り繕っても仕方が無い。

 正直に自らの身分とここに来た理由、目的の部屋を伝える。

 

 対応した警備員の人は何処か不思議そうな顔をしながらも、何処かに連絡を取り、そして私の元へと戻ってきた。

 どうやら家主本人に確認を取っていたらしい。

 

 不思議そうな顔をしつつも、警備員は自動扉のロックを解除して、私を見送った。

 

 内装一つ取って見ても、一生縁が無さそうな廊下を抜け、無駄に頑丈そうなエレベーターを上がる4つ分。

 だだっ広い廊下の先の角部屋。

 

 

「さてさて、どんな嫌味ったらしいおっさんが出てくるか……」

 

 

 恐る恐るインターホンを押して数秒。

 扉の奥からペタペタと軽い足音が響いた後、重苦しい扉が開いた。

 

 

「待ってた。よろしく」

 

 

 顔を覗かせたのは小さな少女。

 白髪で、肌も同じくらい白くて。瞳は真っ赤で。絵に描いたような美少女で。

 

 

「え?」

 

 

 学校で見た事ある少女。

 

 

「ええええええええええ!!」

 

 

 ここに一つ、奇妙な関係が生まれた。




5/7日と言えば、主人公たちが初めてメメントスに入った日ですね
確かストーカー事件のやつを解決してたはず

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