PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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106:Ham actor.

 

 

 10月21日 金曜日 曇り

 

 

 

 

「警察?」

 

「ええ、立ち入り調査に来ているみたい」

 

 

 りせが仕事のついでに、と車で学校の前まで送ってくれたのが10分前。何時もよりも早く着いた為、暇つぶしに本でも読んでようと図書館に足を運んでいる道中、真に声を掛けられたのが5分前。そして屋上へ連れて来られたのが3分前。

 苦々しい真の視線を追って学校の裏口を見下ろせば、職員駐車場付近には見慣れない車が数台。

 

 

「何の用で……なんて、聞くまでもないか」

 

「……十中八九、怪盗団(私たち)絡みね。生徒全員に簡単な聴取を行うみたい」

 

 

 動き出した、と真から連絡が来たのがつい昨日の事。たった一日で秀尽への再度の立ち入り、それでいて未成年相手に事情聴取と来たものだ。不敗神話は伊達では無いらしい。

 

 

「生徒会室を貸して欲しいって、さっき先生に言われたわ」

 

「じゃあお昼は別の場所だね」

 

「そうじゃなくて……。いや、そうなんだけども………」

 

 

 はぁ。と真は頭を手で押さえてジト目を雪雫に送る。

 

 

「気を付けてよ?」

 

「釘を刺すなら私より竜司」

 

 

 あと杏、意外と失言多いから。と雪雫は付け加える。

 

 

「貴女は貴女で別の心配があるのよ……」

 

「別の?」

 

「ほら、生意気だし」

 

「私をなんだと」

 

 

 

 

 

 

 

「緊張して何回も噛みかけちゃった……。警察の質問、少しは慣れたと思ってたのに」

 

 

 しゅんと春が肩を落としながら言う。

 

 

 放課後、いつものルブランに集まった雪雫達。話題はもっぱら、本日行われた秀尽での警察主導の面談の事。

 

 

「みんな、同じこと訊かれてたのね」

 

 

 真の言葉に秀尽組は一斉に首を縦に振った。

 

 今回の事情聴取で訊かれた事は主に「交友関係」と「怪盗団はこの学校関係者だと思うか」という事。

 

 

「お決まりの手口だよ。わざとそうやってボロを出させんだ」

 

「出してないだろうな? ボロ」

 

「…………多分な。手の汗とか気付かれたらヤバかった」

 

「まぁ多少ぎこちなくてもセーフだと思う。あくまでも未成年に対しての面談だし、それは向こうもわかってる」

 

 

 むしろ多少動じていた方がかえって等身大の高校生っぽいし。と雪雫は自身の髪をくるくると遊びながら言う。

 

 

「そういうセツナはどうだったんだ?」

 

「私は……何時も通り」

 

 

 雪雫は何でもない様に言うが、警察側から見てきっと雪雫が全生徒の中でも群を抜いて非協力的だっただろう。その彼女の様子に担当していた2人も思わず顔を合わせてキョトンとしていた。

 いや別に、反抗的な態度であったとか、無反応とかだった訳では無い。

 

 ただ大抵の質問には「首を振る」もしくは「ん」「いや」と短く答えていただけだ。それ以外で発した言葉と言えば「別に」と「どうでもいい」だけ。

 

 Q.君も中々面白い交友関係だね

 A.別に

 

 Q.怪盗団ってこの学校に居ると思う?

 A,どうでもいい

 

 

「芸能人の記者会見か」

 

 

 なんか昔にあったよな?と竜司の同意に、蓮はやや苦笑い気味に頷いた。

 まぁ雪雫の無愛想っぷりは今に始まった事では無い。

 

 

「ま、まぁこの方がかえって雪雫らしいかもね………。ほら、私達と居る時以外って基本こんな感じらしいし?」

 

「なんで少し嬉しそうなんだよ」

 

 

 因みに雪雫の面談後、川上から面談の際の態度について小言があった時は「やっぱり……」と頭を抱えていたのだが、本人に直接文句を言わない辺り、贔屓が見え隠れしている。

 

 

「しかし警察から俺の名前まで出てくるとは……。家に直接来られても…不思議ではないな」

 

「それだけ疑われているってこと」

 

「そうね……特に秀尽の私達は、ね……」

 

 

 警察も中々侮れないな、とモルガナの言葉に一同は頷きを返す。

 個人までは特定されていないにせよ、状況を見るに「怪盗団は学生」という線で捜査をしているのは明白。それでいて最初に起きた怪盗団による改心が鴨志田なのだから、誰が見ても秀尽が黒に近いのは明白だろう。

 

 

「……………」

 

 

 静観する雪雫の視線を感じながら、真は再び口を開く。

 

 

「気が滅入る話だけど…、常に誰かの監視の目があると思って生活する事。特捜が動いている以上、校内に潜入していてもおかしくないわ」

 

 

 それでなんだけど……と真は続けた。

 

 

「2年生の3人には学園祭実行委員に加わってもらう事にしたから」

 

「なんで!?」

 

「集まる名目があるなら怪しまれない。それに目立つまいと意識しすぎても逆効果」

 

「そういう雪雫は?」

 

「生徒会は元々運営側。問題無い」

 

 

 本来、秀尽の学園祭は今月の最後の土日を予定されていたのだが、世間の醜聞や警察による調査などが重なり予定が大幅変更。十分に準備期間があった筈が、開催日が急に4日後の25日と変更となり、急ピッチで準備を進める必要が出たのだ。

 ただでさえ運営の人員が揃っていないのに加えて準備期間も短いという事で、2年生組の飛び入り参加に異を唱える者は居ない。というか異があったとしても、真がイエスと言えば押し通ってしまうことを運営側は十分に知っているから、半ば諦めていると言ってもいい。

 

 

「何度も言うようだけど、今は出来るだけ普通の学生を装うのよ。一度足を止めて敵を見定めるの。相手が不透明な以上、迂闊に動くのは悪手だわ」

 

「……逆に言えば相手が分かれば一気に反撃出来るチャンスがあるって訳だ。気張れよ、オマエラ」

 

 

 一同は互いの視線を合わせ、深く頷きを返す。

 

 

「……………」

 

 

 そんな光景を、雪雫は椅子の上で脚を抱えながらボーっと眺めていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

10月22日 土曜日 晴れ

 

 

 学園祭と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。

 インスタントマシマシの飲食店、手作り感極まるお化け屋敷、少しチープな演劇エトセトラエトセトラ……。

 

 様々な催しものが生徒主導で行われる中、一際人気を集めるのが外部ゲストの誘致である。

 それは歌手であったりアイドルであったり芸人であったり……。毎年、登壇するゲストの職種はまちまちだが、決まってそれらは全生徒対象のアンケートで選ばれる。

 確定では無いものの、自分達の意見が反映されるとなれば、流行に敏感な生徒達はそれはもう、それなりの熱量であれやこれやと有名人の名を書き連ねる。

 

 言わば、ゲストの選定という仕事は全校生徒の期待が圧し掛かる分、準備期間で一番重いタスクなのだ。

 そしてそれは大抵、組織図上、上位に位置する者へと回されるのが常。

 

 つまり、今年のゲストの決定は、生徒会長である新島真率いる生徒会に一任されている。

 

 

「むり」

 

 

 数百枚におよぶアンケートを投げ出し、雪雫は言葉と共に突っ伏した。

 

 

「ちょっと雪雫、散らかさないでよ」

 

 

 同じように数百枚ほどの紙束を持つ真が、溜息と共に雪雫を咎める。

 

 

「生徒の数だけ要望はある。纏める事すら大変なのに、文化祭は明々後日。決めたとしても、次はアポイントメント………頭が痛くなる」

 

「……それは…」

 

 

 同じように思う所があるのか、真は咎めた口を閉じて言葉を詰まらせた。

 そもそも何度も言うようだが、本来、学園祭の準備期間は十二分にあったのだ。それが度重なる事件や醜聞で日程の変更が余儀なくされ、非常にタイトなスケジュールで準備を進める事に。

 

 

「そもそも皆が思う様な有名人がスケジュール空けてる筈が無い」

 

 

 ただでさえ規模の小さい高校の学園祭だ。当然、ギャラの面でも大したことない。大抵、こういうのをOKする場合、相手側の気遣いというか好意による部分が多い。そんな中、3日後という直近で仕事をしてくれませんか、なんて無理を言っている様なもの。

 

 

「そう言う雪雫はフットワーク軽いけどな……」

 

 

 学園祭の実行委員として手伝いに来ている……開始十分で仕事を放り投げていた竜司がスマホを皆にと見せながら呟いた。

 

 

「えーっと……天使の子、待望の初ライブ決定。ファーストステージは沖奈市の大学……。その後も複数の大学でライブ敢行か……え、すご。トレンド入ってんじゃん」

 

 

 竜司の隣に居た杏が目をまん丸と開けた。

 

 

「つーかオマエ、ライブした事無かったのかよ」

 

「りせのライブにゲストで出て一曲…とかはあったけど、一人で立った事は無いね」

 

「そんだけ有名なのに?」

 

「……まぁ、うん?」

 

 

 色々と大変だしね、と雪雫は何でも無い風に呟く。

 

 

「それが何で今になってやろうと思ったんだ?」

 

 

 2年生組の中で一番真面目に仕事をこなしていた蓮が、とうとう手を止めて話に参加する。

 

 

「まぁ…タイミングと……気分…かな」

 

「何で学園祭?」

 

「規模小さい方が色々準備要らないでしょ。ちゃんとした所でやろうとすると物販とか演出とか…費やす時間増えるし。今はまだ良いかなって。学園祭みたいな小さな所だったらそもそもチケット安いから観客側も過度な演出期待しないし、多少グダグダになっても許してもらえるし、最悪音源に合わせて歌うカラオケ形式でも許されるでしょ」

 

「なんて低いプロ意識……!」

 

「……いやこれは逆に自分の価値が分かってて、手の抜き所が分かっているタイプ…かしらね……」

 

「学生、怪盗、歌手の三重生活。私だって楽出来るところは楽したい」

 

 

 それに、と雪雫は僅かに頬を染めながら小さく

 

 

「沖奈の大学…雪子……お姉ちゃん、居るし………」

 

 

 と呟いた。

 

 

「……ヤバイ。いまキュンときた」

 

「私も…」

 

 

 その姿に居抜かれ、胸を押さえる杏と春。

 それを横目に真は「仕事が進まない…」と吐露する。

 

 

「学園祭をステージに選んだ理由は分かったけどよ。それならウチでも良かったんじゃね? 現にお前の名前、結構見かけるぜ?」

 

「外部ゲスト、なのに内部で完結してどうするの。こういうのは生徒の意志決定の上、当事者達が本人に確認をとって段取りを決める……という過程が大事なの。将来を見据えたビジネスの疑似体験」

 

「なんでそこだけ真面目なんだよ…………」

 

「だってそう真が言ってたから」

 

「受け売りかよ」

 

 

 誇らしげに両手を組んでは深く頷きを繰り返す真。誰がどう見ても嬉しそうである。きっと「雪雫も生徒会らしくなったわね」と思っている事だろう。

 

 

「まぁ、私の話はいい。結局、誰の名前が一番上がった?」

 

 

 それぞれに配られたアンケートの束に目を落とし、やや複雑そうな表情を浮かべて順繰りにその名を口にする。

 

 

「………一位が…明智君…ね…」

 

 

 明智…明智吾郎。

 初志貫徹、怪盗団の行為を真っ向から否定してきた男。怪盗団のブーム下であってもその姿勢は決して崩さず、それが幸いしてか怪盗団人気が崩れた今では怪盗団に代わって再び人気者へ。

 当事者である蓮達からすれば、ハッキリ言って面白くない相手ではある。

 

 

「良くも悪くも、今のトレンドの体現」

 

「2位と比べてもほぼダブルスコアね……」

 

「こっちが集計してんならいくらでも嘘つけんだろ? バカ正直に呼ばなくてもよ」

 

「これだけ票差があるならバレる」

 

「んなこと言ってもよ……!」

 

 

 怪盗団の中でも明智は取り分け危険な男として評価されている。

 高校生探偵の肩書もさることながら、早々に怪盗団を学生だと断定した卓越したプロファイリング能力。加えて以前会った時から、明らかに怪しまれている節もあり、日常会話1つにしても油断が出来ない相手だ。 

 

 

「……わざわざ危険を呼ぶ愚は避けたいわね…」

 

 

 しかしこうして結果が出た以上、普通の生徒を演じるのであれば従う他無いが……。

 

 

「一度、ゲストに関しては熟考してみるわ」

 

「幸い、スケジュールはタイト。都合が付かなかった、で誤魔化しは効く」

 

「……そうね、それも含めて考えてみる」

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 久方振りに独りの夜を過ごす雪雫は、お風呂に浸かりながらボーっと浴室に備え付けられたテレビを眺めていた。

 普段、映画を観る事が多い彼女だが、今日は珍しい事にモニターに流れるのはニュースの速報。映し出されているのは今日ちょうど話題に上がった青年、明智吾郎。

 

 

「…………」

 

 

 彼の言葉に耳を傾けては、その形の良い眉をピクリと動かした。

 

 

『これまで、批判されながらも、怪盗団に正義は無いと訴えてきましたけど……。奥村氏の事件、それから一連の不審死と怪盗団は、僕は無関係だと思っています』

 

 

 今日、丁度みんなでアンケートの集計をしていた頃。警察から公式に怪盗団のプロファイリングについての言及があった。

 その内容を端的に話すのならば「今までの改心事件はフェイクで、殺人が本来の目的。奥村の件は実験」だと。

 つまり怪盗団が殺人鬼、もしくはその予備軍だとして警察が公式に疑っていると全国民に初めて公表したのだ。

 

 

『彼らが危険な存在である事に変わりはありません。でも、事件と怪盗団を今すぐ関連づけるのは短絡的だと言いたいだけです。この事件には、まだ不審な点が多い…裏がある様な気がするんです』

 

 

 そんな中でのこの記者会見だ。

 どうやらこれを最後に明智はマスコミへの露出を控えるらしい。傍から見れば再びのバッシングを恐れて……の様に見えるが。

 

 

「一体誰に向けてのメッセージなのやら」

 

 

 騒然としながら意見を交わすアナウンサーとコメンテーターの場面に移り変わった所でテレビを消して天井を仰ぐ。

 

 

「滑稽」

 

 

 雪雫の独り言はちゃぷりという水の音と共に空へ消えていった。

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