PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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121:0.1%

 

 

 一度目のベット。

 

 

 

 ────ロスト(負け)

 

 

 

 二度目のベット。

 

 

 

 ────ロスト(負け)

 

 

 

 

「ふむ」

 

 

 ネクロノミコン内部。モニターに映し出された皆のバイタルを眺める。

 

 一度目の敗北時は体力を。二度目は魔力を奪われた。

 その搾取量はベットの内容によって増減し……まぁここの確認は不要だろう。本来のコインの役目が精神力であったり生命力に置き換わっているという事。

 

 

「確かにニブイチで賭けてれば事故りはしない…が」

 

 

 リスクが低いという事はリターンも低いという事。負けたとて、その搾取量は非常微々たるものである為、生命力の搾取であれば魔法での回復が間に合う。

 

 間に合う、が

 

 

「どの道、ジリ貧だな」

 

 

 普通にギャンブルで挑んで勝てないのは明白。検事特有の99.9%の驕りゆえに。加えて、魔力も無限ではない。いつかは回復量より消費量が上回る時が来る。

 

 

「つまり積ませるタイプのクソボスってワケだ」

 

 

 RPGで言う所の中盤位に出てくるクソボス。本体は特別強く無いけどギミックマシマシのタイプ。

 

 

「そろそろなーんか分かったか?」

 

 

 目に留まったのは皆から一歩引いき、1人だけ呑気に腰掛け、深窓のご令嬢よろしくという感じのウィッチ。

 そろそろ仕事しろー。

 

 

『おおよそのギミックは。そっちは?』

 

「足りない情報を補える」

 

 

 悪く無いわね。とウィッチは影を仕舞って立ち上がる。椅子の形を成していたソレは見る見るの内に溶解し、影の海に沈む。

 いやはや、便利なものだ。

 

 

「お前の見解から聞こうじゃないか」

 

『蓋が邪魔』

 

 

 分かり切っている問答をする気が無いのか、ウィッチは簡潔……いやそれ以下の文字量で答えた。

 

 まぁ、大体はそれで伝わるのだが……。

 彼女の行間を読むとこうなる。つまり、ルーレットが止まって出目が確定する直前。もっと正確に言えば、その出目がニイジマにとって敗北だった時。分厚いガラス板みたいなものが蓋として現れる。それがジョーカー達の勝ち筋を潰している。

 

 

「ちなみにガラスでは無く、PMMA…アクリル、な。透明度が違う。透明度が」

 

『イセカイの割に随分現実的』

 

「99.9%勝率が向こうにあるとはいえ、負け筋は当然ある。それの現れだろう」

 

 

 ニイジマが100%勝利を信じる脳筋バカであったら、きっとこのイカサマも概念的な……どうにもならないルールとして備わっていただろう。

 だが現実の彼女は敏腕エリート検事。酸いも甘いも理解してその立場に居る筈だ。彼女が優秀な限り、勝ち筋は存在する。

 

 

『狙撃で破壊は?』

 

「火力的にはノワールかクイーン…だが至近距離で打てるほどニイジマも甘く無いだろう。他のメンバーは遠距離で打てるにしろ火力が足りん。本人の認知補正があるから完全に一致する訳ではないが。ありゃ防弾仕様だ。銀行の窓口とか、VIPカーとかに使われているようなヤツ」

 

『つまり高い火力を持ち遠距離狙撃が可能な武器…なるほど』

 

「前に私のパレスで作ったヤツあるだろう? アレの小型版を───」

 

『問題無い』

 

 

 しかし作るのに数分時間が。と言おうとしたらウィッチにピシャリと打ち切られた。

 

 皆から一歩引いたウィッチは完全にニイジマの視界には映っていない。

 先程の様に影が揺らぎ、彼女を包み込み、そして溶解。

 

 

「なっ」

 

 

 ネクロノミコンのサーチからも完全に外れ、目視で消えた彼女の姿を探そうとしたその瞬間、再び私のペルソナがウィッチを捉えた。

 そこはルーレット盤の外。丁度窪んだフィールドを見渡せる、縁の部分。ルーレット盤を彩る様に飾られたオブジェクトの影からぬるりと現れた。

 

 

「おい…どんな手品だ?」

 

『別に。影さえあれば移動出来る』

 

 

 そう淡々と答えるウィッチの瞳は金色で、いつの間にかに現れていたアリスの瞳と酷似している。

 

 

「なんか…日に日にニンゲン離れしていってるな……」

 

『……それより、急ごう』

 

 

 アリスと目を合わせ、影の上に手を翳す。例の如く、影は揺れ、ウィッチを取り巻く魔力の数値が急激に上昇する。

 渦巻く魔力は影を為し、影はまた別のモノに変化していく。特徴的な照準器と長い銃身……所謂スナイパーライフルだ。

 

 

「……ま、マジか…。」

 

 

 完全にお株取られたじゃん。一瞬そんな考えが過ぎる。

 

 

『この目の魔力を装填する感覚。何となく理解した。見てくれはどうでもいい。あとは銃という形を成し、込めたモノを飛ばす。その認知があれば勝手に補正が働く』

 

 

 そして。とウィッチは続ける。

 

 

『あとは強度に対応した魔力を込めれば良いだけ』

 

 

 金色の瞳を細めて、照準器を覗く。息を止めて、高速で周るピンボールの狙いを定める。

 そして間も置く事無く、『補助よろしく』と一言。

 

 

『防弾レベル』

 

「え、あ………EN-B7! 対物ライフルでやっと突破出来るレベル!」

 

『賭けの内容』

 

「相手へ攻撃する権利! 当たればタコ殴りだ!」

 

『ジョーカー達のベットは』

 

「1から12! リターンは3倍! 強気に賭けたな!」

 

『信頼には応えなきゃ』

 

 

 ふと、ジョーカーがウィッチの方へ視線を移し、口角を上げた。

 彼女の行動は唐突であったが、どうやらしっかりリーダーに伝わっていたらしい。

 

 

『出目の予測は分かる?』

 

「このままだと……19、31、18で止まる可能性大! つまりハズレ!」

 

『了解、弾道を修正する』

 

 

 ルーレットが止まる。

 あとはピンボールが落ちるのを待つのみ。

 残る遠心力でまだまだ高速で回り続けるピンボールに対し───

 

 引き金を引く。

 イカサマを突破することはおろか、並のシャドウですら倒せない位の極僅かな魔力で形成された魔弾が一発、二発、三発。

 あまりの矮小な狙撃に、ニイジマはおろか、仲間達ですら気付く事は無い……が弾の軌道を修正するには十分過ぎるほどの狙撃。

 

 

「軌道修正確認! 当たる確率……68%まで上昇!」

 

『十分』

 

 

 事前予測を狂わせれ、僅か失速したボールは従来よりもほんの僅か早く出目が確定しそうだ。

 1、0、37,10……舐める様にそれぞれのマスを越え、そして…12と8の間に差し掛かる。

 

 

『これで終わり』

 

 

 一発。

 再び放たれた脆弱な魔弾は、完全にピンボールの勢いを殺す。ボールは止まる。12の上。僅かに照り返す蓋の上を滑る。

 

 

「今だ! かませ!」

 

 

 そして二発目。

 鋭利に研ぎ澄ませた魔力の塊が、ボールの合間を縫って着弾。

 力一杯に爆発させる事などしない。ただただその分厚い装甲に、穴を空けるだけ。着弾箇所から徐々に魔力が溢れては腐食させていく。モノとしての寿命を、アリスの魔力が侵食させていき──丁度ボールサイズの穴が空いた。

 

 

「よし!」

 

 

 ガッツポーズと共になり響くファンファーレ。

 

 

『なに!?』

 

 

 陽気なBGMとは裏腹に、苦渋と驚愕に染まるニイジマの顔。

 

 

「総攻撃だ! やーーってしまえ!!!」

 

 

 そして始まる怪盗団の反撃。

 リスクに見合ったリターンを持って、ゲームの勝者達がゲームマスターへ牙を向ける。 

 各々の得物を片手に、ニイジマを囲んでは攻撃。まさにタコ殴り、だ。

 

 

『私もお忘れなき様……』

 

 

 そして冷徹な狙撃手もまた、攻撃の権利を有している。

 乱戦状態のフィールド。糸を縫うかの如く放たれた弾丸は確かにニイジマを貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

「すごいじゃん! 何処で覚えたの、アレ!」

 

 

 ウィッチの肩をバシバシと、興奮した様子でパンサーが叩く。

 

 

「どーせまたコイツ、なんとなく。とかなんか言うぜ」

 

「ハワイで父親に……」

 

「名探偵かっ!?」

 

 

 先程まで雰囲気は何処かへ霧散。スカルとウィッチの軽口の応酬が始まり、緊張感は毛ほども無い。

 

 

「にしてもホーントにクソボスの類だったな」

 

「ナビ、何の話?」

 

「気にすんな。こっちの話だ、こっちの」

 

 

 チラリと一瞥すれば地べたに横たわるニイジマサエの姿。

 ウィッチに撃たれた脇腹の部分に手を当て、痛みと屈辱に顔を染めながらブツブツと何か言っている。

 心配で駆け寄った妹の顔も見えていない様で、呼び掛けにも反応を見せない。

 

 

「急所は外した。消えはしない」

 

 

 スカルとのやり取りを終えたウィッチが金色の瞳で敗者を見下す。

 

 

「だけど戦えもしない。イカサマはもう通用しない。貴女の敗け」

 

『……ま、敗け……?』

 

「とっとパレスを畳んで、()()()()()()────」

 

『……認めない。私が負ける事はあってはならない………』

 

 

 ピクリと、ニイジマの指が動いた。

 

 

『私は正しい…正しいの……だから勝者で無ければならない!』

 

 

 ニイジマの金色の目が色濃く光り、影が彼女を包み込む。

 

 

「………!」

 

「お姉ちゃん…!」

 

「何かがおかしい…! オマエラ、下がれ!!」

 

 

 渦巻く影と溢れ出す力の奔流。ニイジマを爆心地に吹き荒れる暴風。包んだ影はおおよそ人の体躯とは思えない巨大な何かを形作り、それを生み出す。

 

 

「冴さん……!」

 

「ただで終わるつもりは無いってか!?」

 

 

 ガシャン。と鎧の様な金切り音が響く。

 まず最初に影から現れ出たのは、大剣だった。成人男性2人分以上はありそうな無骨な大剣。そして次に見えたのはまたもや同等のサイズ感のガトリング。

 

 

「これは、さっきの……!」

 

 

 戦闘開始直後、スカルとウィッチが受けた大剣の一振り。そして遅れる様に貰った銃創。その下手人が、今目の前に現れた。

 おおよそ、3から4m程の身の丈は、刺々しい鎧を身に纏い、それがニイジマサエたる由縁のモノは一切見られない。

 

 残虐性、攻撃性、暴力性の塊。

 そんな風貌を、彼女はしていた。

 

 

『イカサマ? 卑怯な勝負? ……黙りなさい! ここは私の世界! 私がルール! 私が全て! この世界の勝者は私だけで良い!』

 

 

 右手のガトリングを構え、乱射。

 散り散りに避ける怪盗団に対し、照準を絞らずただただ打ち続ける。

 

 

『前言撤回。ギミックだけのクソボスじゃないなコレ』

 

「病的なまでの勝ちへの執念。精神的な残虐性の現れ…ってところかしら」

 

 

 「マッドマックスよろしく、みたいな風貌だし」と、ウィッチはランダムに飛んでくる銃弾を聖女の力で防ぎながら推測を立てる。

 彼女の後ろには動揺のあまりに、退避に遅れたクイーンが居た。

 

 

「さて、どう攻めよう」

 

『いつもの如く、弾きながら……って出来無いのか?』

 

「照準絞らず攻撃されては予測立てれないでしょ」

 

『え、いつも計算してやってるのか? こえぇぇ』

 

 当たりを絞らず放たれる弾丸は、あちこち跳弾して四方八方縦横無人に飛び交っている。

 他のメンバーもペルソナで何とか防御に回って被弾は回避しているが、攻撃には転じられていない。

 

 

(弾幕掻い潜りながら攻撃するには、機動力が欲しいけど……)

 

 

 チラリとウィッチは後ろのクイーンに視線をやる。

 

 

「これが、お姉ちゃんの本性……?」

 

 

 相変わらず動揺を隠せずにいる様だった。

 

 まぁ無理も無いか、とウィッチは溜息を零す。

 唯一の肉親で親代わりの姉。世間一般的にはエリート公務員の誇るべき姉が、心の底で残虐な本性を飼っていたのだから。

 

 これが自身に置き換えてみようものならゾっと……いや、雪子なら腹に一物も二物も抱えてそうだ。

 

 

「真」

 

 

 とにかく、姉の本性がどうであろうと、いかに黒い物を抱えていようと姉は姉。(我々)よりも先に生を受け、後に続く道を作り、背中を見せてくれた存在。

 私は雪子に感謝している。余命幾ばくも無い妹を、見捨てずにいてくれたこと。そして私の選択を尊重してくれたこと。きっと苦しいタイミングもあった。選択が本意で無いこともあっただろう。建前と本音、その全てを知る事は叶わないが、それにどんな裏があろうとも()を尊重してくれた(雪子)を嫌うことなどもってのほか、失望することも無い。

 

 

「どんな姿でも、どんなことを言われても。受けた恩は変わらない」

 

 

 そしてきっと、それは真にも通ずるものはあるだろう。

 

 

「…………雪雫…」

 

 

 今が恩返しの時だ。

 姉の背中を見てきた妹だから出来る事。それは

 

 

「喧嘩しても良い。姉妹だもの」

 

 

 道を作る先人が間違えてしまっているのなら。後に続く者がそれに気付いたなら。そっと後ろから声を掛ければ良い。

 

 

「………えぇ!」

 

 

 座り込んでいたクイーンは、パチンと自身の頬を叩いて立ち上がる。

 

 

「…………」

 

 

 黒いライダース。トゲトゲ肩パッド。メリケンサック。世紀末。 

 

 

「なによ」

 

「いや、姉妹ダナーって」

 

 

 何よソレ。とクイーンからジト目が送られるウィッチ。

 相も変わらず、ニイジマはトリガーハッピー状態ではあるが、少なくともクイーンは持ち直した様だ。

 

 さて、と再びウィッチがニイジマに視線を移した時、けたたましい警告音が鳴り響く。

 

 

『良い雰囲気の所すまんな2人とも! 全員聞け!』

 

 

 それはナビのペルソナを介した通信。実際のモノでは無く、あくまでも怪盗団内のみで介されるもの。

 

 

『パレス内のシャドウが一斉に活性状態に入った!』

 

『予告状出したのだから、当然ではないか?』

 

『人の話は最後まで聞け―! このおイナリ!警戒時の比じゃない! これはそう…パレスの暴走だ!!』

 

 

 普段はそこまで焦りを見せないナビの声音が、本当の本当に異常事態なのだと的確に伝えてくる。

 

 

『パレス全体が異常値を叩き出している! ニイジマサエのその姿も、暴走の結果だ!』

 

『これ……って』

 

『精神暴走……真犯人の仕業ってこと!?』

 

 

 確かめ合うようにノワール、パンサーがお互いに視線を送る。

 

 

「じゃあお姉ちゃんのあの姿は………」

 

「無駄に肥大化された姿……。少なくとも、あそこまでの残虐性は本来は持ち得ないってこと」

 

 

 ウィッチはチラリとクロウを一瞥する。

 こちらの視線に気付いたようだが、僅かな笑みを返すばかりで他にアクションは起こさなかった。

 

 

「…………」

 

『まずいまずいまずい! 黒服が一斉にこっちに向かってきている! 一気にここに雪崩れ込んでくるぞ!』

 

 

 そうなってしまえばオタカラ所の騒ぎでは無いだろう。

 たださえ狭いフィールドにシャドウのすし詰め……。単純な数の暴力で押し敗けるのは目に見えている。

 

 

『二手に分かれよう』

 

 

 そう、ジョーカーは言う。

 

 

『モナ、スカル、パンサー、ノワール、クロウ、は黒服達の足止めを。マズくなったら先に現実世界へ戻ってくれ』

 

 

 とすれば、ニイジマサエの撃破はジョーカー、フォックス、クイーン、ウィッチが担当。

 

 

『私はどうする!?』

 

『ナビはセーフティールームから援護を。逃走ルートの選定を頼む』

 

『合点承知!』

 

 

 そうと決まれば行動は早い。

 やはり一番先に動いたのはジョーカーで、新たなペルソナ『オセ』の剣技が銃の雨を一閃。無尽蔵に降り注いでいた弾幕を、一時的とはいえ、完全に晴らす。

 

 

『今だ! もるがなぁーー、変…身ッ!』

 

 

 弾幕が一時でも止んでしまえばこっちのもの。車へと変身したモナがフィールドを駆け巡っては散り散りメンバーを無理矢理乗せる。

 

 

『黒服の反応が一番多いのはハイレートフロア! 道中のザコは轢き殺してしまえー! 飛ばせ! ノワール!!』

 

『うん! 私、風になる! 風になるよ!!!!』

 

 

 若干不安要素(極一名)があるが、今は任せるしかない。

 

 

「……大丈夫かしら…春」

 

「ノーコメント。……さて」

 

 

 異常なまでの残虐性を纏ったニイジマサエ。今までの怪盗団の経験の中でもここまで攻撃的なシャドウも居なかっただろう。

 

 

『勝利こそ正義……。その為なら何をしたっていい! 勝てば官軍負ければ賊軍…そうでしょう?』

 

 

 その攻撃性を支えるのは異常なまでの勝利への執着。

 だが負けれないのはこちらも同じ。

 

 

「第2ラウンド開始…ってところ?」

 

 

 




あれ…終わらせるつもりだったのに…おかしいな…おかしい………
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