PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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95:Tell me.


 

 

10月11日 火曜日 晴れ

 

 

 

 メメントス。

 曰く、大衆の心が具現化したモノ。集合的無意識領域と言っても良いだろう。全ての人に通ずる場所。大衆の精神とシャドウが蠢く地底にその人物は居た。使い慣れた武器を腰に下げ、黒い仮面を光らせる人物。

 

 

「………」

 

 

 誰かを待っている様だった。静かに目を閉じて、ただ佇む。波風一つすら立たない脳内で、リフレインするのはとある少女の声。

 

 

「………………」

 

 

 反復する。繰り返す。何度も何度も。意図を汲み取れ、言葉を噛み砕け。違える訳にはいかない。応えなければ、意味が無い。

 

 

「………………………来た」

 

 

 そうしている内に、次第に耳に聞こえる足音。遥か闇の中から、静かにゆっくりと響いている。数は一個体分で、間違いなくそれは人間のモノ。確信があった。このイセカイに出入り出来る人間など数える程しかいない。そしてその中で単独で行動する者など……目的の人物に他ならない。

 

 

「─────」

 

 

 精神を研ぎ澄まし、息を殺す。高鳴る鼓動を無理矢理抑えつける。腰の得物に手を添えて、臨戦の体勢を取る。向こうにその気があろうと無かろうと、用心に越したことは無い。

 

 

「……おや」

 

 

 次第に近づく足音。闇から現れるその姿。禍々しさを内包した風貌に、血に濡れた様に真っ赤なサーベルを携えて、男は姿を見せた。

 

 

「どうしてこんな所に居るんだい?」

 

 

 人当たりの良さそうな声、育ちの良さそうな仕草。耳を立てれば好青年。目を向ければその印象は180度変わる。表の顔と裏の顔が同居した出で立ちは、かえってその歪さに拍車を掛けていた。

 そして何時もの様に柔和な笑みを浮かべたまま、男…明智吾郎は問うた。この場に居る筈の無い()()()()()()()に。

 

 

「……答える必要、あります?」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 時はその日の朝まで遡る。

 

 天城雪雫は珍しく早起きだった。普段は覚醒してからベッドから這い出るのにたっぷり30分掛かる所を、5分にまで縮めたのだ。寝間着…として意味を成しているかは正直怪しいシャツを脱ぎ捨て、制服を手に取る。

 

 

「ん……」

 

 

 そう言えば今週から冬服への移行期間だ、と雪雫は手に持つ夏服を見ながら思い出す。段々と残暑も収まり、朝や夜は肌寒い日も多くなってきたこの頃。久方ぶりに冬服を着てもいいかもしれない。幸いな事に、先日べっきぃがクリーニングに出してくれている。

 

 

「こっちに、しよ」

 

 

 さらば夏服、また来年までお元気で。

 今度べっきぃが来たら、またクリーニング頼もう。久方ぶりの厚手の制服に身を包めば準備完了。

 

 

「…………んー……」

 

 

 とはいかなかったらしい。視線の先、部屋の隅にあるドレッサー。

 思案顔で暫く見つめた後、雪雫は引き出しを開けて普段はあまり使わないヘアゴムを手に取る。自身のきめ細かい髪を束ね一纏めに。所謂ポニーテールを作れば今度こそ準備完了。

 寝室の扉を開け、リビングへ向かえば───。

 

 

「何その魅力的なうなじは!?!???」

 

 

 朝からとても元気な幼馴染が居る。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「お……安定してる安定してる」

 

 

 とても元気な幼馴染こと、久慈川りせは雪雫の左耳をくにくにと遊びながら言う。穴を固定させる為のファーストピアスがあった場所、白い柔肌に出来たほんの小さな穴を見つめて。

 

 

「……そ、そう…。それ…でっ、ん……付けれ、そう?」

 

「…あー………、うん…。余裕…だと思う」

 

 

 何かエロい。こう、くるものがある。やや内股気味に摺り寄せているその太もも。正直、指を……いや、顔を突っ込みたい。

 

 

「ん"ん”っ!」

 

 

 いやいや、いかんいかん。とりせは首を振って邪念を吹き飛ばす。朝からこんなピンク思考になる訳にはいかない、と。

 

 

 

「えっと……それじゃあ…付けるね」

 

「…………ん」

 

 

 雪雫からプレゼントを貰って約一か月。寝かせに寝かせたペリドットのピアスは、すんなりと耳に収まっていく。小さくて白い耳にキラリと輝くオリーブグリーンの宝石。より彼女の儚さを引き立てる様に存在を主張するソレは、非常に良く似合っている。可愛さが天元突破して、噛り付きたいほどだ。

 

 

「…えへ、やっとお揃い、だね」

 

 

 嬉しそうにはにかみながら、雪雫は私の耳を撫でる。そう、実は我慢できず先走って付けてしまったのだ。撮影の仕事の際、どうしても皆に見せたくて。それを見た時の雪雫の「私も早く身に着けたい」と不満そうに頬を膨らます顔と言ったら、もう半端無い破壊力だった。

 

 

「えへへへ」

 

 

 感情を表すようにポニーテールが揺れる。普段は露出されない耳に、うなじに目を奪われる。前者にはピアス、後者にはチョーカー。両者とも私の提案によって、雪雫が身に着けているもの。アクセサリーを贈る。その行為自体は普通の事で、誰でもやっていて。わざわざ意味とか意図とかを、忍ばせてやっている人はそんなに居ないだろう。でも私は違う。渦巻く下心が、どうしても行動一つ一つに意味を与えてしまう。

 それは───。

 

 

「マーキング、増えたね」

 

 

 歳相応の朗らかな雪雫の笑顔が、途端蠱惑的な笑みへと変わった。口角は三日月の様に歪み、真紅の瞳は細められ、私を見上げている。

 

 

「物なら、()()()()()()()

 

「──な…何を突然………」

 

「私知ってる。りせがたまに…寝てる間に付けてるの」

 

 

 雪雫は蠱惑的な表情のまま、私へと手を伸ばす。細くしなやか指で私の唇をなぞり、次第に割れ目から侵入し、舌先をつつく。

 

 

「その口で」

 

 

 ヒュっと息が詰まる様な感覚に陥った。胸が五月蠅く鼓動を始め、額からは一筋の汗が流れる。

 そんな私を嘲笑うかの如く、彼女は口から抜いた指を…そのまま自らの口へ運ぶ。

 

 

「……えっと…」

 

 

 なんて言うべきか。気まずさから目を逸らす。

 別に嫌われるとかは思っていない。私が何をしたとしても、そうならない自信が…信頼がある。だから感覚的には、勉強するフリをして漫画を読んでいたら親に見つかった時と似ている。コソコソと背徳的な行為を楽しんでいたら、本人に筒抜けでした、と。

 

 

「無知、だなんて思わないこと。今は何でも調べられる。自分の身体に異変があったら、気になるのは当然」

 

「だ…だよね……」

 

「吸引性皮下出血。口で毛細血管を刺激して内出血を引き起こす……。酷いね、寝ている間に」

 

 

 酷い。なんて言う割には相も変わらず顔には笑みが浮かんでいて楽しそうだ。

 

 

「寝てちゃ何も分からないのに。酷い」

 

「………へ?」

 

 

 おや、流れが変わったぞ?

 てっきり某稲羽の黒雪姫の如く、言葉でネチネチと責めて相手の反応を楽しむ感じかと思ったが、そういう訳でも無いらしい。

 

 

「寝ている間じゃ分からない。してる時のりせの顔も息遣いも、体温も。それにされる側だって。痛いのか、くすぐったいのか、それとも気持ち良いのか。行為を目の当たりにして、私は何を思うのか、何も分からない。りせにとってただ気持ちのままに、欲を吐き捨てる道具として私を選んだだけかもしれない。……まぁそれならそれで良いけども。それをするならまずは私が知ってからにして欲しい、かな」

 

 

 雪雫にしてはやや早口気味に、僅かに息を上げて言う。

 そうだ、天城雪雫とはそういう少女だった。自分自身の尺度がしっかりしている分、実際に見て触れて、感じたい。溢れ出る好奇心と知識欲。ただ調べて出て来た情報だけで満足するような少女じゃない。

 

 

「だから、ね? いま、やってよ」

 

 

 そしてチャンスをわざわざ逃す様な事もしない。

 

 

「人の目に付かなそうなところにお願い。私も人前に出る仕事。見られてりせに飛び火でもしたら大変だから、ね」

 

 

 そう言って彼女はスカートをたくし上げる。白く細長いおみ足。その全貌。何処にどう付けても目立ってしまうであろうそのキャンパスは、宝石の如く光り輝いている。

 

 

「……う、うん…」

 

 

 膝を折り、床につく。主人に頭を垂れる従者の様に。差し出される脚に視線を合わせれば、見下ろすだけじゃ確認出来無かった鼠径部が見えた。

 

 

「出来るだけ、ゆっくりお願い。一瞬だと、分からない、かも」

 

「学校…遅れちゃうよ……」

 

「ちょっとくらい大丈夫。だって──」

 

 

 これもお勉強だもん。と呟く雪雫の声はくぐもって私に届いた。私と彼女の間にある一枚の布切れがそうしたのだ。

 

 

(そうだ、これは勉強だ)

 

 

 中途半端に知ってしまった少女に正しく教える為の勉強。幼馴染であり、お姉さんでもある私が懇切丁寧に教えなければ。

 

 

「…………………………んっ」

 

 

 じっくりとその感覚がちゃんと彼女に残る様にした筈だ。跳ねる心臓が正しい時間間隔を狂わしてくるから、正確にどれくらい掛けたかなんて分からないけど。それでもしっかり残せた筈だ、優秀な彼女なら理解出来た筈だ。だってこうして彼女の右足の付け根辺りには、真っ赤な華が咲いている。

 小さなカーテンから這い出れば、秋らしい穏やかな外気が私を冷ます。深呼吸を繰り返し、昂る身体を落ち着かせる。

 

 

「ちょっと、ピリってした」

 

 

 雰囲気にそぐわない、語彙力の無い稚拙な表現。それを語る彼女は今も「うーん」と首を傾げて納得いっていない様子だ。さっきの可愛い感想も絞り出したものなのだろう。

 

 

「……もうこれで良いかな。雪ちゃん」

 

 

 これ以上続けると本当にどうにかなりそうだ。色々な手順をすっ飛ばしてしまいそうというか、歯止めがきかなくなりそうというか。

 だからいそいそと雪雫の制服を正して、学校の鞄を持たせて、追い出す様に登校を促す。されるがまま玄関まで連れて行かれた雪雫は渋々と言った様子で靴を履いた。そして玄関のドアノブに手を掛け……たと思えば身を翻して私の元へ。

 

 

「りせ」

 

 

 精一杯の背伸びをして、私に耳打ちするような体勢を取る彼女。でも身長が全然足りないから、私も合わせて少し屈む。雪雫の口元と私の左耳、二つの高低差が零になったその時、少女はお揃いのピアスに舌を這わせた。一瞬、それでいて永劫。少女の生暖かい舌は確かに私の左耳に残っている。

 

 

「さっきの、よく分からなかったから」

 

 

 ───また教えてね。

 

 

 ウィンクと共にそう言い残して雪雫はパタパタと家を出る。

 

 

「……はぁ」

 

 

 どっと疲れが湧き出るのを感じた。高低差が激しいジェットコースターを乗り終わった様な感覚。ヘナヘナと脚の力が抜けていき、その場にペタンと座り込んでは、両手で顔を覆う。

 

 

「これから仕事なんだケド………」

 

 

 一先ずは身体を冷ます他ない。

 余韻が残るりせはトボトボと本日二度目のお風呂へと向かった。




なんだこの温度差は(唖然)
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