PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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112:A secret.

 

 

10月28日 金曜日 晴れ

 

 

「捜査に協力しろって言ってたけど、何をさせるつもり?」

 

 

 ルブランの1階、ソファ席。

 明智を招いた怪盗団一同は、店の真ん中を陣取って顔を突き合わせていた。

 最初はマスターに迷惑を掛けない様にと蓮の部屋での密談を予定していたが、雪雫からルブランを間借りしようという提案があり、マスターもそれを了承。今この建物に居るのは正真正銘、蓮達だけだ。

 

 

「そうだね、まずはコーヒーでも頂こうかな」

 

 

 君、淹れれたよね?と明智は柔らかい笑顔で蓮に問う。基本お人好しの蓮も「ああ」と短く答えてカウンターに向かおうとするが、雪雫がそれを止めた。無言ではあるがその顔には「もてなす必要は無い」と書いてあった。

 

 

「余裕ぶっこいてんじゃねぇ!」

 

「竜司の言う通り。要件は手短に。お互い、時間は限られてる」

 

「分かった分かった。……指名手配に加え、懸賞金までとは…かなり切羽詰まっている様だね」

 

「……………」

 

 

 特に反論は出ない。

 事実として、焦っている。真と雪雫が本題からいきなり入ったのも、竜司の声が普段よりも大きいのも、内心の焦りの表れだろう。

 その点で言えば、蓮からして明智はまだ余裕がある様にも見える。まだ怪盗団との協力関係を結んでいる訳では無い為、部外者故の余裕……とも考えられるが、どちらかと言えば何か策がある為にも見える。

 

 

「まぁ君達も焦っているだろうけどね。僕が言いたいのは冴さんの方だよ」

 

「マコちゃんのお姉さん?」

 

「ああ。ここまでやるなんて、相当追い詰められているんだろうね。指名手配で注目を集め、懸賞金を餌に証言を集める…悪くない手だ」

 

「まぁそれにしては金額安いとは思うけど。注目を集めたいのならもっと億とか出せば良い。結局、何が決め手で逮捕したかなんて、内部の人しか分からないんだから、高い金額を提示するだけして黙ってた方が得じゃない?」

 

「ああ…セツナ、オマエそう言う意味で3000万は安いと言ってたのか」

 

 

 そう言う雪雫に明智は満面の笑みを浮かべて口を開いた。

 

 

「君、よく性格悪いって言われない?」

 

「私は客観的な意見を言っただけ。切羽詰まっているなら、そこまでしても良さそうって」

 

「ふむ…まぁ彼女の意見も一理ある……。けど、日本における懸賞金の基本的なボーダーは1000万円。過去に2000万円の例外があるが、それも1件のみ。ここまで言えば、今回がいかに異例か分かるだろ? それだけ彼らも本気って事さ」

 

「だがケーサツは私達の事を掴んでいない。改心の手口だって現実では立証は不可能……捕まえられる筈が無い」

 

 

 そう、双葉の言う通り。

 怪盗団からしてみれば通常の捜査では捕まえられないのは明白。活動場所がイセカイっていうのもあり、犯人像は絞り込めても特定までは出来無い筈だ。

 

 

「そうだね。君達の正体に気付いているのは僕だけだ」

 

「………………」

 

「だが、証言者を捏造して犯人をでっち上げる準備は着々と進んでいる。単刀直入に言おう。冴さんを改心させようと思っている。彼女にパレスがある事は調べがついている」

 

「え、そうなの!?」

 

 

 春が素っ頓狂な声を挙げる横で、雪雫は真の様子を伺う。特段驚いた様子は無く、訝し気に眉を顰めながら黙りこくったままだ。

 ……なるほど、明智の狂言という訳でも無いらしい。

 

 

「捜査機関の暴走を阻止する為か?」

 

「その通り」

 

「だからって、改心させなくても……」

 

「杏の言う通りだな。たかが一人の捏造で、そんな事が出来るとは考えにくい」

 

 

 祐介の指摘に真以外のメンバーは頷きを返した。

 普段は変人だが、こういう時の祐介はやはり頼りになる。この場に居る誰もがそう思っただろう。

 

 

「それが、そうでもないんだ。周りの人間が捏造を黙認するとしたら?」

 

「警察がそんなこと………。いや、しねぇとも限らねぇか…?」

 

「……向こうは事態の収束が最優先だ。もはや犯人はどうでもいいらしい」

 

「立証出来無い手口だからこそ、仮に適当に捕まえても大衆は溜飲を下げるしかない…」

 

 

 いや、そもそも不正逮捕なんて考えすら浮かばないかもね。と雪雫は続けた。

 大衆からしてみれば何も分からないんだから、誰も真実なんて分からない。真実なんて拘るのは当事者達だけなのだから。

 

 

「僕の目的は真犯人を捜すこと。それは君達も同じ筈だ。だが、今の状況は非常にマズイ」

 

「真犯人どころか、最悪の場合、無関係の人間が犯人にされてしまう……か」

 

「だけど真のお姉ちゃんを改心して、それで警察の暴走は止まるの? ここまでの状況なら、頭が入れ替わって終わりじゃない?」

 

「いや、正気の彼女なら、この状況を止められる。彼女の正義が許さない筈だ」

 

 

 新島冴の本当の人間性を雪雫達は知らない。だからこの疑問が出るのも最もだ。

 しかし実の妹である真が何も言わず、黙って話を聞いているのだ。それは明智の提案が、現実的なラインで有効だというのを意味している事に他ならない。

 

 

「それに冴さんを改心させることは、彼女を守る為でもある」

 

「というと?」

 

「怪盗団捜査の責任者が冴さんであると、廃人化の犯人が知ったら……どうなる?」

 

「狙う。怪盗団に罪を被せる的でもあるし」

 

「雪雫さんの言う通り。……さて、どうかな? これは君達の無実を証明する為だけじゃない。無辜の人達を救うためでもあるんだ」

 

 

 確かに悪い話ではない。

 このまま放っておけば、事実として怪盗団が捕まるか、無実の誰かが犠牲になるかの二択だ。それを彼らは決して望まない。少しでも大団円の可能性があるのなら、一縷の望みに賭けるのが怪盗団の筈。誰よりも、メンバー1人1人がそれを分かっている。

 

 

「私は賛成。このまま無策のままって訳にもいかないし。それに過ぎた欲が行きつく先は身の破滅……パレスが発生している以上、放って置く気は無い」

 

「でもいいのかよ、セツナ? こいつの計画通りなら…」

 

「怪盗団の解散。分かってるよ。分かった上で言ってる。………蓮」

 

「……ああ」

 

 

 雪雫に言われて、蓮はメンバー1人1人に目配せする。全員、僅かに悩んでいる様子は見せているが、その目の奥には理不尽に対する怒りが確かに籠っていた。どうも奥底で、最初から心は決まっているらしい。

 

 

「仕方ない。協力しよう」

 

 

 

 

 

 

「悪いわね、お邪魔しちゃって」

 

 

 1人暮らしには…いや実質的には2人暮らしだろうが、それにしても広い家。前は皆でお邪魔したが、一人で来るのは何時以来か。双葉も以前に「雪雫の家…ありゃヤバいな。流石お嬢様だ」なんて言っていたけど、今なら気持ちが凄い分かる。落ち着かない。

 

 

「問題無い。ゆっくり話すにはここが一番」

 

 

 ソファに浅く座って足の指を忙しなく遊ばせている私に対して、家に帰るなり早々に制服を脱ぎ捨ててショートパンツにダボっとしたシャツと実にラフな格好に着替えた雪雫。

 

 

「インスタントで良い?」

 

「インスタント以外、期待してないわよ」

 

 

 ひどい。と何でも無い様に答えてキッチンに向かう雪雫。どうやら紅茶を淹れてくれるらしい…インスタントだけど。

 

 

「制服、畳んでおいたから」

 

「ん、ありがと」

 

「……何時までもそんなんだと、将来苦労……しないか。雪雫だもん」

 

 

 小言が思わず口から出そうになるが、あまり雪雫が苦労してそうなビジョンは浮かばなかった。何だかんだでアマエ上手だし、うまくやりそうな気がしてならない。

 

 

「はい。ハーブティー」

 

「あら、気が利くわね。誰の入れ知恵?」

 

「妙。心をリラックスさせるんだって」

 

 

 カップを受け取って口に運ぶ。鼻腔を擽る上品な香りと、口に広がるほのかな苦み。うん。インスタントにしては美味しい。というかインスタントって言われなければ、淹れたと言われても気付かないかもしれない。

 

 

「ごめんね」

 

「何が?」

 

「今日。私の都合で明智君の誘い断っちゃって」

 

 

 蓮が明智君の条件を呑んだすぐあと、彼からお姉ちゃんのパレスの下見に行かないか。という誘いがあった。しかし私自身、まだ決心が付いていないのか直ぐには頷く事が出来ず、結局明日へ延期。それで解散して……今に至るという訳だ。

 

 

「雪雫だって早くパレス攻略したいだろうに」

 

「…………」

 

 

 彼女がパレスを人一倍危険視しているのは知っている。奥村の時なんかも皆と離れてでも攻略を進めようとしていたと、モルガナから聞いている。まぁ結局、モルガナを心配して、彼に付いて行く為の口実であったのだが、「パレスがある時点で問答無用で排除すべき」というのは本心だろう。

 

 

「問題無い。焦っている時こそ、ゆったりする時間が大切。休日の質が仕事のパフォーマンスに直結するのと同じ」

 

「流石、プロは言う事が違うわね」

 

 

 そもそも貴女、活動がまばらじゃない。というツッコミは胸の奥に仕舞っておく。最近は何かと頑張っているみたいだし。

 

 

「…………私ね、大分前から気付いていたんだ。お姉ちゃんにパレスがあることに」

 

 

 家に来ないかと誘ったのは雪雫からだ。勿論、ただ遊びたいとか、一緒に過ごしたいとか、そんな甘いものじゃない位分かっている。要は、彼女なりに心配してくれているのだ。

 

 

「それこそ、カネシロの時から。パレスの事を聞いて、もしかしたら……なんて」

 

 

 昔は良好だったお姉ちゃんとの関係だが、今は冷え切ってしまっている。向こうは完全に仕事一筋で、何かと私に対しても、そして自分自身に対しても完璧を求めてくる。母と父は既に他界し、2人きりの家族。私を養わなければならない事、女性にはまだまだ風当りの強い検事の世界。それらのプレッシャーの跳ね返りだと思い、最初は我慢していたが、次第にソレが肥大化したエゴだと気付いた時にはもう遅かった。

 

 

「でも皆に言い出さなかったのは、お姉ちゃんの根底には正義があるから。だけど、今は……」

 

「完全に体制に呑まれて今は傀儡状態。最早仮定は飛ばして、結果だけを求めてる。テストで100点取るのにカンニングする様なもの」

 

「うん。それは正義なんかじゃないよ。少なくとも、お姉ちゃんが昔に目指していた姿は何処にも無い」

 

 

 だから、お姉ちゃんの改心に同意した。当初はいずれ目を覚ましてくれるだろうとか、肉親である私が話し合いで……なんて考えていたけど、その段階はとうに過ぎている。

 

 

「でもね、まだ正直迷ってるんだ」

 

「というと?」

 

「もし、もしもよ。もう既に不正に手を染めていたら……って」

 

 

 怪盗団絡みの陣頭指揮に正式になったのはつい最近の事。指名手配も懸賞金もまだ出たばかりで怪盗団事件の進展については聞かないし、明智君からも無かった。でももし、それに至るまでの過程で何か不正を犯していたら。もし、怪盗団とは別の事件で、既に結果に取り付かれて過ちを犯していたら。……きっと姉は自責の念で潰れてしまうだろう。

 

 

「それは無い。真のお姉ちゃんだもの」

 

「………貴女、会ったこと無いでしょ」

 

「ん、無い。でも真を見てれば分かる。妹は姉の姿を見て育つんだもん。そういう事を平気でする様な人なら、そもそも今の真は居ないよ」

 

「……ふふ。そう言えば貴女も妹だったわね」

 

 

 確かに。私も会った事無いけども、雪雫の姉って聞いたら無条件で安心しちゃうかも。嗚呼、この人がこの子をここまで導いた人なんだって。

 

 

「だけどそれは正気での話。これは真のお姉ちゃんを守る為の改心。真犯人に狙われない様に…もあるけども、不正を未然に防ぐっていう意味でも」

 

「───ええ、そうね。そうよね。妹である私が一番委縮してちゃダメよね」

 

「その意気」

 

 

 なんか話したら気持ちが少し軽くなった。姉の本心を見るっていうのはまだ怖いけど、皆が踏ん張ってくれるんだから、妹である私も踏ん張らないといけない。

 

 

「改心、成功したら真のお姉ちゃんに会わせてね」

 

「ええ、そうね。こんだけ迷惑掛けるんだもの…謝罪の一つくらいさせないと───あー……」

 

「?」

 

「雪雫に会わせるのはちょっと……」

 

「なんで」

 

 

 だって人たらしだし……。なんか無意識に口説きそう。

 

 

「興味有ったのに」

 

「冗談よ」

 

 

 ぶーぶーと文句を言いたげに口角を下げる雪雫。

 こうしてみると、初めて会った時と比べて大分変った様に見える。いや、外見的な話ではない。寧ろ、外見はこれっぽちも変わってない。

 

 

「雪雫、変わったね」

 

「そう?」

 

「ええ。表情も幾分か豊かになった気がするし、最初は何か人の顔色伺ってた様な気もするし」

 

 

 大袈裟な表現かもしれないが、自我が芽生えた。と言えば伝わるだろうか。入学当初は基本的に受け身だった彼女だが、今は割と率先して自分の意見を通す様になった気がする。

 

 

「ほら、生徒会に入ったのだって皆に望まれて、だったでしょ?」

 

「そうだっけ」

 

「そうよ」

 

 

 大山田の件だって何処か受け入れていた彼女が自分から反発したんだ。だからペルソナに目覚めた。それは立派な自我の芽生えだし、それを切っ掛けに皆と同じ様に信念を持って動くようになった。天城雪雫という人間が一歩、成長したのだ。

 だから────。

 

 それ故に、解せない。

 

 

「……わっ」

 

 

 雪雫の腕を掴み、押し倒す。見た目通りの軽い身体は、いとも簡単に私に抑え込まれてソファに沈む。片手で拘束しても一周してしまう雪雫の両手の手首を頭の上に押さえつけて、余った片手は雪雫の顔の横に置いた。

 

 

「貴女、何か隠してるでしょ」

 

 

 お互いの息遣いすら聞き逃さない距離で、宝石の様な瞳を覗き込む。

 何事か、と驚嘆の色を浮かべていた雪雫の顔が、一瞬にして冷たいモノへと変わった。

 

 

「分かりやすい」

 

「何か、という抽象的な言葉では答えに困る」

 

 

 例えば、歌手の方の仕事の事。

 例えば、りせとの関係の事。

 例えば、稲羽での私の事。

 

 

「話してない事、伏せてる事なんて沢山ある。真は何が引っ掛かってる?」

 

「……貴女…最近、変よ」

 

「………………」

 

 

 1人で考え込んでいる姿をよく見るようになった。思った事をそのまま言う様な彼女が、慎重に言葉を選ぶ様子を見せるようになった。純真な瞳が、時折鋭く細められるようになった。それが見られるのは決まって、怪盗団絡みの話をしている時だ。

 

 

「今思えば記者会見の時からそうよ。皆と見ているものとはまた別……。何処か違う場所で戦ってる様に見えるの」

 

「私は色んな可能性を考慮して────」

 

「それを皆に話さないのは何故?」

 

「………………」

 

 

 雪雫が頭が良いのは分かってる。存外に、その視野が広いのも。

 彼女の機転で助けられた場面は一回や二回じゃない。適した場面で必要な物事を的確に最小限で行ってくれるのだから、頼もしい事この上ない。

 

 故に、不安だ。

 最小限で行うとは即ち、不要な事は行わないという事。必要無いのなら伝えるという労力も省くし、助けを求める人員も絞る。その方が自分にとっても味方にとっても低カロリーだから。

 

 仮に、自分一人で完結すると、彼女が判断したらどうなるだろうか。

 オクムラパレスでのIDカード探しが良い例だろう。彼女はたった一人でパレスを闊歩する敵からIDをかき集めて来た。結果的には時間の大幅短縮には繋がったが、心配するこっちの身からしたら気が気じゃ無かった。

 オオヤマダの時もそうだ。下見とは言え、皆に黙って一人で先行して行った。

 

 そう彼女は一人でやれるなら、一人でやる。

 どんなに危険であってもそれが最小限の動きなら迷わずチョイスするだろう。

 

 

「不安なのよ。貴女は賢くて要領も良い。だから───不安なの」

 

「…………………」

 

「答えなさい、雪雫。私達に何を隠してるの?」

 

 

 紅い瞳が僅かに揺れた。

 そんな気がした。




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