PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
───なぜ歌うのか。
そう、この間の雑誌インタビューで聞かれたとき、言葉に困った。質問の意味は理解出来た。そして求められてる答えも、きっと理解出来ていた。喜ばせるのは簡単だ。ただ、テストの問題を解くように、正しい言の葉を当て嵌めれば良い。
例えば、この場合は向上心を顕わにするか。もしくは感謝を顕わにすればいい。その主語がファンであればきっと百点満点。
しかし、正解は分かっていても、喉は動かず、言葉は音へと変換されない。口から漏れ出るのは隙間風のような細い息のみ。あれほど自分の身体が恨めしいと思ったのは久しぶりだった。思考と行動の乖離を感じ、ただの蛍光灯の光すら処理出来ず、目は眩む。それが極度の緊張状態によるものと知ったのはつい最近のこと。
それでも私は考えるのを止められなかった。身体は拒絶を示していた。だが思考は悪癖の様に何処までもどこまでもソレを張り巡らせる。私のこれまでの人生……
最初はただの憧れ。
りせの姿がキラキラしていて眩しかった。日陰の人生を歩んできた私にとって、それはあまりにも煌びやかで恒星の様。「傍に居たい」という気持ちが芽生えた。そうしている内に「なりたい」と願いに代わった。恒星にはなれなくとも、惑星として輝きたい。真似事でも良い/真似事でしか輝けない、ただ私はそれで良かった。
だけど一度手が届いてしまえば「より先を」求めるのが俗世の理。
自分で言うと笑ってしまうが、順風満帆と言えばその通りなのだろう。特にスランプも無く、障害も無く。ただの学生が、特にマネジメントも受けずに陰陽出場だ。
「こんなものか」と達観した自分が居た。
「まだまだ」と鼓舞する自分が居た。
「どちらでも良い」と無関心な私が居た。
分からない。何も分からないし、感じない。私は物差しを持たない。当然だ、真似事なのだから。きっかけはりせの真似事。楽曲カバーだって、配信だって、他がやっていたからやってみただけ。それで良しとされてきたから、その本質は実に空虚。
その空っぽを埋める為に、ライブをして、陰陽出場を承諾して、インタビューを受けて───。
そして最初の問いに戻る。
(……何故?)
ここ最近の行動を振り返れば答えは『空洞』を埋めるため。
だけどそれは目の前の記者は求めていない。それは間違った回答であり、正解は────。
否、それは違う。口にすればそれはもう嘘吐きだ。今まで改心してきた大人達と変わらなくなってしまう。
今まで歩んできた道が、薄氷で出来た脆いものだという事に気付く。
嘘と真、建前と本音を都合の良い様に切り替えて、そして築き上げたハリボテのアーティスト人生。
正解を選びたい/間違いは選びたくない。
本音を言いたい/嘘は吐きたくない。
言葉が出ない。何を紡ごうにも、空虚に感じる。これから紡ぐ言葉も、これまでの選択、歩み。全てが他人事の様で空っぽだ。
「歌う理由…。届けたい
嗚呼、また一歩。私は薄氷の上を進む。
▼
「歪みの中心地だけでなく、国全部が水没したパレス! まさか個人がここまでの欲望を持つなんてな!」
驚愕に染まったモルガナの声音。全員が喉をゴクリと鳴らし、その門を叩く。
中に入れば至る所に黄金を散りばめられた厭らしさすら覚える内装が目に付いた。国の資産のその全てが自分の物だという誇示だろうか。こちらを見下ろすほど巨大な獅童の銅像が、それをさらに助長させていた。
「中では…さすがに怪盗服か」
やっぱりという様子でスカルが全員の姿を確かめる。甲板では私服だったが、今は全員が怪盗服。警戒心の現れだ。
「でも……私達は良いとして。なんで他の乗客まで仮面のコスプレしてんの?」
獅童の認知が歪んでいようと、やはり人は存在する。全員が煌びやかなドレスやスーツに身を包んでいる。僅かに聞こえる会話の内容は獅童を称えるようなものばかり。この船に乗員を認められている様子を見るに、現実の獅童の新派なのだと容易に予想が付く。が、異様なのはパンサーの言う通りその全員が例外無く仮面を付けていた。見た目は普通の人間で、金城や奥村の様に人外の姿をしている訳ではなく鮮明なのに、その顔だけが異質だ。
「誰も信用していない、ってことじゃないかな」
「ああ…ノワールの言う通りだろう……。ヤツ自身、きっと理解しているんだ。新派というだけで、仲間では無いと。利害が一致しているだけ協力者。必要とあらば切り捨てるし、切り捨てられる。だから深くは踏み込まない。ただ表面だけ、利害という結びつきだけあれば良いってところだろうな」
こりゃ厄介だぜ。とモルガナが付け加えた。
「ええ、それだけの関係でここまで鮮明に再現出来る観察眼を獅童は持っているという事。認知研究の件もある。何をしてきてもおかしくは無いわ」
マスクの下の眉間に皺を寄せるクイーン。怪盗団の頭脳としての責任。そして当然のことながら、獅童という悪を許すことの出来ない己の正義。その二つが重圧の様に──。
「構えすぎ」
と、そこで呆れた様子でウィッチが肩を叩く。抱えていたプレッシャーと比べるまでも無いくらい軽い。しかしながら、こちらの不安を吹き飛ばしてくれるもの。
「出たとこ勝負なのはいつもの事。慣れたものでしょ」
コツコツとヒールを鳴らして、奥へ進む。人々の仮面越しの視線をひらりと躱しながら、最奥の重々しい扉の前まで。
「どの道、人にとってはパレスなんてものは過ぎたる欲望。さっさと元の場所に返してあげましょう」
そう上がり下がりの無い声音のまま、淡々と呟き、目の前の扉を視線を移す。
全てが金で出来た3mはあるであろう扉の上には「Representatives chamber」と書かれた表札。
「れ…ぷ、れ……?」
『賛成475人。反対0人。反対者皆無の為、本案は全会一致をもって、原案通り可決すべきものと決定しました』
首を捻るスカルの声に被せて、周囲のモニターから流れる知った声。
「あ? 獅童の声か? なにやってんだ?」
「ここが見た目通りの議事堂の役割を持つのなら、この先は本会議場だろう。ニュースでよく映るホールのことだ」
「獅童が何を言っても可決される形だけの議会…。察するに、味方ばかりで固めて好き放題やってる…ってところかな」
「そして獅童が目指す世界でもある」
世の末だな!と憤慨するナビの横。一人会話に参加せず、扉を眺めていたウィッチが途端に己の主張を顕わにする。
「どうしたのよ? 雪雫」
声は無い。眉も口角もほぼ動いていない。一見すれば無表情。
だがこの場にいるクイーンだけが、ウィッチの僅かな視線の揺れからその感情を読み取った。
「この先、賛成者しか存在しないと言う事は、言い換えれば獅童にとっての敵は存在しない。という認知になる」
やっと口を開いたウィッチはいつもと変わらぬ様子で、状況を整理する。察してしまった事実を皆に伝える為に。
「これは扉というよりは防壁。敵の侵入を一切拒むもの。私達が入るには味方の証が必要」
そうして指差す先には、扉に出来た5つの窪み。ちょうどカードサイズの何かが入りそうな形をしている。
「ははん」
一早く察したナビが声を漏らした。
「つまり宝探しか」
同意を示すかの様に、今度はあからさまに肩を落として溜息を吐く雪雫であった。
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ゴールを目の前にした時、人は何を考えるであろうか。
個人が持つ感情は千差万別といえ、概ね二つの意見に収まるのではないか。
結果を求め、早く終わらせたい。
過程を尊び、終わりを先延ばしにしたい。
今回の場合、ウィッチは圧倒的に前者だ。
ぱぱっと敵の首を取り、日常に戻ってりせの腕に抱かれたいなーなんて思っていたらこの時間稼ぎ。思考がその先へと行っていた分、戻すのも億劫。
そしてそれを見越したクイーンが、呆れた顔で視線を送る。
「出たとこ勝負はいつものこと。ってさっき言ってなかったけ?」
「……そこに私の心の機微は含まれていない。面倒なものは面倒」
ツンツンと白い頬をつくクイーンを見て、ノワールは「あはは…」と乾いた笑いを浮かべる。
「さて、情報は集まったな?」
手分けをして聞き込みをした結果、判明した必要なものは紹介状と言う名の5つのカードキー。
獅童が抱える5人のVIPが持つ特別なもの。
旧華族。政治家。TV局の社長。IT企業の社長。トラブル処理役。
話を聞く限り、どれも業界内ではそれなりの地位に居るらしい。
「そして全員ろくでなし。…闇討ち? それとも正面から?」
「何でそんな物騒なんだよ」
大鎌をキラリと怪しく光らせるウィッチにペシっとツッコミを入れるスカル。
怖い。フツーに怖い。オクムラパレスでロボ達を一人でに狩ってきたあの時に近い。
「まぁ待て待て! シドウの一派を探れるチャンスだ! まずは下手に行こうぜ?」
「いずれ分かる。結果は同じ」
「おいマコト! この
ワーキャーと作戦会議の筈がツッコミ大会。
そんな一コマを横目に見て、ジョーカーは
「らしくなってきたな」
と1人微笑んだ。
獅童パレスは恐らく短めになりそうです。
お話的に大きいギミックがあるとかではなく、一つの決着ですからね。
冴さんのとこがあまりにも長すぎた