PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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102:The pioneers.

 

 

1()0()()1()3()() ()()() 

 

 

「ちょーっちその辺に掛けといてくれ」

 

 

 そうや否や、双葉はモニターの前に陣取り、慣れた手付きでキーボードを叩き始めた。やけに長い……優に15桁は超えるであろうパスワードを打ち込み、画面に映し出されたのは数字とアルファベットの羅列。言われた通りに後ろのベッドに腰掛けた雪雫からしても、その文字列は不知案内。この手の分野には疎いのだ。

 

 

「私が役に立つとは思えないけど」

 

 

 ある程度仕事でパソコンを触るとは言え、当然、双葉が得意とする分野とは180度異なる。あくまでも雪雫は既に出来ているツールを用いる側で、双葉はそのツールを組み上げる側。それにプラスしてハッキングやらクラッキングやら、映画よろしくの特殊技術まで備わっているのだから比べる事すらおこがましい。

 

 

「それでもアイツらよりはマシだろう」

 

「……まぁ」

 

 

 双葉の言うアイツら、とは怪盗団の面々だろう。言われて雪雫はお馴染みのメンバーを1人1人思い浮かべるが……見事に全員この手のモノには弱そうだ。辛うじて真と蓮が良い線行きそうだが、まぁ2人はあの場に残って皆の不安を和らげて貰っていた方が良い。蓮は特に口が上手いから。適材適所という奴だ。

 

 

「……それで、気になる事って?」

 

「真が言っていただろー? 嵌められたかもって。雪雫も同じ考えなんだよな?」

 

「状況からして、その可能性が高い」

 

「だとしたら…一体何時からだ?」

 

 

 何時から。と聞いて雪雫は今までの活動を思い返す。

 

 最初の事件である鴨志田は論外。

 班目は……口伝でしか聞いていないが、切っ掛けは怪チャン経由で来た改心依頼から。その流れで黒い噂を聞き、祐介に……という流れらしい。

 金城は校長から解決を依頼された真が蓮達を揺さぶったのが始まり。

 大山田は金城の顧客としての繋がりから。それに私自身が皆にお願いしたのもある。

 双葉、というかメジエド。アレは双葉のからの依頼がたまたま重なっただけ。

 

 

「可能性が高いのは外部からの依頼が切っ掛けになった斑目だけど……」

 

「しかし当時の怪盗団は眉唾物の存在。三流雑誌ですら取り扱うかどうかの代物だ。嵌める価値があったかは怪しいな」

 

「じゃあ残る選択肢で可能性が高いのは…メジエド騒動」

 

「"偽"メジエドな! 」

 

 

 金城、続く大山田は真、雪雫の2人が切っ掛け。真犯人の意志が介入する余地は無い。となれば怪盗団がある程度人気になった頃、更なる火付け役となったメジエド騒動が一番怪しいのは明白。付け加えるのなら、改心対象の双葉がたまたまメジエド本人であっただけで、怪盗団を煽ったメジエドは全くと言っていいほどのポッと出ヴィラン。そのアンダーグラウンドな存在、不透明なその姿……隠れ蓑にするには持ってこいだ。

 

 

「ハッキリ言ってアレはザコだ」

 

「……双葉の技術力が高過ぎるとか、そういうのでは無く?」

 

「違うな。偽と言っただろう? コードがトーシロのソレだ。継ぎ接ぎだらけで一貫性が無い。少なくとも、この手の分野に興味がある人間のものでは無いな。スキルがザコ過ぎる。例えるなら、最初の村の周りに出てくるスライムと言った所か。」

 

「でもそのスライムは双葉が倒してくれたんでしょ?」

 

「……と、さっきまでは思ってたんだがな」

 

 

 椅子をくるりと回し、雪雫に背を向けていた双葉は真剣な眼差しで彼女を見つめる。

 

 

「いいか? コードと言うのは指紋だ。どんなに取り繕ってもソイツの癖が出る。以前、偽メジエドが残した指紋、それを分析掛けた結果………別の場所で見つけた」

 

「………どこに?」

 

「怪盗お願いチャンネル」

 

 

 雪雫の端正な眉がピクリと動いた。

 

 

「叩けば埃が出ると言うが……、これは想像以上だな」

 

「というと?」

 

「外部から不正に書き換えられた痕跡を見つけた。……ふむ、こりゃアクセス大分盛られていたな。それも夏前くらいから」

 

 

 夏前と言えば、世間の注目度が一気に増した時期だ。怪盗団の活動を支持する芸能人やインフルエンサーも現れ始め、大衆がこちら側に傾き始めた頃。

 

 

「それと……ああ、こりゃランキングもだな。丁度、奥村社長がランキングに入り始めたころ」

 

「………ほぼ確定かもね。もしかしたらオクムラフーズの内部リークも…」

 

「まぁ確たる証拠は無い。まだ陰謀論止まりだ」

 

 

 今までの怪盗団ブームが仕組まれていたとして、奥村が相手にとって都合の良い生贄だったとして。やはり怪しむべきは彼の周り。主に目に付くのは警察か。奥村の家、記者会見。一見は怪盗団を警戒して警備をしていた…様に見えるが

 

 

(記者会見直後の家宅捜索、秀尽への立ち入り…校長室で見つかった予告状……)

 

 

 やはりこの件、警察も一枚噛んでいると考えざるを得ない。一体、何処までかは分からないが、少なくとも指揮を執れる立場の人間が真犯人の肩を持っているのは明白だろう。

 

 

「………警察か」

 

「雪雫?」

 

 

 

 

 

 

10月18日 火曜日 晴れ

 

 

 

「まさか君から訪ねてくるとは思わなかったよ」

 

 

 桐条美鶴は柔和な笑みを浮かべて、目の前の白髪の少女に語り掛ける。

 

 

「………平時であれば来なかったかも」

 

 

 そう応接用の椅子に背中を預ける天城雪雫は、やれやれと言う様に肩を竦めた。

 来客とは言え、この部屋に通したのは失敗だったか。と美鶴は雪雫を見つめながらぼんやりと考える。彼女の体躯に対してあまりにも大きなオフィスチェア。肘掛けに両肘を乗せればかえって疲れそうだし、何より床に足が付いていない。それこそ、不相応な玉座に腰掛ける幼い皇女か、人形のソレだ。

 

 

「………秘書からは桐条グループに対する営業……と聞いているが。 CMにおけるタレント起用の相談…と捉えて良いのかな?」

 

「冗談。()()()()()()ならここに通して無いでしょ?」

 

 

 不釣り合いな椅子の上で足をプラプラと遊ばせている少女からの鋭い指摘が飛ぶと同時に、「邪魔するで」と応接室の扉が開いた。

 

 

「あ、秘書」

 

「誰が秘書や。誰が」

 

 

 はい、カフェオレ。と丁寧な所作で雪雫に手渡すの銀髪の秘書──。

 

 

「ありがとう。ラビリス」

 

「どういたしまして」

 

 

 もとい、対シャドウ特別制圧兵装五式・ラビリス。シャドウワーカーにおける戦闘員である彼女であるが、平時はその高い演算能力を買われ多忙な美鶴の手伝いをしている。秘書と言うのもあながち間違いでは無い。

 

 

「今日は誰が居るの?」

 

「今日は…ウチとアイギス…それと美鶴さんやろ? あとは真田さんに………」

 

「真田さん…………って、あの裸マント?」

 

「あ、やっぱ、憶えるのはそこなんや」

 

 

 裸マント…という単語に美鶴は頭を抱えて溜息を零す。

 

 

「格好の事は……まぁ目をつぶってくれ…」

 

 

 真田明彦。

 美鶴にとって学生時代からの友であり仲間。苦楽を共にした戦友だ。真っ直ぐな性格で一度決めた事はちょっとやそっとじゃ曲げない。自分の信じる道を信じ進む所は彼の美徳ではあるが……。それ故に一般常識と言うのが少し欠けてしまっているのが難点。

 ちなみに雪雫が知る由も無い話だが、過去に彼女の姉である天城雪子が素肌に赤いマントを羽織るという衝撃的な彼の姿を見た時、「裸マント…」としきりに呟きながら大分ツボっていた。感性と言うか着眼点は姉妹そろって一緒らしい。

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

「……さて、話が逸れたな…。君の要件だが────」

 

 

 気を取り直し、美鶴が改めて雪雫に視線をやったその時、雪雫はすくりと立ち上がってその頭を下げ

 

 

「ありがとうございました」

 

 

 とそう告げた。

 

 

「………ふむ」

 

 

 そのお礼の意味を美鶴は噛み砕きながらも、視線はその優雅な所作に見入っていた。世界有数の大企業、日本の就労人口の約2%を占める桐条グループの宗家の娘。それなりに人の上に立つ者としての立ち振る舞いを叩き込まれてきた彼女だったが、そんな美鶴から見ても雪雫の所作は素晴らしいと言えた。老舗旅館を経営する良家の出身というのは嘘では無いらしい。

 

 

「……顔を上げてくれ」

 

 

 そんな彼女の礼節が何に対してか。をわざわざ聞く様な事はしない。

 

 

「私はお礼を言われる様な事は何もしていないよ。この間の件、私を含めてシャドウワーカーは一切関与していないからな。君も分かっているだろう? たまたま居合わせた私立探偵と公安の刑事が連携した結果だ」

 

「……でも…」

 

「それでも気が休まらないなら、かすみくんに直接言ってくれると助かる。……今は会えなくても、いつかはまた手を取り合えるさ。君達は友人なのだから」

 

「………はい」

 

 

 座ってくれ。と美鶴が促せば、渋々とは言った様子ではあるものの、雪雫は再び不釣り合いな椅子に腰掛ける。年齢か、それとも元々の彼女の気質か。しっかりと筋を通そうとする彼女は美鶴の目には好印象に見えた。

 

 

「………しかし君達もまた厄介なモノを相手にしているな。私達なりに君たち怪盗団の事をマーク……いや、この言葉は不適切だな。注目させて貰っているが、ハッキリ言って状況は芳しくない」

 

「最初、敵は悪人だけかと思っていた。でも改心させていくにつれて対象の規模も、話題性も大きなって。今ではある事ない事、噂だけが独り歩き。前から頻発していた精神暴走事件に廃人化事件……。その二つを怪盗団と結び付けている人達も増えて来た。そして、大衆を煽り、罪を擦り付け、怪盗団を組織的に貶めようとする存在が居る。……まだ仲間には話して無いけど、私は警察も黒だと思っている」

 

「……ならどうしてここへ来た? 我々もその警察機構の一部だが」

 

 

 警備補シャドウ事案特別制圧部隊──公称・シャドウワーカー。ここで言う警備補とは簡単に言えば公安……つまりは警察の中でも国家を揺るがす様な脅威に対して特別任務を請け負う部署の一角。対象が対象なだけに一般人はおろか、警察内部にさえも秘匿されている文字通りの「日陰の仕事人」ではあるが。

 

 

「脅し文句としては及第点。私達に干渉してこない時点で、怪盗団案件からは遠ざけられてる」

 

「我々がイセカイに入る手段を持ちえない事は知っているだろう」

 

「それは夏までの話、でしょう。今はかすみも丸喜も居る。それでも干渉出来ない。明らかにシャドウ事案である怪盗団絡みの事件に関われないという事は、怪盗団を捕まえたい人達にとってシャドウワーカー(貴方達)の存在は目の上のたんこぶ……違う?」

 

「───さて、何処から話そうか」

 

 

 流石は奥村氏の命を救った少女……と言った所か。自分の立ち位置、周りの動きを良く見ている。

 なんて美鶴が内心でブリリアント、と関心を示していると──

 

 

「ほう。良い洞察力と観察眼だ。存外、探偵業でも喰っていけるかもな」

 

 

 途端、応接室の扉が開くと同時に1人の男の声が響く。

 

 

「……はぁ」

 

 

 黙っていて静観していてくれたラビリスも思わず溜息を零して、その赤いマントを靡かせた男に呆れた視線を送る。

 

 

「美鶴を言いくるめるなんて、相当だ。誇れ」

 

「………は、裸マント……」

 

「ハダカマント? 何だその名は」

 

「………明彦……。来客が来ると言っただろう…」

 

「なんだ美鶴。来客と言っても殆ど身内だろう。ハッキリ言ってやったらどうだ、コイツが心配と」

 

 

 裸マント…もとい真田明彦は運動でもしていたのか、その額には汗が流れていた。筋肉隆々で雄々しいその姿は一見暑苦しいのにも関わらず、余りそうは感じさせないのは本人の静観な顔つき故か。

 

 

「前々から思っていたがお前は少々回りくどすぎる。もっとストレートに───」

 

「そういうお前は真っ直ぐ過ぎる」

 

 

 真田の登場により完全にシリアスな空気が壊れてしまった空間。美鶴もラビリスも呆れて文句らしい文句も出ない、と言った様子ではあるものの、内心は何処か嬉しそうにも見える。彼らが固い絆で結ばれた仲間であると、雪雫の目にはそう見えた。

 

 

「雪雫も雪雫だ」

 

「……私?」

 

 

 過去、修学旅行前に一回会ったきりの歳上の男性。同じペルソナ使いとは言えど、まさかいきなり名前で呼ばれる*1とは思わず、キョトンと首を傾げる。

 

 

「そんな今から小難しい事ばかり考えていては、美鶴の様になるぞ」

 

「………明彦」

 

「得たい情報があるなら勝ち取れ。もっとストレートにぶつけてみろ!」

 

 

 はぁ。と困惑半分、呆れ半分で雪雫が言葉にならない言葉を返すと、再び勢い良く扉が開かれた。

 

 

「つまり真田さんはこう言っています。情報は出し惜しみしないから、それに値する成果を見せろ、と」

 

 

 以前にも聞いた事がある、凛とした少女の様な声だった。しかし以前と比べて、機械特有の固さと言うか独特な言葉回しが無い。その姿に目を瞑れば、ラビリスと同様、ただの人間のソレだ。

 

 

「………アイギスまで…」

 

 

 再び美鶴とラビリスから溜息が零れる。

 

 

「私は雪雫さんに…再びバトルを申し込みます!!!」

 

 

 ビシっとアイギスが雪雫に人差し指を向け、高らかにそう言い放った。

 

 

「……あ、すみません。人を指で指すのはマナー違反でしたね」

 

「………はぁ…」

 

 

 相変わらずシャドウワーカーはトンチキ組織である。そう雪雫は思わざるを得なかった。

*1
雪雫も大概ではある

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