PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

112 / 158
107:The eyes speak as much as the mouth.

 

10月24日 月曜日 晴れ

 

 

 みんな、同じ様な話をしている。

 

 やれ「あそこのクラスの出し物は何か」とか「ゲストは誰だ」とか「後夜祭の出し物が~」とか。

 この間まで怪盗団の事で持ち切りだったのに興味はすっかり学園祭へ移ったらしい。こちらとしては動きやすくなって有り難い事この上無いが、あまりの話題の流動性に少し呆れてしまう。

 

 

「それで結局、明智でいいの?」

 

「………昨日、皆で決めた通りよ」

 

 

 そんな話題から逃れる様に駆け込んだ生徒会室で、真は髪を耳に掛ける動作と共に口を開いた。

 

 

「双葉と春は手詰まり。お姉ちゃんもその手の話はしなくなった。詰んでる…と言っても過言じゃないわ」

 

「だから捜査に噛んでる明智を情報源とする……でしょ」

 

 

 まぁ真の認識は間違っていない。実際、今の私達に警察内部の情報を得る事は出来ない。テレビや記事で初めて知る事も少なく無く、現実での動きとしては一歩二歩、遅れを取っている。

 先日行われた面談の様子を見るに、大分目を付けられている様だし、迂闊に桐条とも接触出来ないだろう。

 私が裏で独自に動くという選択肢も遂に消えた。

 

 

「ええ。寧ろ今の状況、明智君以上に()()()として利用出来る人物は居ないわ」

 

 

 記者会見で見せた警察の動きに対する不信感、逆に怪盗団に対する一抹の信頼。探偵という立場上、警察組織に対する義理あっても義務は無く、接触も比較的容易。

 確かに今までの彼からそう評価出来るだろう。

 

 

「何か不安でも…。いえ、それは皆そうね……」

 

不安、ね

 

 

 何もない。と真にそう伝えて、話題を切った。不確定要素をいくら話し合った所で不確定な事には変わり無い。真が昨日言っていた様に、明智吾郎への招待は「賭け」なのだから。

 

 

「……雪雫?」

 

「いや」

 

 

 真の探る様な視線に気づき、何でもないと微笑みを返す。

 

 なる様になれ、だ。

 今は真が「探偵」として彼を認識しているのが確かめられただけで十分だ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

10月25日 火曜日 晴れ

 

 

 

 

「ふわぁ……」

 

 

 肌寒い秋空の下、澄んだ空気に少女の口から漏れ出た眠気が消えていく。

 

 

「………ねむ」

 

 

 眦に生理的な涙を溜めて、雪雫は肩を落としながら言った。

 

 時刻は7時半を過ぎたあたり。

 普段の登校時間よりも大分早く学校に着いた雪雫は、恨めしそうに派手に彩られた校内を見渡す。

 

 学園祭1日目。

 誰もが浮足立っている中、雪雫は自らのクラスへと向かう。

 

 

「あ……雪雫ちゃん…!」

 

「ん」

 

 

 クラスメイトの……雪雫にとっては名前すら知らない女子生徒Aがパッと笑顔を咲かせ、教室に着いた雪雫を迎えた。普段は雑談すらしない間柄だが、ここぞとばかりに距離が近くなるのはイベント特有の空気感故か。

 

 

「皆、準備してるよ!」

 

 

 準備。そう、準備。

 その為に雪雫は朝早く駆り出された。

 

 

「雪雫ちゃんのサイズ用意するの大変だったんだから!」

 

「どうも」

 

 

 言われるがまま教室の奥へと通されれば、さらに奥に待ち構えていた女子生徒Bが目を張る速さで雪雫の鞄を奪取。その横の女子生徒Cが持っていた服を代わりと言わんばかりに雪雫へ押し付けた。

 

 

「はぁ……」

 

 

 折り畳まれた服を広げれば、いやに生地の薄い……言葉を選ばず言ってしまえば、安っぽく、チープで、コスプレ感満載のチャイナドレスが姿を現した。

 

 そう、これだ。雪雫のクラスの、学園祭における出し物。

 所謂、中華喫茶。

 

 男子も女子も何時もよりも煌びやかに、華やかに。学校と言う日常風景の中で確かにある非日常体験。それをより彩ろうと、朝早くから集まっては皆各々、自分の準備をしている。詳しく言うなら、髪の毛のセットやら化粧やら、自撮り?やら。

 

 

(これの為に私は……)

 

 

 ただでさえ朝早い上に、久しぶりの雪子からのモーニングコールで起こされた雪雫は眠気がマックス。どうも、沖奈での学園祭ライブの件で連絡してきた様だが、旅館従業員基準の朝に電話は勘弁して欲しい。と雪雫は切に寝惚け半分で思った。

 

 

「着替えは、トイレでね」

 

 

 出来れば、皆と共に午後にフラっと来て適当に回って帰りたかった雪雫だが、まさか自分がシフトに組み込まれていたとは思ってもよらず。どうやら居眠りを決めている間に当日の役割が決められていた様だ。

 

 

「仕方ない…」

 

 

 何度目か分からない溜息を零して、雪雫は着替えに向かった。

 

 

 

 

 

 学園祭1日目

 

 

「盛況だな」

 

 

 チカチカする様な派手な内装に、学校中から響く人の声。道行く人は生徒、コスプレ、大人、子どもと色様々。予想以上の盛り上がりに祐介は目をまん丸と開けた。

 

 

「人、去年より全然多い!」

 

 

 続いて生徒である筈の杏も驚きの声を上げた。

 

 

「そりゃそうだろ。有名になっちまったし。怪盗団に鴨志田、校長……それにゲストが明智だぜ?」

 

 

 そう冷静に状況を分析するのは意外にも竜司だった。彼は周りをキョロキョロと視線を配りながら、何処か居心地悪そうに溜息を吐いた。

 

 

「私服警官とか居るかも……。ていうか居るわね、多分。会話の内容、気を付けないと」

 

 

 見渡す限りの人。制服をそのまま着ている生徒も居れば、私服やコスプレを着て楽しんでいる生徒も居る。それに加えて外部から遊びに来た人々。誰が校内に居ても目立たず、怪しまれない雰囲気。警官が溶け込むには持ってこいのイベントかもしれない。

 

 

「フツーの学生っぽさが大事だな」

 

 

 この中で一番フツーではないモルガナが、蓮のバッグから身を乗り出して顔を見せる。「いや、お前は大人しくしてろよ」と一同誰もがそう思った。

 

 

「……学園祭って、フツーはどうするもん?」

 

「んー…色々見て回ったり…、食べたり?」

 

「決まり何かねぇよ。前海に行ったろ? あんなんで良いんじゃね?」

 

 

 「名目上、学祭は遊びじゃないから…」と真は小言を挟むが、誰の耳にも届かない。

 最終的に肩の力を抜いて普通に楽しんでおけばいい、という着地で真も渋々と引き下がった。

 

 

「そういえば雪雫ちゃんは?」

 

「ああ、雪雫ならシフトがあるって言ってたわ」

 

「シフト?」

 

「クラスの出し物だって。中華喫茶…らしいけど」

 

 

 まぁ。と春は満面の笑みを浮かべて、さも「興味あります」という風に手を合わせる。

 

 

「ぷっ。あの雪雫がシフトときたか……。労働に屈する雪雫なんて今日限りかもな」

 

 

 我慢出来ずと言った様子で双葉は吹き出しては、お腹を抱えている。

 「まぁ確かに働いている想像は出来ないけど……」と真が漏らした言葉に全員が頷きを返した。

 どうやら最初の目的地は決まったらしい。

 

 

「覗いて、みましょうか」

 

 

 

 

 

 予想以上に良く出来ていた。

 

 ありきたりな教室の机にはテーブルクロスが敷かれ、武骨な備品のカーテンも金の刺繡が入った派手なものに変えられている。どちらも赤を基調に揃えられていて、パッとだけ見れば正規のお店と見間違う程であった。

 そんな中で、一同を迎える無表情な少女。

 

 

「おかえりなさいませ、お嬢様方」

 

 

 少女が表情通りの棒読みと共にペコリとお辞儀をして出迎える。

 

 何時もの白い髪はお団子状に2つに纏めていて、そこに髪飾りを添えていた。普段は髪で隠れていた耳が露出し、片耳に付いているピアスが良いアクセントを醸し出している。煌びやかな刺繍と鮮やかな赤が融合したチーパオ…所謂チャイナドレスは見事と言わざるを得ないくらい良く似合っている。起伏の乏しい身体もラインに沿ったドレスで美しいスリムな曲線美として映え、深いスリットからチラリと見える白い脚は非常に煽情的である。

 

 

「え、えぇと……」

 

「?」

 

 

 と真は雪雫を見るや否や、そう考えてしまい掛けるべき言葉を見失う。本当は最初の声掛けに対して「お店違くない?」とツッコミを入れるべきだったかもしれない。だがその姿を一目見た瞬間、そんな理知的な考えなど何処かに飛んで行ってしまった。恐ろしい、これが非日常体験。

 最早、宇宙に思考を漂わせる形となった今の真は使い物にならない。そう察した杏は苦笑いを浮かべて「案内してくれる?」と雪雫に告げる。

 

 

「ん…。野次馬7名様、入りまーす」

 

「いや、言い方」

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「何でそんなに機嫌悪いんだ?」

 

 

 一つ250円する小籠包(冷凍食品・原価50円)を口に頬張りながら、竜司は目の前で脚を組んで座っている雪雫に問うた。

 ウェイトレスの態度じゃない、とかツッコミを入れるのはもう今更だ。彼女は明らかにテンション低いし、所作に対して表情と言葉が付いてきていないし、すっかりダウナーマシマシモードだ。

 

 

「んー………」

 

 

 飲み掛けのホット烏龍茶を口に運びながら、雪雫は思案顔を浮かべる。横で「ちょっと、それ私の」と抗議を飛ばす真の声が届かない位、彼女は考えた。

 

 明確にコレという要因は無い。1つ1つの小さな要素が塵積で虫の居所を悪くしているのだ。

 例えば、昨晩…より詳しく言うならば丑三つ時が半刻ほど過ぎるまでに渡って、久慈川りせとのスキンシップに勤しんでいた事か。また、その上で朝早くに姉からモーニングコールが来た為に睡眠時間が十分でない事。

 例えば、朝早く学校に駆り出された為、スキンシップ朝の部を行えなかった上に、あろうことかそれに充てれた筈の時間でクラスメイトに着せ替え人形にされた事。

 例えば、そんな自分を物見遊山な態度でやって来た仲間達の事。

 とどめに…急な仕事でりせが学園祭に来れなくなった事。

 

 全員が悪気が無い事は重々承知だ。これは自分が勝手に精神的に不安定になっているだけだと、雪雫は分かっている。

 だからこそ、何て伝えるべきか言葉に迷う。

 

 

「雪雫ちゃーん。ご指名来たよ~」

 

 

 と、考え込んでいる雪雫に、入口の方から飛んでくる女子生徒Aの声。

 

 

「………………?」

 

 

 小首を傾げながらティーカップを静かに起き、立ち上がった雪雫はやはり何処かキレ無く入口へと向かう。

 

 

「指名……って…。私達のクラス(メイド)じゃあるまいし…」

 

「やっぱ店間違えてね……?」

 

 

 小さな背中を目で追いながら、もうちょい凝れよ…と言わんばかりにぼやく。

 大枠は中華喫茶の癖に、接客自体はメイド喫茶のソレ。何ともチグハグで、そういう所に学園祭クオリティを感じざるを得ない。何か、生徒達のやりたい事、思い付いた事を全部詰め込みました。みたいなゴチャゴチャ感。そんな闇鍋喫茶に物好きなお客様がもう1人。

 裾が短いタイトなワンピースにトゲトゲのチョーカー。ハイヒールサンダルを鳴らしながら、雪雫に連れられて蓮達の方へやってくる。

 

 

「あら、お揃いね」

 

 

 町角の診療所を営む女医とは思えないそのパンクな恰好…武見は切れ長の目を細めながら笑みを浮かべた。

 

 

「わぁ、綺麗な人………」

 

 

 どうしてここに。と呆気に取られる一同を置いて、春が感嘆な声を漏らす。

 

 

「そっか、春は会ったこと無かったっけ。……武見妙、武見診療所の院長…て言えば分かる?」

 

「あ、この方が………」

 

 

 戦闘で傷を負ったら、魔力を消耗したら、精神に異常をきたしたら……飲めば一度解決。とても合法的とは思えない効果を持つ()()()()()の開発者。春視点では怪盗成り立ての頃に非常にお世話になった記憶もあり、その存在と名前だけ知っている状態ではあるものの、一種の尊敬の念を抱いていた。

 

 

「なんで秀尽に?」

 

「何でって……この子を見に来たのよ。風の噂で面白いことやってるって聞いてね」

 

 

 そうポンと肩に手を回して、雪雫を自身に手繰り寄せる武見。もの凄く絵面が怪しく見える。

 

 

「聞けば、お金さえ積めばこの子を直接指名して接客してもらえるそうじゃない。しかも特別な席で」

 

「何そのいかがわしいシステム」

 

 

 クイっと武見が指で示す先には、明らかにパーテンションで隔離された弐畳ほどの空間。ご丁寧にパーテンションには赤いクロスが掛けられていて雰囲気を崩さない様にデコレーションされている。

 

 

「りせに使ってもらおうと思ってたのに……」

 

「あら、恰好に反して可愛くないこと言うわね」

 

 

 因みに指名制度は大々的に打ち出していない裏メニューである。表に出れば絶対に学校側(主に真)に反対されるに違いないと、徹底的にクラス内で秘匿されていたソレ。利用するには喫茶運営側の人間から直接渡されるチケットを提示しなければならず、尚且つ受付の際は指名相手が設定した秘密の質問を答えられなければならない。

 まぁつまり見ず知らずの外部の人間が利用する事は叶わず、ほぼほぼ内輪だけの在って無い様なサービスなのだ。

 

 なのだが………雪雫はこれ幸いにと目を付けた。

 りせに使って貰えば合法的にサボれる上に楽しいじゃん、と。

 

 

「まぁ、そういう事だから」

 

「ちょっと…妙………」

 

 

 さらにグイっと寄せる妙に、雪雫は明から様に眉を下げて抗議を訴える。

 

 

「そもそも何でチケットを……」

 

「何でもなにも、りせさんから直接渡されたのよ」

 

「りせから?」

 

「自分が行けない代わりに、雪雫の姿を写真と動画に収めて欲しいって」

 

 

 そう言われると、悪い気はしない。

 あからさまに雪雫は機嫌を少し直した様で、モジモジし始めた。

 

 

「大丈夫かしら、あの子。私のこと、信用し過ぎじゃない? ねぇ?」

 

「は、はぁ……」

 

 

 同意を求められても困る。と蓮は思った。

 なんて返せばいいか分からない。

 

 

「じゃ、真ちゃんには悪いけど。この子、借りてくわね」

 

「へっ……なんで私!?」

 

 

 まさかの急な変化球。いきなり話を振られた真はボーっとしてた思考を現実に戻しては素っ頓狂な声を上げる。

 

 

「だってそりゃ……」

 

 

 全員が真に注目する中、武見は意地悪そうに目を細めて耳打ちをする。

 

「雪雫にお熱の様だから。あんまり脚見ないの、バレちゃうわよ?」

 

 

 目は口程に物を言うってね。

 

 

 真にしか届かない様な小声、しかしながらハッキリとその愉快そうな声は耳に残った。




先生…ペルソナ5Xがやりたいです……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。