PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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11:They are behind the incident.

 

 

 

5月16日 月曜日 晴れ

 

 

 

「監視?」

 

 

 放課後の生徒会室で、雪雫は頭に疑問符を浮かべる。

 

 

「…認めたくは無いけど、簡単に言うとそうね……」

 

 

 はぁ、と生徒会長である新島真は愁い帯びた瞳で溜息を吐く。

 

 

「なぜ真が?」

 

「相手が生徒である以上、同じ立場の方が何かと都合が良い、だって」

 

「……無責任」

 

 

 一月経った今もなお、爪音が残る鴨志田の事件。

 今になっても出入りする警察やマスコミ。事件を皮切りに学校に寄せられる保護者からの意見や要望。そして、生徒間で囁かれる怪盗団と名乗る者達。

 以前までは目立たない普通の学校だった秀尽だが、今はその姿は何処にも無い。

 

 何処までも保守的な校長はこれ以上のトラブルやスキャンダルは望まない。

 そこで白羽の矢が立ったのが生徒会長である新島真。

 

 要するに生徒の管理を全て彼女に投げたのだ。

 

 

「本当にするの?」

 

「……やりたくはないけど…、内申を引き合いに出されると、ねぇ……」

 

 

 そう呟く真の顔は何処までも憂鬱そうで、納得いってない様子だ。

 

 

「内申ってそんなに大事?」

 

「………わかんない」

 

 

 そう言いながら、彼女は窓の先に見える夕日を眺めた。

 

 

 

 

同日 夜

 

 

 都内では有数のノスタルジーな雰囲気が漂う街、神田。

 無数の書店が立ち並ぶ街の一角に神聖な教会が一つ。

 

 街頭から漏れる光が差し込む教会で、2人の少女が顔を合わせていた。

 

 一方は白髪の西洋人形の様な見た目の少女、天城雪雫。

 一方は黒髪の日本人形の様な見た目の少女、東郷一二三。

 

 学校も学年も違う2人だが、意外にも交友関係は長く、その出会いは雪雫が八十稲羽に住んでいた頃まで遡る。

 そんな彼女達は定期的に神父が見守るこの教会で時には談笑を、時には対局を。

 静かに、しかし熱く親睦を深めている。

 

 

「班目一流斎氏の展覧会、どうでした?」

 

 

 そんな彼女達の今日の話題は、先日始まった班目の展覧会。

 雪雫の呟きをチェックしていた東郷は、興味津々な表情を浮かべて、口を開いた。

 

 

「作品は面白かった。ただ―――」

 

「ただ?」

 

「全て一人でっていうのは些か疑問」

 

「ああ、この役者というのは、やはりそういう意味でしたか」

 

 

 文面だけでは、意図が正確に汲み取れない為、余計な推測を控えていた一二三だったが、どうやら想像通りだったらしい。

 得心がいった様なスッキリとした表情と同時に、納得しきれない様な表情を浮かべる。

 

 

「一二三はどう思う?」

 

 

 東郷は困った様な笑みを浮かべて、頬を掻く。

 

 

「私は直接見ていないので何とも……。ただ喜多川さんの話を聞く限りはそう言った印象を受けませんでしたよ」

 

「喜多川?」

 

「はい。私と同じ洸星に通う美術専攻の喜多川裕介さん。班目氏のお弟子さんみたいでして」

 

 

 あまりお話したことは無いですけど、と一二三は続けて微笑む。

 

 

「もし雪雫さんが危惧してる事が実際にあるとしたら、喜多川さんが黙っていないかと。彼、美術に対する情熱は並々ならぬものですので」

 

「喜多川、祐介……」

 

 

 名前を噛みしめる様に雪雫は小さく呟いた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

5月17日 火曜日 晴れ

 

 

 日も完全に落ち、変わる様にギラギラとしたネオンが照らす繁華街、新宿。

 仕事帰りの会社員、大学生、煌びやかな恰好した女性等、様々な人間が往来を闊歩している。

 

 

「………」

 

 

 そんな中に場違いな程、幼い少女が1人。

 穢れの知らない白髪を携えた少女。

 ヒールに黒いパンツ。白いシャツに薄いカーディガンを羽織っている。

 

 恰好だけ見れば小綺麗な大学生位の女性、といった印象を受けるが、身長とその幼い顔がそれらを打ち消している。

 その証拠に、まるで迷子の子どもを発見したかの様な視線を、周りから向けられていた。

 

 

「……?」

 

 

 しかしその少女、天城雪雫は気付かない。

 

 

「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん」

 

 

 首を傾げながらも歩みを進める雪雫は、ふと肩を叩かれその足を止めた。

 彼女の後ろには派手なスーツを着た、どこからどう見ても怪しい男。

 

 

「私?」

 

「そう! 君!!」

 

 

 その男は仰々しい反応で雪雫に向けて指を差す。

 

 

「中々可愛い顔してるじゃない~! 声も合格……」

 

「ありがとう」

 

「おじさんね、君みたいな可愛い子を探して日夜この辺りを張ってるんだけど―――。君、お金欲しくない?」

 

 

 まるで教材にでもされそうな程の、お手本の様なスカウト行為。

 普通なら碌に取り合わずこの場を去るだろう。

 誰もがそう思った。

 すれ違う人達も、それを遠くから見ている街角の占い師も。

 

 しかし。

 

 

「お金、別に要らない。」

 

「えぇ!? そんな強がっちゃって!お金が在れば、なんでも欲しいモノ買えるんだよ!」

 

「欲しいモノ、全部買ってる」

 

 

 そんな周りの期待を裏切り、雪雫は会話を続けた。

 

 

「あらら、もしかしてご実家お金持ち? でもね、お嬢ちゃん。何時かは実家を離れて独り立ちしないといけない時が来るの。いや、それだけじゃない。就職や結婚…、様々な場面でお金っは必要…。その時に自由に使えるお金が必要だと思わない?」

 

 

 好感触、とまではいかないが、打てば何かしら反応を返す雪雫に気を良くし、男はどんどんとまくし立てる。

 

 

「……む、それは一理ある。でも私は―――」

 

「そうでしょう、そうでしょう!私は君の為に思って言ってるんだよ~!」

 

 

 そしてついに男は、雪雫の続く言葉を遮り、その細腕を掴む。

 

 

「話だけでもいいから、ね?君なら一晩で想像も出来ない程の額を――――!」

 

「ストップストップ、スト――――ップ!!!!」

 

 

 男が雪雫に腕を引っ張り、裏路地に連れて行こうとしたその時、1人の女性が間に割って入った。

 

 

「わ」

 

「ちょっと!」

 

 

 女性は素早く雪雫を守る様に男から奪い取り、自身の身体の後ろに隠す。

 

 

「ちょっと、じゃないですよ!!

わ、私の…、…妹に何やってるんですか!!」

 

「妹?」

 

 

 初対面の女性に妹、と言われてことを不思議に思い、小さく呟く雪雫。

 

 

「ふーん、妹ね。全然似てないけど…?」

 

「い、良いじゃないですか、似て無くても!!あ、あれですよ、マリア様的な、花園的な……!取り敢えず、この子に手を出さないでくださーい!!!!!!!!」

 

 

 訝し気な視線を向ける男と、子犬の様にキャンキャンと声を上げる女性。

 男は強気な姿勢を崩そうとせず、詰め寄っていたが、その女性の声が周りの注目を必要以上に集めている事に気付く。

 

 

「っ。邪魔しやがって…」

 

 

 悪態を吐きながらこの場を去る男の姿が完全に消えたのを確認し、女性はヘナヘナとその場に座り込む。

 

 

「良かった……。なんか大事なモノを勢いで失った気がするけど……」

 

「……ねぇ」

 

 

 ブツブツと呟く女性の肩を軽く叩く雪雫。

 

 

「大丈夫? 怪我とか―――」

 

「私、貴女の妹じゃないよ?」

 

「アー、ソウキタカー」

 

 

 ふざけているのか、真面目なのか。

 いや、後者だろう。

 真剣な眼差しの雪雫に、女性は遠い目をして虚空を見つめる。

 

 

「……いやいや、呆れている場合じゃ無い。ここはガツンと言わないと……。貴女、名前は?」

 

「天城雪雫」

 

「雪雫ちゃんね……。よし、雪雫ちゃん!」

 

「ん」

 

 

 腰に手を当てながら、ビシっと指先を伸ばして語気を強くする。

 まるで出来の悪い妹を叱る様に。

 

 

「駄目じゃないですか! こんな夜に子ども1人で繁華街に出歩くなんて!!」

 

「だって大宅迎えに来てくれない」

 

「大宅?」

 

「これから会う人。ちゃんと大人。でも迎えに来てくれなかった」

 

「何となく漂うダメな大人臭……。でも完全に1人って訳では無いんですね。それなら、今すぐその方に連絡を―――」

 

「したけど飲み過ぎたから動けないって」

 

「やっぱりダメな大人じゃないですかー!」

 

 

 再び女性の声が繁華街に響いた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 女性の名前は御船千早という。

 様々な人間が往来する新宿の繁華街の片隅で占い屋を営むタロット占い師で、その腕はよく当たるとのお墨付き。

 

 そんな千早は今、自身の城を一時離れ、先程保護した少女と繁華街の奥地へ向かっていた。

 

 

「流石の私も夜に1人は危ないって分かってる。だからさっきの男の人にララの所まで連れてってもらおうと……」

 

「全然分かってない!!上京したての私の方がまだ警戒心ありましたよ!!」

 

 

 目指すは雪雫の知人、大宅が居るというバー。

 距離にすると対して離れていないのだが、雪雫の事が放っておけず、そこまで送る事となった。

 

 

「これから会う人はまともな人ですよね?」

 

「昼間は新聞記者。夜は常に酔ってる」

 

「不安しかない……」

 

「でもララがしっかりしてるから」

 

「ララさんというのは?」

 

「エスカルゴ・ララ。バーのママ」

 

「今の女子高生の交流ひろーい……」

 

 

 雪雫が特殊なのか、それとも今の女子高生がすごいのか。

 判断が付かないまま、2人は目的地へと辿り着く。

 

 

「ん、ありがとう。お陰で補導されなくて済んだ」

 

「補導だったらまだマシでしたけどね……」

 

 

 どっと疲れが出た様に肩を落とす千早に雪雫は微笑み掛ける。

 

 

「一緒にご飯、食べる?大宅もララも歓迎すると思う」

 

「んー嬉しい誘いですけど、仕事があるので遠慮しときますね」

 

「そっか」

 

「ここで会ったのも何かの縁ですし、今度私のところへ遊びに来てください。早い時間からやってますので」

 

 

 ん、と小さく返して、雪雫はバーの扉を開けた。

 

 

 

 

「へぇー、それで? 危うく連れて行かれそうになった挙句、知らない女性に助けられた……。アーハハハハハ!!ララちゃーん! やっぱこの子面白いわぁ!!!!」

 

「何が面白いのよ。貴女が行かない所為で危ない目に合ったのよ?」

 

「いやぁ、この子意外と顔広いから大丈夫かな~って思って。ほらぁ、オネエポリスとも仲良いし!!」

 

「そうは言っても子どもは子ども。大人らしく振る舞いなさいよ」

 

「はぁい」

 

 

 大宅が茶化してララが叱責を飛ばす。何時ものにゅぅカマーの光景だ。

 

 

「お酒臭い」

 

「おこちゃまには分からないかな~、お酒の良・さ・が」

 

「お酒の良さを知っても貴女みたいにはならないで欲しいわ…。はい、雪雫ちゃん。オレンジジュース」

 

「ん、ありがと」

 

 

 並々に注がれたお酒を飲み干す大宅を横目に、出されたジュースを一口。

 

 

「やっぱ酒っていいわぁ。あー……、それで? 今日のご用件は? 聞きたいことがあってきたんでしょう?」

 

 

 頬を赤く染めながらも、その目は鋭く真っ直ぐで。

 大宅は雪雫の瞳に視線を送る。

 が、それも長くは続かず。

 

 

「お代は今日の酒代で良いよ~ん!!」

 

「女子高生にたからないの!」

 

「イイじゃーん! どうせ私より稼いでるんだから!!雪雫、月にいくら稼いでるのよ?」

 

「今月は500――」

 

「貴女も言わないの」

 

 

 最近のJKすげー!!って叫ぶ大宅だったが、騒ぎ立てるのも飽きたのか、神妙な顔持ちで水を一口飲んだ後、酔いが醒めた様な真面目な顔を雪雫に向ける。

 

 

「で? 本題は?」

 

「……班目一流斎について知りたい」

 

 

 あー、それか。

 小さく呟き、ガシガシと自身の頭を乱暴に掻く大宅。

 

 

「彼は大した役者、か。良い線行ってると思うよ」

 

「証拠は、あるの?」

 

「無い。けどあのじじぃの周りには常に黒い噂が絶えない。弟子を虐待している。盗作している。とかね」

 

 

 暫しの沈黙が店に訪れる。

 ララは会話に口を挟む気配は無く、雪雫は続きの言葉を待っている様だった。

 

 

「実は私もあいつを張っててね。最近も班目の家を―――あ、そうだ。」

 

「?」

 

「そういえば、あいつの事を嗅ぎまわってる子達居たわ。貴女と同じ学校の制服を着た」

 

「……誰?」

 

「黒いパーマの眼鏡少年、金髪モンキー、碧眼ツインテガール。

例の鴨志田事件の当事者達…、でしょ?」

 

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