PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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126:I'll show you how I do my tricks.

 

 

「くそっ! やられた!!!」

 

 

 不味い不味い不味い。

 非常に不味い。

 

 まさかパレスに僕を閉じ込めるとは!

 

 何かしてくるとは思っていた。

 だから警備も増やしていたし、特別房付近のエリアは全てこちらの息が掛かったものを配置していた。何か起ころうとも、僕の目の届く範囲なら対応可能と、そう想定していた。

 

 だが全て無意味と化した。

 今や概念事消え去った、過去の遺物で。

 

 影時間が明け、戻って見ればどうだ。桐条美鶴が、シャドウワーカーが居た。

 

 こうなってしまえば最早、警察はあてにならない。影時間を持ち出されては公安も検察も譲るしかない。なにせシャドウワーカーは唯一の、公的なシャドウ掃討部隊なのだから。

 特捜部長も今の状況に及び腰。元々小心者の男だ。いつ裏切ってもおかしくない。

 

 圧倒的にこちらが優勢だった筈だ。あと一歩、いや半歩。追い詰めれば処理出来ていたゴミ共だった筈だ。

 窮鼠猫を噛むという言葉にこれほど怒りを覚えたのは初めてだ。

 

 いずれ捕まえた筈の怪盗団が逃げおおせたというニュースが出回るだろう。

 そうなってしまえば、僕もあの人も。怪盗団を利用して積み上げた功績に傷が付く。選挙も近い。それまでに…あいつらを片付けなければならない。

 

 スマホを取り出し、電話をかける。

 こちらからはあまり掛ける事の無かった番号。真の意味での、共犯者。

 

 

「獅童さん!」

 

 

 

 

 

 

 11月21日 月曜日 晴れ

 

 

「こんにゃろ!」

 

 

 ルブランに入った蓮を見て、まず最初に飛び出したのは竜司だった。満面の笑みを浮かべて、己の相棒の肩を抱く。

 そうこうしている内に他の面々も蓮を取り囲んでは質問攻め。

 

 元気だったか。酷い目にあわされなかったか。などなど。

 

 まるで後ろの3人…特に雪雫なんかは物理的にも目に入っていない。

 

 

「おいおい。そこで固まられちゃ、後ろのお嬢さん方が入れないだろ」

 

 

 一日千秋の思いで盛り上がる場を収めたのはマスター。流石の大人の余裕で、落ち着いた声で何時もと変わらない。

 と思いきや「惣治郎、さっきから同じコップばかり磨いているぞ」と双葉の横やりが入る。

 

 

「良い雰囲気じゃないか」

 

「ええ。本当に」

 

 

 そんな光景を半歩後ろで、眺める美鶴と冴。前者は懐かしむ様に、後者はどこか羨ましそうな瞳で、一同を見つめる。

 

 

「私には労いの言葉は無し?」

 

 

 そしてやや不満そうに真に視線を送る雪雫。

 

 嗚呼、何時も通りだ。

 本当の意味で実家に帰ったような感覚に、蓮はそっと胸をなでおろした。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 席についてすぐにアイスブレイクが始まった。それもその筈、この場に怪盗団にとっての新顔が2人。新島冴と桐条美鶴。前者はパレスの姿しか知らない、後者は雪雫しか知らない。だから挨拶がてらの質問大会再び。

 

 両者を知る者であれば、当然知っている様な基本情報が飛び交う。

 よって情報アドバンテージがある他のメンバーよりはある雪雫は休憩。マスターが作ったお手製パフェを幸せそうに頬張っていた。お互いの認識が揃うのを待って。

 

 そして───。

 

 

「最初に気付いたのは雪雫なんです。明智吾郎が黒だって」

 

「ん。初めはちょっとした違和感。徐々に嫌悪感。生理的に嫌いなだけだと思ったけど。………奥村さんの一件で確かな情報を得た」

 

「ああ、芳澤の」

 

 

 聞かぬ名を聞き、竜司と杏が怪訝な顔を浮かべたが、美鶴がすぐにシャドウワーカーの戦闘員だと付け加えた。そして雪雫とは小学生からの仲だとも。

 

 

「ちょっと、夏休みのこと。皆に話してないんだけど」

 

「おっと失礼。後で筆舌を尽くしてくれ」

 

 

 仲間達に隠し事をするものでは無いぞ。

 そんな意図が籠った美鶴からの視線。逃げる様に視線を逸らすと、美鶴はやれやれと首を振った。

 

 

「話戻す。みんなに言わなかったのは顔に出ると思ったため。文化祭のゲストで明智の名前が挙がり始めた頃だったから」

 

「顔に出そうだもんな~。特にオマエ。リュウジ」

 

「んだとネコ、コラ!!!」

 

 

 これもまた何時ものやり取り。

 最早怪盗団の中で気に留めるものでも無く、日常のBGMとして流そうとしたところ。

 

 

「ちょっと待て」

 

 

 珍しく目をまん丸と開けた美鶴がストップを掛けた。

 

 

「いや、話の腰を折ってすまない。君達はその…喋れるのか? アイギスやラビリスの様に、翻訳機能を……?」

 

「えっと、美鶴さんの言ってることも謎だけど……。私も同じことを思ったわ。私達には普通の猫の声にしか聞こえなかったけど………」 

 

「そういやお前ら、よくモルガナに話しかけてたよな。え、なに。本当に話せてたわけ?」

 

 

 大人3人からの疑問。当然と言えば当然の疑問。

 しかし当たり前すぎて、誰もが…真ですら説明を忘れてしまっていた。認知の変化によってモルガナの言葉が聞こえるようになることを。

 

 

「イセカイのモナはフツーに喋れる。それ聞いて『あ、モナ喋れんだ』って認知すると、こっちでも何を言ってるか聞き取れるようになる」

 

「逆に言えば、イセカイに入らない限りモナの言っている事は分からない。明智自身も学園祭の時に初めて喋ったのを聞いた様な反応をした。けど、そうじゃないんでしょ? リーダー」

 

 

 明智の正体に最初に勘付いた雪雫。彼女が折を見て相談したのは当然、蓮だった。

 

 

 

 

 

 10月26日 水曜日 晴れ

 

 学園祭2日目

 

 

「蓮、ちょっと話、あるんだけど。良い?」」

 

 

 講演会の中止を知らせに戻ろうと、重々しい皆の背中を追おうとした時、袖を引っ張られた事に気付き、歩みを止めた。

 振り返れば珍しく不安な色を瞳に浮かべた雪雫が、袖を控え目に掴んでいた。

 

 

「?」

 

 

 俺が来ない事に気付き、不思議に思ったモルガナも踵を返して部屋に戻る。

 

 

「明智のことか」

 

 

 そう言えば雪雫はコクリと頷いた。

 静まり返った体育教官室に2人と1匹の息を呑む音だけが響く。

 

 

「明智は黒仮面」

 

「なぜ分かる?」

 

 

 聞けば雪雫は一瞬、瞳を泳がせる。

 言葉に迷っているかのような、説明に困っているような、そんな印象を受ける。

 

 

「………勘。…じゃ納得しない、よね。えっと……確かな情報筋からの…提供」

 

「歯切れが悪いな」

 

「ごめん。詳しくは話している時間無い。すぐに戻らないと」

 

 

 嘘や冗談を言っている様な気配は無い。瞳は真っ直ぐで、こちらに訴えかけるような意志を確かに感じる。

 

 

「……根拠としては弱すぎる…が。レン」

 

「ああ。確かに明智は怪しい」

 

 

 そう、あれは社会科見学の時。

 明智をゲストに呼んだトーク番組の撮影風景の見学。6月上旬の頃の話。まだ雪雫はおろか、真すら仲間になっていない初夏の事。

 

 その後の一幕。

 

 

【ワガハイ、あそこが良いぜ! 来る時見えた、『デカいパンケーキ』みたいなお店!】

 

 

 この後、何処に遊びに行くか。という話でモルガナが言ったこと。この場には自分、竜司、杏、モルガナの4人のみで、周りには誰もおらず静まり返っていた。

 

 

【あれ、違ったかな。美味しそうな『パンケーキ』…とか聞こえたから】

 

 

 途中で会話に参加した明智はキョトンとした顔で確かにそう言った。

 モルガナ以外、『パンケーキ』という単語を口にしていないにも関わらず、だ。

 

 

「……さっき明智は、モナの声を初めて聞いた。みたいな反応してたけど」

 

「最近覚醒したなんて真っ赤なウソ。当の昔に、イセカイに出入りしていたってコトだ。わざわざこんなウソを吐いて接触してきたんだ。何かあるだろ、こりゃ」

 

 

 雪雫の曖昧な情報提供では黒とは断言出来ない。だが怪しいのは確実。

 

 必要がある。明智に悟られず、裏を探れる方法が。

 

 

「………私が探る。明智に協力する振りして、近づく」

 

「…出来るのか?」

 

「少なくとも、他の皆よりは持ってる情報が多い。でも、それを今伝えても、きっと混乱するだけ。情報の開示はその都度、最低限に。共有人数も絞る。明智視点で何も知らないありのままの怪盗団を見せ続けて。自分の意図通りに物事が進んでいる、と錯覚させよう」

 

 

 

 

 

「そこから雪雫のスパイ活動の始まり。当時知っていたのは蓮、モルガナ、双葉、そして私」

 

「真、わりとポンコツだから本来は伝えるつもりは無かった。でも、自分で違和感に気付いちゃって…」

 

 

 はぁ。と深い溜息を零す雪雫。

 

 10月末に自宅で何か隠しているだろ。と詰め寄られたあの時の事を思い出しているのだろう。

 

 

「アンタね……。人の気も知らないで……。本気で心配したんだから」

 

 

 狙い通り、明智の懐に潜り込めた雪雫。

 専らの役目は怪盗団の内情を逐一報告すること。明智自身を疑ってないか、なにか不穏な動きが無いか。

 

 

「しかーし。明智のやつ、肝心な情報は一切ポロリしなかった。雪雫も必要以上に組織の枠組みに近づけず、あくまでも情報筋として利用するだけ。無駄にその辺のリテラシーはあったんだよな~」

 

 

 だから、とニヤリと双葉は微笑む。

 

 

「第二の情報源としてアプリを埋め込んでやった。盗聴、そして位置情報の特定するやつ」

 

 

 内心ドキドキだったけどな。と当時の事を思い出す。

 「欲しかった機種ー!!」と明智のスマホを強奪したあの時。

 

 

「だが電話の内容の大体は雪雫へのキモイ嫌がらせ電話くらい。粘りに粘って、結局」

 

「ライブ戻って来てすぐ、明智に呼び出された」

 

 

 

 

 

 

 11月7日 月曜日 晴れ

 

 吉祥寺 ダーツバー「PENGUIN SNIPER」

 

 

 

「哀れむ必要なんて無いよ。───最後に笑うのは僕だから、ね」

 

「…その最後の勝者(笑者)さんは、予告当日の動きについてはどうお考えで?」

 

 

 予告状は期限としている強制捜査のギリギリに。

 新島冴はリアリストで、怪盗団を悪と考えているのなら、狙われる準備が…覚悟が備わっている。その為、手前に出しても想定内とオタカラが現れないかもしれない。

  

 ……というのは表向きの建前。

 実際は怪盗団を現行犯で捕まえる為に特捜部のスケジュールを抑える必要があるだけだ。

 

 

「パレスに制圧部隊を送り込む。ほら、ナビの範囲内に居ればある程度まとめて入れるだろ?」

 

「そうね」

 

 

 イセカイナビ自体はただのアプリだ。所有者が限られているだけであって、イセカイに入る事自体に特に資格はいらない。

 雪雫自身、八十稲羽でそれは実証済みだ。

 

 

「冴さんのシャドウを倒し、油断したところで警察を突入させる」

 

「シャドウに妨害されたら?」

 

「冴さんの認知的に敵は怪盗団であって警察では無い。パレスの主がそう認知している以上、そこに住まうシャドウにも同様の認知は働く」

 

「でもただの人間に捕まえられる?」

 

 

 そこで君の出番だよ。と明智は指差す。

 

 

「部隊が到着するまで、足止めしてくれないかな。何、ほんのちょっと消耗させてくれればいい。捕まえてしまえばこれで終わり。後は()()()()()()()。君達は後にショッキングなニュースを聞き、一生僕らの影に怯えて暮らす…素敵だろ?」

 

「…………パレス自体はどうする?」

 

「彼を捕まえるまで存在してくれればどちらでもいい。冴さんを改心させるかどうかは任せるよ」

 

 

 あ、でも。と笑みを浮かべる明智。

 

 

「個人的には残っててほしいかな。ほら、冴さんをこちら側に引き込めるかもしれないだろ?」

 

「……………」

 

 

 パレスが残る、即ち強い欲望が残ると言う事。欲望を持つ人間は扱いやすい、と明智は言う。

 

 

「───分かった。でも、警察の到着待てるかな」

 

「どういう意味だい?」

 

「──勢い余って私が倒しちゃうかも」

 

 

 

 

「明智の息が掛かった警察は信用出来無い。最悪、抵抗する怪盗団リーダーをやむを得ず射殺…なんてケースも考えられた。だから、私自ら、蓮を引き渡した」

 

「結構痛かった*1

 

「本気でやらなきゃソレっぽくないでしょ?」

 

 

 うわ…と若干ドン引きの視線が雪雫に注がれる。

 考えたくも無い、いつもシャドウに向けられる切っ先が自分に向くなど。それが怪盗団の総意だと各々の表情が訴えていた。

 

 

「けどあの時は本当に焦ったよね……。まさかリーダーが捕まっちゃうなんて!……って」

 

「敵を騙すならまず味方から…とは言うが、いざやられてみると気が気じゃなかったな」

 

 

 うんうん。と頷くみんなに、バツが悪そうにあはは…。と乾いた笑いを真は浮かべる。

 

 

「わざわざ捕まって貰ったのは知っての通り。怪盗団と影時間の関与を匂わせる事、そしてお姉ちゃんを警察組織から引き剥がすこと」

 

「危うく明智君…いいえ、明智の企み通り、何も知らないまま犯罪に加担する所だった…。それどころか、組織の中へ絡め込もうとしていた……。末恐ろしいわ………。あの時の私なら、きっと気付かなかったでしょうね」

 

 

 自身を抱え、手で擦る素振りを見せる冴。

 冷静に努めているようにみえるが、思わず背筋がゾッとした。そんな様子だ。

 

 

「それら二つの要素を一度に満たす必要があって、捕まって貰った。真から聞いた冴さんをプロファイリングして、絶対取り調べに来ると確信してたから」

 

「だーが! この作戦も完璧ではなーい。不安要素が一つ……言うまでも無いな、明智だ」

 

 

 唯一、敵側でのペルソナ使い。影時間に対する適正を後天的に持つ者。

 

 

「だから私はアイツの対策のために徹夜をするハメに……」

 

 

 思い出しただけでも眠い。と雪雫は欠伸を一つ。

 

 

「雪雫には警視庁の屋上で待ってもらっていた。真のねーちゃんが取り調べを始めた後で、明智が来るのを。幸い、私のアプリで位置情報は分かるから、な!」

 

「明智が到着したら後はアリス……嗚呼、私のペルソナ…の出番。明智の影に潜って、付いていった」

 

「その後が正直私も理解してないんだよね……」

 

 

 杏が口を萎めて呟いた。

 当日は何も知らなかったメンバーも、真や双葉からは粗方内容は聞いていた。しかし、影時間という今までに無かった概念の登場に、すっかり思考が止まってしまった様だ。

 

 

「どうやって明智をパレスに閉じ込めたんだっけ?」

 

 

 端的に言えば、雪雫は影時間を利用して明智をパレスに閉じ込めた。

 

 

「大前提として、パレスの出入りはイセカイナビを介する。これが使えなければイセカイから入る事も、出る事も出来ない。ここまで良い?」

 

「うん」

 

「またそのナビを使って入れるパレス。そこには主の認知が大きく反映される。それは本人の歪んだ認識のみならず、正しい認識も。例えば双葉のパレスのピラミッド。外は灼熱だけど、内部は涼しかった。ピラミッドは双葉の部屋が認知で歪んだ姿。あの時は夏だったから、双葉の部屋には冷房が付いていた。だからピラミッドも涼しい。逆に部屋の外はヒートアイランド状態だから、ピラミッドの外は暑い」

 

 

 要するにその人が居る環境次第でパレス内部が変化する。

 そう雪雫は付け加えた。

 

 

「嗚呼、なるほど」

 

 

 ここでコーヒーを静かに嗜んでいた美鶴が感嘆の声を上げた。

 流石はこの中で一番影時間に向き合ってきた女傑、先輩としてのアドバンテージを存分に発揮する。

 

 

「影時間も同様…と言う事か」

 

 

 過去10年に渡って存在した影時間。

 通常の人間は認識出来無い…が、体感していないだけで体験はしている。意識は無い。無意識下で棺型のオブジェクトとなっていた。確かに影時間に存在していたのだ。

 

 

「つまり本能的に…ううん、集合無意識下では影時間を覚えている。だって現実に、毎晩起きていた現象なんだもの」

 

「だからパレスにも影時間が訪れる……。そして影時間内では通常の機械は動かない」

 

「幸い、冴さんのパレスはカジノ以外は正常。つまり警視庁内部は現実の姿と寸分狂いが無い。後ろでこっそり私がナビを起動しても、明智は気付かない。あとは簡単。何も知らずに特別房に向かう明智を放って、私だけ現実に帰る。そしてそのまま影時間を発生させる」

 

 

 これで異界の牢獄か完成。

 パレス内部で異変に気付いたとて、スマホが使えなければナビも使えない。現実への帰還は叶わない。

 

 

「なるほど。君が仕事の話をしてきた時、どうするつもりかと思ったが、こんな手法で…」

 

 

シャドウワーカー(貴方達)にとってのたんこぶ。怪盗団(私達)が切除してあげる】

 

 

 おおよそ、一月前。

 アイギスとの摸擬戦を終えた少女が放った言葉を思い出す。

 その時からすでに表舞台にシャドウワーカーを引っ張り出すのは彼女の中で確定していた様だ。

 

 そして恐らく、その手法を思い付いたのがこの間……影部屋を使っていた時だろう。

 

 

(装置を盗んだのもその時か)

 

 

 だとしたら随分手癖が悪……いや、観察している。

 滞在時間は長くは無かった。しかも大部分を影部屋内で過ごしていた筈だ。戦闘しながら影時間を利用したギミックを考え、施設内の何処にこの手の機械を保管しているか。思考を張り巡らせていたという事になる。

 

 1人で可能なのか、そんなことが。

 

 

(……いや、協力者の可能性も)

 

 

 例えば芳澤かすみ…………。

 いや、止そう。強引だったとは言え、こうして実際に邪魔者は排除され、捜査権限を得られたのだ。

 

 

「これで準備は完了。まんまと明智はパレスに拘束。その間に蓮と…お姉ちゃんを連れ出せた」

 

「そしてチョーカッケー秘密組織が味方に付いた……って訳だ!!!!」

 

 

 双葉は興奮気味で惣治郎に語る。……この中で一番ポカンとした表情を浮かべていたから。分かってねーだろ、コイツ。そんな感じで。

 

 

「……おじさん、付いていけねぇや…」

 

「惣治郎!!!!!」

 

 

 上手くいったから良かったけど……。

 ようやく肩の荷が下りた。と真は項垂れる。

 

 

「実際、苦労したわ。特に雪雫。雪雫の能力ありきの作戦だったから、もう練習に次ぐ練習」

 

「あ、だから急に魔力? 影? の使い方が上手くなったんだ!」

 

「雪雫が現実でペルソナが使える! は実際、真しか知らなかったんだよね」

 

「明智に悟られる訳にもいかなかったからね……。ホント暴露された時は頭が混乱したわ」

 

 

 

 

 

 10月28日 金曜日 晴れ

 

 雪雫の自宅 リビング

 

 

「そ、そんな事、出来る訳────」

 

 

 人の記憶を弄る…なんて事出来る筈が無い。ペルソナを行使する事によって、確かに忘却状態には出来るが、あくまでも一時的なものだ。

 

 しかし、雪雫は間髪入れずに「出来るよ」と口にした。

 その顔に嘘は見られない。

 

 

「私をなんだと思ってるの?」

 

 

 死んで蘇った、化け物だよ?

 底冷えする様な甘い声が、耳を打った。

 

 

 黄金の瞳が私を覗く。

 お互いの唇が触れてしまいそうなくらい接近して、艶やかな白い髪が垂れて私の頬を撫でた。

 

 

 そっと、白い手が私の頭に添えられる。

 味わう様に、嬲る様に、髪を掻き分けて。

 

 

「ぃ……いや……っ!」

 

 

 そして指先に魔力が溜まっていくのを感じて──。

 

 

「ふっ」

 

 

 雪雫は笑った。

 

 

「じょーだん。そこまでは出来無いよ」

 

 

 私の上に乗っていた雪雫は身体を起こして、いつの間にか全身を縛っていた影の触手も消え失せていた。

 何が何だか分からない。

 そんな顔で見つめていると、ごめんね。と私の涙を拭う。

 

 

「真への隠し事が2つ。1つは今見せた通り、アリスに限り私は現実で力を使える。そして2つ。明智は真っ黒。私はその動向を探ろうとスパイ中」

 

「…へ? ……え?」

 

「スパイなんか出来るのかって、言われると思った。から、ちょっと演技してみた。どう、上手かったでしょう。それに安心して。だって私さっき見せた通り、現実でも強いから」

 

「わ……、わたし………」

 

 

 うん。と雪雫が覗き込む。何時もの紅い眼で、慈悲深く。

 

 

「ほ、本気で……どうにか、なっちゃったんじゃないか……って…」

 

「うん。ごめん。変わらない。何も変わらない、から」

 

 

 わなわなと力無く座り込んだ私を、優しく抱きしめて、背中を擦る。

 ひんやりとしている手が、逆に妙に心地よく、私も抱きしめ返す。

 

 

「自分がおかしい、って。薄々思ってた。他の人と違う。でも蓋を開けて見たら、それが私にとっての普通。最初から、異常だった。でも悲観はしない。かといって高揚も無い。だってそれが私。でも真には知って欲しい」

 

 

 だって。と雪雫は続ける。

 

 

怪盗団(みんな)の中で一番真が理解してくれる。()()らしく、きっと扱ってくれる。────手綱を握ってみせて」

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ」

 

 

 マスターの淹れたコーヒーの水面に、自身の顔が映る。

 眉は下がり、口元は必至に不安を吐露しない様に結ばれ、瞳には困惑が浮かんでいる。

 

 彼のコーヒーはほろ苦く、丁度良い。

 

 

「……本当に、苦労したわ」

 

 

 私は溜息を再び吐いて、少女の独白と共に吞み干した。

*1
本当に気絶していた




最初の明智の台詞は夜〇月リスペクトです。似てるし
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