PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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109:Transactions.

 

 

『僕は目星ついています。怪盗団の正体を……ね』

 

 

 蓮達にとっては挑発の様にも聞こえる明智の言葉に、会場内は今日一番のどよめきに包まれる。講演客達はそれぞれお互いの顔を見合わせ、明らかな動揺を顕わにしている。そんな中で明智から目を離さずに努めて冷静に居ようとしているのは怪盗団のメンバーくらいだ。

 そんな場内の様子を見て、明智は「クスリ」と静かに笑みを作り、真を煽る。

 

 

『訊かないんですか? 怪盗団の正体は?って』

 

『本当に良いんですか? 色々と差し支えるのでは?』

 

『あくまで私見ですし、ここで発表するぐらい、構いませんよ』

 

 

 でも、と明智は穏やかな笑みを浮かべながら続けた。

 

 

『ひょっとしたら今日、皆さんは警察やマスコミよりも先に、真実を聞く事になるかもしれない』

 

 

 ざわめいていた会場が、一瞬で静まり返った。先程までの光景が嘘だったかの様に、皆が固唾を呑んで明智を…そして続くであろう真の言葉を待っている。

 

 

『……すごい自信ですね…』

 

 

 真の心臓が五月蠅いくらいに跳ねる。

 臆する身体に鞭を打って、乾いてしまった唇で必死に言葉を作る。

 

 

『そこまで仰るなら、わかりました』

 

 

 ここで聞き出さなければ、一般人としての新島真からはかけ離れてしまうだろう。今の大衆にとって、怪盗団事件というのは誰もが注目する案件。そんな中で、敢えて質問を避けて背中を向けたら、ここに居る会場の人間から…そして明智からはどのように映ってしまうか。

 それに、リスクを承知で、藁にも縋る思いで明智吾郎をゲストとして呼んだんだ。ここで確たる情報を引き出さなければ、今日の意味がまるで無い。

 もう既に、怪盗団は引くに引けない状況になっているのだから。

 

 

『ではお聞きします。……明智さんが思う、怪盗団の正体は?』

 

『怪盗団の正体……それは皆さんもよくご存知の人達だ────』

 

 

 明智が語ろうとした途端、軽快な電子音が流れる。

 

 

『すみません…僕のだ。関わっている立場上、携帯切れなくて……』

 

 

 懐から馴れた手付きでスマホを取り出した明智は、画面を見るや否や「なるほど」と小さく呟き、改めて顔を上げた。

 

 

『ちょっと……10分ほど、席外してもいいですか?』

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 肩透かしを喰らって所々から文句が垂れていた会場を抜け出して、場所を体育教官室に移した一同。

 蓮と竜司からしてみれば良い思い出が無いこの場所は、自然と背筋に緊張が走ってしまう。

 

 

「話ってなに?」

 

 

 警戒心を隠そうともせず、真が眉を顰めて、呼び出した張本人である明智に問うた。

 わざわざこんな人目の付かない所に怪盗団全員を呼び出しておいて「何も有りません」は無いだろう。わざわざ怪盗団の正体について言及しようとしたタイミングで自分で携帯を鳴らした男だ。用事が無ければそんな奇行、行う筈が無い。

 

 

「………これを」

 

 

 そう明智がポケットから取り出したのは3枚の写真。

 見切れているものの、僅かに映る背景から、場所はオクムラフーズ本社前だというのが分かる。しかし、場所は肝心では無い。注目すべきは写真の中央、何処か虚空に向かって走る様な素振りを見せる祐介と杏。その2人の姿は、撮影日時が新しくなるにつれて徐々に消えていっていた。

 

 まさにこれは、パレスに突入する際の光景。

 何も知らない者達から見れば、フェイクの写真。でもイセカイを知るものからすれば、背けようの無い物的証拠。

 

 

「でっち上げだろうが!」

 

 

 竜司が一早く声を荒げるが、明智の「動画もある」という発言に完全に勢いを止められる。

 

 

「ねぇ、シラを切るのはやめようよ。君達もあっちの世界に行けるんだろ?」

 

「………君達も?」

 

「君達だけじゃない。僕も、あの世界を知っている。向こうへ行くと、姿が変わるのも知っている。……あの不思議な力のせいなんだよね?」

 

 

 蓮達の疑問などお見通しだ、と言うの様に矢継にイセカイに関して語り続ける明智。

 

 

「僕があの世界を知ったのは一か月前……いつの間にか、こんなものがダウンロードされていたんだ」

 

 

 そう言いながら見せた明智のスマホには禍々しい赤と黒のアプリアイコン。言うまでも無く、イセカイナビだ。

 

 

「アプリが起動したかと思ったら、いきなり周囲の景色が変わって……僕自身、正直まだ信じられないよ」

 

 

 一か月前と言えば、丁度オクムラパレスの攻略を始めた頃だ。

 モルガナとの喧嘩別れ、雪雫の別行動、春の登場……色々怪盗団内部でもごたごたした時期であり、明智に目を付けられたとしても、気付けなかったのは無理ないかもしれない。

 

 

「でも、この写真を見る限り、君達は随分と馴れているみたいだ」

 

「だから?」

 

「君達はイセカイで怪盗行為をやっている。同じ力を持っているからこそ、僕は確信を持って言える。違うかい?」

 

 

 竜司達はみんな揃って顔を見合わせては、明智の言い分に対してどう出るか……と様子を伺っていた。

 そんな彼らを見て、雪雫は大きく溜息を吐いて肩を竦める。

 

 

「みんな、顔に出過ぎ」

 

「……肯定と受け取っていいのかな、雪雫さん?」

 

「どうぞご勝手に。どの道、主張を変える気は無いんでしょ」

 

「ハハっ。その通り」

 

 

 名言はしてないものの、なし崩し的に認める形となった現状に、竜司は異を唱えようとしたが、それを蓮が止めた。

 雪雫の言う通り、明智は言った事を引っ込める様な事をする雰囲気ではない。変に反抗するよりは、口数を減らしてボロを出さない事に徹した方が良さそうだ。

 

 

「で、改めて私から聞くけど。何の用?」

 

「僕達、協力出来ないかな?」

 

「つまり、取引か」

 

 

 明智曰く、さっきの写真を撮った時、一緒にパレスに潜伏していたらしい。

 そしてそこで例の「黒い仮面」に遭遇したとか。会うや否や、明智を襲撃。その黒い仮面から命からがらに逃げ出した際に、「こんな所で死ねない」「真実を突き止めたい」という想いからペルソナに覚醒したらしい。

 

 

「確信したよ。ソイツこそが、真犯人だって。出会い頭で人を襲う様なヤツだ。君達の様な改心を目的にした人物像とは思えない。改心の方法は分からないままだけど……」

 

「イセカイ…ワガハイ達はパレスと呼んでいるが、そこで欲望のコア…オタカラを盗る。それで盗られたヤツは改心する……っていう寸法だ」

 

「─────」

 

 

 影に潜んでいたモルガナだったが、怪盗団側の手の内を隠し続けるのも無理と判断したのか、ひょっこり現れて得意気に改心のメカニズムを語る──が、明智はモルガナ……外見が猫のまま……が人語を喋ったという事実に口をあんぐりと開けていた。

 

 

「まさか、猫が喋った?」

 

「あー……。ソイツはモルガナ。俺達に向こうの世界を教えてくれた仲間だよ」

 

「本当…? ますます信じられない……。いやでも事実、君達は僕が知らない事も知っている…。ねぇ、モルガナ君。改心の手引きも君がしたのかい?」

 

「色んな事情があったが…まぁそうなるな」

 

 

 ハハハ…と乾いた笑い声を挙げては、よろめきながら頭を片手で押さえる明智。

 正に面を喰らった。という感じだ。

 

 

「そんな手口、確かに分かるはずない……。けど、分かった。君達の話の通りなら、確かにオクムラの様にはならないんだろう。……でも、警察は怪盗団を犯人だと決めつけて、このまま逮捕する気なんだ」

 

「…そ、そんな…私がお父様を………」

 

「そんな間違いを見逃す訳にはいかない。だから、僕と取引して欲しいんだ。僕なら、君達の状況を救えるかもしれない」

 

「内容は?」

 

「真実への調査に協力して欲しい」

 

「断ったら?」

 

「君達の事を警察に話すしかないと思っている。さっきの動画も一緒にね」

 

 

 取引とは言いつつも、どうも明智は怪盗団に選択肢を与えるつもりは無いらしい。

 これではまるで脅しだ、雪雫は思った。

 

 

「なんと思ってくれても構わない。これが僕なりに正しいと信じる方法だから……。人の命を奪うことをためらわない悪党…。そんなの、僕の正義にかけて許せない!」

 

「───正義、ね」

 

「……君たち怪盗団の捜査を指揮するのは、冴さんだって事は聞いてるね?」

 

 

 冴…新島冴。

 真の実の姉で検事局の若手エリート。捜査が本格化する前から怪盗団事件に睨みをきかせていたという彼女が、陣頭指揮に抜擢されたとか。

 本来であれば喜ぶべきなんだけど……と苦々しく語った真の顔は記憶に新しい。

 

 

「上の連中は事件の収束しか頭にない。精神暴走事件の犯人を捕まえて、この騒ぎを鎮静化させたいと考えている。そんな連中がプレッシャーを掛けるんだ。冴さんは相当焦っている筈だ」

 

 

 本当?と雪雫が問えば、真からは「少なくとも余裕が無いのは事実よ」と返って来た。

 家庭ではなく、職場目線で見ている明智がそう言っているのだから、そこは覆しようの無い事実なのだろう。

 

 

「だが逮捕するとして、俺達がやった証拠は? どうやって証明する気だ?」

 

「手法の客観的解明が無くとも、因果関係が認定されたらそれまでだ。彼女は今、正常な判断が出来ていない」

 

「……最悪の場合、自白のでっち上げも有り得る、と?」

 

「せ、雪雫…。でっち上げ……って…」

 

「あくまでも可能性の話。けど、最近の警察の動きを見てたら相当なりふり構っていられないのは分かる。警察も組織社会……上からの命令には………」

 

 

 もし怪盗団が一連の事件の犯人として捕まれば、確実に有罪。しかもかなり重い罪になるのは容易に想像が出来る。

 政治家に国賊とまで言わせしめたのだ。規模としては最早、法治国家全体の問題なのだろう。

 

 

「残念だけど、僕一人じゃ…この流れは止められない」

 

「…だから、協力………」

 

「そう。だから君達の事は見逃す。これが条件だ。もっとも、これっきり怪盗からは足を洗ってもらう」

 

「…どうする、蓮?」

 

 

 一同の視線が蓮に集まる。

 

 

「……少し、考えさせてくれ」

 

「まぁ、今ここで決めなくてもいい。…君の事だ。きっといい返事を貰えると信じている」

 

 

 おっと。と明智はわざとらしく声を挙げては腕時計を覗き込んだ。

 

 

「そろそろ戻らないと。今日は来た甲斐があったよ……。色々と、ね」

 

 

 じっとりとした視線がほんの一瞬、雪雫に向けられる。

 それに気付いたのか、煩わしそうに顔を顰めてそっぽを向いてしまった。

 

 

「講演会はお開きで良いかい? 元々、僕を呼んだのも、情報が欲しかったからだろ? 僕の方も、用件が済んだから」

 

「……適当に処理しとく」

 

 

 満足気に頷いて、明智は部屋を後にする。

 

 

「……クソが! 完全に向こうのペースじゃねぇか!!」

 

「…取引とは言いつつ、明智に得ばっか。乗っても乗らなくても怪盗団は解散。あの性悪探偵め!!」

 

「まぁ…話はまた後にしましょ…。もうすぐ10分よ」

 

 

 竜司と双葉が文句を垂れ流し、真がそれを諌めながら、明智に続いて部屋を後にする。

 

 

「俺達も行こうか。講演会の片付け、しないと」

 

 

 講演会の後片付けをしないといけないのに加えて、中途半端に終わった事による追加タスクもある。ただでさえ、人手が足りない学園祭だ。祐介と双葉も含めて皆に手伝って貰った方が良いかもしれない。

 蓮の言葉に残ったメンバーも頷きを返しては、先立った4人を追う形で部屋を去る。

 

 

「俺も───」

 

 

 行こう。と足を進めようとしたその時、制服の袖部分をつままれ、引き留められる。振り返れば雪雫が紅い瞳をこちらに向けて何かを訴える様な顔持ちで佇んでいた。

 

 

「蓮、ちょっと話、あるんだけど。良い?」

 

 

 

 

 

 

 後夜祭。

 それは二日間に渡った学園祭を締めくくる行事。普段は遅くても19時には退校しなければならない秀尽も、この日に限り20時過ぎまで残ってOK。秀尽生徒による秀尽生徒の為の一夜限りの祝祭である。

 

 そんな後夜祭のメイン会場、体育館の隅の壁に寄り掛かりながら、どんちゃん騒ぎしている生徒達を他人事の様に見つめる白髪の少女。

 

 

「………はぁ」

 

 

 事前準備では特に手伝う様子を見せなかったお調子者の生徒が「秀尽生の主張」なるどこぞのバラエティー番組よろしくな企画の司会を務めている。

 丁度いま、3人目の参加者が壇上を降りた所だ。

 

 

『さぁ、次の主張してくれる人は誰かな~?』

 

 

 なんて体育館中を舐め回す様に見ていた。

 

 

「この企画、あまり盛り上がらないんだけどね…。ご年配の先生方の一押しなの」

 

 

 ボーっとしている雪雫に「買ってきたわよ」とオレンジジュースを手渡す真。

 講演会の後片付けも終わり、帰ろうとした雪雫を呼び止めていたのだ。「一緒に後夜祭回りましょ?」と。

 

 

「こっちの気も知らないで、ね」

 

「………そうね。ちょっとは手加減して欲しかったかも…」

 

 

 講演会が終わるや否や、女子生徒を中心に起きた2人への質問詰め。内容は専ら、明智吾郎との関係について。もともと真が個人的な知り合いだったという事が漏れていたらしく、加えてどうも彼と親し気に話している様に見えたらしい。

 

 

「メインイベント始まって注目が逸れたから助かったけど───」

 

 

 真がそうねと頷いていると、舞台の司会の男が『会長発見!』となにやら玩具を見つけたかのように目を輝かせて声を挙げた。

 とても嫌な予感がする。

 

 

「……まさか」

 

「ぷぷっ。行ってらっしゃい、真」

 

 

 会場内の視線が一気に隅っこに居る2人に突き刺さり、真の両肩には皆の期待が重く圧し掛かる。

 「恥ずかしい」という気持ちと、「皆に楽しんで欲しい」という気持ちのせめぎ合いに苛まれる真を見て、雪雫は愉快そうに口角を上げた。まさか天下の生徒会長様が断らないよね?と暗に目が語っている。

 

 

『そして会長が居たって事は───』

 

 

 さて、真の恥じらう姿をおつまみにして、自分はジュースの味でも楽しむか……なんて高を括っていた雪雫。

 

 

『そこに居るのはもしかしなくても、天城さん!』

 

 

 しかし、その思惑は外れて司会者の注目は雪雫にも注がれた。

 

 

『ささ、お二人さん。壇上へ!』

 

「………私も行くの?」

 

 

 狼狽える雪雫の腕をがっしりと掴む真。

 

 

「まさか天下の生徒会役員様が逃げないわよね?」

 

 

 雪雫の顔を覗き込んでは、そう言って迫る真。傍から見たら熱烈にアピールしている様にも見えなくはない。周りから「ヒューヒュー」なんて煽りを受けつつ、真は雪雫を引きずって壇上へ向かう。

 2人で行けば羞恥も半分。日中の疲れと後夜祭の雰囲気に浮かされて、及び腰だった真は急に積極的になっていた。

 

 

『さぁ! こちらご存知、我らが生徒会長の新島真さん! そして同じく生徒会のスーパールーキー、天城雪雫さん!』

 

『……どうも』

 

「……………」

 

『鴨志田先生の不祥事に、校長先生の死…修学旅行の引率まで! ただでさえ、多忙な生徒会に振りかかる難題! 主張が「無い」なんてあり得るのでしょうか!?』

 

 

 どうぞ。と言わんばかりにマイクを向けてくる司会者。声音こそ明るいが、その目には「頼むから盛り上げてくれ」という願いがマシマシに込められていた。彼も実行委員としての責務を背負っているのだろう。

 ……まぁ雪雫から言わせてみれば、準備をサボっていたツケでしょ。の一言で切られるのだが。

 

 

『それでは行ってみましょう! まずは会長の主張です!』

 

『え、ええと……その…』

 

 

 必死に主張を探す…が出てこない。いや、正しくは探してもここで言えない内容のものしか出てこない。

 頭に浮かぶのは怪盗団や明智吾郎、警察の動きなど、真達にとってはタイムリーなものばかり。講演会で正体がみんなに露呈する事態は避けられたのだ。ここでボロを出す訳にはいかない。

 

 

『……別に無い、です。ごめんなさい』

 

 

 結局、絞り出した言葉はコレだった。

 じゃあ何のために上がってきたんだと言われればそれまでなのだが、言えないことを除けば無いのも事実。

 

 

『では、こちらから質問してみましょう!』

 

 

 しかし司会者は逃がさない!

 主張が無いなんてパターン、最初から想定済みなのだ。

 

 

『よく学内で2人で居る所をお見掛けするのですが……実際、どうなんです?』

 

『………は? ど、どう…って…?』

 

『先輩後輩の関係にしては距離が近い……なんて声を良く聞くんですよ。お昼は生徒会室で2人っきりで昼食は何時もの事、会長自ら雪雫さんを探してクラスに来る事も少なくなく、極めつけは修学旅行のホテルの部屋…一緒だったとか? もう、色々噂になってますよ!』

 

 

 ぼっと真の頭に熱が籠って沸騰しそうになる。

 普段何気なく、無意識でやっていたこと。だけど他の生徒からはそう見えていたのかとか。いやでもこれが私達の普通で……そもそも雪雫って無警戒に近寄って来るし、所々抜けてるし、生活力は壊滅的だしで、私としては放っておけないというか───。というか今更普段の距離が何よ。こっちは一緒のベッドで寝る所か、既に裸で抱き合っているのよ。今更そんな普段の振る舞いの事を言われても気を付けようが無くない? 別に雪雫だって嫌な顔しないし、なんなら少し楽しそうにしているし、甘んじて受け入れてくれているし。私達はこの距離感で合ってるの。

 だから

 

 

『べ……』

 

『べ?』

 

『別に普通よ。ただせめて、外では私が面倒を見なきゃいけないってだけ』

 

 

 危なっかしいし。と柔和な笑みを浮かべて雪雫の頬を撫でる。

 無意識下の行動だ。何時もやっている、当たり前のスキンシップだ。

 

 しかし、少なくともここに居る生徒達はその普通を知らない。

 会場内が静まり返る。聞いている生徒達も司会の男も、急な余りにも馴れた手付きに唖然としながら二人を見つめている。

 

 

『……な、なるほど。2人が深い絆で結ばれているのはよ~くわかりました!』

 

 

 なんか触れにくい感じになっちゃった。

 司会の男は後悔した。ちょっと茶化して生徒会長を弄りつつ笑いを取ろうとした手前、あまりにもガチっぽい反応を見せた真。あの生真面目な生徒会長が素でこんなことをやっているのだから、それはもうガチであって、踏み込むのも恐れ多い。

 

 

『では…気を取り直して雪雫さん。貴女の主張は?』

 

 

 だから矛先を変えてリトライ。

 真の顔を覆いたくなる様な言葉にも表情を変えず、尚且つスキンシップも当たり前の顔をして受け入れていた彼女。舞台に上がっても一言も喋らないその振る舞い。余程のシャイか、それとも肝が据わっているのか。どちらだとしても、会場を盛り上げてくれそうだ。と男はほくそ笑む。

 

 

『主張は特にない。ただ──』

 

 

 貸して。と司会の男のマイクを取ると、雪雫は舞台の真ん中を陣取る。

 

 

『壇上に上がった手前、何もしないのままっていうのも癪。だから──歌う』

 

「歌うって…何も音源とか無いですよ!」

 

『要らない。アカペラで十分。本番前の肩慣らしには丁度良い規模感』

 

 

 後半は何を指しているのか、男には分からなかったが、その語る雪雫の顔は何時もの無表情と変わらない筈なのに、どこか頼もしくて力強い表情であった。

 そう、言うならばプロの顔付き。

 

 

『全員、骨抜きにする』

 

 

 そう意気揚々と宣言して雪雫が歌い始めたのはまさかの讃美歌。

 祭事を締めくくる……って事を考えれば良い選曲かもしれないが、そもそもなぜ讃美歌をチョイスしたのかは甚だ疑問だ。

 

 というか

 

 

「自分の曲じゃないのね……」

 

 

 ちなみに宣言通り、全員骨抜きにされた。




みんなは初見プレイの時、明智怪しいって思ってた?
僕は怪しいのはミスリードで仲間になってなんやかんやで最後まで付き合ってくれると思ってた!!
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