PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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13:The encounter was abrupt.

 

 

 

5月25日 水曜日 晴れ

 

 

 

 段々と気温も上がり、夏の気配を感じさせるこの頃。

 学校指定のブレザーもそろそろ鬱陶しくなってきた、そんなある日。

 

 演説の準備をしている中年の政治家が見守る駅前広場。

 

 

「あれ?」

 

 

 ふと、後ろから青年の声がした。

 何処までも爽やかで、誰にも好かれそうな、そんな声。

 

 

「天城雪雫さんじゃないですか。嬉しいな、こんな所で会えるなんて。僕、貴女のファンなんですよ」

 

 

 そう笑顔で語るのは少し長い茶髪を携えた好青年。

 物語の王子様の様な物腰の柔らかさがその眼から感じられる。

 

 ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべる彼に対して、雪雫は首を傾げながら―――

 

 

「誰?」

 

 

 と小さく呟く。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 笑顔のまま固まる青年と、不思議そうな瞳を向ける雪雫。

 両者の間に若干の気まずい沈黙が訪れる。

 

 

「ねぇ、あれ高校生探偵の……」

 

「明智君だよね…、本当に都内に住んでるんだ!」

 

 

 ふと、こちらを指差しながら嬉しそうに呟いている女性の声が雪雫の耳へ届く。

 

 

「…明智……、高校生探偵?」

 

「一応、そう呼ばれているね。自分で言うのは少し恥ずかしいけど」

 

 

 この後どう会話を続けようか…、と考えていた明智だったが、会話の取っ掛かりが出来た事に気を良くする。

 

 

「……直斗と同じ」

 

「直斗…、というと白鐘氏の事かな。そうか、そう言えば君は八十稲羽出身だったね」

 

「ん」

 

「彼…、いや彼女か。当時の連続殺人事件は彼女の尽力があってこそだとか。僕、彼女に憧れて探偵になったんだよ」

 

 

 殆ど会話になっていない雪雫の返事を気にする事無く、明智は言葉を続ける。

 

 

「最近はめっきり話題にも上がらなくなってるけど、天城さんは何か知ってる? 推理対決…、とか面白そうだなぁって思ってたんだけど」

 

「……知らない」

 

「そっかぁ、残念」

 

 

 歳上としての気遣いか、それともただたお喋りが好きなのか。

 いずれにせよ、明智は笑顔を保ったままだ。

 

 

「私に何か用?」

 

「いや、特に用ってわけじゃ無いんだ。ただ歩いていたら見覚えのある顔が居たものだから。僕、さっきも言った通り君のファンなんだ」

 

「……そう、ありがとう」

 

 

 お礼を言いながら、雪雫は自身の腕時計に目を落とす。

 時刻は17時を過ぎたところ。

 

 

「ああ、引き留めてすまないね。少し話してみたかっただけなんだ。楽しかったよ、ありがとう」

 

「なら、よかった」

 

「それじゃあ、またね」

 

 

 明智も明智で用事があるのか、そう言い残すと足早にこの場を去る。

 

 

「変な人」

 

 

 掴み所がある様な無い様な。

 本音と建前がごちゃごちゃに入り混じっている様な。

 

 先程の青年、明智吾郎に疑問を抱きながらも、雪雫は帰路についた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

5月26日 木曜日 晴れ

 

 

 

 薬品の臭いが入り混じる空間。

 パンクな服装の上に白衣を羽織った女性、武見妙は青筋を浮かべていた。

 

 

「んで? 曲作りがもうすぐ終わるから追い込みをかけたい、と?」

 

「うん。眠らなくても済む薬、出して」

 

「嫌」

 

「ケチ」

 

 

 武見医院に通うほんの一握りの患者、天城雪雫が来院してから数十分。

 二人はずっとこの問答を繰り返していた。

 

 

「ケチじゃない。医者として当たり前の事を言ってるだけ」

 

「私には妙しか頼れる人、居ないのに……」

 

「何処で覚えたそんな口説き文句」

 

「映画」

 

「口説き落とすならもう少し粘りなさいよ…」

 

 

 薬を処方しろと要求してくる雪雫に対して、バッサリと切り捨てる武見。

 取り付く島もない武見の態度に、この少女にしては珍しく少し頬を膨らませて、いじけた顔をしている。

 

 

「そんな顔してもダメ。前に何があったか、忘れた訳じゃ無いでしょう?」

 

「……昔の話。今は元気」

 

「それでもダメ。未だに回復した要因も分かって無いんだから……」

 

 

 俯く少女の頭を撫でながら、武見は思考に耽る。

 

 確かに雪雫の言う通り、今は至って健康体だ。それは彼女の様子を見て分かる。

 しかし、しかしだ。

 雪雫の身体の事は、まだまだ分からない事ばかりだというのも事実。

 歳の割に小さすぎる身体と、軽すぎる体重。加えて変化が無さ過ぎる見た目。

 そして、髪の事も………。

 

 

「兎に角。これ以上薬は処方しません。はい、何時もの」

 

「…仕方ない。コーヒー牛乳を……」

 

「カフェインに頼るのもやめなさい」

 

 

 カルテで少女の頭を軽く叩きながら、診療室から追い出す様にシッシッと手を振る。

 不服そうな表情を浮かべながら、雪雫は自身の荷物を纏めて、診療室の扉に手を掛ける。

 

 

「また来る」

 

「程々にね」

 

 

 ギィっと扉を軋む音が鳴り、少女の軽い足音が―――。

 

 

「……あ」

 

「あ、天城さん」

 

 

 響く代わりに発せられたのは雪雫の小さな声と、青年の声。

 

 

「君……」

 

「雨宮…、先輩…?」

 

 

 雪雫と同じ秀尽の制服を着た、黒髪癖毛の青年、雨宮蓮。

 ぎこちなく自身の名を呼ぶ、雪雫に思わず口元を緩くする。

 

 

「蓮で良いよ。言いにくいだろ?」

 

「ん、じゃあ。蓮。………蓮は何処か悪い?」

 

「ああ、ちょっと風邪気味でね、薬を貰いに来たんだ」

 

 

 よくもまぁ、表情を崩さず嘘を言えたものだ、と2人のやり取りの裏で武見は溜息を吐く。

 

 

「ほら、雪雫。曲作らないといけないんでしょ。とっとと帰りなさい。同居人も心配するでしょう」

 

「別にりせと私は同棲してな―――」

 

「あれはほぼ同棲。ほら、帰りな」

 

 

 雪雫も雪雫で色々訳ありではあるが、それは蓮も同じこと。

 彼の様子から察するに雪雫が居ては都合が悪いのだろうと、考えた武見は、雪雫に帰宅を再度促す。

 

 

「はぁ……、全く、あの子は……」

 

 

 雪雫が診療所から出て行ったのを確認した後、武見は疲れた様子で、しかし何処か嬉しそうな表情を浮かべて溜息を吐く。

 彼女の普段は鋭い眼差しも今は柔らかくて、出来の悪い妹を見守る姉の様で。

 

 しかし、蓮が放った一言が、再び彼女の瞳を鋭くする。 

 

 

「天城さん…、身体弱いのか?」

 

「……盗み聞きは趣味悪くない?」

 

「あ、いや。聞く気は無かったんだ。ただ―――」

 

 

 射抜く様な視線で蓮を睨み付けていた武見だが、聞かれたものは仕方ない、と再び溜息を吐く。

 乗り出していた状態を背もたれに預け、何時もの様に脚を組みなおすと、テーブルの上にカルテを手に取り、視線を落とした。

 

 

「………昔、ちょっとね」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

5月28日 土曜日 晴れ 

 

 

 

「……出来た」

 

 

 人工的な光が照らすとある一室。

 ヘッドフォンから流れるメロディを聞きながら、画面と睨めっこしていた少女、雪雫が満足気に呟いた。

 

 

「あとはアップするだけ―――」

 

 

 画面に映し出されているのは曲に合わせて紙芝居の様に変わっていく絵。

 所謂ミュージックビデオというやつだ。

 

 

「……想定より、時間かかった…」

 

 

 今月の上旬に宣言した3曲の新曲の公開。

 以前からある程度、作品の方向性は決まっていたものの、MV用の絵を描いている内に興が乗ってきた様で。

 彼女が想定していた公開日よりも、一週間遅くなってしまった。

 

 改めて言うが、天城雪雫は事務所に入っていないフリーのアーティストである。

 作詞から作曲、MVの作成まで。

 学生の身でありながらも、中学生の頃から続けている。

 

 合間合間に時間を作り、休みの前日は夜遅くまで作業を進め、家のことはりせとべっきぃこと、川上に任せて。

 宣言通り、5月中に公開出来る様、間に合わせた。

 

 

「………」

 

 

 早速出来上がった3曲を公開しようと、マウスに手を伸ばした時、雪雫の手が止まる。

 

 

「見せ方……か…」

 

 

 この道においても先輩であるりせに言われた事を思い出したのだ。

 

 

雪ちゃん、ただ作品を公開するにも「見せ方」があるの。

 

 

 雪雫の頭の中で、りせの声がフラッシュバックする。

 

 例えば公開する順番。

 1曲目は、ファンの気分を上げるスピード感のある曲。

 2曲目は、休憩代わりのバラード等のスローテンポな曲。

 最後のトリには、ファンを沸かせるサプライズのある、もしくはメッセージ性のある曲。

 

 

「………今回の場合は…」

 

 

 春の終わりを歌ったゆったりとした曲。

 気分のままに言葉を詰め込んだアップテンポな曲。

 そして、りせとのデュエット曲。

 

 意識したのか、はたまた無意識か。

 りせに以前、教えて貰った時の例と同じ構成だ。

 

 

「…なら、この順番で…。公開は1日毎に………」

 

 

 ブツブツと呟きながら、マウスを動かして、最後の準備に取り掛かる。

 題名を入れ、曲の概要を入れ。

 最後に公開日の設定を――――。

 

 

「…あ」

 

 

 ふと、雪雫は小さな声を上げる。

 その顔は口を開けたままポカンとしていて、何処か諦めた目付きだった。

 

 

「……まぁ、いっか」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

5月29日 日曜日 晴れ

 

 

 

「お~、好評好評」

 

 

 カーテンの隙間から僅かに差し込む朝日。

 澄んだ空気と新しい日の訪れを告げる鳥の声が特徴的な朝。

 

 2人で寝ても十分スペースが余る程、巨大なベッドの上で。

 久慈川りせはスマホを見ながら嬉しそうに呟いた。

 

 

「………んぅ…」

 

「あ、おはよ。雪ちゃん。ごめん、五月蠅かったね」

 

 

 そこまで大きい声、という訳でも無かったが、至近距離で声を上げれば流石に気付くというもの。

 眠い目を擦りながら雪雫は、どうしたの、と寝惚けた声で呟く。

 

 

「エゴサしてたの、私達の事」

 

「……?」

 

「昨日の曲、皆はどう思ったのかな~、って」

 

 

 やはり嬉しそうな態度は崩さずに、りせはスマホの画面を雪雫へと向ける。

 そこに映し出されていたのは、新曲や雪雫の事について呟く、無数の投稿。

 

 

 

#マギニス#

雪ちゃんの新曲、全部聴いた!

個人的には、花の便りが一番好き♡

 

海都

雪ちゃん

宣言通り公開してくれたのは嬉しいけど

同じ日にまとめて3曲公開とか

供給過多で死んでしまう(褒め言葉)

 

やぎたに

りせちーとのデュエット曲がエモ過ぎて……

あなたはヒロイン

これは公式が最大手といっても……

 

満月のもりみつ

他の2曲がちょっとしんみりする分、残り1つの

アブラカタブラうぃっちーずが何とも可愛いというか

アホっぽいというか……(好き)

温度差で風邪引いてしまううううう

 

 

 

「大人気だね♡」

 

「…りせのお陰……」

 

「またまた~!」

 

 

 謙遜する雪雫の頬を、つんつんと指を立てて遊ぶりせ。

 同じベッドでこうして寄り添う様に寝そべりながら、談笑する姿は恋人の様にも、姉妹の様にも見える。

 

 

「トレンドにも入ってるんだよ、ほらっ!」

 

 

 頬で遊ぶのも程々に、りせは画面に指を滑らせた後、再び画面を雪雫に見せる。

 

 

「ん……」

 

 

 画面には今現在、日本で話題になっている事がズラッと並んでいた。

 その中の真ん中辺り。

 確かに、りせの言う通り、雪雫の新曲について触れているトピックがあった。

 それ以外にもりせの事や、地元の八十稲羽の事まで。

 

 

「ホントだ……」

 

 

 何事に対しても強い反応をあまり示さない雪雫だが、流石に驚いている様子。

 眠気も忘れ、その赤い瞳で画面に映し出されているトレンドを流し見する。

 

 

「……? これ……」

 

 

 ふと、スクロールする指が止まった。

 

 

「どうしたの?」

 

「班目の事が、話題になってる」

 

 

 雪雫に目に留まった話題。

 それは先日知り合った青年の師匠であり、黒い噂が絶えないという日本美術界の巨匠、班目一流斎に関する話題。

 

 ―――そして、それだけでは無く。

 

 

「……心の怪盗団…」

 

 

 心の怪盗団。

 秀尽学園に突如現れ、宣言通り、鴨志田卓の罪を自白させた謎の集団。

 

 

「怪盗団って、前に雪ちゃんが言ってたやつ?」

 

「…うん。学校の」

 

 

 2人は先程までの会話も忘れて、食い入る様に画面を見つめる。

 

 ただの悪戯であり、言いがかりだと主張する班目の動画。

 班目展が開催されているブースを中心に、所狭しと張られた問題の赤いカードの画像とその内容。

 

 

「…鴨志田の時と同じ。―――予告状」

 

 

 

 

才能が枯渇した虚飾の大罪人、

 

班目一流斎殿。

 

権威を傘に門下生から着想を盗み、

盗作すらいとわぬ、芸術家。

我々は全ての罪を、お前の口から告白させることにした。

その歪んだ欲望を、頂戴する。

 

心の怪盗団ファントムより

 

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