PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
滅茶苦茶間違えるので助かります!
「さて、お互い粗方の認識は揃ったな? なら、これからに目を向けようぜ」
モルガナの言葉に全員が頷きを返す*1。
これまでの経緯は話した通り。真に大事なのは今後のこと。
「今回の件で明智とはキッパリ敵対。晴れて私達vs明智を擁する悪人一派…ってなった訳だけど」
「結局、明智の裏に居る悪人…については掴めなかったのよね………」
表向きには協力者であった雪雫の前ですら、個人を特定するようなそれらしい情報を明智は零さなかった。
警察を好きに動かせる権力を持ち、奥村をはじめとして、各業界にも共犯者が居る。結局、これに関しては明智に近づかなくても知り得た情報。雪雫にとってすればこの点は骨折り損のくたびれ儲けだ。
「あ~~。その件なんだが」
得意気に笑みを浮かべた双葉に視線が集まる。
いつものしてやったり顔。だがこれにどれだけ怪盗団が助けられてきた事か。頼もしいことこの上ない表情。
「雪雫に嵌められて焦ったのか、アイツとうとうポロったんだよな~。今朝、電話で」
ぽちりと。双葉が音声ファイルを再生すれば、焦燥に駆られた明智の声が流れた。電話先の相手を「シドウさん」と呼んでいる。
「…シドウ……?」
誰だっけ、ソレ……。杏の言葉に全員が唸る。何処かで聞いた事ある様な、無い様な。怪盗と学生の二重生活に埋もれた記憶を掘り起こす。
「シドウ……獅童正義? 政治家の…」
ふと、雪雫が口にした名前。
以前に渋谷の駅前で、演説していた公明正大、清廉潔白が売りの若手政治家。
【大丈夫。
【ハハハ、
明智の言葉が脳内でリフレインする。
「以前に彼の演説の前を通りかかってきた時、明智から電話が来た。たまたま近くに居る……って。その時はてっきり監視しているアピールだと思った、けど…」
「本当にたまたま近くに居たということか……? ジブンがシドウとやらの使い走りだから……?」
「なるほど。獅童ね……」
冴が納得。と言った声音で呟く。
「証拠か何かでもあるの? お姉ちゃん」
「…物証は無いわ。ただ、色々な条件に合致する。まず、精神暴走事件や官僚の不祥事で
現政権がダメージを受ければ得をする。怪盗団に対しても批判的な態度を貫いて、選挙を目前に大衆から絶大な人気を得たしね」
確かに。と春は納得の声を零す。
【獅童内閣誕生か】【政界の風雲児】などのでかでかとした新聞の見出しを思い出したのだ。
そしてそれも丁度、怪盗団批判が強まり、明智の人気が回復し始めたころ。
「それに、この選挙後で勝てば、たぶん総理になることが確実」
「そんな……」
「選挙を狙いすまして、俺らを嵌めたのか?」
「もし本当に黒幕なら、清廉なパブリックイメージとは正反対ね」
つまり明智と同様に、今の地位や人気は廃人化の恩恵に過ぎず、大衆の認知は狂わされている。
「……はぁ…」
着々と強まる獅童の影に、静観していたマスターが深い溜息と共に獅童か。と言葉を漏らす。
まるで旧知の仲のような、薄々勘付いていたような。そんな雰囲気だ。
「どうしました?」
「アイツが関わっている気配は、薄々感じちゃいた。前の仕事のツテでな」
「なっ!」
「若葉の研究を潰して資料を押収したのは、たぶん獅童だ。いや…そもそも若葉が死んだのからして獅童が絡んでる。俺はそう踏んでた。けど、俺は何も出来なかった。双葉を守ることを選んで、身を隠した」
突然繋がる点と点。
なるほど、と蓮は思った。確かに一色若葉の認知訶学の研究を知っていたなら、この様な手口も思いつく筈。
「…惣治郎……それ早く言えよ~~!!」
「言ったら、お前ら、絶対に向かって行っただろ! 返り打ちに遭うに決まっている。邪魔者は殺して当たり前…そんなヤツだ」
惣治郎曰く、獅童は昔から『総理になる』と周りに言っていたらしい。最も、ほら吹きだと誰も信じず、相手にしなかったらしい、が。
そんなヤツが今、総理の椅子に手を掛けようとしている。
「そんなヤツが総理になったら、この国も、世界も…どうなっちゃうの……?」
「それ以前の問題だ。信念もない自分勝手で欲に塗れた大人が、大衆の頂点に立とうとしている」
とうとう判明した黒幕。次期総理候補という、大物過ぎるターゲット。そして長年続く因縁。不安と困惑の空気に呑まれそうになっていた一同。
しかし、竜司の言葉がそれを吹き飛ばす。
「そんな腐ったヤツ! 化けの皮剥がしてやりゃいいんだよ!!」
「リュウジの言う通り! いつも通りにな!」
そう、そうだ。相手が誰であろうと変わらない。
ターゲットを特定して改心。欲望を盗み、己の罪を自白させ、法で裁けない悪を断罪する。それが怪盗団。
一同の顔に逆転の兆しが、希望の光が宿る。
「さっそくナビで確認しましょう!」
獅童正義。
そう、ナビに名を入れれば、従来の悪人同様、パレスの存在を知らせる通知が響く。
来たぁ!と声を上げる竜司、ターゲットが確定し、覚悟を決める一同。
そんな光景を眺め、美鶴は自身のスマホを取り出し、電話を掛ける。
怪盗団には怪盗団の。シャドウワーカーにはシャドウワーカーの。戦うべきフィールドがあるのだ。
「……明彦、私だ。待たせてすまない。……ああ、決まりだ。ターゲットは獅童正義。……なに? ソイツは格闘家かなにかか…だと……? ……明彦…お前ってやつは………。獅童は政治家だ。政治家の獅童正義。いいな。獅童周辺のマーク、そして彼ら…怪盗団の周辺人物の警備の手配を」
全く、筋肉バカが。と呟く美鶴を見て、雪雫の脳内に
『シドウマサヨシ……強そうな名だ!』
と良い笑顔を浮かべる裸マントの姿が浮かぶ。
「君らの家族、友人の護衛は我々シャドウワーカー、及び桐条グループが受け持つ。国家中枢に潜む巨悪が相手だ。後方の憂いは断ち切ろう」
「ん。その為に美鶴を巻き込んだのもある」
警察の首根っこはシャドウワーカーが抑えているとは言え、獅童一派の全貌も未だ見えていない。だが獅童が出来るのは精々、現実世界での妨害、脅しくらいの筈。仮に自分の力で廃人化を起こせるなら、明智を手駒には使わない。
「と、すれば後は明智の対応……だが」
「それなら心配には及ばない。いずれ向こうから接触があると思う」
盗聴・位置情報の傍受ついでにもう一つ仕掛けてやった。と双葉は再びニヤリと笑う。
「私達の許可無く、明智はもうイセカイナビを使えん」
▼
カチャリ。
後頭部に押し付けられた冷たい感触に、雪雫は溜息を零した。
視線をやらなくても誰かなんて聞くまでも無く、何も言わぬまま両手を上へと挙げる。
「全く…僕を出し抜くとは恐れ入った。甘く見ていたよ」
場所は渋谷センター街の外れの裏路地。
大胆にも明智吾郎は剥き出しの銃口を雪雫へと突きつけている。
「腹いせに殺すつもり?」
そう言う雪雫は至って冷静だ。銃口を向けられているのにも関わらず、異常ほど、平時と変わらない。それがこの少女の強みだ、と皆は言うかもしれない。
だがしかし、明智にとってそうは見えない。この僅かに向けられる瞳は、この光の無い双眸は、生に執着が無い人形のソレだ。
「……まさか。こんな場所で殺ったら、迷惑だろう。清掃員にさ」
銃口が僅かに緩まる。
雪雫は改めて身体を反転させ、明智を見た。口調は穏やか、だがその瞳の奥の敵意、殺意…そして怒り。が煮え滾っている。
「でも」
再度、明智は銃を構える。今度は雪雫を真正面に捉えて、形の良い額に跡が残るくらいに押し付ける。
「イセカイでなら話は別だ」
煮え滾った感情をぶつける様に。
・
・
・
ナビを起動してメメントスに入れば、そこは丁度エリアの最奥だった。
たまたまあの場所がそれに該当したのか。それともこれから起こる事を予見して、大衆の心理が用意させたのか。どちらかは定かではない。
だが確実に分かるのは、明智は決着を望んでおり。そしてまた、雪雫も関係の清算を望んでいる。
「ハハ。参ったよ。腹いせに一人一人殺してやろうと思ったらさ。ナビが使えないんだから」
「双葉は言ってた。イセカイに行けると言えど、その実体はただのアプリ。スマホの機能側からロックするのは容易い───」
「仕組みの話じゃなくて、さぁ。───俺から夢を奪うなよ」
白い残像が疾走する。
苛立ちを荒々しく力に変換して。
(───早い)
ニイジマパレスで見せていた正確で慎重な一面など最早見る影すらない。今の明智は力任せに、しかし以前よりも素早く、攻撃的に、雪雫に迫る。
眼前に迫るサーベルの切っ先。当たれば即死。そういう軌道だ。だが、避ける事は容易い。ステップを刻んで横に一歩動けば、明智のサーベルは空を切る。
「舐めるなぁ!」
開いていたもう片方の手で、軌道の先の雪雫の頭を掴み、放り投げる。明智の力が強いのか、それとも雪雫が軽いのか、勢いそのままホームの場外へ。
荒々しい、暴力的な戦法だ。恐らくそれが彼の本性なのだろう。放り投げられた空中で受け身を取りながら、そんな事を考える。
「ロビンフッド!」
明智の猛攻は止まらない。ホームの場外…線路の上で滞空する雪雫に向け、ペルソナ・ロビンフッドが弦を弾く。祝福属性を纏った、自動追尾型の矢。
無数の光が、眼前に迫り、そして──。
「ジャンヌ・ダルク!」
聖女の光が狩人の光を焼き切る。
暗いメメントスの内部で、その全てを照らすような、影さえ出来ない程の光量。
「ああ、だよな…。そうするよな!」
明智は笑う。赤い仮面の奥の、血走った目を覗かせて。
「ほら、ホームから飛び出したら危ないよ?」
「!!」
打って変わっていつもの──高校生探偵の明智の声。彼の声に促されるまま、右の方向に視線を向ければ、猛スピードで突っ込んでくる電車。メメントスの入り組んだ毛細血管のような線路を、シャドウを乗せて走っている鉄の箱が、目の前に。
(───っ)
誘導された。と内心で舌を打つ。ロビンフッドの攻撃は囮。真の狙いはジャンヌの顕現。お陰様で周りには影が無い。回避が、間に合わない。
「でも甘い」
途端、鉄が拉げる音が響く。列車はまるで己よりも強度が高いモノに当たったかの様に、先頭車両が潰れ、その余波で後方車両は波打ち、宙を舞う。
「やるね」
そんな光景を眺めていれば、途端に飛んでくる列車の車両。まるで飛び道具の様に列車の車両が明智目掛けて飛来する。
「鎌で衝突の衝撃を全て反射し、そのままアリスで作った影の触手が投擲してる……ってところかな」
巨大な弾丸をまるで軽業師の様に避けながら、明智は冷静に状況を分析する。
いやはや、やはり厄介だ。と明智は考える。雨宮蓮とはまた違った手数の多さ。彼は切れる手札が多い。これに尽きる。
───だが、彼女は。
「随分と───」
三投目の車両は避けるまでも無かった。一人でに目の前で細切れになったからだ。
しかし、その代わり、列車を隠れ蓑に急接近した少女。そんな黒い魔女が、鈍重な切っ先をこちらに向け。
「悪知恵が働くなぁ!」
首に掛かる寸前でサーベルを差し込んで受け止めた。
「君にはつくづく驚かされる。まさかただの少女に、そんな力があるなんて」
鍔迫り合い、そして弾く。弾かれればまた別角度から、攻める。それの繰り返し。刃と刃がテンポ良く、まるで楽譜をなぞる様に鳴り響く。
「だから分からない。何故、奴らに付き従う……。なぜそんな力を持ちながら、何故お前は自由なんだ!!」
銃を向けられる。お互いの得物が弾かれ、前方が無防備になった合間を縫うように。だが雪雫はそれも分かっていたと言わんばかりに、放たれた弾丸を避ける。銃は素直だ。向いている方向に対して、寸分の狂いも無く、飛ぶ。ここメメントスにおいて、風を始めとした外部的要因は存在しない。なら、事前にその軌道を予測するのは容易い。
「僕は復讐のために生きている…。あの男…父に…獅童正義に復讐する為に! その為の力…その為のペルソナだ! 何が、正義だ。何が義賊だ。そんな綺麗ごとを並べたごっこ遊び……」
虫唾が走るんだよ!!!!
「ぐっ……!」
明智の蹴りが、鳩尾に入る。メキメキとあばらが軋み、肺から空気が押し出される。痛みで途切れそうになる思考を何とか繋ぎ止め、雪雫は後方へと距離を取る。
「…けほっ…!…けほっ………はっ…!」
この戦闘での初めての露骨なヒット。
さっきまで明智はサーベルで攻撃していた。その敵意や殺意の類も、サーベルに乗せていた。そう雪雫は感じ取っていた。攻撃するぞという意志が感じ取れれば、事前情報として十分。頭で考え、その思考をタイムラグ無く反映させる。それで対策としては終わる。
しかし、今の蹴りは、明智の無意識下…感情の昂りで咄嗟に出た攻撃。本能による暴走、獣性に塗れた攻撃は、雪雫が最も不得意とする攻撃。
「俺の母親は獅童の愛人……。つまり隠し子で…存在自体が醜聞で! 母も俺が生まれたせいで死んだ! 生まれる事を望まれなかった子ども…それが俺!」
「…………」
「恨んだよ。ああ、大いに恨んださ…! だけどその時はもうやつは与党の都議様で、子どもの俺にはどうする事も出来なかった……。けどさ、知っちまったんだよ。その時に、認知の世界ってやつをさ!! 神様だか悪魔だかが、チャンスをくれたんだ…! 笑いが止まらなかったねぇ!」
「それで、やったことはただの殺し? 復讐する筈の獅童の言いなりになってまで」
「それがどうしたっ!!! それで手が届くんだ…やっと手が届くんだよ! 獅童正義に……! アイツが権力の頂点を極め、俺を必要な右腕だと認識させたその時、耳元で囁いてやるんだ。俺が誰なのかをな! その時初めて、存在自体が醜聞だった俺が、ヤツを支配する! ヤツを越えるんだ!!!」
「───なるほど」
けほっ。口元から漏れ出た血を拭いながら、雪雫の紅い双眸が細められる。
「つまり只の駄々って事ね」
「…なに……?」
「捨てられた僕を見て。パパが不要と言って捨てた僕を、僕を必要だと思って──。捨て犬が尻尾振っているだけじゃない」
言葉を遮るかの様に、これ以上聞きたくないと泣き喚く子どもの様に。乾いた音が雪雫の声を上書きする。
明智から乱暴に放たれた銃弾。それは雪雫の頬を翳め、陶器のような肌に一筋の傷を作る。
「結局、貴方は空虚でしかない。その与えられた命も、今の地位も、その復讐心も。獅童に与えられたもの。獅童によって満たされている」
「……黙れ…」
「そんな彼を殺す? 笑える。それじゃあ回りくどいだけのただの自殺。死にたがりの子どもの我儘に、巻き込まないで貰いたいわ」
「黙れ!! 君だって…お前だってそうだろう!!」
よろよろと怪しく揺れる身体。血走った瞳と共に、指を向けて明智は言う。
「知っているぞ。お前の眼。何にも執着の無い眼! お前には自分が無い…。望まれた事を望まれた通りにする…ただの機械! 傀儡ぅ!!」
雪雫の脳裏に過去の自分がフラッシュバッグする。
【ん。皆が、望んでいたから*2】
【……私は…。私は貴方達の力になりたい*3】
「特別な力を持ちながら…! その実体は虚構!! 他人に望まれた通り、力を振るうだけ!! 俺と何が変わらない!? 何故、お前は…俺の前に立っている!?」
確かに空っぽかもしれない。
自分自身で何かしたい。と言った事はあまりなかったと思う。歌手活動だってりせがその業界に居るから。怪盗団だって真の存在による所が大きい。
望まれたことを望まれた通りに。
嗚呼、なんて甘美で、心を満たしてくれる言葉なのだろう───。
でも。
「───私は相手を選べる」
空虚の身体を満たす願いは私が選ぶ。私という器に注ぐ者を私は剪定出来る。
心は軽やかだ。私に必要としている人が居るっていう安堵が、私に羽根を授けてくれる。
「貴方は選べない。貴方は地に雁字搦め。私は貴方の
今一度、天へと飛び立とう。
自由に、優雅に。私はその為の羽根を持つのだから。
「ああ……ああああああああああ!! ムカつくなぁ…!」
ふと、明智を中心に暴風が起こる。どす黒いオーラが、彼を包み、その姿を変えていく。
「相手を選べるだぁ…!? 黙れよ! それはお前が恵まれているからだ! 勝者の言い分だ!! 俺には最初から何もない…!
白い怪盗服は一変。黒く禍々しいスーツへと変貌を遂げた。赤かった仮面は黒く染まり、彼の背後には白と黒のペルソナ。二色が禍々しく要り混ざったが、突き立てた剣の上でペルソナが鎮座している。
「じゃあ何故アイツは持っている!? 同じく社会に捨てられた……前歴持ち屋根裏部屋のゴミに…何故お前は!! アイツらは!!!!」
今までとはまるで違う。さっきまでの明智が可愛らしく思えてくるような…、そんな圧倒的な気迫。
「…もう、どうでもいいやぁ…! ハハっ! 獅童も…あいつらも…全員ぶっ殺してやる……。そしてぇ!!! まずはお前からだ! 天城雪雫ァァァァァァァァ!!」
実は初期構想の段階から雪雫さんにはイメージソング3つありまして。
それを聴きながら書いていたのです。
徐々にこの辺りを回収していきたい所存であります。
全部分かったら凄い。
たぶん分からないと思う