PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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134:Why?

 

 

 何となく、気が付いていた。

 

 思い返せば、色々な要素はあった。

 アイギスが私を同種だと知覚したり。そもそも八十稲羽に発生したペルソナ使いの人間を弾く結界を私が通れたり。

 

 きっかけは定かではない。

 生まれたばかりの赤ちゃんが泣く事によって呼吸を覚える様に。瞳孔の大きさを変える事で光量を調整する様に。誰も教えてくれない、教わるまでも無い。そんな当たり前に備わった本能的な感覚が、異常性を知覚させた。

 

 戦えば戦うほど、その感覚は研ぎ澄まされていき、私は異物なんだと思い知らされる。

 そして知覚すればするほど、その精神性も引っ張られていく。

 

 

 失望は無いよ。

 

 ああ、そうなんだ。って納得するだけだ。

 その異常性も含めて自分だって、そう思っている。

 

 

 でも恐ろしいの。

 

 自分が良くても周りは?って考えてしまうから。

 周りの人達が、必ずしも受け入れてくれるとは限らない。

 人間、異物は排除したがるもの。自分とは違う存在を前にした時、胸に抱く感情は憧れや許容では無く、きっと恐怖や嫉妬、そして嫌悪。

 

 独りは嫌い。寒いし、寂しいし、空っぽだから。

 求めて欲しい、熱烈に。照らして欲しい、鮮明に。

 ───でもそれが化け物に向くかは分からない。

 

 だからりせには言いたくない。

 りせには綺麗な私を見ていて欲しい。出会った時のまま、想い出のままでじっとしておきたい。

 そうでないと、きっと。

 

 きっと私は嫌われてしまう。

 

  

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 ・

 ・

 

 

 12月11日 日曜日 晴れ

 

 

 武見妙の所に雪雫が泊っていると聞き、仕事帰りついでに迎えに来た久慈川りせ。

 雪雫の家へと向かう道中、その車内での一幕。

 

 運転席の横で、深く背中を預け虚空を眺めるばかりであった雪雫が、ふと口を開く。

 

 

「……りせは」

 

「んー?」

 

 

 心配は無いと言えば嘘となる。

 しかし、口を出すことは無い。それはりせなりの配慮であったし、必要な事だから。

 

 

「最初に会った時の事、憶えてる?」

 

「んー……最初ぉ? えーっと…確か………天城屋に忍び込んで、探検して…縁側に居た雪雫を見て……えっと……」

 

「つまらないって言われた」

 

「うぇっ!? そんな事言ったっけ、私……」

 

 

 酷いな、昔の私。

 りせはそう罰が悪そうに頬を掻く。

 

 

「あれからもう10年以上。色々あったけど」

 

「大分変わったよね、雪ちゃんも私も。まさか2人で東京に来るなんてね」

 

「………うん、変わった。でも」

 

 

 私はつまらないままでも良かったな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 12月15日 木曜日 雪

 

 

 シドウパレスの攻略は順調だ。

 既にカードキーは5枚手に入れ、ルートも確保済み。

 

 あとは選挙の開票日である12月18日。獅童の罪を白日に晒すのみ。

 

 順調だ。

 あと少しで平穏が手に届く。

 だと言うのに、私の心は冷え切っている。

 

 オタカラまでの道中、色々な真実を知った。

 

 5人のVIPが語った自分達が携わってきた獅童の悪行。5枚目のカードキーを持つトラブル処理役なんかはまんまヤクザで。あろうことか大山田の人体実験にも関わっていたとのこと。

 

───その真実を知って尚、私の心は動かなかった。

 

 また蓮曰く、獅童正義こそが過去に暴行事件の冤罪をかけられた因縁の相手と言う事も判明した。

 仲間達は当然憤り、獅童に対する敵対心にさらに磨きをかける。

 

───その真実をもってしても、私の心は動かなかった。

 

 

 取り残される。皆は先に行く。

 

 否

 

 私だけが先に行く。皆を置いてけぼりにして。

 

 

 蓋を開けてみれば、斑目から今の今まで。全て獅童が糸を引いてやってきたことで、許せない気持ちが出来るのは当然で───。

 当然、で。

 

 

だと言うのに、脳裏に浮かぶには獅童のパレスを消すという使命感ばかり!

 

 

 皆にとっての手段は私の目的で。

 私の目的は皆にとっての手段で。

 

 どうして。どうして。どうして。

 こんなにも心は思い通りにならない!?

 

 

『全会一致。嗤えてくるわね』

 

 

 青白い悪魔が私の耳元で囁く。

 

 

『こんなにも、貴女は苦しんでいるというのに』

 

 

 慈しむ様に、哀れむ様に彼女は嗤う。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 12月17日 土曜日 晴れ

 

 

 ブラック・スワンという映画がある。

 

 ジャンルとしてはサイコスリラー映画らしい。

 らしいと言うのは、世間がそう言っているだけで、私自身はそう感じていないから。

 

 じゃあ改めてジャンルは何かと言われれば、分からない。という答えがしっくりくる。

 でも何となく、これをカテゴライズするのは少し違うと思うから。

 

 

「蓮は」

 

 

 エンドロールを終えた劇場内。

 まばらに観客達が帰路につく中、雨宮蓮と天城雪雫は帰る素振りも見せずに、何も映らなくなったスクリーンを眺めていた。

 

 

「最後のシーンって」

 

 

 席を一つ挟んで隣に座っている雪雫が問いかける。

 

 ブラック・スワンとは一流のバレエ集団に所属するバレリーナ:ニナを主人公にした物語。

 バレエ『白鳥の湖』の主演に抜擢されるものの、潔白な白鳥と官能的な黒鳥の二つを演じることに苦しみ、藻掻き、プレッシャーによって徐々に精神が崩壊する様を描いているのが特徴。

 そんな劇中のラストで、黒鳥として踊り演じきったニナは、演目上の最後の白鳥が崖から跳び下りて自らの命を絶つ場面を終えると、そのまま『これで完璧』と言い残し意識を失ってしまう。

 

 ここで映画も終了だ。

 最後、ニナがどうなったか。最後の台詞は何に対して呟かれたものか。見る人の解釈によって分かれる。そんな映画。

 

 

「ニナは望んでいたと思う?」

 

「満足していた様には見えたが……」

 

 

 果たしてどうだろう。と蓮は思案する。

 ニナの生真面目で几帳面な気性は白鳥にはピッタリであったが、反面、黒鳥という役に振り回されていた。それこそ、精神に異常をきたし、幻覚を見る程に。そんな状態になってでも、演じる価値が彼女にはあったか。仮にあったとして、それは本心からの望みだったか。

 

 

「私は息苦しそうに見えたよ」

 

 

 黒鳥という役を与えられて。その型にはまらない自分を妬み、憎み、はみ出す部分は削ぎ落して無理矢理に当て嵌めていた。

 

 

「そんな無理をしたのだから、そりゃ達成感に満たされる。でもその次は? 演目は文字通り完璧。観客もそれで評価をする。また不相応な役が回ってくるよね。それでもきっとニナはまた頑張っちゃう。だって真面目で、几帳面だから。相談出来る相手が居れば良かったんだけどね」

 

 

 ひとしきり満足したのか、雪雫はバッグを持って立ち上がる。

 映画が始まってから2時間ちょっと。凝り固まった身体を少し伸ばすと、蓮に一瞥する事無く歩きはじめ──。

 

 

「少なくとも雪雫には居るだろう」

 

 

 そんな雪雫の背中に向かって、蓮は言った。

 

 

「信頼出来る大人が、仲間が、友人が」

 

 

 ピタリと足を止め、横顔だけを蓮へと見せる。

 表情は読めない。白い髪が目を覆い、口元はマフラーで隠れていた。

 

 

「不相応な役が回ってきたとしても、一人で抱え込む必要は無い。現実は舞台じゃない。脚本は絶対じゃない。時には書き換えたって良いじゃないか。ありのままを受け入れるには、俺達はまだ幼過ぎる。一人で出来無くたって、皆となら」

 

「─────じゃあ」

 

 

 くるりと身体を翻して雪雫は微笑んだ。

 それは蓮が今まで見てきた中で、一番綺麗な笑みだった。

 

 

「その時は任せた」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 12月18日 日曜日 晴れ 

 

 正午

 

 

 その日、日本中が騒然とした。

 

 

 渋谷の街頭モニターを始めとした全国規模の電波ジャック。

 映し出される怪盗団のマーク。

 

 その日は開票日だった。

 当選有力の筆頭候補は獅童正義。これを制すれば総理の椅子も遠くないとまで言われた男。

 

 そんな男を名指しに、怪盗団は予告する。

 偽りの理想を掲げた極悪人、獅童正義が国を制するその前に。

 

 

『この国は、我々が頂く!』

 

 

 死んだ筈の男はそう高らかに宣言した。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「アイギスはルブランを。明彦は新島検事を頼む。風花は本部で動向を探れ」

 

 

 赤髪の女性が忙しなく指示を飛ばしていた。

 

 

「天城屋には芳澤と直斗を……。何? 姉の方はどうするか、だと? 彼らは自分でどうにかする。非能力者の保護を最優先だ」

 

 

 後方の憂いを絶つために。

 

 

「嗚呼、ここが天王山だ。彼らが事を為すまで、何としても守り通すぞ」

 

 

 若き世代の勝利を信じて。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 いつまでたっても出来の悪い妹だ。

 そう、思った。

 

 だってこうして今も、こちらの気持ちも知らないで危ない事をしている。

 強大な権力を持った大人に啖呵を切って、平穏を掴まんと自分自身の身を焦がしている。

 

 姉も頼らずに、だ。

 

 

「……巻いた? かな?」

 

 

 勝手知ったる大学の構内だ、追手を振り切るのは容易い。

 それに腐ってもペルソナ使い。雪雫の様に現実で力の行使は出来なくとも、戦いの感覚と、身体能力はそのままだ。

 

 

()()()()()()()覚悟しといてよね、雪雫」

 

 

 ・

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 ・

 

 

「どうして雪ちゃんはここまで頑張れるのかな?」

 

 

 私のためだったら嬉しいな。

 そんなんってもう………。

 

 

「告白じゃん! キャー!!!!」

 

「あーもう、五月蠅い!!!」

 

 

 地面に伸びた追手を椅子代わりにして、妄想を膨らましてはキャッキャする現役アイドル。

 そして。

 

 

「あーもう、美鶴さんったら……。非能力者優先じゃなかったの?」

 

 

 共演こそ無いが、局で何度か擦れ違ったことのある、特撮ヒーロー(ピンク)の岳羽ゆかり。一緒に居てもまぁ違和感無いだろう。という理由で抱き合わされた2人は、人目の付かない路地裏に居た。

 

 

「だって私、情報戦専門だよ?」

 

「アンタが肉弾戦出来るの*1知ってんだからね!」

 

 

 追手の気配はもう無い。少なくとも今の所ではあるが。

 

 

「ほら、さっさと場所移しますよ*2

 

 

 重要警護対象なんだから。

 

 

「それって───雪雫が私を想って?」

 

「……ええ、そうよ」

 

 

 じんわりと、心に灯るあたたかみ。

 最近、本人は気にしているみたいだけど。なーんだ十分温かいじゃん。

 

 まぁ、それはそれとして。

 

 

「両想い来たー!!!!!」

 

「うっさいわ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 なぜ、人は迷う。

 なぜ、人は間違える。

 

 それは身に余る欲望ゆえだ。

 肥大化した欲望は大衆を惑わせ、間違った方へ歩ませる。

 

 優劣は無い。人の欲望は一定であるべきだ。そうでなければ、争いが生まれる。

 出る杭が打たれる様に、レールから外れた異分子は私が正そう。

 

 大衆は怠惰であれば、それでいい。

 

 

『取るに足らない小さな綻びだが、そんな甘さで大国すら滅びる。……私はそういうミスは犯さない!』

 

 

 その為にはお前が邪魔だ…。

 邪魔なんだよ…。

 

 獅童正義………!

*1
P4U2にて

*2
芸能界では後輩のため、一応敬語

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