PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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嫉妬の賭博師
99:Speak of the Devil.


 

 

 最低な気分だ。

 何度もあの記者会見での光景がフラッシュバックする。耳を塞いでも瞼を閉じても、脳裏に焼き付いたソレは私に罪の自覚を促している様にも感じた。

 

 

『仕方が無かった』

 

 

 と私は言う。

 

 

 相手は正体も分からぬ殺人鬼。敵の全貌すら分かっていない。だから派手に動く訳にはいかない。その凶刃がいつこちらに向けられるか分かったものではない。そしてその矛先が、怪盗団以外に向けられてもおかしくない。

 

 

『だから見殺しにした』

 

 

 と私は言う。

 

 

 口封じの可能性を考慮しつつも、ただ傍観していた。命の危険があると分かっていて、友人の罪悪感を利用した。

 

 

『つまり彼らは貴女にとっての餌でしかなかった』 

 

「……………」

 

『自分の利益を優先して、他人の命を弄ぶ。汚い大人達と同じじゃない』

 

「……違う、私は」

 

 

 「リスクが少ない方法を」と言葉が出掛かった所で、口を閉ざす。

 

 何が違わないのだろう。

 損得のみで判断し、そこには命の勘定は無い。ただあるのは何処までも利己的で、あまつさえソレっぽい言葉で誤魔化す自分自身。

 

 

『いまさら良い子振るのはやめましょう?』

 

 

 もう1人の私が言う。見慣れたその手を私の頬に添え、金色の瞳で私を覗き込む。

 

 

『人並の尺度なんて、貴女が持ち合わせている訳無いでしょう?』

 

 

 口角を三日月の様に釣り上げ、私は私を抱きしめる。優しく、じわじわと。細腕が蛇の様に這いずり、刷り込む様に背中をさする。

 

 

『化け物は何処まで行っても化け物……。なら、それらしい振る舞いをしなきゃ、ね?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

10月12日 水曜日 晴れ

 

 

 

 ジリリリリと朝を告げる鐘が鳴る。

 

 

「ん……」

 

 

 品行方正、質実剛健を体現した彼女…真にしてはやけにゆっくりとした動作で時計へ手を伸ばす。

 

 

「…もう……あさ…?」

 

 

 のそのそと亀の様に伸ばした腕を再び布団へ引っ込めながら、真は恨めしそうに呟いた。

 

 

「…………はぁ」

 

 

 新島真の朝は早い。毎日、登校前には皿洗いや洗濯などの家事を一通りこなし、加えて余った時間を勉強へと充てている。それ故、アラームが鳴ったとは言えど、登校まで十二分に余裕がある。

 

 

「……あったかい…」

 

 

 アラームに背中を向け、抱き枕をぎゅっと抱きしめる。自身から伝播した熱だろうか。抱き枕は人肌程にほんのり温かく、秋特有の早朝の肌寒さを凌ぐには丁度良かった。

 

 

「昨日は色々あったから……もう少しだけ…」

 

 

 ウトウトと、真は再び船を漕ぐ。

 本当に昨日は色々あった。放課後、皆で土弄りをしていたら急遽ディスティニーランドに行く事になり、子どもの様に目を輝かせる雪雫を連れて遊覧。そして記者会見と来たものだ。体力面と精神面での疲労のダブルパンチ。姉が帰って来ていない為、洗い物も洗濯も溜まっていない現状、多少ダラダラしても支障は無い。

 

 

(………あれ、昨日…何時に寝たっけ)

 

 

 眠たい筈なのに脳裏には継ぎ接ぎのアルバムの様に、昨日の情景が浮かぶ。睡眠は記憶の整理という役目を負っているから、こういうのもそれの一貫なのかもしれない。

 

 

(…………確か…)

 

 

 ぼんやりとした頭で記憶を掘り起こす。記者会見が中断され、皆と解散したのが大体9時過ぎ。そこから雪雫を連れて────。

 

 

 

「……ん?」

 

 

 雪雫?

 そうだ、雪雫と一緒に帰ったんだ。いや一緒にと言うか、殆ど私が介護していたけど。力が抜けた雪雫を電車に乗せる訳にはいかないと、少し遠回りになるが確か園から出てるバスを使った筈だ。それで家まで送り届けて…………。

 

 

「………んー?」

 

 

 いや、送り届けてない? 記憶をいくら掘り起こしても、彼女の家に行った覚えが無い。じゃあ、道中でりせさんにでも引き渡した……という訳でも無い。だって雪雫、りせさんは仕事で帰ってこないと言っていたし。

 ………ああ、そうか。そうだそうだ。ディスティニーランドの位置的に私の家の方が近いから泊めたんだった。

 

 

「…………して、雪雫は?」

 

 

 姉と2人暮らし。当然、来客用の部屋なんてある筈も無い。寝るならリビングのソファか私の部屋か。姿が見えないという事はリビング? いやいや、ソファ何て身体が休まらない場所に来客を寝かせといて、私がベッドを使う何て有り得ない。いくら相手が雪雫と言えども、その辺りは心得ている。じゃあ残る選択肢はこの部屋…なのだが、不思議とベッドの他に布団が敷いている訳でも無い。

 

 

「─────あっ」

 

 

 そして脳内に稲妻が走る。寝起きのシナプス回路を叩き起こしてしまう程の稲光は、私に修学旅行での朝の一幕を思い出させた。

 

 

「…………まさか」

 

 

 人肌位で気持ち良いなと思っていた抱き枕。肌触りが良く、フニフニと柔らかくて、程良い大きさの────。

 

 

「っ!!?!?!!!!?!?!」

 

 

 ガバっと勢い良く布団を捲れば、案の定そこには天城雪雫。私の身体にしがみ付き、スヤスヤと気持ち良さそうに寝ているではないか。しかも、何も身に纏っていない。

 

 

「ちょっ……はぁ!? 雪雫! 起きなさい! お! き! て!」

 

 

 因みに彼女と同様の姿だった。

 

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 

 

 バタートーストにスクランブルエッグ。家にあるもので作った間に合わせだが、何時も菓子パンを頬張っている雪雫にとっては十二分に豪華なものだろう。ほんのり焦げ目の付いたパンの表面にじわじわと溶け込んでいくバターが食欲を煽る。スクランブルエッグはてらてらと輝き、程よく注がれたミルクがそれらをさらに彩る。

 この一面だけ切り取れば爽やかで優雅な朝の風景…で終わるのだが、生憎と向き合う2人の間に降りる沈黙がそれを許してはくれない。……まぁ雪雫は何処吹く風と言った様子で、真が一方的にそう意識しているだけなのだが。

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 

 新島真は珍しく焦っていた。彼女は質実剛健、品行方正、思慮分別を体現した生徒会長。生まれてこの方、勉学一筋。色恋沙汰を始め、そっち方面には縁遠い生き方をしてきたのだ。朝起きたら全裸の後輩が同じベッドで寝ていました。なんてシチュエーションに対する解は当然持ち合わせていない。

 

 

(…………ぜっんぜん記憶が無い)

 

 

 雪雫を連れて家に帰ったのは覚えている。帰ってすぐにお風呂を沸かして入ったのも。だけどそれ以降の記憶がまっさらだ。

 

 

(……………状況から察するに……完全に私が黒…よね…)

 

 

 ベッドの中で後輩が生まれたままの姿で寝ていました。ついでの私も同じ格好でした。加えて後輩の背中やお腹…体の至る所には赤いマークが点在していました。

 

 

(………りせさんにどう説明すれば…)

 

 

 完全にヤってる。誰がどう見ても事の後だ。

 両手で顔を覆って真は深く溜息を吐く。トーストもスクランブルエッグも喉を通らない。頭の中では【久慈川りせに対する謝罪】と【これからどうしよう】が右往左往。

 

 

「……どうしたの? 真。食欲、無い?」

 

 

 そんな真を差し置いて、何時も通りの態度の雪雫もまた解せない。こっちの情緒はごちゃごちゃなのに、全く気にして無いですよ、みたいな余裕ある大人の態度が腹立つ。見た目は子どもの癖に。

 

 

「いや…そもそもね……。その…何で貴女、平気なのよ…」

 

「……? ただ一緒に寝ただけじゃん」

 

 

 いや、その寝た所が問題なんだけど。

 

 

「変な真」

 

 

 適当に貸したシャツから覗く首元。鎖骨の辺りに咲く赤い華がこちらの罪悪感を煽る。

 

 

「変なのは雪雫よ……。あんなことあって……」

 

「あんなことって?」

 

「は? そりゃあ……………」

 

 

 いや、待って。いくら何でも白々し過ぎる。実際に事が起こったならいくら雪雫と言えども私の態度を察しても良いのではないか。

 

 

「……雪雫さん…つかぬ事をお聞きするんですが」

 

「何改まって」

 

「昨日の夜、帰って来た後の事って覚えてます?」

 

「うん」

 

「お、教えていただいても……?」

 

 

 私もうつらうつらしてたから鮮明には覚えてないけど……と雪雫は一から語る。

 

 

 

 

 

 青少年保護育成条例で定められた刻限を過ぎるか過ぎないか。それくらいの時間帯に家に帰った私達。お互いに肉体と精神、両方から来る疲労の板挟みにうつろうつろ。そんな中でもお風呂だけは、と眠気に襲われる身体に鞭を打って変わりばんこでお風呂に入ったらしい。

 

 

「下着、脱いで」

 

 

 お風呂から出た私はろくに髪も乾かさず、バスタオルだけを身に纏ってそう告げたらしい。ここだけ切り取れば完全に事案である。

 

 

「今から回して乾かせば何とか明日には着れるでしょ。私の貸した所で……大きくてサイズ合わないだろうし」

 

「酷い言い草」

 

 

 その時の私はもう眠気も限界で険しい目付きだったとのこと。雪雫曰く、カネシロパレスの時よりも鋭かったとか。

 

 

「ほら、脱いだなら早く入って来て」

 

 

 私に見られながらいそいそと服を脱ぎ、下着を脱ぎ。生まれたままの姿になった雪雫は渡されたバスタオルを持ってそのまま浴室に向かった。

 

 

 

 

 

「起きてる真を見たのはそこまで。お風呂出たら洗濯物は干されてたけど、真はベッドで寝てた。部屋の電気も付けっぱなし、服も着ずに……寝落ちってやつ」

 

「………私事ながらだらしない…」

 

「それで私もそのまま寝た」

 

「ちょっと待て」

 

 

 突然、飛んだぞ。

 私が何故、服も着ずに寝てたのかは分かった。でも私よりは起きていた雪雫がそのままなのは良く分からない。

 

 

「だって何着て良いか分からないし。そもそも何処に寝て良いかも分からないし」

 

「起こせば良かったじゃない」

 

「疲れてると思って」

 

「変な所で気を使わんでよろしい」

 

 

 お風呂から出た雪雫は困りに困った。人の家のタンスを勝手に漁る訳もいかず、だからと言って制服のまま寝る訳にもいかない。5分程、考えに考えた結果が。

 

 

「まぁいっか。と思って真の横で寝た」

 

「抵抗ってもんがあるんじゃないかしら? 普通」

 

 

 どういう神経で全裸の友達の横で全裸で寝ようと思うのか。ましてや同じベッドで。

 

 

「良いじゃん。別に減るものじゃないし」

 

「擦り減ったわよ。起きた時の私の精神が」

 

「これ位、雪子も千枝もりせもやった事あるよ」

 

「おかしい…絶対におかしい………」

 

 

 千枝さんって人だけ知らないが、十中八九、彼女の地元の友人だろう。田舎特有の距離感…というやつなのか………。いや、無いでしょ。

 

 

「真…もしかして………。何か間違いが起きたと思ったの?」

 

「…………………」

 

「…………ふっ」

 

 

 視線を逸らし、小馬鹿にしたように吹き出す雪雫。

 

 

「変態」

 

 

 ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべる彼女は身を乗り出して耳元でぼそりと呟く。

 

 

「いや、だって……お互い裸だし……。第一、あの身体見たら誰だって勘違いするでしょ」

 

「………身体?」

 

 

 揶揄いモードから打って変わり、面を喰らった様にキョトンと首を傾げる。

 

 

「お腹とか…背中とかの……アレよ……」

 

「………………」

 

 

 シャツを捲り自身の内臓が詰まっているかも分からないお腹を目視。次に太もも、胸……。大理石の如く白い肌上にポツポツとある赤い跡を見て「あー」と言葉を漏らした。

 

 

「安心して、真が付けた訳じゃ無いから」

 

「いや、それはもう分かるけど………。そもそもソレってりせさんが付けたのよね? もう2人って……」

 

「ん、真が想像している所までは言っていない。アルファベットで表すとまだ最初の一文字目*1も行ってない」

 

「例えが古い」

 

 

 となると順序が……という話は出てくるが、2人に限ってはもう今更感もある。

 

 

「……まぁ程々に、ね」

 

「ん。善処する」

 

 

*1
恋愛のABC。1980年代に流行った恋愛における段階をアルファベットで表したもの。作詞の一貫で得た知識。雪雫が好きなバンドの曲にも採用されている




すみません。
メガテンVVやってました。
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