PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
「美味しかったね」
「料理の盛り付けが絵画の様だった」
ディスティニー・ランドと聞けば、誰もが中央に聳え立つお城を思い浮かべるだろう。童話の情景をそのまま引っ張り出した様なソレを眺めながら食べたご飯は格別だった。
「ん…後はデザート食べれれば満足」
「欲張りだな、オマエ! さっきポップコーンも食ってただろ!」
「目玉の一つなんだから仕方ない」
夢の国と言えばアトラクション以外にもお菓子やスイーツ、ジャンクフードなど、至る所に食の誘惑があるのも魅力の一つだ。わざわざ雑誌やテレビで食に焦点を当てた特集をやる位なのだから、やはりそこは楽しまなければ損だろう。決して、雪雫の食い意地が張っている訳ではない。多分。
「はいはい。また後で周ってあげるから。今はちょっと休憩しましょ」
真はうんと背伸びをして言う。好奇心旺盛な誰かさんにずっと振り回されてたから、なんて雪雫に視線を送れば「?」と小首を傾げてキョトンとした表情が返って来た。自覚は無いらしい。
「それにしても……浮かれてんなーお前ら」
ニヤニヤと笑みを浮かべて竜司は一同を見渡す。キャラクターをモチーフにしたカチューシャを付けているメンバーが若干名。ポップコーンバケットを下げているのが二名。みんな夢の国にどっぷりだ。
「いや、アンタに言われたくないんだけど」
杏の視線が竜司の頭に向く。彼の金髪の上には可愛らしいクマのカチューシャがその存在を主張している。
「双葉が付けろってうるせぇから!」
「私……言ってない!!」
「それっぽい事は言った!」
そんな恰好ですごまれても…と蓮は竜司の肩をポンと叩く。普段の口の悪さとか大きい態度が頭の可愛らしい耳によって完全に打ち消されている。
「ププっ…くくく……やばい、微笑ましすぎる…」
そう、祐介の言葉を借りるなら微笑ましい。双葉との言い合いも仲の良い
「つか、今回の打ち上げ断トツで上がる!マジやべぇ!」
「良かったぁ。喜んでもらえて」
「コイツラに余計な贅沢教えちまったなぁ…。こりゃ、次の打ち上げのハードル上がるぜ?」
「もう次の打ち上げの話か? 気が早すぎだろう」
確かに。と一同から笑いが起こる。ついこの間までオクムラの改心でバタバタしていて、何ならまだ完全な解決はしていない。でも皆、その視点は次へと向いている。次があると、このままの調子で何処までも行けると信じて疑わない。
「てか…、そろそろ時間じゃない? 記者会見!」
あっ、と思い出したように声を上げた杏。その言葉に一同、ハッとなって時間を確認すれば、時刻は19時55分。約束の時刻まであともう少し。楽しい夢の一時から一転、現実に引き戻された様な感覚ではあるが、元々時間が被る事を承知で来たのだ。夢の国で祝杯を上げるのもいいだろうと。
「あ、そうだった。やべぇやべぇ」
そそくさと各々がスマホを取り出す。大体のメンバーは勝利を確信し、既に笑みを浮かべている。しかしそれに当て嵌まらないメンバーも居た。娘である春は不安一杯と言う様子だし、蓮は何時もの様に真剣な眼差しで油断は感じられない。そして雪雫は────
(………さて、どうなる)
険しい表情で画面を見つめている。それを隣で見ていた真も、釣られて訝し気に眉を顰めた。
ねぇ雪雫、と声を掛ける。真とて、彼女が何を考えているかは大体分かる。というよりも、オクムラを改心したその時から、2人の懸念点は同じだ。違いがあるとするならば、お互いの持つ手札の差。
「廃人化のこと、喋るかな?」
「───────見ればわかる」
このまま喋れば良し。だけどもし、口を閉ざされてしまったら───それは転落を意味する。
▼
ずっと怪盗団の動向はチェックしていた。エクストラ・ナンバーズとして、ではない。単純に友人として心配だったから。
稲羽の件でイセカイとシャドウを、そしてペルソナを知った。そして雪雫が、完璧では無いことを。
怪盗団の次のターゲットは奥村邦和だ。そう、世間が駆り立て始めた時から、彼のパレスを張っていた。怪盗団と接触しようとかは思ってない、その資格は私には無い。だけど、そんな私でも。戦いに身を投じる彼女の助けになりたかった。だからいざという時、怪盗団がどうしようもないピンチに陥ったその時、手を差し伸べられる様に後ろで身を潜めていた。
『……………ん…?』
しかし、そんな中でも何度か雪雫と目が合った。加えて────
『地中を這いずる根。御伽の国へ至る大穴。………探すならそこ』
勘の良い雪雫の事だ、きっと私が居る事は気付いていた。それでも彼女は、気付かないフリをしたままでいてくれたのだ。それはきっと私の後ろめたさを、稲羽の件を償いたい気持ちを汲み取ってくれた結果なのだろう。私が過去を清算し、面と向かって会いに行けるその日をきっと待ってくれている。だからこれはチャンスなのだ。雪雫を傷つけてしまった私が、雪雫に会いに行く為の、罪滅ぼしのチャンス。
自己満足、と言えばその通りだ。今更何をしても、過去は消えない。これはただ、雪雫に会いたいという気持ちを正当化する為だけの行為。でもね、それでも良いって彼女はきっとそう思ってくれてるから。だから私にこの仕事を任せてくれたんでしょう?
「…………っ!」
「はっ。威勢の割には大したこと無いな」
見下す明智、見上げる私。前者は五体満足に対して、後者は満身創痍。ペルソナ使いとしての経験が違う。それは分かっていた。でもある程度は喰らい付けると、そう思っていた。
「君、実戦慣れしてないだろ?」
「………ぐっ!」
頭を足で抑えつけられ、地に押し込まれる。お前は敗者だと言う様に。
「ついこの間、覚醒したやつが、勝てると思ったのか? 俺に」
慢心が招いた結果だ。負けはしたが、雪雫には喰らい付けたから。彼女と渡り合えるなら……とそう思っていた。けど今なら分かる。アレは戦いであっても実戦ではない。雪雫はあの時、あくまでも私の説得をしに来ていたのだ。目を覚まさせるのが目的であって、相手を倒すのが目的ではない。
でも明智は違う。彼は私という邪魔者を、敵を本気で排除しようとしていた。手心を加えていた、雪雫とは違う。それに彼の黒いペルソナ…決して普通のモノでは無い。
何度も「殺される」と思った瞬間があった。今こうして生きているのが奇跡と思える位には。だが裏を返せば、彼はその気になれば私を殺せるという事。
「……流石…と言うべきですかね…」
「今からこっちに寝返るかい? 歓迎するよ」
ニコリと朗らかな笑みを浮かべる明智吾郎。
「……いえ、遠慮しておきます…。雪雫をまた傷つけるなんて……吐き気がする」
「残念。交渉決裂だ」
カチャリと冷たい音が頭上から響く。何を向けられているか、見ずとも分かる。私の命はいま、彼の指先の気分次第。
「……ふふ…はははははは!」
「………………」
「なんてね。お父さんのよしみで殺さないでおいてあげよう」
コツコツと明智は歩みを進める。本来の目的…そのターゲットが居るさきへ。
「精々、怪盗団が…いや、天城雪雫が堕ちゆくその様を見ているがいいさ」
▼
「おーおー。凄い事になってんなぁ、こりゃ」
奥村邦和の記者会見の会場は沢山の人で犇めき合っていた。オクムラフーズの取締役達、各社マスメディア、そして警察。
「見ねぇ顔が多いな。特捜部の人間か?」
黒いスーツにやや長い髪、顎髭を携えた男……
「数が多いですね……」
そんな軽薄な彼の横で、呟く白衣を着た男。だらしない印象を受ける無精髭、ボサボサの髪……その名は丸喜拓人。
「ま、それだけ怪盗団が注目されているってことだな。実際、特捜部に目を付けられるぐらいだしな。
「長谷川さんは……違うんですか?」
「
あーっと顔を手で覆って天井を仰ぐ長谷川からは哀愁が漂う。
「でもそれなら…良いんですか? そうなると長谷川さんは他のチームの縄張りを荒らす事に………。 僕らを手引きしたってバレたら不味いんじゃ……」
「手引きなんてした憶えはねぇよ。たまたま声掛けた医療班がたまたま桐条の嬢ちゃんのお抱えだっただけだ」
長谷川は瞳を細める。
「それに元々、公安の方でも奥村はマークしていた。都合の良い事件が続いて会社が急成長してるんだ、怪しすぎんだろ? その裏をようやく本人から取れそうなんだ。何かあっては困る」
「何か………」
「別に確証がある訳じゃねぇよ。念の為だ、念の為」
「刑事の勘ってやつだ」と長谷川がやけに格好つけて言った決め台詞は、記者たちのざわめきで掻き消された。舞台袖から出てきたのだ、渦中の人物が。
「さて、用心しておけよ。先生」
「………はい」
▼
奧村邦和の顔は憑き物が落ちた様に穏やかなものであった。春が言う「あの頃のお父様」なのだろう。彼は深々と頭を下げると、ポツポツと語り始める。
『この度はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。本日は、弊社の労働実態につきまして、全てをお話させていただく所存です』
そして語られていく内容。社員に過酷な労働を強要したこと、食材の衛生管理がずさんであたこと。そしてそれらを企業ぐるみで隠蔽したこと。概ね、週刊誌のリークやパレスで見て取れた通りだ。見ている配信のコメントにも想像通りだったのか「やっぱり」と得意気なコメントが多い。
『誠に、申し訳ございませんでした』
深々と奥村が頭を下げると同時に、カメラのフラッシュが忙しなく焚かれる。きっと明日の一面はこの写真で大きく飾られる事になるだろう。
そして次に顔を上げた奥村を待っていたのは記者からの質問攻め。「全て社長の指示なのか」「どう責任を取るつもりか」などなど。厳しい言葉が飛び交う。そんな中、とある記者からの質問が、会場の、観ている人達の、そして私達の空気を凍りつかせた。
それは、会社周りで起きた不幸の数々について
海外出店を反対していた役員達と、同タイミングで出店を狙っていた競合他社の担当者が患った急な病。これは偶然なのか、と。怪チャンのランキングに名を連ねるまでは、都市伝説や陰謀論の類で相手にされなかった話だ。
『それについては……重大な発表があります』
暫し目を逸らした後、彼は覚悟を決めた様に目を閉じた。その振る舞いが、より一層、観ている者達のざわめきを大きくする。
「いよいよだな。オクムラが廃人化のハンニンの話をするぞ!」
(………かすみ…)
深く息を吸い、奥村は口を開く。
時が止まった様な感覚に陥った。記者達の雑言も、カメラのフラッシュ音も、コメントすらも止まり、普段は動じない蓮ですらその息を呑む。
『…………実は…』
そこから言葉が続く事は無かった。奥村はその目をはち切れんばかりに見開き、胸に手を当てる。人のものとは到底思えない、潰されたカエルの様な声だけが発せられ、彼は項垂れる。
『あぁ…あ………あああああああああっ!』
次に奥村の顔ときは、元の顔を忘れてしまう位はぐちゃぐちゃだった。穴という穴から汗が吹き出し、瞳はぐるりと白目を向いている。鼻や口からは赤黒い液体が零れ落ちて────。
奥村邦和の口は