PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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111:WANTED!

 

 

 暗い。ただひたすらに。

 頭上を照らす太陽が無ければ、それを反射する月も無い。それどころか恒星の1つも見つからない。宇宙に終わりがあるのなら、きっとこういう光景なのだろう。

 そこまで考えて、風が無い事の違和感を覚えた。

 

 ああ、何だ。

 ここは地下だったのか。

 

 途端に胸の中に安堵の気持ちが込み上がる。

 地の底ならば、光が届かないのも必然。世界が終わった訳でも、ましてや自分がおかしくなった訳でも無い。

 

 

 ─────。

 

 

 一歩、歩みを進める。

 冷たく、硬い地面。質感は大理石のそれに近い。

 

 

 ─────。

 

 

 一歩、また一歩と歩みを進めて、10分程……時間の概念があるのかは謎だけど、少なくとも体感としてはそれくらい。暗闇にもいい加減慣れて来た頃合いで、ようやく自分が何も身に着けていない事に気付く。

 どうも、五感が鈍くなっている様だった。思考も上手く纏まらない。

 

 白昼夢、という現象がある。意識が覚醒した状態で、空想や幻の類を映像として見ること。またはそれらに耽ること。

 今の自分の状態はソレに近いかもしれない。

 

 だとすれば困った。実に困った。

 これが夢幻の類なら、自分の意志ではどうする事も出来ない。完全に意識が覚醒するまでの間、ずっとずっと待ちぼうけ。

 

 

 退屈だな。

 

 

 なんて文句を口にしても、聞いてくれる存在など居ない。それどころか、発した筈の声は自分にすら届かない。

 

 

 困った。

 

 

 いよいよ持って、やる事が無い。

 光が無いこの空間では目はお飾り。風が無ければ触覚も刺激されず、耳は自分の音すら拾わない。

 

 考える限りの無。死後の景色を連想させる空間であるが、幸いなのは、この空間は限りない広さを有していそうな事だ。

 果てに辿り着かない限りは希望を持てる。進めば何かあるかもしれない、道中に変化があるかもしれないって。

 

 だからひたすら歩く歩く。

 この状況を変える何かを探して、果てにある筈のゴールを求めて。

 

 

 ─────嗚呼。

 

 

 暫くして、光が見えた。荘厳で神々しい、黄金の輝き。

 まだまだ先の、ほんの僅かな光だけど。暗闇に慣れてしまった私から見れば、十分過ぎるほどの眩い輝きだ。

 

 自然と歩みが早くなる。歩幅が次第に大きくなり、慎重に足を踏み出していた自分がバカバカしくなるくらい、一心に光を求める。

 先人達が恒星の輝きを導とした様に、自身の進むべき航路をあの黄金と定めたのだ。

 

 

 そちらに居られたのですね。

 

 

 惰性で動かしていた脚は羽根の様に軽い。

 道筋が明確になった事で、心も晴れやかだ。

 

 

 Leave it to the will of God.(全ては神の御心のままに)

 

 

 突如として闇の中に生まれた眩い輝き。

 これを神の御業と呼ばずして、なんと呼ぶか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

10月27日 木曜日 曇り

 

 

 

「んーーーーー」

 

 

 その日、珍しく雪雫は早起きだった。

 目が覚めたのはなんと登校時間の2時間前。隣で眠るりせよりも早く、なんなら実家で雪子に起こされていた頃よりも早く、彼女は覚醒した。

 

 乱れた髪を手櫛でとかしながら、半覚醒の脳みそを必死に回転させる。

 

 

(ちょっと、煽り過ぎたか)

 

 

 ボーっと自身の身体を見渡して、昨晩の事を思い出す。

 点在する赤い点は最早見慣れてしまったが、昨日は新たに歯型も追加された。跡が残る分には構わないが、痛みすら都合の良い方に変換する身体のゆえ、いつも以上に疲労が残った。

 

 

(…………これでまだ)

 

 

 決定的な事をしてないのだから自分で自分が末恐ろしい。その先の事を想像するだけで悪寒とも歓喜とも言える感覚を覚える。

 

 しかし兎にも角にも今はお風呂だ。

 頭をブンブンと振って湧き出た煩悩を振り払う。

 

 この状態で学校に行くなんてとんでもない。身体中が寝汗や何やらでベタベタだし、髪もあちこち刎ねている。

 

 

「だけど困った。動けない」

 

 

 繋がれた鎖の先を辿れば、ぐっすり寝ているりせの手の中。首輪を外そうにも、後付けした小さい南京錠がベルト部分についているし、肝心の鍵は寝ているりせを挟んだサイドテーブルの中。雪雫が身体を伸ばしたとて、届く距離ではない。というかそもそも、凝り性の雪雫からすると「ご主人様(りせ)の許可」無くして首輪を外せない。りせがどう思っているかは分からないが、雪雫にとっての首輪はそういうもの。自分からは決して離れないという意志表示なのだ。

 

 サボリ覚悟で諦めて二度寝してしまうか。

 今日は休みである筈のりせをわざわざ起こすのは非常に忍びない。私だって色々と疲労が溜まっているし、睡眠の質が悪かった所為で満足に眠れていない。

 どうせ学校行ったところで学園祭も終わった今、生徒会がわざわざ駆り出される事も早々無いだろう。

 

 

「ふわぁ」

 

 

 そう考えた途端、急に眠気が襲ってきた。

 

 うん、サボろう。

 

 雪雫は、のそのそと枕元に手を伸ばして自身のスマホを取る。

 黙って休むと真が五月蠅いから連絡位入れてあげよう。そう思ってチャットを開くと何やら怪盗団のグループが盛り上がっていた様で通知が溜まっていた。一番最新の通知は昨晩の23時過ぎ。丁度、りせとスキンシップを取っていた時間だ。

 

 

「……………あら」

 

 

 最初は軽めに斜め読みをしていた雪雫だが、読み進めていく内に事の重大さに気付いたのか、目を大きく見開き始めた。

 

 内容を要約すると、マスターに正体がバレたらしい。

 双葉の部屋を掃除していたマスターが、たまたまあの時の予告状を見つけて蓮を問いただした様だ。何とか即通報は免れたらしく、困惑しながらも怪盗団の事を受け入れてくれた事だが、巻き込んでしまったという点で安堵よりも罪悪感が胸中に渦巻く。

 

 ──まぁ改めて蓮から話があるでしょ。

 その場に居た訳でも無いのに、憶測であれこれ考えても仕方ない。と眠気を優先した雪雫はチャットを閉じ、携帯を閉じようとする……が、丁度そのタイミングで今度は携帯が短く振動した。

 

 最初は「また雪子?」と訝しんだが、それもすぐ間違いだと気付く。電話ならばもっと長く継続的に振動を繰り返すが、今回のは振動は1回のみで時間にしても2秒にも満たない。

 念のためと通知の内容を確認すると、それはニュースアプリのものであった。普段は碌にニュースを見ない雪雫だが、怪盗活動をし始めてからは最低限確認する為にダウンロードしたアプリ。

 

 

「警察庁指定被疑者特別指名手配」

 

 

 つまりは指名手配。街角や交番の前に張り出されているアレ。

 怪盗団を公式に全国指名手配します。そう、一面に飾られている。

 

 

「…………あらら」

 

 

 学校を休むのはお預けらしい。

 

 

 

 

 

 

「指名手配、だってよ……」

 

 

 竜司は声を震わせながら口を開いた。その姿は普段の彼を知る者からしてみれば、あまりにも弱々しい姿ではあったが、それについて言及するものはこの場に居ない。皆、同じ気持ちだからだ。

 焦りや、不安、葛藤。そんな感情が入り混じり、怪盗団の面々の顔色は一様に悪い。

 

 

「しかも3000万の賞金首……漫画かよ」

 

 

 ───ある一人を除いて。

 

 

「随分安く見られた」

 

「いや…雪雫、冗談言ってる場合じゃないから」

 

「まぁそりゃ、お前からしたら大した金額じゃないかもだけどよ……」

 

 

 3000万という大金を吐き捨て、ムスっとした表情の雪雫。さも不満があります、と顔に出ている。

 

 

「にしても不味い状況だな。これで正式に犯罪者扱いだ。大衆の目の色も変わるだろう」

 

「ああ。ニンゲンからしてみりゃ、カネはシンプル且つ強力な報酬だ。血眼になって探すヤツも出てくるだろうぜ。……いや、もう居るかもな」

 

 

 学校内で耳に挟む話も大半は指名手配の事だった。前回の明智の講演、そして過去の鴨志田の件もあって、秀尽生の認識として「怪盗団は学校関係者」と思っている生徒が大多数を占めている。最も誰よりも間近で見てきたからこそ、今のところは報復を恐れて犯人捜しをしている様子は無いが。

 

 

「蓮、協力者達は?」

 

「問題無い、特に通報する様な素振りは見せていない」

 

 

 蓮が個人的に関係を持っている数名。中には蓮が怪盗団のリーダーだと知っている人物もチラホラと居る。報酬に目が眩んで…と雪雫は心配したが杞憂だった様だ。

 まぁ彼から言わせれば、それ位で通報する様な人間とはそもそも関係を持たないが。 

 

 

「惣治郎も匿うと言ってくれている。巻き込んだのは申し訳ないが……」

 

「武見女医の方は?」

 

「妙も特に。朝から連絡が絶えないけど。どれも心配してくれてる様な内容」

 

 

 関係者各位から…つまり内部告発は心配しなくて良さそうだ。

 真は「そっちは大丈夫そうね」とホッと溜息を零す。

 

 

「だが安心するのはまだ早いぜ。問題はこれからどうするか、だ」

 

「えぇ…。前にもしかしたら、で考えていたこと。全部本当だったのよ。奥村社長が1位になったのも、その前のブームもメジエドも」

 

 

 全ては仕組まれていた事で、怪盗団が信じた正義は誰かの手の平の上で踊ろされていたに過ぎない。

 一体自分達は何のために戦ってきたのか、何の為に救ってきたのか。──すべては無駄だったのか。そんな疑念がそれぞれの胸中に渦巻く。

 

 

「名声欲しさに動いたのが運の尽き」

 

「………んだと…?」

 

 

 とそこでやはり何時もの調子を崩さず雪雫が口を開いた。

 ベッドに腰を掛け、脚を組んでは詰まらなそうに窓の先の景色を眺めている。

 

 

「じゃあ放っておけって言うのかよ! 春の事を! それにお前だって───」

 

「うん、だからこうなったのは私の……いいえ、皆の所為。目先の利益に盲目になって周りが見えていなかったのはこの場に居る全員」

 

「………そう、かもな……きっとワガハイ達らしく無かった」

 

「だからあの時私が、とか俺が。とかタラればの話をしないで。何のための全会一致? 一人で抱え込まない様にでしょ」

 

 

 よいしょっとベッドから立ち上がり、コツコツと足音を立てながら雪雫は言う。

 

 

「ここまで頭数揃っていて過去の振り返りをしたところで生産性はゼロ。もっと先に目を向けよう。起きてしまった事実は変わらない。大事なのはどうしたいか」

 

「……雪雫」

 

「このまま泣き寝入りするのも選択肢だとは思う。でもそれって、結局相手の思い通り。私はもう、逃げたく無いよ」

 

 

 全員が沈黙する。

 逃げたくない、という言葉が胸中に反響する。過去に見て見ぬ振りをして動けなかった者、自分自身と向き合えなかった者、脚が竦んで立ち上がれなかった者。誰しもが一度はそれを経験している。そしてソレを悔いたから、怪盗団としてやってきた。

 

 

「ええ…そうね。それこそ、私達らしく無いわよね……!」

 

 

 真の言葉を合図に、影が差していた皆の目に光が灯る。苦悩、後悔、怒りを反骨心に替えて、己を鼓舞する。

 そんな様子を皆の様子を見て、蓮は大きく首を縦に振った。

 

「皆、決まった様だな」 

 

「後はこれからどうするか、だが………」

 

「……………」

 

 

 チラリ、と雪雫はその紅い双眸を蓮に送る、がそれもすぐに止めて視線を外す。

 

 

「私は明智の口車に乗るのも一興だと思う。敵が周到に絵を描いているなら、それを台無しにする位の動きをしないと」

 

 

 確かにそういう点では明智というカードは強い、と蓮は思った。

 警察内部に精通していて、知識と胆力も持ち合わせている。そして何より、この場に居る誰よりも犯人の正体に近い。

 

 

「何をするにもまずは話、聞いてみよ?」

 

 

 

 

 

 

 渋谷 スクランブル交差点前

 

 

 

 人混みを糸を縫うように避けながら進む雪雫。目指すは地下1階から6階まで計7フロアからなる超大型雑貨店。

 

 

「ん…いつもより人多いし、騒がしい」

 

 

 小柄故、人の合間合間を縫って進めるが、それを差し引いても目的地へ進んだ感じがしない。指名手配の件があった手前、何か事件かな…とイヤホンを外して聞き耳を立てる。

 

 

『悪党が正義を気取ってやりたい放題など、放置して良い問題ではありません!』

 

 

 スピーカー越しから流れる力強い声。

 テレビをあまり観ない雪雫でも聞き覚えがある声だった。確か、アンチ怪盗団の筆頭。指名手配になる前から怪盗団の事を度々糾弾し、国賊とまで言い放った国会議員。

 

 

「獅童、正義……か」

 

 

 冗談みたいな名前だ、と雪雫は思ったが、実際彼は名前の通りの公明正大、清廉潔白な政治家……らしい。らしい、と言うのは投票権をまだ持っていない雪雫にとって興味が無い……のもあるが、最近やったゲームで絵に描いた様な政治家が実は暴力団と繋がっていました~なんて展開があって若干重ねて見ている為だ。

 

 

「まぁ名前の通りの人なら、明智に爪の垢を煎じて飲ませたい───うわ、最悪」

 

 

 黒いスーツにサングラス。ちょび髭と燦然と輝くツルリとした頭。そんな獅童正義を遠目から見ている時、スマホがブレザーのポケットの中で震えた。

 何だろう、とスマホに目を落とすと、そこには丁度「明智吾郎」の名前。

 

 

「……気軽に電話されると困るんだけど」

 

『硬い事言わないでよ。僕達、友達だろ?』

 

「仮に貴方と友達なら、きっと悪魔とだって友達になれる。要件は?」

 

 

 つれないな……と電話越しで肩を落とす明智。

 

 

『指名手配の件、ビックリしたろ? 皆はどうだった?』

 

「……外でする話じゃないんだけど」

 

『大丈夫。()()()()()()()()()()()、どうせ君の声なんて周りに聞こえやしないさ』

 

「…………監視しているって言いたいの? 趣味が悪い」

 

『ハハハ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 視線だけを動かして周りを確認するが、生憎それらしい人物は見つけられない。そもそも、雪雫の身長から考えれば、この人混みの中での視野など限られている。

 彼女は探るのを諦め、イヤホンを片耳に戻した。

 

 

「……まぁ最初は足竦んでたけど、最終的にはみんな奮い立ってた」

 

『へぇ、そりゃいい』

 

「後ついでに明智の提案に乗る様に言っておいた。今日中には真からお誘いの連絡が行くと思う」

 

『うん。順調だ───』

 

「勘違いしないで。まだ話を聞く段階だから。精々みんなを言いくるめられる様、舌に油をさしておくこと、ね」

 

『大丈夫だよ。君も口が上手いが、僕だって─────』

 

 

 それじゃ。と言うだけ言って電話を切る雪雫。

 

 

「……………着拒しようかな」

 

 

 顔を顰めながら雪雫は人混みに消えた。

 

 

 

 




雪雫がどんどんドMになっていく……

ペルソナ5xやったね~!いつか来るだろうとは思ってたけども
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