PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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128:The beast hunting.

 

 

 裕福な家庭で蝶よ花よと育てられた温室育ちのお嬢様。

 

 それが彼女の第一印象だ。

 

 

 生まれながらの勝者。

 生まれながらの勝ち組。

 

 老舗旅館「天城屋」の次女として生を受け、十分な社会的ステータスを持ちながらも、アーティストの世界に足を突っ込み…大成した少女。

 女子高生ながら都内の一等地のマンションに住み、現役アイドルの幼馴染と暮らす。

 絵に描いたような生活。物語の主人公のようで、余りにも理想的過ぎて寧ろ陳腐でありきたりな……そんな順風満帆な彼女。

 

 昔は病床に伏せていたとか、一度死にかけたとか。そんなことはどうでもいい。

 結局は生きろと()()()()()。祝福の中で育った彼女だ。

 

 

 だから彼女がペルソナに目覚めたとき。怪盗団の一員として活動を始めとき………俺は困惑した。

 やつらは全員が社会、コミュニティから切り離された雑魚ども。お互いの傷を舐めあっているだけの存在。それに何故、勝ち組のアイツが……と。

 

 

 しかし、その疑問も次第に解消される事となる。

 

 眼だ。あの真紅の眼。

 自我が薄く、確固たる信念も無い。ただただ周りに流されるのが常。

 

 彼女は賢く、視野も広い。大局を理解し、先を見据えて動ける。そして人の気持ちにも機敏ときたもんだ。それは生まれ持っての才能だ。彼女の存在は正に天に祝福されている。天は二物どころか、それ以上のモノを与えている。優秀だ、理想的な優等生と言っても良い。

 

 だからこそ、彼女の本質は空虚だ。

 全てを見通せるなら正解が分かる。正解が分かるなら、無意識にそれを選ぶ。相手が欲する言葉を発し、相手が求める行動を取る。

 それは無意識による他者意識への隷属……操り人形と変わりない。

 

 

───俺と何が違う。

 

 

 次第にそう思う様になった。

 共通点を探せば探すほど、そう思うようになった。

 

 ペルソナだってそうだ。光と闇のペルソナ。ロビンフッドとジャンヌ・ダルク。ロキとアリス。ペルソナとは心の写し絵。つまり2つ存在すると言う事は、彼女も少なからず二面性を秘めているという事。

 

 生まれが違う。環境が違う。俺と彼女ではバックボーンが違う。

 

 でも、確かに同一なんだ。

 片や恵まれないが故に満たされない者。片や恵まれたゆえに満たされない者。行きつく先は同じ場所。

 

 俺は初めて安堵した。

 雨宮蓮(アイツ)とはまた違う、真の意味での理解者。

 

 

【私はそっち側に付く】

 

 

 来た、と思った。

 

 

 俺が作り上げた状況が、対局が。彼女の正解を歪ませた。雨宮蓮では無く、俺を選ばせた!

 

 

───と思っていたのに。

 

 

【「───私は相手を選べる」】

 

 

 ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!

 

 この後に及んで否定するな!!

 俺を、孤独にするな!!!!!!

 

 

「ロキぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

「!」

 

 

 

 剣の上に鎮座していた白黒の禍々しいペルソナが、剣を時計の針の様に回転させる。肌に突き刺さる明智の殺意に、雪雫は身構える…。が、一向に攻撃が飛んでくる気配はない。

 その代わり。

 

 

『───────!』

 

 

 最早言葉ですらない雄叫び、絶叫。後方へ視線を向ければ、2体のシャドウ……魔槍を携えた人型のシャドウと、尻尾が蛇の犬のようなシャドウ。ジョーカーが召喚していたのを見た事がある。雪雫は必至に思考を巡らせる。そう、確か……クーフーリンとケルベロス。

 

 

(電車の中から……)

 

 

 先程脱線させた電車の車両……。そのドアが開いている事に気付く。なるほど。あの電車はやっぱりシャドウを乗せて───。

 

 

「ちっぽけな存在でも、心の枷が外れると、桁違いの力を得る事がある……。ほら、余所見すんなよ。死ぬぞ」

 

「……回りくどい!」

 

 

 クーフーリンが特攻する。魔槍を真っ直ぐに構え、胸を穿つ様に。以前に見た同じ見た目のシャドウよりも、鋭利で、素早い一突き。

 

 当然、受け止めた。

 鋭利な切っ先を、鎌の柄の中心で。雪雫の大鎌は常に魔力を帯びている。それは鉄をも切断し、列車の衝突を受け止めるほどに。当然、槍を受け止めるくらい訳はない。

 しかし、勢いは止まらない。徐々に足が後ろに下がる。拮抗している様に見えた力が、徐々にその均衡を崩していく。

 

 

「……くっ…!」

 

 

 圧し敗ける。そう予感が過ぎた時、既に次に取るべき行動は確定していた。

 ペルソナ─ジャンヌ・ダルクの顕現。聖女の光が魔槍の持ち主を焦がす。一瞬、魔槍の切っ先が緩む。切っ先に注がれた力が分散され、主導権が雪雫に移る。

 そうなってしまえば容易い。くるりと鎌を回せば槍は弾かれ、空中へ。残るは無防備なシャドウのみ。

 

 だが、敵は一体だけではない。

 

 カチっ。と音がした。

 それは獣が歯を打ち鳴らす音。ケルベロスだ。地獄の番犬は真っ直ぐに雪雫を睨み、歯を打ち鳴らす。まるでそれが合図かの様に。

 

 

(……っ)

 

 

 雪雫の周囲が熱を持っていく。火傷では済まない、あらゆる水分を蒸発させてしまうかのような高熱。

 何度目か分からない舌打ち、そして──大爆発。

 

 暗がりの地下に発生した大規模な火の手。遠巻きでそれを見ながら明智は雄弁に口を開く。

 

 

「これが俺だけの力……! 精神を、暴走させる力!」

 

 

 本来立ち打ち出来ない筈のシャドウが、天城雪雫にここまでやれた。

 その事実が、それを為した自分の力が、明智を興奮へと駆り立てる。

 

 しかし、それも長くは続かない。

 黒煙の中から、空を裂きながら出現した槍が、明智の横に居たケルベロスを討ち抜く。まるで凄腕の狩人の狩猟の一幕の様な、余りにも自然な出来事。

 

 

「…まぁこれで倒せるとは思ってないさ………。あくまでも僕の力のデモンストレーション…。だって! お前は俺の手でぶち殺すんだからよぉ!」

 

「そりゃよかった。……これでネタ切れなら、拍子抜け」

 

 

 遅れて現れた少女の姿。

 端々が焼き切れたコートの汚れをポンポンと払いながら、挑発する様に口角を上げる。

 

 

「……それを人間相手に…。しょうもない」

 

「良い子ちゃん振るのはやめろよ……。お前だって同じ力を持っていればそうした筈だ……!」

 

 

 む、と雪雫の眉が眉間に寄せられる。自分だったらどう使うか…なんて。思いつくのは一つ。りせの感情を昂らせて、とっとと既成事実を作る……とか。

 まぁ悪くないか。と雪雫はぼんやり考えた。

 

 でも。

 

 

「ん、でも殺しには使おうとは思わない」

 

 

 鎌の柄をコツンと地面に叩けば、雪雫の背後に現れる無数の煌めき。夜空の星々の様に現れた無数の輝きは、矢となり。

 

 

「マハコウガオン」

 

 

 一斉に明智に放たれる。

 

 

「目障りな光だ!」

 

 

 飛び交う矢の合間を縫い、ロキの剣と己の剣で叩き落とす。遅い。あまりにも遅い。真の力を解放した己にとって、こんなもの児戯にも等しい。

 だから───。

 

 

「もっとだ! こんなんじゃ足りねぇよ!!」

 

 

 もっと引き出せ! 取り繕った仮面を脱ぎ捨てて、その本性を!

 明智は慟哭する。本能に突き動かされるソレは、まさに獣の様。獣は望む、彼女も同様に獣へ堕ちろと。お高く留まった少女を───歪ませたい。

 

 ロキ、と呼べば二本角の悪神は応える。頭部から髪のような、触角のようなものを伸ばし、少女へ。

 

 

「随分、芸達者」

 

 

 うねうねと迫る触手を、一つ一つ鎌で撃ち落とす。そう撃ち落とす。切断出来ればどんなによかったか。かの禍々しいペルソナの硬度は少女の予想の上を行く。鎌をリズムよくバトンの様に回す。

 

 この程度の攻撃なら造作も無い。ペルソナを出さずとも、十分に対応可能。リズムを崩されなければなんてことはない。

 ──だから、次の攻撃は。

 

 

 足元に生じる違和感。僅かに見える呪力の奔流。同属性のペルソナを扱うからこそ分かる攻撃の予兆。 

 二点同時に迫る触角を撃ち落とし、飛ぶ。魔力によって強化された身体能力は、雪雫の軽い身体をいとも簡単に空へと導く。 

 

 

 2秒後に発生する、大規模な呪怨属性の魔法。

 

 

 空中で翻り、地下鉄特有の低い天井を足場に。足と接地面を影で縫い付けてしまえば彼女にとっては容易なこと。重力に従って垂れた前髪に鬱陶しそうに眉を顰めながら、ほんの数メートル先の地上の爆心地を見る。

 視認できるほどの赤黒い魔力が、今も尚地上を這いずり回り、そして収束していく。

 収束の先は、明智の手の中。

 

 雪雫は天井に潜り込む。より、正確に言えば、天井に出来た己の影に。

 程なくして、雪雫の居た天井に突き刺さる赤黒い大剣。先程の魔力の収束で形成された明智の剣。

 

 

「芸達者なのは────」

 

 

 地下鉄のホームの柱。それに垂れかかった明智の影から、不意を討つように明智の背後に雪雫は現れる。音も無く構えた刃は、確かに明智の首を──。

 

 

「──君の方だろう」

 

 

 ──捉える事は叶わず、逆に振り向いた明智に首を掴まれる形となった。

 

 

「…ぐっ…が……あぁ…ぅ」

 

 

 細首に明智の指が食い込む。気道が潰れ、脳に回る酸素が薄くなり、鮮明だった思考に靄がかかる。

 

 

「化かし合いで敵うとは思わない事だ」

 

 

 重さにして30幾ばくも無い少女の身体は、いとも簡単に宙に浮く。

 

 

「俺は本能で戦っているんだよ………!お高く留まったまま、勝てるとでも思ったか!?」

 

 

 苦痛に塗れた少女の嗚咽に塗れた声。明智の腕を振りほどこうと、空いた片手で彼の腕を引っ掻く様な素振りを見せる。が殆ど力は入っておらず、子猫のじゃれあいとも程遠い。

 それすらも楽しむ様に、明智は口元を歪める。

 

 

「出せよ……! 出せ! 醜い本性! 抑えきれぬ獣性!! いつまでも見下してんな……! 哀れみの眼を向けるな!」

 

 

 再び明智に渦巻く黒い力の奔流。剣に鎮座した悪神が、張り付いた様な笑顔を向けて明智に力を送っている。

 

 力が高まるにつれて、明智の締め付けが強くなる。

 少女の足先がピクリと苦しそうに悶えている。

 

 

「墜ちろ…堕ちろよ!」

 

 

 やがて明智を伝って、雪雫にも悪神・ロキの力は流れる。

 精神のリミッターを強制的に外す力。人の本能的な欲求を、増大させる明智の特別な能力。

 

 

「堕ちてこい! 天城雪雫ァァァァァァァァ!!!」

 

「がっ……! ぐぅ、うぅぅ……い、やぁ────」

 

 

 生理的に零れ出た涙が、明智の手に零れた。

 

 

 そして、カラン。と床に鎌が落ちる。

 

 

「………ははっ」

 

 

 驚くほどの静寂が辺りを包む。

 少女の四肢はだらんと力無く伸び、そして明智の手から離れ、地面に重い音を立てて、落ちた。

 

 

「はははははっ」

 

 

 よろよろと、少女を掴んでいた手を見ながら後退。

 視線の先には、力無く横たわった天城雪雫の姿。その元より白かった肌は、余計に青白く、そして冷たさを孕んでいる。

 

 

「……はっ…随分、呆気ない……………」

 

 

 明智の震える声だけが構内に響く。

 結局、天城雪雫は堕ちなかった。意地、と言っても良いだろう。その為に、彼女は死んだ。

 

 

「……僕の勝ちだ…。僕が、正しいんだ」

 

 

 つまらなそうに、呆れたように……そして何処と無く、寂しそうに。

 横たわる少女を一瞥して、背を向ける。

 

 あれだけ殺したかった。その気持ちだけで空虚な心は満たされていた。だけど今はどうだ。戦う前よりも空虚で、虚しい。

 

 

「………」

 

 

 思えば初めて………自分のこの手で。直接人間を殺した。銃ではない。この、自分の手で、だ。

 手の中にあった少女の感触が忘れられない。苦し紛れに放った最後の否定の言葉が、飛びそうになる意識で、変わらずこちらを見ていた紅い瞳が。

 

 

「くだらねぇ」

 

 

 そう吐き捨てて、明智は後を去ろうとする。

 嗚呼、くだらない。別にこれが最後では無い。残る怪盗団、シャドウワーカー、新島冴を始めとする検察警官公安………自分の正体を知る者はこれから殺し尽すんだ。そして最後に獅童正義を───。

 

 

「望まれた命? 確かに、そうかもね」

 

 

 背後から声がした。

 

 

「!!」

 

 

 あり得ないあり得ないあり得ないあり得ない!!

 

 ガバっと勢い良く振り返れば、そこに居たのはよろよろと幽鬼の様に立ち上がる魔女。黄金の双眸が、嘲笑と哀れみを含んだ色でこちらを覗いている。

 

 

「ば……バカな……。お前…いや、だって……。この手で殺した筈!!」

 

 

 指の形の痣が、その事実を如実に語る。

 

 

「? 死亡診断書でも、出されたの?」

 

 

 しかし、少女は嘲笑うかの様に、首を擦りながら疑問を浮かべる。

 

 

「……クソがっ! ロキ!!」

 

 

 ん。と一言手を挙げれば、顕現した聖女が向かってくる悪神を叩き潰す。もはや、名を呼ぶ必要も、指示を出す必要もない。だってペルソナは少女の影で、影は少女なのだから。

 

 

「なっ」

 

 

 強くなっている……ではない!

 寧ろ自分が弱くなっている!

 

 明智はそう結論付けた。

 

 天城雪雫を殺したと思い込んだ動揺か、精神暴走の末のガス欠。どちらかは定かではない。しかし、ペルソナは心の力。心が動揺すれば、戦う意志が薄まれば、弱くなるのは必然。

 

 

「表の顔とか、裏の顔とか。切り分けるから弱くなる。どっちも私でどっちもわたし。最初から自分は1人」

 

 

 コツコツとヒールを鳴らしながら、歩み寄る。軽やかで、でも強かな足取り。少女が歩を進める事に、聖女の力は増していく。

 それは地下の暗がりの流れで光を灯し、まるで少女を照らす後光の様で。次第に少女の頭上を中心に天輪が何重にもなって広がる。

 

 

「言った筈。天と地には、絶対的な乖離があるって」

 

  

 天輪は光を増し、複雑な幾何学模様を描き出す。最早意味などを考えるのが烏滸がましいほどの、複雑で、荘厳で、神秘的な。

 

 

「落光」

 

 

 フロア全体を覆いつくす、超特大魔法が、全てを飲み込み、祝福の光が焦がす。

 

 現状、雪雫が用いる最大の魔法。

 それを一身に受けた明智は、もはや言うまでも無いだろう。

 

 

「…はっ…は、……く、くそが!」

 

 

 ボロボロになった身体で地面に伏せ、苦し紛れに地を叩く。砕けてしまいそうなほど、歯を食いしばり、苦渋に満ちた目で天を仰ぐ。

 

 

「……まだやるの?」

 

 

 黄金の瞳は、冷たく、無機質。それが明智に底知れぬ恐怖を与え、足を竦ませる。

 

 

「……ば、化け物……がっ!!」

 

 

 それは一種の敗北宣言にも聞こえた。

 圧倒的な存在の前に、理性の無い獣が理性を得たような。

 

 そんな中、勝者は無感動な瞳で明智を見下ろす。

 

 

「……殺せよ…。ここで」

 

 

 観念したかの様に明智は言った。

 

 このまま捕まれば、今まで得た名声は崩れ、ただの連続殺人鬼として社会に裁かれる。

 ここを仮に切り返しても、どうせ獅童に足切りを喰らう。こんななりじゃ、まともに仕事も熟せないから。

 

 だから、そんな屈辱を受けるくらいなら死を選ぶ。

 

 そう明智は言っている、が。

 

 

「甘えない」

 

 

 どかっ。

 

 そんな明智を雪雫は容赦無く蹴った。それはもう、今までの色々な分を全部乗せで、思いっきり。

 普通の少女の軽い体重では、そこまでの威力は無い。ただこの少女、身体の使い方を熟知している分、どう力を籠めれば、最大効率で蹴りの重みを出せるかを知っている。

 

 だからこれには明智も堪えた。

 

 

「なっ……てめぇ…! 何して! ぐっ!」

 

 

 今度は鎌の柄の先で。明智のお腹を突く。

 

 

「死んで終わりは許さない。明智には、生き地獄が相応しい。地べた這いつくばって、泥だらけになって、それでも生きる。それ位の気概、見せて」

 

 

 1人で怪盗団を相手取ってたでしょ。

 そう少女は言う。

 

 

「これは取引。美鶴達に協力して、獅童一派の壊滅に尽くして。現実世界でシャドウワーカーと一緒に協力者の吊し上げ」

 

「………見返りは」

 

「怪盗団が獅童を潰す」

 

「……はっ。交渉が下手過ぎやしないか。それじゃあ、俺のメリットがあまりにも薄い」

 

 

 要はこの女、情報を絞るだけ絞りとって、そのまま警察に真犯人として捕まれって事だ。それの対価が獅童一人の破滅。それはまぁ、願っても無い事だが、やつはこの手でぶちのめさなければ気が済まない。利用されるだけ利用されて、自分の望みは叶えられないなんて、捨て駒もいい所。

 

 

「皆殺しとか言ってた男が、今更メリットを気にするの?」

 

 

 若干バカにしたように、紅い瞳が細められる。

 うぜぇ……。

 

 

「お前が…取引だって……言ったんだろ……!」

 

「対等とは言っていない」

 

 

 雪雫はしゃがみ込み、明智をより近くで観察する。

 全てを諦観した様な顔は、口で語る言葉よりも素直な印象を受けた。

 

 

「獅童を潰して、そっちまで堕としてあげる。パパと息子、2人揃って泥沼の生き地獄。空虚な心を満たしたいなら、藻掻き苦しむ獅童で満たせばいい。それなら、生きる気力も湧いてこない?」

 

「…………………………………はっ。君、性格悪いだろ」

 

 

 そう言う明智は憑き物が取れた様に晴れやかだ。

 

 

 

 

 

 

「明智吾郎の身柄は、一度シャドウワーカーで預かります」

 

 

 アイギスは事務的に言う。

 獅童一派を片付けて、捜査機関が正常に戻った後、明智を引き渡すと。

 

 

「獅童の動きは?」

 

「今はまだ特に。選挙が近いのもあって表立って動けない様子。捜査機関は大方我々が抑えていますからね」

 

 

 獅童は大幅に手駒を失った筈だ。

 怪盗団絡みの捜査はシャドウワーカーが捜査権限を手にしたことによって自由に口出し出来ない。今までの動きから警察関係者以外にも顔が効く筈だが、どうも選挙が近いため慎重になっている様で、脅威としては未だ機能していない。

 最大の難点だった明智についてもさっき対処した通り。

 

 

「なら早めに」

 

「ええ。ささっと盗ってしまえばよろしいかと」

 

 

 怪盗団は今まで後手で動いてきた。

 ようやく、先回り。相手の一手よりも早く動ける番が来た。攻め時を逃せば、またじわじわと国家権力による包囲網が迫ることは必至。

 

 

「それにシャドウワーカーも何時まで表立っていられるか分かりませんからね」

 

 

 影時間と怪盗団の関与…という主張で出張ってきたシャドウワーカーだが、関与の疑いが無くなれば引っ込むしかない。

 

 

「それで雪雫さん、いつごろ、盗むおつもりで?」

 

「それは皆との相談次第」

 

 

 もう疲れた。帰って寝たい。

 そんな態度が透けて見える雪雫にアイギスは苦笑を浮かべる。

 

 まぁ無理もない。

 ニイジマパレスでの戦闘。リーダー救出。皆への説明。からの明智との戦闘なのだから。

 

 幼い身体(実年齢を考慮しても幼い)には堪えるというもの。

 

 

「…………なに」

 

 

 ふと、じーっと胸を見つめるアイギスを見て、怪訝な表情を浮かべる雪雫。

 

 

「……いえ…ふふっ。仲間が居るって良い事ですね。雪雫さん」

 

「…………そうね」

 

 

 自身の胸に手を当てて、夜空に浮かぶ月を見ながら雪雫は呟いた。 

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