PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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101:Own words.

 

 

10月14日 金曜日 晴れ

 

 

「いつも通りに過ごすとは言ったものの………」

 

 

 雪雫は深く溜息を吐き、背もたれに体重を預けた。ギシっと軋む音を聞いて「そろそろ買い替え時かな」とぼんやり考えるものの、そんな思い付きもすぐに別の思考に塗り替えられる。

 

 

「待つのも暇」

 

 

 ここ数日、ずっとこんな感じだった。何をするにも手は付かず、色々な考えが脳内を横切ってはそのまま消えていく。りせも泊まり込みの仕事で帰ってこない。特に観たい映画も無い。溜まっていたゲームだってクリアしてしまった。ぼんやりとただただ、仕事部屋のパソコンの前で時間を浪費するのみ。

 

 

「ん……」

 

 

 SNSもネットニュースもひとしきり目を通した雪雫は、次に仕事で使っているメールに目を通す。最も基本的に無所属での活動である為、そこまで使用頻度は高くないものではあるが。実際、メールボックスに溜まっているのもMVの投稿等で使っている動画サイトの運営からのお知らせだったり、名も知らぬ記者からの営業メールだったり…………。

 しかしそんな有象無象のメールの中で目を引くものが2つあった。

 

 

「CM、出来たんだ」

 

 

 一つはビックバンバーガーこと、オクムラフーズから。以前に楽曲提供をしたCMが出来たらしい。メールにはそのCMの動画が3種類、それぞれ長尺と短尺が2パターンずつ、合計6つの動画データが添付されていた。メールの本文には仕事のお礼とCMの放映時期、著作物の取り扱い、契約金などが事細かく書かれていて………。

 

 

「ん……まぁ。好きに扱ってくれても良いけどね」

 

 

 そこまで深く読み込んだりはせず、動画ファイルだけを保存して雪雫はそのメールを閉じた。

 何だかんだあった会社ではあるが、大企業という事には変わり無いらしい。会社ぐるみの不祥事、社長の意識不明……慌ただしい中でもしっかり運営されている所に少し安堵の気持ちを覚える。いや、寧ろ逆境に立たされた今だからこそ、かもしれない。墜ちる所まで墜ちたのなら、後は上がるしかない。

 

 

「……それは…私達にも言える事かもだけど」

 

 

 そう、自分に言い聞かせる様に呟きながら、もう一つのメールを開く。

 

 

「───────うん?」

 

 

 背中を預けながら遠目で見ていた雪雫だったが、文を読み進めているうちに事の大きさに気付いたのか、身を乗り出して一語一語を噛み砕く。

 

 

「……こういうのって、もっと前に決まっているんじゃ……、ふぅん? 世論調査………。それで私……。今年、全然活動して無いけど………」

 

 

 ひとしきり読み終えて、自分の頬を抓る。基本的に自分の目で見たものを信じ疑わない雪雫ではあるが、そうせざるを得ない程、現実離れした内容だったらしい。

 

 

「年末、か」

 

 

 うーん。と腕を組み、天井を仰ぐ。

 

 

「………どうしよう」

 

 

 雪雫の呟きは1人、虚空へと消えていった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

10月16日 日曜日 晴れ

 

 

 

 世間は相変わらず怪盗団の話題で持ち切りだ。

 

 

「………これは酷いな」

 

 

 ただ今までと違うのは、怪盗団に対する批判の声が目に見えて増えたこと。各所メディアからは「国賊」やら「私刑執行人」と揶揄され、校長の件を怪盗団の仕業という意見も増えてきた。上げて落とされるとは正にこの事。

 加えて、怪盗団のみならず、その周りの人間……取り分け表立って支持していた人間も叩かれている様だ。逆に当初から一貫して怪盗団と対立していた者達……特に明智何かは再び支持を取り戻している。

 

 

「おいおい…このままじゃワガハイ達、人殺しの汚名まで被る事になるんじゃないか?」

 

 

 鞄からひょこりと顔を出して一緒にスマホを眺めていたモルガナが苦々しそうに言う。

 

 

「……………だーっ!」

 

 

 また暫く大人しく一緒にニュースを見ていたモルガナだったが、我慢の限界と言う様に声を荒げた。

 

 

「ドイツもコイツもある事無いこと言いやがって! なぁレン、もっと明るい話題は無いのかよ?」

 

「んー……コレ、とか?」

 

 

 そのニュースはつい昨日の夜に配信されたばかり。トレンドランキングも怪盗団が占める中、ポツンと1人だけ上位に食い込んでいる。

 

 

「なになに……天使の子、新譜を配信…? CMタイアップ、未公開を含む計13曲を突然公開………。アイツそんな事してんのか」

 

「前々から作り溜めしてるとは聞いていたけど……話題性を狙って、かな」

 

「いや、絶対そんな事考えてねぇだろ、セツナだぞ?」

 

 

 前にも3曲同時とかやってたし……とモルガナは呆れた表情を浮かべる。

 

 

「皆に届けたいと思ったらすぐに行動に移せる。無所属の強み」

 

 

 記事を読み込む2人の間に割って入った聞きなれた声。デニム生地のカーゴパンツに大きめのグレーのトレーナーというシンプルな姿をした白髪の少女は「お待たせ」と呟いた。

 

 

「事務所入っているとやれCD出そうとか、レコード出そうとか、CM撮ろうとか、ライブしようとか。色んな事に時間掛けようとするからね」

 

「そういうのってアーティストの希望通りに出来無いのかよ?」

 

「大御所だったらある程度は我儘通ると思うけど……。でも結局、所属するという事は組織の一員になるという事。レーベルだって会社だから色々な付き合いがある。私みたいに配信で終わらすと関係各所にお金落とせないでしょ?」

 

「ほーん。そう言うもんなのか」

 

「そう言うもの」

 

 

 自分のペースで活動が出来る、というメリットは確かに雪雫みたいな自由人には性に合っているだろう。

 

 

「んで、今日は何の用だよ? 急に呼び出して」

 

「別に、ただ気分転換に遊びたいだけ」

 

「おいおいオマエら、明日からテストだろ?」

 

「だから蓮に声を掛けた。余裕でしょ?」

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって渋谷センター街のカラオケ。目の前で白髪を揺らして少女がマイクに向かって吠えていた。

 

 

「We're the one's who will survive yeah!

We're the one's who fight to be alive!」

 

 

 普段の姿からは想像出来ない力強い歌声だ。心の底から慟哭している様な。彼女の鈴の様なソプラノボイスで歌うには少々ロック過ぎる気もするが。

 雪雫の歌は何度かアプリ上では聴いた事があるし、MVに関しても一通り目を通している。歌になるとスイッチが入るのか、平時と打って変わって表情が豊かになって表現の幅が広がるのは知っていたが、まさかここまでとは。生で聴いてみるとやはり違う。流石はプロ、と言った所か。

 

 

「すっげぇな……」

 

 

 音楽とは縁の無いモルガナですらポカンと口を開けて聴き入っていたのだから、彼女の実力の高さが伺える。

 

 

「ありがとう」

 

 

 ひとしきり歌い終わった彼女はちょこんとソファに腰を掛け、オレンジジュースを手に取る。今の雪雫には先程の力強さは一切見られない。

 

 

「……雪雫の曲とはまた一味違うな」

 

「まぁこれはゴリゴリのロックだから」

 

「セツナのとは違うのか?」

 

「私のはどっちかと言うとJ-POP。DAW系? ざっくり言うと今風?」

 

「なるほど……分からん!」

 

「まぁ今は表現の幅が色々広がって、昔と違って境界が曖昧だから。ジャンルに拘らず好きなの聴くといいよ」

 

 

 私だって色々なの聴いているし。と雪雫は呟く。

 

 

「でもそう言う割にはオマエ、さっきから同じヤツの歌ばっかじゃねぇか」

 

「聴きたい曲と歌いたい曲はまた別。今は大声出したい気分なの。最近ご無沙汰だったし」

 

「好きなんだな、このバンド」

 

「ん……そうだね。普段聴いている中では特に好きかな」

 

 

 そう語る雪雫は僅かに目を伏せた。

 

 

「昔からの憧れ、だから」

 

「そうなのか? クジカワリセじゃないのかよ?」

 

「……私、りせは大好きだけど、そこ止まり。音楽的な嗜好はアイドル方面じゃないんだ」

 

 

 あくまでも顔とか声とか、久慈川りせという人間自体が好きなだけ。と雪雫は言う。

 

 

「……なんか、複雑だな」

 

「そうかな。結構そういう人、居ると思うけど」

 

「それで、このバンドのどういう部分が好きなんだ?」

 

「んー、一見複雑に見えて直球な所。……ええと、メロディとかリズムは複雑に聴こえるんだけど、それに乗せる歌声とか感情がストレートなの。……私には無いから、そういうの。どんな歌を作っても、上辺だけ」

 

 

 俯く彼女の白い髪は重力に従ってその顔を覆う。僅かに手を震わす彼女の瞳は、その白いカーテンの裏で何を見つめているか。今の蓮には分からない。

 

 

「………曲作りは難航している様だな?」

 

「─────まぁ…最近は特に、ね」

 

 

 

 

 

 

「自分の曲に満足した事があるか?」と聞かれたとして、私は迷いなく「否」と答える。

 

 

 彼女の隣に立ちたい一心で飛び込んだ世界。憧れるままに盲目に積み上げた過程。私にとってそれら全ては夢現の様に朧気だ。プロ意識に欠けると言うのなら、きっとその通りだろう。考えが足りないと言うのなら、きっと私は浅慮なのだろう。そうやって自分に見切りを付けてしまう程、私にとって虚しいモノなのだ。

 

 自分らしい表現を探す為に、色々な事をした。自身で作詞作曲も勿論、カバーや楽曲提供、デュエット。歌手活動以外では配信や取材etc。自分の言葉で発信しようと、伝えようと。様々な手段を探して探して探して探して───。

 それでも今思い返してみれば、自分の言葉は借り物の様に軽く、空虚なものだと思い知らされる。

 

 一度そう思ってしまったら最後。足元が音を立てて崩れ去ってしまった様に、過去の自分の行動、言動すら空っぽなのではないか──なんて邪念が浮かんでくる。確固たる自分を持って選択してきた今まで。それに伴って生まれた考えも感情も、誰かに与えられたものでは無いか───と。

 

 仮にそうだとしたら、いつから私は私でなくなったのか。

 

 メメントスに初めて入った時か?

 上京した時か?

 能力に目覚めた時か?

 憧れを抱いた時か?

 

 ────或いは、心臓が再び動き出したあの時か?

 

 

 一体、天城雪雫は何処で間違えた?




秀尽の校舎の間取りを確認する為にP5Rを起動したの私だけだと思う(前回)

曲は
MAN WITH A MISSION様より
Left Alive
をお借りしました
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