PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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105:Fight fire with fire.

 

 

10月19日 水曜日 晴れ

 

 

 

 ヤ っ て し ま っ た

 

 

 「何を?」と問われれば「ナニを」と答えるほかないだろう。

 …………いや、行くところまで行ったとかでは無いから。そこは勘違いしないで欲しい。

 当社比でヤってしまっただけで、世間一般で言う恋のイロハABCの内のAくらいまでしか──ていうか、そもそもマウストゥマウスはしてないのでAにも満たないです。……ホントか?

 

 ジャラリと音を立てる手の中の鎖が重い。色々な意味で。

 昨日の夜、雪雫からの誘惑でまんまと彼女に首輪を嵌めてしまった私こと久慈川りせだが、今になって思うと鎖に繋がれたのは雪雫では無く、私の様な気がしてならない。

 

 

『りせの所為でこうなったんだから、責任取ってよね』

 

 

 って暗に言われているのだ。

 

 いや、嬉しいよ? 嬉しく無いわけ無いでしょう。

 でももっと段階を踏んでも良いんじゃないかな、ってお姉さんは思うんだ。

 こういうのは大抵、何回かノーマルなスキンシップを繰り返した後、「そろそろマンネリ化してきたし、新しいスパイスとして~」って手を出すヤツじゃないかな。何が間違って二手目でほっそい首を鎖で繋ぐなんてアブノーマルな発想になるんだろう。

 

 もしかして雪雫ってドM?

 ………いやいや、まさかまさか。ただでさえ閉鎖的な田舎生まれで、蝶よ花よと大事に育てられた生粋のお嬢様がまさかそんな性癖を持っている筈無いじゃないですか。

 もしそうだったら………ちょっと興奮するよね。

 

 

 え? 何? そもそも初手*1で間違えているって?

 ………五月蠅いなぁ。

 

 は? 何なら、寝込みに手を出した*2私の所為だろって?

 ………記憶にありません。

 

 

 兎も角、段階飛ばし過ぎていくら辛い物が好きな私でも、このスパイスは刺激的過ぎる。

 

 

「雪雫…? 勉強は?」

 

 

 現在進行形で。

 

 

「必要無い」

 

 

 ソファに腰掛けた私を対面する様な構図で脚上に座っている雪雫。

 隙間無く密着した彼女の身体は程良く温かく、体格差もあって湯たんぽみたいだ。

 

 

「明日、テスト最終日でしょ?」

 

「問題無い」

 

 

 私が家に帰って来てからずっとこんな感じでくっついては離れない。

 そして口では離れるのを促す様な事を言っておいて、私も雪雫を放すつもりは無い。その証拠に、片方の手は抱き寄せる様に細い腰に回し、片方の手では鎖を掴んでいる。

 そもそも勉強面で彼女を心配した事は無い。何だかんだ、面倒とは口々では言いつつも、裏で勉強しているのを知っているし、そもそも地頭が良い。稲羽に居る時なんか、恥ずかしながら勉強を見て貰った事すらある。そんな彼女が「問題無い」と言うのなら、それはその通りなんだろう。まぁ仮に成績が振るわなくても、仕事もあるし私も居るし、特に将来の心配も無い。

 

 それに、もう一つ。私が彼女を放せない理由として大きいもの。

 

 

 今日、私が帰宅した時の出来事だ。

 玄関の戸を開け、帰宅した私を雪雫はその白い白髪を揺らして出迎えてくれた。まぁここは何時もの事だ。雪雫の家であっても私の家であっても、家に居る限り、仕事をしていても配信をしていても雪雫はこうして出迎えてくれる。

 

 だが、その時の恰好が問題だった。

 それは昨日さんざん視姦したベビードール……の色違いを着ていたのだ。昨日は黒色に対して今日のは白。……一体何着用意したんですかね。

 当然、黒よりも透けやすく、目を凝らせば身体のラインどころかおへそとかが良く見え──。とマジマジと観察した時、とんでもないことに久慈川りせは気付く。

 

 

『このエロガキ……着てない』

 

 

 着てないし、恐らく履いてない。見えても良い筈の下着の類のラインが見えない。

 それに加えて例の首輪から垂れ下がった鎖だ。傍から見たら何のプレイ?と誤解が生まれるに違いない。

 万が一、八十稲羽の黒雪姫にでも知られたら、灰も残さず燃やされてしまうだろう。

 

 靴を脱ぎ、鞄をその辺に放り投げた私は鎖を掴んで引っ張る。僅かに苦し気に、それでいて期待で瞳を潤ませる雪雫の顔を覗き込み

 

 

『他の人だったら襲われてるよ』

 

 

 なんて言ったら、この子

 

 

『なら、そうならない様に鎖で繋いでて』

 

 

 と、口角を上げて言ったもんだ。

 この子、エッチ過ぎる。流石、天然物のサキュバス。その容姿に小悪魔の角と尻尾を幻視した。

 

 

 

 という事もあり離せない。

 正直、手の上でコロコロ転がされている気もしなくは無いが、それとは別に彼女を本当に放したくない。

 

 収まりの良い彼女の身体をよりぎゅっと抱きしめて、首筋に顔を埋める。雪雫特有の幼い甘い匂い。脳を痺れさせる危険な麻薬。それらがお揃いのボディソープの香りと入り混じって鼻腔を擽る。

 雪雫もそれを受け入れてくれて、私の頭を優しく撫でてくれる。しっとりとした息遣いと、温かい子ども体温。

 致している訳でも無いのに気持ち良い。

 

 

「お風呂済ませたんだね」

 

「汚れた身体は抱きたくないでしょ」

 

 

 雪雫に汚い所なんて無いよ。なんて歯に浮く様なありきたりな口説き文句を言おうとしたが、私が大丈夫でも彼女が嫌なのだろう。と思って飲み込んだ。逆の立場だったら私も同じことを言うだろうから。

 

 

「でも、もう一度入る必要ありそうだよ」

 

「………そう、かな」

 

 

 そう言われて雪雫はバツが悪そうな顔を浮かべて、ほんの僅かばかり腰を浮かそうとするが、私が軽く鎖を引っ張った事でそれも未遂に終わる。

 膝上でモジモジと自身の太ももを摺り寄せる姿が何ともいじらしい。

 

 

「そうかも」

 

 

 小さな抵抗を見せていた雪雫だが、観念した様にペタンと再び私の上に座り込んで肯定を返した。恥ずかしいのか耳まで真っ赤に染めて視線を逸らしている。

 首輪の提案の方が恥ずかしい気はするが……相変わらず変な所で常識的だ。

 

 

「んっ」

 

 

 再び雪雫が腰を上げた。

 今度は逃げる気は無い様で、膝立ちになって私の首元に舌を這わせる。

 

 

「………んぁ」

 

 

 器用にくるくると。小さな舌先を筆に見立てて肌上で円を描いた後、期待混じりの熱っぽい視線が送られてきた。

 

 昨日からのスキンシップで分かった事が1つある。

 雪雫はマーク付けして欲しい箇所に、こうしてアピールをしてくることだ。

 直接言うのが恥ずかしいのか……言うよりも恥ずかしい気はするが、兎も角こういう手段を彼女は好む。

 

 

「お望みの通りに。お姫様」

 

 

 そう言って自身の湿った首元と同じところに、口吸いを施す。

 最初はやられた様に舌先で遊んで、次にテラテラと光るその箇所に歯を立てる。もう何度目か分からないマーキング。昨日の分も相まって、彼女のベビードールの下には赤い華が幾つも咲いている。

 そしてその事実が熱となりさらに私を浮かす。私しか知らない彼女の姿、私だけが施せる印。

 鎖を持つ手に自然と力が入り、もう密着出来る隙間なんて無いのに、さらに雪雫を引き寄せる。

 

 

「…ぁっ」

 

 

 彼女の身体、治りが早いから。念入りに、じっとりじっくり、何回も沁み込ませる様にやらないと。

 

 雪雫の小さな手が私の背中に回され、皺を作る。肩は跳ね、腰は僅かに痙攣し、脚は目一杯に閉じられた。

 気温は高くない筈なのに、私の太ももは気付けば汗で湿っていた。

 

 

「……はぁ」

 

 

 口を放せば、小さな首元に新たに咲いた華とそれを繋ぐ銀色に輝く蜜。

 それを指で拭い、雪雫の薄い唇をなぞれば、彼女はそれをパクリと口に含んだ。

 

 全く別の生き物の様に湿り気を多分に含んだ下がうねる。指に付いた蜜をふき取り、そしてまた別の蜜で上書きして、口全体で包み込む。

 

 

「ネコみたい」

 

 

 なんて呟いたら、雪雫はキョトンとした表情を浮かべて咥えていた指を離した。

 

 

「りせはネコ好き?」

 

「好きだよ」

 

「ならネコで良い」

 

 

 そう短く答えて今度は私の服を捲る。

 

 

「こうして接してくれるなら、何でも良い。りせの望むモノになってあげる」

 

 

 そう言いながら、今度は胸元に舌を這わせ始めた。

 ああ、自分の職業が恨めしい。仕事が無ければ、きっと堂々と雪雫もマークを付けてくれたかもしれない。だけどそれが出来ないのが分かっているから、きっとこうして刷り込ませる様に舐めるのだろう。その感触だけでも、残す為に。

 

 そうしてたっぷりと時間を掛けた後、顔を上げた雪雫は

 

 

「今度は尻尾でも付けてみる?」

 

 

 なんて、ふふっと笑みを作る。

 可愛い通り越して末恐ろしさすら感じてしまう。

 

 

「…そんな顔しないで、冗談だよ」

 

 

 そう言う彼女の姿はネコでも何でもない、本当に小悪魔のソレだった。

 

 

「────多分ね」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

10月20日 木曜日 晴れ

 

 

 

「好かんな」

 

 

 と開口一番、青い監獄服に眼帯と属性マシマシの恰好をした少女は不愉快そうに眉を顰めて言った。

 

 

「ご機嫌斜めですね、カロリーヌ」

 

 

 それを指摘するのは、はたまた同じ格好をした少女、ジュスティーヌだ。

 

 

「何かあったのか?」

 

 

 そう問えば、ただでさえ不愉快そうに歪めている顔をさらに歪めて、カロリーヌは手に持つ警棒で牢屋を叩く。

 やれやれ、今日は実に虫の居所が悪いらしい。

 

 テストが終わったと思った束の間、双葉と雪雫から語られた『怪チャンへの不正アクセス』と『偽メジエド』の真相。曰く、夏頃から敵の手の平で転がされていた可能性が高いとのこと。

 それだけでもゾッとする話だと言うのに、見計らったかのように今さっき、真からは特捜部が本格的に動き出したとの情報が。 

 国が…そして真犯人を含む敵組織が、本格的に怪盗団を潰しに来たという事だ。

 

 人気者から一転、完全に向かい風に立たされた今、さらなる激闘が予想される。

 そう思い、ベルベットルームに向かった次第だが、肝心のイゴールが不在。また後日出直そうとしたら……コレだ。

 

 

「あんな奴を放置している姉様方の気が知れん」

 

「あんな奴? 誰の事だ?」

 

「貴様の発言は許可していない!」

 

 

 ガシャン。と大きな音と共にカロリーヌが再び警棒を振るう。

 

 

「貴方の仲間の事です、囚人。永劫を司る少女、永遠なる乙女」

 

 

 感情的なカロリーヌとは対照的に、努めて冷静なジュスティーヌが呆れた様子で言った。

 

 

「雪雫がどうかしたのか?」

 

「……貴様…あれだけ時を共にして、アレの本質を見抜けていないのか……?」

 

 

 ギロリ、と大きな瞳が俺を見下ろす。

 

 

「アレは悪性の塊だ。表面では被害者ぶっていながら、その本質は何処までも加害者に過ぎない」

 

「古来から伝えられる神々のソレと同様です。善なる行いも、悪なる行いも、どちらにせよ人類にとっては毒そのもの」

 

 

 嘘を言っている様には見えない。

 そこそこ長い付き合いだから分かるが、この双子は素直で無いだけで嘘は言わない。どんなに口汚くても、どんなに高圧的でも「こちらの味方」というスタンスは崩さない。

 

 でも彼女達の言葉には同意しかねるのも事実。

 自分の知る天城雪雫は、真っ直ぐで、確固たる意志を持っていて、この2人の言う様な姿は全く想像出来ない。

 

 

「我々、ベルベットルームの住人は貴方達の様な客人を迎え、一つの結末に導く存在。しかし、その結末とは終わりではなく可能性」

 

「故にアレは好かん」

 

 

 相変わらず抽象的で明確に何を指しているか分からない言い方だ。

 ここの住人は皆そうなのだろうか。

 

 

「納得いかない。という顔ですね」

 

「だが貴様がどんなに否定したとしても、本質は変わらない」

 

 

 いや、導くというのがここのスタンスなら、答えは自分で見つけろという事か。

 

 

「……心配、してくれてるんだな」

 

「な、何をどう聞いたら……!!」

 

「不愉快です。囚人」

 

 

 本人達は不愉快そうに顔を歪めて否定しているが、今までの彼女達を見ていれば分かる。

 口から飛び出る罵倒や叱咤も、こちらを前に進ませる為の激励だった。字面は重そうな刑期業務も、蓋を開けてみればこちらの力を伸ばす様な適切なトレーニングプランだった。

 こうしてわざわざ、主人であるイゴールが不在の中で呼び止めて話してくれたという事は、それはきっと彼女達なりの心配だ。

 

 

「……雪雫が仮に、お前達の言う通り害成すモノだとしても、彼女が仲間という事は変わらない。そして怪盗団は仲間を見捨てる事は無い」

 

「………」

 

「もし道を踏み外したら、無理矢理にでも道を戻してやるさ。その為の力だ」

 

 

 ジュスティーヌとカロリーヌはキョトンとした顔で見つめ合った後、やれやれと肩を竦めて再びこちらを向いた。

 

 

「図に乗るなよ、囚人風情が」

 

「なんたる過信、なんたる傲慢。……一つ、忠告をしておきましょう」

 

 

 貴方にアレを変える事は出来ません。

 

 

 

 

 そう、冷たくジュスティーヌは言った。

 

*1
95話参照

*2
9話参照




どうでもいい制作小話①
日ごとの天気はP5Rと同じ
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