PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
Profile:Winter
■■天■・イ■
産まれ堕ちたのは不思議でいっぱいの国でした。
落ちる感触はありませんでした。堕ちた感覚はありました。
海溝よりも浅く、洞穴よりも深い。
堕ちた先は不思議で満ち満ちています。
迷宮、迷宮、迷宮。道に迷い、景色に迷い、人に迷う。だと言うのに道は乱雑に曲がりくねり、看板は意地悪で嘘の方向を指しています。景色はいつも一定ではなく、花は色が変わり木々は足を持って移動します。人は減るよりも増える方が早くて、例えばハンプティダンプティは割れる度にその数を増します。この様に不思議の国は日々変化します。しかし変化は慣れを待ってはくれません。住民のペースで歩くのを許可しません。だからこそ迷宮なのです。誰も彼も、あの子もその子も。先頭に立って歩けないから。
だからこそ住民は案内人を求めるのです。だからこそ人は贄を選ぶのです。自らの代わりに先を照らしてくれる者を。迷宮の地図を書いてくれる者を。その選ばれた者も決して先頭に居る訳では無いのに。
決まって住民は先駆者に問います。先の道は安全かと。決まって先駆者はこう答えます。安全だと。
嘘を吐くのは必然です。後ろのみんなが安心出来るように、見えないものを見ているように言うのです。誰も疑いません。だって分からないから。誰も救われません。だって嘘だから。
とてもゆがんでいます。見ていると胸が痛み張り裂けそう。これでは先駆者は幸せになれないですね。どうしてですか。不相応な役割を担っているからですね。
残念ながら、住民の皆さまは羊飼いにはなれません。疲弊し摩耗し疲れますよね。疲れてしまったらいつか立てなくなってしまいます。そんなもの、皆さまがやる意味がありますか。やってて疲れるお仕事なんてやめちゃいましょう。
そうだ代理を立てましょう。えぇ、とびっきり素敵な代理人を。
みなさまの幸福を優先します。みなさまの安全を優先します。みなさまの繁栄を優先します。みなさまの全てを肩代わりします。
午後3時に食べるお菓子は好きですか。ティータイムは好きですか。好きですね。ならば心は休まります。よかった。それなら代理人は全てを許します。住民の皆さまは心からの安堵とともに永遠なるティータイムを楽しんでください。
これで等しくみんな幸福ですね。先駆者は吐きたくない嘘を吐かない。住民は嘘の道を歩く必要は無い。みなさま平等にお菓子と紅茶を楽しめる。安堵に包まれていますね。良い事です。安堵はみなさまを幸福にし、幸福は不思議の国を豊かにします。
だから誰も文句を言ってはいけませんよ。代理人を信じないなんて、いけないことです。決して案内された道にジャバウォックがお腹を空かせて居ても、いけないものはいけません。らんらんとした眼に睨まれるのも良しとしましょう。風を切る翼の音にみんなで耳を傾けましょう。鋭い鉤爪で抱かれたら抱いてあげましょう。強力なあごで啄まれたのなら、喜んで食べられましょう。
信じることは良いことです。ぜひ、代理人を信じてあげてください。
疑うことは悪い事です。剣をもって該当者の首を刎ねてください。
それがみなさんの幸福です。
仲間はずれはいけないことです。足並みをそろえましょう。次に出す足も。発する言葉も。思考も思想も価値感も。
それがみなさんの幸福です。
不思議の国はみなさんの幸福を信じています。幸福を願って施しを与えます。考える必要はありません。全て代理人に従いましょう。
満ち足りていますか。満ち足りていない方はいませんか。いたら迷わずお伝えください。ただちにお迎えにあがりましょう。ご心配せずとも大丈夫ですよ。きちんと住民へと戻れるように元の形に戻してあげますから。
平等こそが幸福です。安寧こそが望みです。
安心してください。
代理人はみなさまの願いを聞き届けます。
安心してください。
みなさまの願いはきちんと届けられ、不思議の国の運営に役立てられます。
穏やかな安寧を、緩やかな繁栄を、怠惰なる滅亡を。
代理人はいつだって皆様の幸福を祈っていますよ。