PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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135:Royal road.

 

 

 どうでもいい。

 

 ───全て、どうでもいい。

 

 

 シドウは言う。

 自分と、自分だけを敬う者だけがいれば良いと。強者である自分と、強者に従う駒。それだけで構成された国こそが、自分の目指す理想国家だと。

 

 怪盗団は否定する。

 彼らは常に弱者の味方だった。強者が弱者を虐げる事を、到底許すことは出来ない。彼の理想は、ただの犯罪者による犯罪国家だと。

 

 

「……どうでもいい」

 

 

 どちらも己が信じる正義のぶつけ合い。

 

 大衆にとって、それは無価値だ。

 私にとって、それは些事だ。

 

 結果として、ただ■が残ればそれでいい。

 

 

 

 

『……私はそういうミスは犯さない!』

 

 

 シドウの宣言と共に、本会議場を埋め尽くさんと現れた認知人間達。彼らは寸分違わぬ見た目で、一挙手一投足乱れる事無くシドウに拍手を送る。

 シドウマサヨシは自分以外の個を認めていない。その歪んだ認知が、この光景に如実に表れていた。

 

 彼が手を挙げれば拍手はピタリと鳴りやむ。

 

 そして数秒後、本会議場は大きな振動に包まれた。

 

 天井が開く。

 終末のような暗雲と、隙間から差し込む紅い光が、怪盗団を照らす。

 

 轟音と共に左右から壁が迫る。

 否、壁では無い。迫る何かを足場にして、怪盗団はようやく気が付いた。これはフィールドだ。戦うのに不向きと思われた本会議場は、左右から放出されたソレに覆われた。

 

 これは、ただ敵を殲滅するための場所。

 

 

『言っておくが、今までの手勢と同じとは考えん事だ』

 

 

 淡々と、しかしその言葉の裏に籠った確かな強かさ。

 

 

 ああ、確かにこの男は指導者の気質はあるのだろう。

 とジョーカーは思った。感情に任せて吠える訳でも無い。ただただ己を信じて突き進む。

 

 

 そんな口調で、シドウは一歩、一歩、階段を登る。這いつくばった人間のようなオブジェクトを足場にして。

 

 

 その歪んだ認知が無ければ、だが。

 

 

 シドウの姿は変貌していく。

 一歩、また一歩。文字通り人を踏み台に、頂きに近づく程。

 

 何時ものスーツ姿は軍服へと変貌した。次第に頭部には白い仮面が現れ、紅いマントを纏っている。それは現代のフィクションにおいて度々散見される、軍事国家のカリスマのような姿。

 

 

『さぁ、速やかに死にたまえ』

 

 

 シドウの踏み台になっていたオブジェクトは、また姿を変えていく。

 

 黄金の獅子。

 大きさにして5m以上ある巨大なソレはその全てが人間の集合体だ。人の顔、手、身体。それらがぐちゃぐちゃに寄せ集められ、獅子の形を成している。いわば人柱の王獣。

 

 彼はそんな王獣の上で踏ん反り返り、怪盗団を見下ろす。

 まるで自分が人の王だと言わんばかりに。

 

 

「まずは引きずり下ろす」

 

 

 名を呼ぶまでも無く顕現する聖女:ジャンヌ・ダルク。

 一度、剣を振るえば、王獣目掛けて剣技が繰り出される。

 

 

「ブレイブザッパー」

 

 

 怪盗団の初撃は、王獣の胴体に直撃。

 しかし僅かによろめくばかりで、効果は薄い。

 

 

「む」

 

 

 違和感、は無い。

 ニイジマの様に概念的に攻撃が出来ないとか、そういうのじゃない。

 

 

「ウィッチに続く!」

 

「偉そうに、見下してんじゃねぇ!!」

 

 

 そして間もなく、ノワールとスカルの追撃が繰り出される。

 銃撃をペルソナの力でブーストさせた一撃と、力任せに暴れ回る広範囲攻撃。 

 

 こちらも直撃…ではあるものの、やはり効果は薄い。

 

 

『くだらんっ!』

 

 

 そして3人に対するカウンター。

 

 王獣が吠える。

 ただそれだけで、空気は揺れ、その衝撃で船のガラスは割れる。明確な衝撃波となった咆哮は、近接を仕掛けた3人を元居た場所まで押し戻した。

 

 

「……凄まじい出力。見た目通り…ってとこかしら」

 

 

 ウィッチによる斬撃、スカルによる打撃、ノワールによる銃撃。

 一撃で見れば怪盗団でも最高峰の火力を持つ3人の攻撃が直撃してよろめく程度。

 

 

「さっきの咆哮といい、圧倒的なタフネスとパワー!」

 

 

 小細工無しに強い。

 クイーンはそう結論付けた。

 

 自らを絶対強者だと信じてやまない認知による自己強化。

 それ故の単純な火力勝負。

 

 ───つまり。

 

 

「パワーの押し付け合い」

 

 

 まだ五月蠅い……。と側頭部を軽く叩きながらウィッチは言う。

 

 

「上等。そっちの方が思考がシンプル」

 

 

 効果は薄くても攻撃は効いている。それならば、押し続ければ勝機はある。ルールの抜け道を探す必要は無く、絡め手を気にする必要も無い。

 

 

(攻撃は見てから対応すれば良い。あとは手数勝負)

 

 

 フォックス、パンサー、モナが代わって仕掛ける。

 それぞれが得意とする属性魔法……しかしこちらも僅かによろける程度。

 

 

(魔法が効かない…という事も無い。巨体故、動きは鈍重)

 

 

 ───こちらのスタミナが切れる前に押し切る。

 

 

 クイーンとウィッチの視線が交差する。

 お互い、言わんとすることは分かっていた。

 

 驕り故か、シドウ本体は隠れる素振りを見せない。

 手は出してこないが、あくまでも自分が王だと主張する様に、王獣の上で深く腰掛けている。

 

 カネシロやオクムラの様に後ろに隠れられていたら手順は省略できない。だけど、シドウはそうではない。

 皆が王獣の気を引いている内に──。

 

 

(───本体を直接狙う)

 

 

 ヨハンナに乗ったクイーンが先に駆けだす。

 王獣の四肢の間を巧みなコーナリングで駆け、翻弄する様に核熱属性の魔法をばらまく。

 

 当然、シドウの意識が下へと向く。

 鬱陶しいのであろう。王たる自分に噛みつく小動物が。

 

 

 サバンナにおける王と言えばライオンというのが一般の認知であるが、その実、狩の成功確率は高くない。確率にすればおおよそ30%を切るという。それは自分よりも大きい得物を狙う事もあったり、狩りにはメスが行ったり、被捕食動物達の危機管理能力が狩りに精度よりも高かったり。色々な要素があると言われている。

 それでも王と言われているのは単純にたてがみによる風格とか、佇まいとか、大きさとか。人間からの一方的な認知が原因だろう。

 

 単純な確率だけで言えば、ライオンよりも狩りの精度が高い動物はたくさん居る。

 

 例えば、リカオン。

 その成功率はライオンの2倍以上の80%。その狩りは非常に効率的で得物を追跡しながら隊列を組み、疲弊させて仕留めるという。

 

 その様は、チームプレイの最高潮とも言え、合理的で非常に好ましい。

 

 

「───ごきげんよう」

 

 

 その時、シドウの首筋を這いずる死の予感。

 腰掛ける黄金の椅子の背に、一人の少女が立っている。

 

 

「傲慢たる人間よ」

 

 

 自らよりも高い場所で、その鈍い黄金の瞳で見下ろしている。

 

 

『愚息を討った女か──!』

 

 

 シドウが振り向く。

 その前に、ウィッチは首目掛けて刃を振り下ろしていた。

 

 人の王など認めていない。

 人が人を管理するなど、烏滸がましい。

 

 神たる主の権能を犯すものは、ここで■す。

 そんな事ばかりが、頭に浮かぶ。

 

 

『えぇい、忌々しい!』

 

 

 刃が皮膚を切り裂く。シドウの首からは黒い血が飛び、王獣の背を汚す。

 

 しかし。

 

 

(──傷が浅い)

 

 

 固い。

 確かに刃は通った。しかし、外側の皮膚を切っただけで、決定打にはなっていない。

 

 

「王を、舐めるなよ!」

 

 

 人柱の王獣は、人間の集合体。人間のあらゆるパーツが、乱雑に組み合わさり、一つの形を成している。

 

 ではその人間は何処から発生したものか。

 十中八九、さっき本会議場に居た認知人間達だろう。

 

 ここでウィッチは思い返す。

 シドウはパレス内のシャドウに認知人間の側を着せていた。詳しい原理は不明だが、少なくともある程度は自分のパレスをコントロール出来るという事だろう。

 

 つまり、シドウパレスに存在する認知人間はその全員がシャドウであるという可能性を捨てきれない。

 そして本会議場に居た彼らもまた同様。

 

 

 ウィッチは認識を改める。

 

 人柱の王獣のタフネスは何も認知によるものだけじゃない。

 見ての通りの人の集合体、シドウパレスに存在する認知人間の集合体。言い換えれば、シャドウの集合体。

 

 

(なるほど)

 

 

 シドウの足元が蠢く。

 人の背だと思われていたソレは、たちまち人の顔が寄せ集まった何かに変わっていく。唱える様に蠢く複数の口、標的を見据える沢山の眼。シドウを合図に、口先に集約される魔力の塊。

 それらがウィッチに向かって、一斉に放たれる。

 

 

「っ! 雪雫!」

 

 

 獅子の背で起こった爆発音は、クイーンまでしっかり届いた。

 ナビはそれを多数の魔法攻撃によるものと報告する。そしてその標的は、一人得物を狩りに行ったウィッチ。

 

 

「……上で何が…」

 

「油断した」

 

「ひゃっ!!」

 

 

 独り呟いたと思えば、すぐに聞こえた返答。

 音も無く現れたウィッチは、クイーンが気付くよりも前にヨハンナに相乗りしていた。

 曰く、爆発する僅か数秒前に飛び降りてきた、と。

 

 

「報告その一。シドウ本人もそこそこ強い。カネシロとかオクムラみたいな、本体が弱いタイプじゃない」

 

 

 本人が戦闘能力が無いから王獣を使役している訳では無く、あくまでもそれはシドウ本人の驕りである。

 

 

「報告その二。あの猫ちゃん、実際はシャドウの集合体。あと多分、形もシドウの思う通りに変形出来そう」

 

「何を言って──」

 

 

 途端、王獣の四肢が浮いた。

 跳躍では無い、飛んでいる。

 

 二人に被さっていた影が、段々とその面積を狭めていく。

 

 王獣の背には黄金の翼が生えていた。

 

 

『鬱陶しい小動物めが。そろそろ潰してやろう』

 

 

 王獣が咆哮を上げ、その口から影の塊を吐き出す。

 それは地面に堕ち、広がり、複数のシャドウの形を成していく。

 まるで軍隊の様だった。シドウを指導者として、前線を駆るシャドウの兵隊達。

 

 そんな中、シドウはさらなる高みで、地上をゴミを見るような目で見下ろしている。

 

 

「この通り」

 

 

 さもテレビショッピングの様に、このありさまを軽く紹介するウィッチに

 

 

「よくわかったわ。劣勢ね」

 

 

 クイーンは頭を抱える。

 

 火力勝負ではシドウに軍配が上がっていた。しかし火力差を埋める様に、怪盗団には手数があった。

 

 だが、ウィッチの強襲で判明した王獣の実態。

 それ手数の差を埋めるには十分なほどの柔軟性を有していて。

 

 

「なんじゃこりゃ! キリがねぇ!」

 

 

 空からの王獣の攻撃。地上を跋扈するシャドウ達。あらゆる角度から来る攻撃を躱しながら、モナが声を荒げる。

 

 

「このままじゃ、体力持たないよ……!」

 

 

 息を切らし、周囲のシャドウを焼き切るパンサー。

 他の皆も同様だ。空と地上。両方から迫る攻撃をいなすばかりで、攻撃に転じられない。

 

 

「でも、大したことない」

 

 

 しかし、それを僥倖と捉える魔女が居た。

 

 

「その心は?」

 

「パンサー」

 

 

 シャドウに取り囲まれているパンサーを指差して、クイーンの視線を誘導する。

 

 

「だいぶ消耗してる。でもその状態で魔法でちゃんと倒せてるし、致命的な攻撃ももらってない」

 

「シャドウ自体の耐久性はあまり無い……?」

 

「ナビ」

 

『なんだ?』

 

「猫ちゃんの今の状態、数値化出来る?」

 

『ヨユーだ、任せろ』

 

 

 数十秒後。

 ウィッチはクイーンの後ろで銃とか魔法とかでシャドウを処理していると、再びナビからの報告が届く。

 

 

『結論から言うと、魔力総量は減っている。あと耐久性もだ。嗚呼……こりゃ、シャドウ吐き出したからだな』

 

 

 いくらパレスの王とは言え、その力は無限じゃない。

 あくまでも個人の欲望による、個人の力。それは使役される王獣とて例外では無い。

 

 

「猫ちゃんの力の最大値は、シドウを除くこの船のシャドウ全部。仮に最初の状態をシャドウ全部を取り込んだ……100と仮定した時」

 

「手数を増やす為にシャドウ出した今は…100を下回っている…。個としてみれば弱まっている!」

 

『そしていくら敵が増えても、総合した強さは変わりない!!』

 

 

 だから息切れしたパンサーの攻撃ですらシャドウは倒せる。四方から迫る攻撃をいなしながらでも。

 

 

「と、言う事。じゃあ、あとよろしく」

 

 

 そして、怪盗団は今までのパフォーマンスが最大値……という訳ではない。

 ここまで攻撃に加わらず、温存していた切り札がある。

 

 

「ああ。任せろ」

 

 

 ジョーカー。

 複数のペルソナを使役し、突出した個を持つ怪盗団のメンバー、その全員との連携が可能。

 総評すればあらゆる場面で適応できるワイルドカード。

 

 ジョーカーを除いて次に手数が多いのはウィッチ。

 敢えて、ウィッチに先行させ、シドウの注意を引かせた。麻痺していたシャドウワーカーを表に引きずり出す切っ掛けをつくり、明智を倒した実績を持つウィッチを、当然シドウは警戒する。それこそ、直接命を狙われれば、尚のこと。

 

 だから、認識の埒外からの強行を、もう一度仕掛ける。

 敵の全貌が判明した…個としての力は弱まった今ここで、最大戦力を充てる。

 

 

「ヨシツネ」

 

 

 顕現する二刀の刃を持った伝説的な武将。

 大胆な戦術と神業の域に至ったその剣技は瞬く間に空間を切り裂き。

 

 

『バカな……!』

 

 

 翼もろとも、シャドウを一掃した。

 

 

 シドウに特別思い入れは無い。皆ほど憤りも無いし、憂いも無い。だから結果さえあれば。とどめが誰であろうと、倒したという結果だけあれば、それでいい。

 

 

 ───リカオンの好ましい所は、結果を想い求める合理性である。

 

 

 

 

 地上を埋め尽くしていたシャドウが虚空へと消えていく。

 シャドウの集合体である人柱の王獣は、力無く横たわっている。

 

 

『使えん愚民どもがっ!!』

 

「ケッ! 負けた時だけ愚民の所為ってか?」

 

 

 シドウ自体はまだ健在。というよりも殆ど消耗も無い。

 思いの他の手数の多さを見せた為、踏む手順が増えただけに過ぎない。

 

 

(つまり、ここからが本番)

 

 

 ウィッチが接敵した時に感じた感触は、まるで鋼鉄の様だった。

 雑兵の寄せ集めである王獣であれだけの出力。そのタフネスさは、より上だと想定しておいた方が良いだろう。

 

 怪盗団は皆、気を引き締める。

 

 

『…認めよう。油断していた。そして謝罪しなければ。貴様を侮っていたと』

 

 

 己の過ちは、己で正さなければ。

 そう、シドウは口にしながらジョーカーを見据える。

 

 

『賊とは言え、数が揃えば侮れんな…。こいつらを束ねているのが、貴様か』

 

「久しぶりだな」

 

 

 シドウの瞳が細まる。

 ジョーカーの口振りに、怪盗団という事以外の、彼を突き動かす何かを感じ取った。

 

 それは過去から這いずり出た脅威の体現の様だった。

 シドウを見つめるジョーカーの鋭い瞳が、過去の累積によるものだと、直観する。

 

 

「憶えてないの…? 裁判まで起こしておいて? 心底人を何とも思ってない様ね」

 

『裁判…だと……? 貴様…まさか!?』

 

 

 記憶が結びつく。

 自分を突き飛ばした、忌々しい少年の姿。

 

 

『…くく…。そうか、あの時のガキか。…こいつは興味深い巡り合わせだ。───だが、無駄な努力だったな』

 

 

 パンっ。

 

 乾いた音が木霊する。

 

 

「え……?」

 

 

 カラン。と大鎌が地面に転がった。

 

 

『強く有能な人間が存分に活躍するには、小さな犠牲は仕方がない。貴様らは、大義を成し遂げるための、礎に過ぎない』

 

 

 白い少女が、膝を付く。

 

 

「………雪雫!!!」

 

『お前も、その少女も。改める機会はあったというのに』

 

 

 白い肌には血がよく映える。

 お腹から溢れる血液は、白の肢体を汚していく。

 

 

「油断した。シドウさんの手駒は、さっきの王獣で最後だと思った。そんな所だろ?」

 

 

 そこに居たのはここに居る筈が無い人間だった。

 肩に付くくらいの茶髪に、人当たりが良い端正な顔立ち。

 

 

「……明智…………!」

 

 

 学校の制服に身を包んだ彼は、全く釣り合ってない無骨な拳銃をウィッチに向けていた。

 

 

『時代をつくるのは常に強者! 強固で確立された個そのもの! ──個を持たぬ傀儡には早々に退場を願おう』

 




ジョーカー鬼つええ!
このまま逆らうやつら全員ブッ〇していこうぜ!
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