PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
学校に行くのが正直億劫だった。休めるのなら、休みたかった。
「見たか? あの会見……」
「マジヤバすぎ……。すごい苦しみ方だったよな……」
学校は社会の縮図と良く聞くが、実に的を射ていると思う。今日だけで何十回、同じ話題を耳にした事か。学び舎と言うだけあって他の娯楽も無い為か、皆は口を揃えた様にソレを語る。世界が狭い分、余計な雑音も少なく、より一層濃密に感じて辟易としてしまう。
「…ったく……。アンタらも五月蠅い! 授業に集中して!」
行動に対しての責任。見捨てた自分への戒め。そう割り切るのが簡単だろうけど、なかなかどうして、私の心のキャパは思っていたよりも狭かったらしい。
「………………」
いつもの様に授業の時間を睡眠にでも充てれれば良かったのに、生憎今は目を瞑っても眠れそうにない。
(……化け物、か)
いろんな事が脳裏に染みついて離れない。
(………次の標的が決まっていれば、気が紛れるんだけど)
立ち止まらず、自分だけを信じて走れたらどんなに楽か。目を隠されて、耳を塞がれて、言われるがままに行動出来たらどんなに─────。
「……ん…、川上」
「…アンタねぇ……。せめて授業中は先生を付けなさいよ………。んで、何?」
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体調悪いから抜ける。と言ったら案外すんなりと通してくれた。
まぁ川上からすると、私の授業態度は普段からあまり褒められたものでも無いだろうから、厄介払いのつもりかもしれない。
「んー………」
さて川上からは「保健室で寝てこい」と言われたが、生憎保健室の気分ではない。そもそも、元よりあの空間が好きでは無いのだ。白い内装、白いベッド、ベッドを囲うカーテン、消毒液の匂い。病院を連想させるそれが嫌だ。普段は妙が居るから緩和されるものの、学校に居る筈も無い。だから私の足は誰にも邪魔されないであろう空間、生徒会室に向かっていた。
基本的に一般生徒の出入りが無い生徒会室。当然、今は授業中であるからその限られた数名も各々の教室に拘束中。一人でゆっくりと過ごすには最適な場所だ。問題は鍵の調達だけど……まぁ丁度
私達1年生の教室が3階。目的の生徒会室も3階。朝から登らされているこっちの身からすると、些か腹立たしい立地だが、今回の様に教室から行く分には楽ちんだ。因みに真達3年生の教室は1階にある為、真は生徒会室に用事がある度に登っている。ふふ、やったね。
「ん……」
メメントスの宝箱の開錠と比べたら赤子の手をひねるより楽なもので、変形させたヘアピンをちょっとガチャガチャすればガラガラと生徒会室の戸が開く。眼前には見慣れた光景が広がるものの、窓から差し込む光の位置がやや低い。たったそれだけで何時もと違う印象を受けるのだから不思議。
「やっぱり酷い顔」
何となく、いつもと変わらない景色の筈なのに新鮮に感じてボーっと外を眺めていたら、窓に映った自分と目が合った。十分睡眠は取ったつもりだったけど、どうも疲れまでは取れなかったらしくて。朝と変わらず目の下の隈がそれを色濃くアピールしていた。自身の病的に白い肌が余計にそれを目立たせていて始末に負えない。
「りせや杏だったら、上手く化粧とかで誤魔かせるんだろうな」
だけど残念ながら私や真にはそこまでの技術は無い。朝のプチ騒動もあって結局そのままで来てしまった。
「……ん…」
ぼーっとそんなことを考えながら外を眺めていると、また普段とは違った光景が目に入った。学校の前で止まった一台の車。そこから降りるスーツの男達。彼らが何者なのか、大方予想が付く。事件が絶えないこの学校で、最早見慣れてしまった非日常。
「警察が、何の用?」
◇◇◇
10月13日 木曜日 晴れ
『前途ある若者が、未来を見据えられる。そんな社会を───』
外から聞こえる街頭演説。冬に選挙を控える政治家たちにとって、今が書き入れ時なのだろう。
だけど聞こえは良いその言葉も、今の私達にとっては煩わしい雑音。その証拠に。
「うっせーな……」
竜司は何時も以上に苛つきながら悪態を吐いている。
「ハル…遅いな……」
「まぁ自分で呼び出したんだし、そのうち来るだろ」
時間は放課後。場所はルブラン屋根裏。打ち上げ以来の集まりだ。そう、竜司の言う通り私達は、春に呼び出されてここに集まった。
「警察の立ち入り調査……って言っていたっけ」
「身内にあんな事があったんじゃ────」
「はぁ!?」
途端、モルガナの言葉を遮り、声を荒げた。
スマホを持つ手をわなわなと震わせて、それを見つめる顔は怒り心頭と言った感じだ。
「私ら、奥村社長を始末した。って言われてる!」
「なんでだよ!?」
「…………もう始まったか…」
皆一様に呆気に取られている中でも、祐介は冷静そのもので、やっぱりと言いたげに呟く。
「はぁ!?」
「怪盗団が引き起こした謝罪会見中に、社長があんな姿を晒したんだぞ?」
「………一命は取り留めたとはいえ…、意識不明の口も聞けない重体。怪盗団の『行き過ぎた私刑』と思われても不思議じゃない」
「だからって……! あれだけ持ち上げといて……?」
「塵積の善行より、たった一回のミスの方が目を向けられる。真っ白の画用紙に一点だけ染みがあったとして、そこに目を向けるでしょ? それと同じ」
今まで持ち上げられていた分、墜ちる時の落差は凄い。そして落差が凄ければ凄いほど、メディアも大衆もこぞって煽る。「あの怪盗団が」とか「信じていたのに」とか。
「熱い手の平返し!」
「事情も知らねぇクセに!」
「落ち着いて……。まだ世の中の全部が言ってるわけじゃ……」
確かに真の言う通り、今回の件で怪盗団の積み上げてきたモノ、その全てが瓦解する訳では無いけど。正直それも時間の問題だろう。
あの記者会見で「やろうと思えば自白以外の手段も取れる」と示してしまったのだから。勿論、私達はやっていない。でもそもそも、世間からしたら怪盗団は姿形は見えず、その名前と改心の実績が1人歩きしている謎の集団。その人員も、手口も、動機も一切不明。見えない部分は都合の良い様に解釈するのが人間の常で……。今回の件が
「………………」
「………………」
どうにかしようにも釈明の手段が無い。正に手詰まり状態。見えない誰かに刃を向けられている気分だ。皆もそれを感じているのか、普段は饒舌な口もすっかり閉ざしてしまい、部屋には重い沈黙が訪れている。
そんな中、階段を上る一人分の軽い足音がギシギシという家鳴りと共に聞こえてきた。
「……春」
「ごめんなさい。折角時間作ってくれたのに、遅れちゃって……」
今日、皆を集めた張本人の春だ。
「……大変だったわね…」
「もう、大丈夫。一応お父様も落ち着いたし……。今は信頼出来る病院に預かって貰っているから」
「─────そう、なら良かった」
何時も通りの朗らかな笑みを浮かべる春だったが、一息おいて意を決した様な表情で皆を見つめる。
「あのね、気になる事があって……今日集まってもらったの」
ほんの少しの疑いの目を持って。
「皆は校長先生って狙ったの?」
「……は? 校長? …………ウチの?」
校長、と言われればまず浮かぶのはあのまん丸ダルマのフォルムをした男だ。加えて、先月に亡くなった人物だ。
「うん」
「どういうことだよ? ハル」
「……昨日、うちに検察の人が来てね。…その、新島さんっていう……女性の」
「お姉ちゃん…」
「その検事さんが言ってたの。『校長室で予告状が見つかった』って。あんな事があったばかりだもの。校長なんて、秀尽以外に考えられない」
そんなの知らねぇ。と竜司が声を荒げる。それに追従して皆一様に首を縦に振った。
「ふぅん。なるほど」
「………雪雫?」
「昨日の午前中、警察が学校来てた。今更何の用かと思ったけど………。この件だったかもね」
「午前中って……授業中なのに良く気付いたわね…………」
「……まぁそれは置いといて」
奥村邦和の記者会見の翌日に春の家へ家宅捜索。そして全く同じタイミングで秀尽。ん、これは中々───
「待って。手際が良すぎない?」
そう真が言う通り、動きが早すぎる。
「ある程度、事前に準備してなきゃこんなに早く動けない。ましてや、秀尽での再調査なんて………」
「セツナ、何が言いたいんだ?」
「校長と奥村の事件が同一犯による犯行って睨んでいる人物が現場指揮してるってこと。そしてその犯人は……私達」
真が僅かに目を逸らす。
「嵌められた……のかもね。真犯人に」
「………マジか!?」
「なら早く捕まえないと……!」
焦った様に杏が口を開く。
確かにそれが一番手っ取り早く行動出来るだろう。実際、まだ怪盗団に容疑が掛かっているだけで、現実の私達に実害がある訳では無い。まぁしかし、敵が組織的なモノの可能性がある以上、真犯人だけを懲らしめた所で、根本的な解決になるかは怪しいが。
「……一度、落ち着きましょう。状況を見るに、世間も警察も怪盗団が犯人だと疑い始めている。安易に動くのは得策じゃないわ。今は普通の高校生を演じるしかない」
「女賢しうして牛売りそこなう、ってね。私は真に賛成。今は目先の問題を消化するんじゃなく、全体を見通すべき。本当に嵌められたのだったら、私達が尻尾を出すのを向こうは待っている筈。逆に言えば───」
「こちらが動きを見せなければ、犯人側から何かしらのアクションがあると……ふむ。」
俺も賛成だ。と祐介は言った。
「それに…来週から中間試験だし」
「こんな時に…やる気起きねぇ……」
「アンタは何時もやる気無いでしょ!」
「そー言う杏だって!」
テストが無い双葉が羨ましいぜ。と肩を落としながら竜司はぼやく。しかし言葉を向けられた双葉本人は顎に指を添えるばかりで、びた一文の反応も返さない。
「……双葉?」
「………ん? ちょっと気になる事……。ウチ帰って調べる」
去り際、双葉は私の腕をがっしり掴んで、したり顔を浮かべた。
「雪雫も借りるぞ」
「何で私?」
「良いから良いから」
いくら双葉が一般的に小柄に部類されるとは言えど、私よりは大きい。そんな彼女に強く引っ張られながら、真達を残して一足先に部屋を出る。去り際の真の「何かしらね……」という呟きだけが耳に届いた。
プロフィールとか.5とか含めず100話行ってしまった……!!