PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
獅童正義は罪を告白した。
怪盗団の狙い通り、開票日の当日の選挙速報を映すカメラの前…つまり大衆の面前で。
奥村邦和の死を指示した事。
一連の事件を怪盗団の仕業にする様に偽装したのも。
人の心を操作し、自分だけが利益を得ていたことも。
シャドウの言う通り、その全て。
──これでお前の更生を阻むものはいない。
──このまま何事もなく、事が進めばね。
イゴールの言葉がリフレインする。
本当に阻む者が居ないのなら、なぜ更生は続いている?
◇◇◇
12月20日 火曜日 晴れ
その日、業界に激震走る。
何の前触れも無く配信された天城雪雫の新譜は、年の瀬特有の盛り上がりとか、獅童の話題とか全てを抜き去ってトレンドを独占した。
陰陽を始めとする音楽番組が近くなり、各出場アーティストはあらゆるメディアでの露出が増える中での新譜の発売はとあるアーティストに「人の心とかないんか?」と言わせしめるほどであった。
新譜の影響はそれに留まる事を知らず、既存の曲も人気が再燃。新旧含めてストリーミングサービスではTOP10を全て天城雪雫が席巻した。
「いや、流石に勢い引くわ」
被害者第一号。
久慈川りせは語る。
「雪雫の活躍は嬉しいけど、先輩としては嫉妬もあるよネ」
これでもりせもりせで話題に事欠かさない。年末年始はどこの局からも引っ張りだこだし、新曲出せば大体オリコン確定なのだ。
「トップ10総舐めって雪ちゃんが初めてじゃない? ……まぁランキングはいいや。それよりもさぁ」
まぁ実際、2位を除いた全てをトップ10入りさせたロックバンドだっているし、驚きはするがそこまでだ。
新しいゲームエンジンが開発されて、全体のクオリティが一段階上がる様に、これを全体のレベルを引き上げるシンギュラリティだと思えば、まだ理解は出来る。
しかし。
「否定的な意見が一つも無いんだなぁこれが」
ランキングとは世間の趣向を反映させたものであり、その選出方法は基本はランダム。
ランキングの結果はマジョリティ側の意見が集まったものである為、7~8割くらいの人間が絶賛し、残り2割が否定的。みたいな塩梅だったらまぁ分かる。それでも凄いけど。
「100%、人に刺さる曲って無理じゃない?」
そうマネージャーに語る久慈川りせは、天城雪雫の話をしているのにも関わらず「しんどすぎ」りせちーの雰囲気を纏っていた。
▼
【さす雪】新譜爆誕!年越し前に偉業達成w【全曲チャート独占】
1:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:35:55
さす雪
7:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:37:04
さす雪
10:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:39:05
人の心とかないんか?
12:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:40:51
今年、陰陽初出演のアーティスト、話題喰われてて草
13:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:41:56
>>12 初出場どころか、既存アーティストも被害者なんですが…
15:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:43:09
>>13 アーティストどころか政治家もなんですが……
17:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:44:58
うーんw 獅童はオワコン!!
やっぱ雪ちゃんよ。
合法ロリは日本を救う
20:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:46:02
疲れ切った心に染み渡る雪ちゃんボイス……
もう、どうでも良いですわ……
22:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:46:55
雪ちゃんなら歌だけで国を良くしてくれそう
25:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:48:46
>>22 実際しているぞ。歳の瀬にクソどうでもいい政治家スキャンダルなんて聞きたくないしな
26:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:49:43
雪ちゃん鬼すげぇぇぇ!
逆らう奴ら全員歌で骨抜きにしていこうぜ!
32:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:51:25
>>26 それなんて超時空シンデレラ?
35:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:53:19
>>32 は? 銀河の妖精だが?
41:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:54:34
>>32
>>35 雪ちゃん「ん、どうでもいい」
46:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:55:40
>>32
>>35 雪ちゃんならそれすら超える存在 になれるさ………
50:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:56:59
初めて仕事バックレて趣味を優先しました……
骨抜きにされた。
今ならあの声で何を言われても言う事聞きそう
54:名無しの雪ファン 2016/12/21 13:58:31
>>50 雪ちゃん「雪様最高って言いなさい」
59:名無しの雪ファン 2016/12/21 14:00:25
>>59 雪様サイコー! 雪様サイコー! 雪様サイコー!
64:名無しの雪ファン 2016/12/21 14:01:13
雪様サイコー! 雪様サイコー! 雪様サイコー!
68:名無しの雪ファン 2016/12/21 14:02:47
雪様サイコー! 雪様サイコー! 雪様サイコー!
◇◇◇
12月23日 金曜日 晴れ
獅童の立件が怪しい。
そう冴さんに告げられた時、皆一様に驚いた顔をしていた。
──どうして?
獅童は今精神鑑定の最中で、一連の事件を解決出来無い歯痒さに病み、追い込まれてあんなことをしてしまった。という筋書きになっているらしい。
マスター曰く、獅童の悪事が明るみになるのを恐れた取り巻きが、各方面へ圧力を掛けていると。
──もう獅童なんてどうでもいいじゃない。
またそれに一連した事件のキーパーソン…怪盗団に関してはオカルトの域を出ない噂に過ぎなず、物的証拠も全て噂に便乗した悪戯とのこと。
あまりにも乱暴な言い訳。子どもの言い訳にも過ぎないそれは、あっさりと世間は受け入れているとか。
──みんなには私が居るでしょう
真は言った。世の中全てがパレスの様だと。歪んだ認知が蓋をして、自分達の知る正しい事象を目視出来無くなっていると。
──怪盗団が正しいってどうしてわかるの?
世の中全部の目を覚まさせる方法。あくまでも仮説ではあるが、モナはメメントスに何かからくりがあると睨んでいるらしい。大衆の無意識が具現化した大衆のパレス。仕組みはパレスと同じであれば、そこには必ずコアがあると。それを盗み出せば、理論上は改心が可能。
全員が頷いた。メメントスが消えると言う事は、確認されているイセカイが消える事で、それは怪盗団の解散を意味する。そう、分かっていても。その全員が行くと行っている。
「うん、行こう」
嘘。本当は行って欲しくない。
▼
最近、雪雫は一番に帰宅をする。
初めは陰陽周りで忙しいのかと思っていた。しかしそれも違う事がなんとなく見ていて分かった。
ふとした時に見せる困惑する様な表情。言動の節々に垣間見える、物事の興味の喪失。彼女のプライベートがめっきり見えなくなったのだ。あれだけ聞いていた久慈川りせの話も、今では数える程度しかしない。
それを心の機微というには、あまりにも彼女の様子は目に見えて変わっている。
最近、雪雫は一番に帰宅をする。
それは今日も例外ではない。
だからこの話をする。この雪雫が居ないタイミングで。
「メメントスの事なんだが」
モナが重々しく口を開く。
「気付いたのは偶然じゃねぇんだ。過去に似た様な事を考えた事があってな。ちょうど、斑目の改心が終わったタイミングだったか」
「雪雫の事か」
「ああ。オマエには何度か話したな」
モルガナが言う雪雫の異常性。
自分達を除き、誰も天城雪雫の事を認識していないこと。
「個人としての認識は当然ある。しかし、その個人としてのアマギセツナと、歌手としてのアマギセツナが結びつかねぇ。少なくとも大衆からしてみれば」
「学校とかで全く騒がれない件ね…。かえって好都合だったから、あまり気にはしてなかったけど…」
「そう、好都合なんだ。いくら何でも都合が良すぎる。何かある…。例えば、大衆の認知を操作しているとかじゃないと説明が付かないだろ」
今や陰陽も決まって、対外的にも活動数を増やしている雪雫。
目立たない容姿という訳でも無い、かといって普段変装しているとかも無い。
「……そうね」
話を流れを汲み取った冴が、そういえばと言う様に口を開く。
「これは明智から聞いた事があるんだけど。彼女、警察の尾行を巻いたらしいわね。それも自宅の近くで。警官は言い訳をする様に、見失ったと言ったらしいわ。自宅までは一本道だったのに」
それに、と続ける。
「さっき獅童の立件が難しいと言ったけど、少し伝えた内容に誤りがあるの。本人が居る前だから、言わなかったんだけど。大衆の興味が獅童からあの子に向けられている様に、法的機関内でも支持する声が出始めたわ。政治家でも無い、あの子の名前がね」
「これは…ビンゴだぜ…!」
真意は不明。手段も不明。
しかし、天城雪雫に纏わる何らかの事象で、大衆全体に作用する認知が働いている。
「本人が意図してるにしろ、誰かが糸を引いているにしろ。絶対に何かある。明日、連れて行くぞ。──メメントスに」
雪雫が居ぬ間に交わされる密約。
帰路についた筈の雪雫が外で聞いていることも知らずに。
「────」
全員が同意を示す。
恐らく、善意からのものであった筈だ。雪雫を心配して、何とか解明してあげようと。
「───そっか、気付いてたんだ」
しかし、善意が。仲間達の気遣いが、雪雫に牙を向く。
「私だけがおかしいって」
▼
見て見ぬふりをしても、いずれ知ってしまうことが、この世にはある。
耳を閉ざしても、聞こえてしまうことが、この世にはある。
それを世間は一般常識、共通の認識、暗黙の了解。それらを共通言語として、枠外の存在を苦しめる。
歌手としての自分を認識されない世界は心地が良かった。
心の何処かで異常とは認識しつつも、誰を傷つけている訳でも無かったから。言われても聞こえない振りをしていた。周りもそれを良しとしてくれいて、受け入れてくれていた。
──そう思っていた。
やはり私はおかしいらしい。おかしい私は、仲間外れにされちゃうみたい。
──普通ってなに。
ご飯を食べること。眠ること。ゆっくり傷が治ること。髪が伸びること。成長すること。病気で死ぬこと。シャドウに殺されること。お腹を撃たれて死ぬこと。首を絞められて死ぬこと。
──知らないよ。
普通であったこと無いもん。
今回の様に、いつかまた綻びは生まれるのだろうか。
私という異常と、皆という普通。
その度、私は苦しみに苛まれ、それを見て皆は顔を曇らせるのか。
異常を迫害するような人たちだとは思っていない。寧ろ、温かく迎えてくれるだろう。
──それが辛いよ。
私の異常を見てくれ。それを含めて扱ってくれ。どうせ傷は癒えるから、頬っておいて。優しくしないで。
化け物は化け物らしく、扱ってください。
──そうじゃないと、私は一生苦しいままだ。
皆の優しさを喰い物にしているようで。
▼
12月24日 土曜日 零時
そこに行けば分かるだろうか。
化け物なりの役割というものが。
「……メメントス」
鼓動が早まる。
1人で来るのはいつ明智のときいらいか。時折通るシャドウを乗せた電車の音と、歩くたびに響くヒールの音が木霊する。
(以前来た時よりも静かだ)
周りのシャドウは襲ってくる様子は無く、ただこちらを観察するだけ。その視線の色は何だろうか。恐怖か畏怖か、それとも崇拝?
ただ一つ分かるのは、私という存在を受け入れている。
「……今ならきっと」
そうして辿り着くメメントスの最奥。少なくとも当時までは。
今ならこの先へ行ける。そういう確信がある。理論や証拠なんて無い。ただ、そう感じる。私のナニカが、強くこの先へと引っ張られている。
「───」
手を遮る壁に添えれば、予想に反してあっさりと続く道が現れる。
一歩。また一歩。踏みしめる度に心が軽くなる。今までの悩みが嘘の様。胸に抱いた様々な欲も泡沫の様に消えていく。胸に溢れる安堵と幸福。さながら、母の抱擁のような安堵。
(そうだ)
霧がかかった脳内が鮮明になっていく。
(私は使いだ)
一歩踏み出す度に、霧は晴れ、温かな日差しが差し込む。
その日差しが、私をあるべき姿へと導いてくれる。
(わたしは つかい なんだ)
生まれて初めて分かった己の機能。魂に深く刻まれた己の役割。誰もに導きが与えられるわけではない。誰もが己の定義を知れる訳ではない。だが、私は幸運なことに、それらは得られた。この広い宇宙で、この混迷極めるこの惑星で、私は自分の役割を全う出来る。
何たる僥倖、何たる幸福。これを奇跡と呼ばず、何というか。
歩みを止める事は無い。足取りは軽やかで、進むべき道はハッキリと分かっている。
下へ下へ下へ。人類が辿り着く事の無い、地の底へ。天にも昇る気持ちで、私は堕ちていく。
──そして、ようやく最深部に辿り着いた。
「───嗚呼」
全ては神の御心のままに。
▼
同日 深夜 2時28分
所内各地で鳴り響くけたたましいサイレン。
「何事だ!」
研究員達が慌ただしく往来する中、桐条美鶴は声を荒げた。
非常事態。それは彼女も分かっている。そうでなければ、こんな真夜中に叩き起こされない。
「メメントスの活性化を確認しました!」
「…きたか…っ………」
考えていなかった訳ではない。
怪盗団があんな大々的に獅童に予告を出し、宣言通りに改心したというのに誰も話題にしない。まるでそんな存在なんて始めから無かった様に。
獅童一派の残党が睨みを利かしているにしては、あまりにも範囲が広大過ぎる。何故なら確認出来ている影響範囲はこの国全土なのだから。なら、通常では成し得ない手段が必ずある。
そう考え、シャドウワーカーは常に獅童のパレスが消滅した以後も、最後のイセカイ:メメントスを監視していた。
そしてそれが今日、予感が的中する事となったのだ。
「イカイ深度上昇……! そんな…さらに数値を上げています!
「現実と融合しますね。間違いなく」
取り乱すオペレーターに対し、努めて冷静に語ったのは丸喜拓人。夏の八十稲羽で起きたイセカイ事件の首謀者にして、シャドウワーカーの研究員。
「原理としては八十稲羽で僕がやったのと同じことでしょう。しかし、こちらの方がよりスマートで効率的だ」
一枚の白い紙を黒に染めるとして、筆を使って端から塗りつぶすか、黒い絵の具に紙全体を沈めるか。果たして人はどちらの手段を好むだろうか。
丸喜は前者を選んだ。何度も同じ作業を繰り返すことで、黒の面積を大きくしていこうと、画策した。
しかし今回の確認されたのは後者の方法。順番や手順など関係無く。全て平等に染め上げる。
結果は同じ。白い紙は黒に浸食される。
──だが、世界を丸ごと塗りつぶすなど、
「僕が八十稲羽という地を選んだのはたまたまです。あそこのイセカイには管理者が居なかった。だから不在の管理者の代理としてコントロールしようとしました。だけど僕は所詮偽物です。馴らすのに随分と時間を要しましたし、あのままシャドウワーカーが介入しなくとも、もう少し掛かっていたでしょう。いきなり全てを塗りつぶすなんて───」
「長期に渡たり計画されたもの。もしくは」
「管理者…もしくはそれに相当する何かが現れた、か」
美鶴は僅かに目を揺らし、すぐさまスマホを取り出し指示を飛ばす。
「ペルソナ使いを出来る限り集めろ。今すぐだ」
桐条美鶴に予感が過ぎる。想定しうる限りで最悪に分類されるもの。
(……似ている)
最後の満月の時。狂う人々、湧き立つシャドウ、現実への浸食。
──どうしようもない、終わりの気配。