PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

129 / 159
Farce
124:This is such a joke.


 

 

 11月20日 日曜日 晴れ

 

 

 まだ陽も登って間もない頃だった。

 

 秋の終わり、冬の始まり。

 早朝特有の澄んだ空気と冬の到来を予感させる突き刺す寒さに身震いを覚えた。

 

 ちょっと薄着だったかもしれない。と、服を選んだ昨日の自分に恨みを覚える。

 

 場所も悪い。そう思った。

 まずそもそもの高さ。地上18階のこの場所は風が強すぎる。しかも目の前は皇居。道路と凱旋濠を挟んで広がるその周辺は当然高い建築物等無く、風よけとしての機能は期待出来無い。

 

 

「雨に濡れっぱなしってのも……」

 

 

 思いつく限りの要因を挙げれば挙げるほど、昨日の自分の選択が裏目に出ている。せめて一回帰ってお風呂にでも入れば良かったと溜息を一つ。

 

 しかし、そうは言っても帰るに帰れなかったのもまた事実。

 

 

『臨時ニュースです。検察は怪盗団の主犯格と思われる少年の身柄を───』

 

 

 イヤホンから流れるのは代わり映えのしないニュース。

 つい、2時間ほど前からこの話題で持ち切りだ。

 

 肝心の中身はまだ無い。ただただ捕まえたという事実を垂れ流している。チャンネルによっては何処ぞのマッチポンプクソ探偵が捕まえた…なんて情報を付け加えているが、まぁ大した問題は無い。

  

 重要なのはまだこの件については公表の段階じゃ無いという事。その一点。

 

 一晩過ごしたこの場所。

 ここ、警視庁本部庁舎の屋上で、ただただ赤い瞳で地上を覗く。

 

 いずれ来るその時を待ち望んで。

 

 

 

 

 

 

 警視庁本部庁舎 地下尋問室。

 

 陽も差さない地下のさらに奥の奥。

 通常では使われる事の無い……国家を揺るがす大事件や表沙汰にしたくないような事件時のみ解放される特別房。

 そんな場所で検事、新島冴は言葉を失っていた。

 

 

「そんな事が……」

 

 

 有り得ない。

 常識的範疇を優に超えている。が、目の前の少年…雨宮蓮は嘘を吐いている様子は無い。いや、嘘は吐けない筈だ。無機質な床に転がる注射器…恐らく自白剤の用途を満たすもの…の影響で。

 

 

「でも……だとしたら…」

 

 

 改心の手口はまるで荒唐無稽。まるで雲を掴む様な話だ。

 パレスというイセカイ。それを形成するオタカラ。イセカイで跋扈する化け物…そして心の生き写しであるシャドウ。

 

 

「全ての辻褄は…合う………」

 

 

 霧が掛かっていた視界が一気にクリアになるような、そんな感覚。膨大なパズルの、最後の1ピースを埋めるような。

 

 

「……いいわ。信じましょう」

 

 

 半ば無理矢理で得たこの機会は20分のタイムリミットがある。そしてもうここまで聞くのに半分以上が過ぎてしまった。

 怪盗団の発足…鴨志田事件から、逮捕に至るまでの話。期間にして半年分の話を、彼は短い時間内で簡潔に、かつ分かりやすく纏めてくれている。それを犯罪者の空想だと一蹴する事は出来ない。

 

 

「この尋問が終われば貴方も終わり…よく考えて喋る事ね」

 

 

 どうもこの事件、裏で何かが動いている様な気がしてならない。

 陣頭指揮を急に外されたのもそう。公安が私の取調を渋ったのもだ。大抵、こういう嫌な予感は当たるもの。公安が捕まえた犯罪者が取調中に自死……なんて無い話では無い。

 

 

「売られた。そう言っていたわね。それは一体───」

 

「新島冴。真のお姉ちゃん」

 

 

 突如、目の前に覗き込む少女の顔があった。

 人形さながら完成された美を持つ、幼い少女の顔。黄金の瞳が、驚く私を写しだしている。

 

 

「きゃあっ!!!!!!!!!」

 

 

 年甲斐も無く甲高い声が出た。脚は竦み、反射的に後退する。地面を擦る椅子の脚が耳障りだ。

 そんな様子が面白いのか、白の少女は髪を揺らしてクツクツと笑う。

 

 貴女も怖いの苦手?と。

 

 

「天城雪雫…!?」

 

 

 知っている。この子の事は知っている。

 世代を代表する女子高生アーティスト。怪盗団一味の候補としてリストに挙げられているし、現に少年の供述でも…主に大山田の事件で名前は出ていた。そして個人的な話をするならば…妹の…真の友達であり後輩。良き理解者で、良き相談相手だと、そう聞いている。

 

 

「ふぅん」

 

 

 そんな少女はやや興味深そうに捜査資料をパラパラと捲り「()()()()は守ってるんだ」と意外そうに呟く。

 

 いや、そんな事はどうでもいい。

 何故、何故こんな所にこの少女が居るのだ。警視庁内部の、さらにその地下の──。

 

 

「貴女も…怪盗団…ってことね……。そして…リーダーの逃亡補助を…」

 

 

 纏まらない思考で出した言葉がそれだった。今までの情報を結びあわせ、限りなく可能性の高い選択肢。

 

 

「八割方、そう」

 

「なら残りの二割は?」

 

「後でここに来てくれたら教えてあげる」

 

 

 スキニーのポケットから差し出されたのは一枚の紙。とある場所の住所が記された、メモ用紙。

 

 

「私がわざわざ貴女の前に姿を晒して、居場所を教えるその意味。よく考えて」

 

「……何を…………」

 

「このままじゃ貴女も負け。真実を知る事も出来ず、上に良い様に使われて、最悪無駄死に。()()()()()()()()()? ならその気概、現実でも見せてよ。お姉ちゃん」

 

 

 そう言い残し、少女は消えた。

 現れた時と同じ。瞬く間にパッと。そして目の前に座っていた少年の姿形も無い。まるで最初から居なかった様に。

 

 

「訳が分からない…」

 

 

 頭を押さえ、力無く項垂れる。

 なぜ天城雪雫はわざわざ現れた。あんな芸当が出来るなら、後ろから私を気絶でもさせれば良かったのではないか。

 

 

「わざわざ取らなくてもいいリスクを取る理由……」

 

 

 ダメだ。ピースが足りない。クリアになった思考に再び霧がかかる。

 これは証拠なんかない、ほぼ直観的な考えだが、どうにも私の想像とは違う場所で戦っている気がする。空想の盤上で戦う、チェスプレイヤーのような。

 

 

「勝ちたい…か」

 

 

 どのみち、私のキャリアも終わりだ。

 陣頭指揮も外され、中心で行っていた筈の捜査はいつの間にか蚊帳の外。意地で無理矢理ねじ込んだ尋問は決して良い顔はされず、そしてその私が取り調べをしている最中で重要人物は姿を消した。

 

 責任は……きっと取らせられるだろう。主観的な事実として関わっておらずとも、客観的な事実でこき下ろしが行われる。そういう組織だ。

 

 

「ははっ」

 

 

 乾いた笑いが起きる。

 乗っていた船は、気付けば泥船に変わっていた。このままでは海に溶けて沈み、二度と這い上がれないのは明白。だとすれば、あの少年達の真っ直ぐな眼を信じて見るのも一興か。

 

 重い…しかし存外に軽い足取りで、特別房の扉に手を掛け───。

 

 

「は?」

 

 

 目を疑った。

 

 暗い。地下という事を差し引いても。

 長い廊下は鬱蒼と、深碧*1に染まり、壁は血で染まっている。

 状況を聞こうにも、外で待機していた筈の警察官の姿は無く、代わりに棺のようなオブジェクトがそびえるばかり。

 

 

「コレって…彼らが言っていたイセカイ?」

 

 

 カジノ? 宇宙基地? 銀行?

 冗談。まだそれならどんなに良かったか。これではまるで、質の悪い陰鬱なお伽話の様。

 

 カツン。

 廊下の奥から音が響く。地面をヒールが叩く音の様に聞こえるソレ。音の軽さから女性のものだと分かる。

 

 

「……!!」

 

 

 通常であればなんて事の無い音。しかしこの場において。このイセカイにおいて、その音は恐怖を煽る材料でしかない。

 

 怖い。怖い怖い怖い。

 先の天城雪雫を恨めしく思う。話をしたいのなら連れてってくれれば良いじゃないか。仮に連れていけなかったとしても、せめて意識を奪ってくれれば。

 

 

(…まさか…口封じのつもりじゃ……)

 

 

 真から聞いていた人物像からは想像も出来ない悪質な一手。

 しかしこのイセカイに独り残された状況下、そう邪推せざるを得ない。イセカイに跋扈するシャドウという化け物。彼らに襲わせ、私を始末する気では───。

 

 音が近付くにつれて動機が早まる。

 視界が段々と暗くなり、チカチカと点滅すらし始めた。

 

 そして、段々とその音は大きく、感覚を短くして。

 

 

「失礼。新島冴検事…で相違無いか?」

 

 

 凛とした女性の声へと代わった。

 

 

「へ?」

 

 

 気の抜けた声に気にする事無く、女性……赤髪を揺らし、ライダースーツの上にコートを羽織り、かつレイピアを携えている彼女は、私の左手の人差し指へ視線を落とす。

 

 

「失礼。そちらの()()は?」

 

 

 そう言われて初めて、自身が指輪をしている事に気付いた。

 サイズは微妙に合わず緩い。装飾品としてのデザイン性は皆無で、ただただ無機質なそこにあるだけの指輪。

 

 

「いつの間に……?」

 

「なるほど。彼女か」

 

 

 やれやれと肩を竦め、奇天烈な恰好の女性は口を開く。

 

 

「それは研究の産物でな。影時間の適正が無い者に適正を与える為のもの」

 

「影時間……?」

 

「……なるほど。貴女のキャリアならば、知らないのも無理はない」

 

 

 そう言って名も知らぬ赤髪の美女は特別房の中へ。

 中央の机……その下にまたもやいつの間に置いてあった黒い箱。手のひらサイズの真四角なブラックボックスを手に取り、凍らせ、砕く。

 

 

「困ったものだ。こんなものまで持ち出して」

 

 

 そういう女性の顔は対照的に穏やかだ。まるで妹の悪戯を咎める姉のような。

 

 陰鬱な時間は終わる。

 彼女が砕いたのを合図に、温かみを取り戻していく。

 

 まるで死の時間だ。

 そう感じてしまうほど、本来の世界は賑やかだ。棺桶があった場所は再び警官が居て、驚いた顔で女性を見ている。そして遠くから慌ただしく響く足音。地面を叩く男性のローファーのような音。

 

 

「……っ!」

 

 

 その音の持ち主は、普段の穏やかななりは身を潜め、焦りと困惑…そして怒りが入り混じった様な顔をしていた。

 

 

「桐条…美鶴……!!」

 

「明智吾郎…か」

 

 

 自身の茶髪をくしゃりと握りつぶし、青年…明智吾郎は名を呼ぶ。

 

 

「此度の捜査、ご苦労だった。君の活躍無くして、怪盗団の逮捕は無かった……そう聞いている」

 

 

 しかし、と桐条美鶴は続けた。

 

 

「怪盗団はまんまと逃げおおせた。それも思いもしなかった方法で、だ。……影時間の発生が確認された、場所はここ警視庁内部」

 

 

 コツコツとヒールを鳴らして、ただただ立ち尽くす明智へ向かい、肩に手を置いた。

 

 

「特案条項に基づき、今後の怪盗団事件は我々…警部補シャドウ事案特別制圧部隊、シャドウワーカーが引き継ごう。これまでの協力に敬意と感謝を。ご苦労だった明智吾郎」

 

 

 まるでそれは勝利宣言の様で、明智君の苦渋に満ちた顔が余計にそう思わせた。

*1
しんぺき。力強く深い緑色。#005E15




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