PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
12月24日 土曜日 放課後
「セツナ、こねーな…」
「学校は無断で休み…。既読も付かず、電話は繋がらない。勿論折り返しも無いわ」
終業式後、ルブランに集合。
そういう約束であった筈だ。怪盗団として、おろらく最後になるであろう仕事。大衆の改心。全員集まらなければ、全会一致の意味が無い。
しかし、待てど待てども最後の1人。天城雪雫は来ない。
「双葉よぉ。GPSで追えねーの?」
「無論試した。だがダメだな。現在、電波の届かない状態~ってやつ」
「雪ちゃんってここまで反応無いってなると……」
「何かに巻き込まれた。そう考える方が自然か?」
仮にトラブルに巻き込まれたとして、一番真っ先に思い付くのは獅童一派の残党だが。
(……いや、冴さんの話から察するに、こちらが想定しているよりは機能していない)
法的機関内に現れ始めたという天城雪雫を支持する声。
獅童と雪雫は違う。
彼は腐っても政治家で、自らが治めんとしたこの国が破綻しない様、最低限の事はやってきただろうし、そういう点でも一派の旗振りの役目もあった筈。
しかし、雪雫はあくまでも学生で歌手だ。その彼女を支持するという事はカリスマ性というその一点。何となく、という思考停止状態。それは法的機関の麻痺、停滞を意味する。
冴さんの言う、立件が難しい。はそういう事実も含まれているのだろう。
(公務員と言えども、マクロな視点では大衆の一部に過ぎない。この大衆全体が雪雫を狂信するムード…。何かに巻き込まれたと言うより──)
カランカラン。
来客を知らせる甲高い鐘を聞き、蓮は思考を止めた。
蓮も、真も。この場の皆が顔を上げ、入口を注視した。
ようやく、雪雫が来たかと。
「失礼する」
しかし次に店内に響いた声は想像よりも一段二段も大人びていて、凛としている女性の声だった。
「天城雪雫以外揃っているな? ……ふむ、よし」
コツコツと特徴的な赤髪を揺らしながら、桐条美鶴はルブランの奥へ。
そしてその後ろを追従する様に、見知った顔を含む何人かの構成員が狭い店内に足を踏み入れる。
「…貴方達は……!」
鉄の乙女・アイギスとラビリス。
裸マントのプロテインジャンキー・真田明彦。
初代ダークマターの担い手・山岸風花。
どぎつい視線の戦隊ピンク・岳羽ゆかり。
噂は雪雫から聞いていた蓮は、存外に解像度の高い情報提供に驚きつつも、驚愕を口にする。
「シャドウワーカー……!」
そして、彼らに続く二つの影。
「ほう、彼らが噂に聞く怪盗団。雪雫ちゃんの仲間達ですか。なるほど、良い眼をしている」
「でしょ? 直斗くんも思い出すよね」
一世を風靡した初代高校生探偵・白鐘直斗。
そして、雪雫のお馴染み・久慈川りせ。
「……どういう繋がりだよ…これ」
モルガナが皆の代わりに困惑を示す。
「ほう。コイツが人語を話すという猫か。興味深い」
「正確には人間の言葉を話すというより、私達が理解出来る様になるらしいですよ。真田さん」
「ふっ。結果は同じ事だ。細かくなったな岳羽。美鶴に似てきたんじゃないか?」
あまりに自然なやり取りを交わす2人。
シャドウワーカーの前身は桐条美鶴が学生だった時代のあったシャドウ案件。それの解決のために集められたペルソナ使いの集団【S.E.E.S.】だと言う。
(なるほど。会話の内容から察するに彼らが……。いや、しかし)
白鐘直斗と久慈川りせ。
その2人とシャドウワーカーの繋がりだけが見えてこない。
共通の知人として雪雫が居るが、後の2人がシャドウワーカーの関係者だという話は雪雫から聞いた事は無い。
「……シャドウワーカーはまだ分かるけど…。白鐘さんとりせさんは何でここに…。それに、雪雫以外ってどういうこと……?」
同じことを考えていたらしい真が、真っ先に疑問を投げかけた。
「……単刀直入に言えば、我々もペルソナ使いだからです」
「──マジで? ペルソナ使いってそんないんの?」
「坂本くんの疑問は最もですが、今は時間がありません。事実を情報として伝えますので、どうか冷静に聞いて頂けると…」
美鶴さん。そう直斗は美鶴に視線をやると、神妙な顔持ちで桐条美鶴は口を開く。
「本日未明、シャドウワーカーはメメントスの活性化を確認。イセカイから現実への浸食の程度を数値化したイカイ深度は最高レベルを観測。これを我々は観測史上三度目の人類の危機と断定」
「………つまり?」
「このままではイセカイと現実が融合し、シャドウが跳梁跋扈するという事だ」
「現実世界がそのままそっくりパレスやメメントスの様になる、と……」
「ヤベェじゃん!」
「だからそう言ってるの。このおバカ!!」
と杏からの鋭いツッコミが竜司の頭に炸裂する。
(……順平の姿が重なるな)
(話が進まなくなるから置いてきたが、ここにも……)
真田とも美鶴の脳裏に過ぎるお気楽男・伊織順平。
彼もまた、歴戦のペルソナ使いではある。
「本日早朝。山岸風花、久慈川りせ両名によるメメントスの解析を実行。結果、内部構造の変化とその最奥に膨大なエネルギーを確認。それをメメントスのコア……つまり君達の言葉に合わせるのなら、オタカラと予測。シャドウワーカーは対象の奪取、もしくは破壊をもって、メメントスの完全消滅を目標とした」
「つまり、俺達と目的は同じという訳か」
「ああ……。だが、怪盗団と共闘するとは言っていない」
「どういう事だ? 目的は同じなのだろう?」
両者の間に緊張が走る。
訝し気に眉を顰める祐介と、冷静な態度を崩さない美鶴。
そんな中、静観していた直斗が美鶴に代わって口を開く。
「風花さんとりせさんの解析で判明したのは、何もオタカラだけという訳ではありません。………その周囲に、ほんの僅かにですが雪雫ちゃんの反応も確認しました」
「……雪雫…! やっぱり…巻き込まれて…………!」
「いえ、我々はそうは考えていない。勿論、零ではありませんが。
不味い。と蓮は思った。
状況から察するに───。つまり今回に限った話では無いのだろう。彼らはずっと、恐らく俺達の想定よりも長い間、雪雫を見てきたのだ。
「以前から確認されていた天城雪雫の周囲での認知改変。獅童正義という強大なパレスを持つ敵を倒したタイミングでのメメントスの活性化。我々はメメントスのコアを天城雪雫自身だと考えています」
「───え? 何を言って………」
「もう良い。私から言おう」
直斗の言葉を止め、再び話の主導権は再び美鶴へ。
彼女は意を決し、眉を厳しく吊り上げ、言葉を発する。
「今回の作戦にコアの生死は問わない。つまり、君達の友達ごっこで見逃されたら叶わん、という事だ」
「───てめぇ!!!」
一早く、激昂した竜司が美鶴に詰め寄る。
「ほう。見かけ通り、威勢はいいな」
しかしそれを薄い笑みを浮かべた真田が立ち塞がり、彼を止めた。
「雪雫を犠牲にして世界を守れってことかよ! あぁ!?」
「あくまでもそうせざるを得ない可能性があるという話だ。最も、1%でもある以上、お前達に頼む気は無いが」
「少しでもアンタらを頼もしいと思っていた自分を殴りてぇよ……!」
割れんばかりに歯を食いしばる竜司の後ろで、ガタンと大きな音が響いた。
「……雪雫を…見捨てる…………?」
真だ。
力が抜けたようによろめく真が椅子にぶつかったのだ。
それでも彼女は倒れた椅子をそのままに、目を見開いて動揺を隠そうともしない。
「……なんで…」
ようやく絞りだした言葉は疑問。
「なんで、貴女は…そんな平気そう、なの。…りせさん」
八つ当たりにも似た、疑問だった。
顔色も変えずに、そっち側に立って傍観している
「……………」
しかし彼女は答えない。
その真意を明かす事無く、美鶴に視線をやる。
「勘違いするな。我々は敵ではない。ここに来たのは天城雪雫の現状とその結末を告げに。何も知らないままでは、彼女も浮かばれまい」
「どの口がっ────」
「待て、真。ここは俺に」
憤る真と竜司。そして困惑と悲壮を浮かべた仲間達にそれぞれ目を配る。
──ここは俺に任せてくれ、と。
「美鶴さん。本心じゃないんでしょう?」
「────」
「シャドウワーカーはメメントスに入る手段を持たない。イセカイナビが無いからな。だから、最低でも1人。俺達の誰かの協力が無ければ向こうにはいけない」
「忘れたか。我々は明智吾郎の身を確保している事を」
「明智のナビは双葉が管理し、観測している。何か書き換えられたり、分析したりした形跡も無い」
あの件以降、明智のスマホは沈黙を保ったまま。
スマホ自体の使用履歴も無く、恐らく証拠品として丁重に保管をしているのだろう。
「だが貴方達は俺達と対立するかの様に、わざわざ自ら協力関係を放棄するような言い方をしている」
「……実力行使でナビを奪取されるとは思わんのか」
「ならもうやっている筈だ。俺達は貴方達とは違って現実で力を使えないから、本来、この会話自体必要無い。しかし、今こうしているという事は、貴女達の目的はこの構図自体…という事らしい」
俺達にメメントスの現状を、雪雫の状況を伝える。
事実を情報として伝える。そう、最初に言っていた。最初から協力する気が無いのなら、俺達に情報を与える必要は無い。
「その上で俺達の回答を示そう。俺達、怪盗団は単独でメメントスに侵入。コアであるオタカラ…天城雪雫を頂戴する」
「……破壊のみしか道が無かった場合はどうする気だ? 諦めて世界と共に滅ぶのか?」
「ならば新たな道を造ってみせるさ。雪雫を連れ帰る。世界も守る。そんな結末を。
美鶴は、何も言わない。
彼女の横に真田も、後ろに居る他のシャドウワーカーも。
静かに、ただ耳を傾けている。
「雪雫の真意は分からない。何故、この状況になってしまったかも。彼女が巻き込まれたのか、それとも望んだのかも、何も分からない。だが、俺達は雪雫を信じている。彼女は意味の無い事はしない。巻き込まれたのなら、その近くで独り抗っているのかもしれない。望んだのなら、世界を滅ぼすに値する苦しみを独りで抱えているという事」
「───ほう」
美鶴が僅かに、ほんの僅かに眉をピクリと動かした。
「どちらにせよ、今の彼女は独りだ。たった独りでナニカと戦っている。俺達は彼女を独りのままにはしておけない」
思えば、彼女は影の様だった。
先に進む為に単独で先行したり、敵を倒す為の隙を作ろうと単独で突っ込んだり。目立つ様で目立たない。影ながら、怪盗団が進むべき道を作ってくれていた。
「今度は俺達が彼女の道となる」
ふと、緊張の糸が切れたように美鶴の眉間から皺が無くなった。
「さて、そろそろ配置につきましょうか皆さん」
「風花の解析によれば、渋谷から仰山シャドウが出るんやと。気張りや!」
アイギス、ラビリスに続いて、シャドウワーカーの面々は踵を返してルブランを後にする。
皆それぞれ、満足したような笑みを浮かべて。
「───独りのままにはしておけない…か。ふっ…その言葉、忘れるんじゃないぞ」
ポン。と蓮の肩を叩き、桐条美鶴も後に続いて店を出る。
最後まで残ったりせ、直斗は顔を合わせてはその様子を見てケラケラと笑っていた。
「もう、素直じゃないんだから。ねぇ、直斗くん?」
「全くです。──ではりせさん。後は頼みます」
「任せて! 直斗君も、気を付けてね」
バイバーイと手を振って追うように出て行った直斗を、その背中が見えなくなるまで手を振るりせ。
「結局…何だったんだ……?」
わけわからん。とポカンとしている竜司と杏。
「心配だったんだよ。皆のコト」
「そうみたいだな」
彼らの過去は推し量れない。
相当の苦難と絶望の中で、小さな奇跡を掴み取る様な過去だったのだろうと、察することだけは出来た。
桐条美鶴の瞳がそれを語っていた。
「えーっと、それで……」
「りせち―…じゃなくてりせさんは皆と行かないの?」
「うーん。それも良いけど、私は皆についていこうかなーって。りせちー役に立つよ? 双葉ちゃんみたいに何かを創るとかは出来ないけど、解析とかは自信あるし! シャドウワーカーの本部からメメントスの大枠が分かるくらいには範囲も広いんだから!」
それに。とりせは続ける。
「本当に雪雫がオタカラなら、必要でしょ。皆の知らない雪雫を知っている私が」
確かに今のメメントスがどうなっているか分からない。
シャドウワーカーの仮説通り、雪雫自身がコアとなっているのなら、それに合わせてメメントスも変化している可能性は十分ある。パレスの主の認知がそのまま反映される様に、メメントスでも同じことが起きているかもしれない。
「真ちゃん。さっきの質問無視してごめんね? ちゃんと答えるよ」
「え、あ。はい……」
「何で平気そうなの……だっけ?」
それならば、きっと久慈川りせは最適のキーだ。
だって
「────────平気なワケ無いでしょ」
雪雫の為に、こんなに想う事が出来るのだから。