PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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96:Dreamland.

 

 

 ピークからはやや外れた時間帯。座る事は叶わないが、立っている人はまばらで自分のスペースはしっかり確保出来る。そんな混み具合。電車に揺られている少女、雪雫は形の良い眉をピクリと上げた。

 

 

『お父様が緊急会見を開くらしいの』

 

 

 そう、春からメッセージが送られてきたからだ。

 オタカラを盗んで早一週間ほど。ついにこの日が来たのだ。毎日春からは奥村の様子が共有されていたが、自室に引き籠るばかりで姿は見せなかったと言う。一応、部屋から微かな物音が聞こえたり、運んだ食事は減ってたりしたらしいから、例の如く良心の呵責に苛まれていたのだろう。

 

 

『おめでとう』

 

 

 という杏のメッセージに雪雫は眉を顰める。

 果たして純粋に喜ぶべきなのか、と少女は訝しむ。状況から察するに奥村邦和は大分深い所まで踏み込んでいた筈だ。殺人の依頼を出来る立場であった以上、イセカイを悪用している一団と直接的な接触が出来たという事になる。それが中枢なのか末端なのかは分からないが、このまま事が運べば明かされる。あくまでも『このまま事が運べば』だが。

 

 

(……鬼が出るか蛇が出るか)

 

 

 そのまま記者会見が始まればそれでいい。だけど相手は利益の為に平気で他者を蹴落とす連中だ。口封じの可能性は十二分に考えられる。

 

 

「────」

 

 

 けど私達は動けない。怪盗団は大きくなり過ぎた。世間は完全に怪盗団の主張に染まり、マスメディアも政治家もその動向を注目している。そんな中で、同じくイセカイを行き来出来る殺人鬼が、怪盗団の事を認知していない筈が無い。精神暴走の手口が不明な以上、ノープランで行動する訳にもいかない。牙が私達に向くならまだいい。でも周りの人間…例えばりせとか妙とかに飛び火でもしたら…………。

 

 

……最悪…

 

 

 ぼそりと少女は呟く。

 世論が支持しているからといって、怪盗団が有利な立場に居る訳では無い。寧ろその逆、と言ってもいいだろう。ここから先は今までの行き当たりばったりではやっていけないだろう。石橋を叩いて渡る必要がある。その橋が崩落寸前のボロ橋じゃない事を祈りながら。

 

 

 

「ホント、最悪」

 

 

 自分に出来ない事を他者に託す。字面は良いが、結局は利用しているのと同義。自己嫌悪が蠢く胸中を抱いたまま、雪雫は電車を降りた。

 

 

 

 

 

 

 

「珍しいわね、ポニーテールなんて」

 

「気分転換」

 

 

 鈴井志保の一件以降、生徒会管理になった屋上。今となっては立ち入れるのは極一部の生徒のみ。生徒会役員と、特別に見逃してもらっている蓮達。加えてこの場を借りて花を育てている春くらいだ。今日こうして雪雫が屋上に向かったのも皆で春のお手伝いをする為。記者会見もある以上、放課後は固まっていた方が良いと、祐介と双葉も来ている。

 

 屋上の隅に乱雑に置かれた旧式の机に腰を掛け、プラプラと足を揺らせば髪も同じように揺れる。あまり見慣れない髪型に、真も思わず目で追ってしまっていた。

 

 

「ピアス、付けて貰ったから。降ろすと見えない」

 

「アピールってやつ? 焼けるね~!」

 

 

 ふふんと得意気に見せびらかす雪雫と、羨ましそうに声をあげる杏。誰の提案で穴を空け、ハワイでプレゼントとして買ったモノを雪雫が付けているのか。語らずとも怪盗団のメンバーは分かっている。

 

 

「んな事よりよ。なに植えんの?」

 

「ふふ、それは後のお楽しみ。今回のはね、喜多川祐介プロデュースなの」

 

「色のバランスと配置で…何と言うか、詫び錆びの様なものを加えただけだ」

 

 

 祐介はそう言いながら肩を竦める。

 

 

「そもそも、花を選んだのは春だしな。何をやっても良い花壇になるさ」

 

 

 へぇ。と真は期待を込めて言った。同じ三年生とは言え、今まで碌に関わって来なかったものだから、春の一面を知れることが嬉しいのかもしれない。

 

 

「……モナも植えて貰えば…?」

 

「オマエこそ、こないだまで引き籠ってたんだ! ここで光合成してけよ?」

 

 

 微笑む真の横で、双葉とモルガナが軽口を叩きあう。語気は強いが、実際にそう言う表情は楽しそうだ。もう以前の様なすれ違いも起こらないだろう。

 

 

「ふふっ。じゃあ始めよっか!」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 杏が水掛け、双葉はネットで調べもの、モルガナは見学、祐介は現場監督。残ったメンバーは春の指導の下、土弄り。皆、慣れない作業に苦戦を強いられながらも、和気藹々と言葉を交わしながら作業に没頭する。

 

 

「……ふむ…。キンギョソウはあと2ミリ左だろうか…」

 

「細か! 変わらないから!!」

 

 

 現場監督官の細かすぎる拘りだけは頂けないが。

 

 

「つーかさ」

 

 

 秋とは言え、身体を動かしていれば暑さを感じざるを得ない気温。手の甲で汗を拭いながら、竜司が口を開く。

 

 

「流れで打ち上げと歓迎会一緒になったけど…。やっぱ打ち上げは打ち上げでやらね?」

 

「同感だ。打ち上げは歓迎会も兼ねてのものだし。内々で気兼ねないものをやりたい」

 

「じゃあやっちゃう? どうかな、雪雫?」

 

 

 竜司からの提案に、祐介、杏が肯定を示す。

 

 

「私はどっちでも。元々、春が興味あるの知ってて学祭を提案しただけ」

 

 

 それに春の性格上、派手にやって目立つのは好まないと思ったから。でも一番は春がしたいことを皆でするのが大事。と雪雫は語る。

 

 

「…それなら……イブニングパーティーなんていかが? デスティニー・ランドで」

 

「「「「「「「「?」」」」」」」」

 

 

 聞きなれない単語に、春以外の全員が首を傾げた。いや、後半の言葉が何を指すかはここに居る全員分かる。だって──。

 

 

「ディスティニー・ランド……って。あの夢の国の?」

 

 

 それは日本で…いや世界で一番有名な遊園地と言っても過言ではない。生誕してもうすぐ100年を迎える、元々は海外発祥のアニメ会社。今となってはエンターテインメント複合企業であるディスティニーを元にして作られたまさに夢の国だ。

 

 

「……私、行った事無い、かも」

 

「え、意外!? お嬢様ってポンポン行けるんじゃないの?」

 

「実家、田舎だから」

 

 

 そう、日本においてその遊園地は東京にしかない。田舎出身の雪雫にとっては正に憧れの地。

 

 

「ちょっと時間は遅くなっちゃうけど。夜からの貸し切りプランがあるし……」

 

「貸し切りぃ!?」

 

 

 平然と語る春に一同はピタリと手を止めた。一人当たりの入園料が1万円近くかかるディスティニー・ランドで貸し切り。あまりにも出てくる提案のスケールが違い過ぎる。

 

 

「え、待って。夢の国、だよね?」

 

「うん。でも、内々の方が良いんでしょ? 私もあまり目立ちたくないし」

 

「そうは言ったが……」

 

「ちょっと、確認してくるね」

 

 

 まるでレストランを予約する様な気兼ねさで、春はスマホを取り出した。

 

 

「発想がセレブ過ぎるでしょ……」

 

「確認つってたけど……なんの?」

 

 

 待ってて。と言い残し電話を掛けに席を外す春を見て、杏と竜司は唖然として呟く。

 

 

「流石に、レベルが違うかも」

 

 

 いくら老舗旅館でお嬢様育ちの雪雫と言えど、世界規模の会社の社長令嬢には敵わない。明らかにスケールの次元が異なっている。

 

 

「よかったぁ……。何とかなりそう」

 

「ディスティニー・ランド…マジ? 中にあるレストランとかじゃなくて…ランドごと………?」

 

「一応…公式に金額載ってるケド……。ひ、一晩でコレとか…ヤバくね?」

 

()()()?」

 

 

 ひぃふぅみぃ…と恐る恐る数える双葉。詳しい金額は省くが、この間のプラモデルが50個あっても全然足りない位らしい。

 

 

「あ…気を使わないで……。元々会社の親睦会の為に申し込んでいたのよ。でも醜聞で自粛になっちゃって……。今からじゃキャンセルしても全額出てっちゃうから…活かそうと思って」

 

「ん。なら問題無い。行こう」

 

「お前の図太さどうなってんだよ」

 

「竜司に言われちゃおしまい」

 

 

 雪雫に鼻で笑われながら言われ、「んだとコラ!」と竜司が声を荒げる。

 

 

「記者会見の時間と被るけど…。良いよね、リーダー?」

 

「……ああ」

 

 

 もしかしたら春は不安な気持ちを誤魔化したかったのかもしれない。父から語られる真実…その悪行の数々。気が気では無い筈だ。それでも仲間達と一緒なら、きっと乗り越えられると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その広さ、約510,000㎡。東京ドームにして約10.9個分。総坪数154,545坪、畳約30,900枚分。つまり凄く広い。

 

 

「わぁ」

 

 

 と感嘆の声が雪雫からあがった。広大なエリアにふんだんに注ぎ込まれた童話の世界。幼い頃から観て、読んできたお伽話の再現が眼前に広がっている。メメントスやパレス…人の深層意識が思い描くトンチキ光景は何度も目にしてきたが、イセカイ以上の感動がそこにはあった。きっと平時であれば人で溢れかえって賑わっていただろう。そう考えると園内に響くBGMも少しだけもの寂しく感じる。

 

 

「どう、お嬢様?」

 

「真は来た事ある?」

 

「だいぶ前に、ね」

 

 

 立ち止まる雪雫の手を真は優しく取る。普段は大人びていて、小生意気な彼女ではあるが、その実態は純粋そのもの。夢の国に目を奪われて紅い瞳を輝かせているその様はとても可愛らしい。きっと、妹が居たらこんな感じなのだろう。

 

 

「ほら、行くわよ」

 

 

 少女がキョロキョロしている間に、皆はどんどん先に進んでいる。雪雫のペースに合わせていたら、それこそ一日あっても周りきれないだろう。ここは歳上である私が、リードをしなければならない。

 

 

「先ずは何乗ろっか?」

 

 

 取った手は脆く儚い。泡沫の幻の如き希薄さだ。その容姿も相まって、この夢の国こそが彼女の本来の居場所だと錯覚してしまいそうになる。だからしっかりと握る必要があった。

 何処にも行かない様にって。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……答える必要、あります?」

 

 

 そして時は戻る。

 怪盗団がディスティニー・ランドで一時の夢を見ている頃。黒い仮面の少女…()()()()()は男を睨み付けた。

 

 

「シャドウワーカーは動けない……って推理してたんだけどな」

 

 

 シャドウワーカー。桐条美鶴をリーダーとする対シャドウ特殊部隊。その実態は警視庁と桐条グループが共同で設立した非公開組織。その全貌は上の人達すらハッキリと掴めていない。全体の構成員数も、その名前も不明。ただ分かるのは正規メンバーの他に、非常時特別制圧部隊(エクストラ・ナンバーズ)と呼ばれる協力者が居ることくらい。だから目の前の少女、芳澤かすみとシャドウワーカーを紐づけたのも推理でしかない。夏にあった彼らの動きと、桐条氏と芳澤かすみの接触。それらの材料を調理しただけの事。

 

 

「公安からの監視に、警視庁からの抑えつけ……。桐条氏はとうとうなりふり構っていられなくなったのかな?」

 

 

 対シャドウに特化したスペシャリスト集団。イセカイを利用する僕らにとってはまさに邪魔者でしかない。だからそうそうに手を打っていた筈だ。この東京で動きが取れない様に。

 

 

「………さっきから聞いていれば訳の分からないことを…。シャドウワーカー? なんですか、ソレ?」

 

「───ふぅん?」

 

「私はただ、友達の手助けをしに来ただけですけど?」

 

 

 彼女が天城雪雫と交流があったのは知っている。そして彼女が奥村のパレスでコソコソと怪盗団を…いや、天城雪雫を尾行していた事も。だって僕自身も怪盗団を見張っていたのだから。

 なるほど。友情、親愛から来る行動だったか。怪盗団として戦うお友達が心配で、助けたくて。本当に……くだらない。

 

 

「状況は分かっています。貴方は改心されたオクムラの口封じをしに来た。私はそれを止めればいい」

 

「要するに只の捨て駒か…。天城雪雫にそそのかされて、利用されて」

 

 

 そうでなければ天城雪雫本人がここに来ればいいんだ。それをしなかった、という事は状況を見極めたいという事。目の前の芳澤かすみや、奥村邦和といった餌をぶら下げて。こちらが動くのを待っているんだ。

 

 

「分かっているかい? 君は体良く使われているんだよ」

 

「別にそれでも構いません。彼女が必要としてくれるなら………私はそれに応えるのみ」

 

 

 芳澤かすみは飛び掛かる。久方ぶりの感覚に懐かしさを覚えながら。腰に携えたレイピアの切っ先を明智に向けて。

 明智から紡がれる言葉ごと、身を突き刺す為に。

 

 

「……クレイジー女が」




多分、甘さのバランス間違えた(前回)
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