PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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138:Jabberwock.

 

 

 探索自体は順調だ。

 いや、いつにも増して快適と言っても良い。

 

 2人目のナビゲーターである久慈川りせ。流石とも言うべきか、やはり彼女の先駆者としての力は計り知れない。戦闘に直接参加すること無いため、雪雫が居ない分の手数は減っているのが現状。しかしその穴を埋める以上の情報でサポートしてくれている。

 

 

「私、解析特化だからあまり期待しないでね。本当にザコザコだから! 双葉ちゃんみたいに何かを創るとか、皆のポジションを変えるとか。物理的な干渉は出来無いから! そこんとこヨロシクね?」

 

 

 と力の無さを必死にアピールする様にまくし立てていたが、とんでもない。

 

 未知のエリアであるワンダーランドの地形を全域とはいかなくとも、ある程度の規模感で把握出来ている為、迷わない。勿論、地図も無しにだ。

 加えて、初めて接敵するシャドウの弱点が攻撃前に分かるため、試しに攻撃したら反撃にあった。なんて事故も無い。

 

 確かに彼女の言う通り解析特化だ。こと解析という分野においては、ナビよりも頭一つ抜けている。

 

 

「あ? なんだこりゃ」

 

「看板…だね。何か書いてある……」

 

 

 そんな久慈川りせとナビというスペシャリスト達の導きのもと辿り着いた森の端。光すらも遮るほど所狭しと生え並ぶ陰鬱な木々。まるで一本の道を作らんとばかりに羊歯の絨毯が木々の間を縫っている。そんな道中、突如として現れた人工物、看板。

 

 

「喰らいつくその7つの顎、搔きむしるその爪。らんらんたる14

のまなこ燃やしたる。ひとごろしきその獣、返り血に染まりて風切り飛びきたり。嗚呼、彼女がやってくる……?」

 

 

 ひとしきりノワールが読み上げると「ナニコレ」と言った様子で一同は沈黙する。

 

 

「雪雫の反応とやらはこの先……だったよな」

 

「──うん、そうだね。場所は変わらない」

 

 

 このパレス全域に広がる雪雫の反応とは別に感じた気配。それを辿ってここまでついた訳ではあるが。

 

 

「この先なにかあります…ってことよね、コレ。ハッタリ? それとも雪雫からの警告?」

 

 

 パンサーが分からん!と声を荒げながらもう一度、呪文のような内容を復唱する。

 

 

「……いや…意味なんて無いんじゃないかしら」

 

「というと?」

 

「らんらんたるまなこ、ひとごろしき……。多分、ジャバウォックの事ね」

 

 

 クイーンが目を光らせ、そう語る。

 

 

「ジャバウォック?」

 

「正体不明の魔獣よ。鏡の国のアリスの作中の詩の中で語られる、ね。この鬱蒼とした森に、地下に広がる不思議なパレス(世界)……。雪雫のペルソナってアリスでしょ?」

 

「セツナのメメントスに対する認知がアリスの世界ってコトか?」

 

「多分だけど。少なくとも、童話に引っ張られているのは間違い無いと思う」

 

 

 話を戻すけど。とクイーンは続けた。

 

 

「ジャバウォックの詩はよく分からないっていうのが一般的な解釈。言葉遊びとなぞなぞを多用した一つの遊びとして存在するものだから、物語としての深い意味は無い。だからこの警告も、そもそもこれが指す彼女も、きっと遊び以上の意味は無い」

 

「……意味が無い…ふぅん」

 

 

 りせがさも興味有りそうに溜息を吐く。

 

 

「ま、この看板の内容に意味が無くても、私達がこの先に行く事には意味あるよ! だって雪ちゃんの反応はこの先だし」

 

「りせさん…それはそうなんですけど…。ちょっと本来の内容とは違う部分もあって──」

 

 

 原文において、ジャバウォックの姿や性別に言及する様な描写は無い。

 あくまでも叙事詩をパロディした作中の詩の中で、言葉遊びの中で生まれた怪物なのだから。

 

 だからそこの解釈は読者、表現者に委ねられる。

 例えば、映画ではラストバトルを飾る最大の敵として描かれたり、ゲームでは本編と離れたちょっと強い位の敵キャラとして描かれたり。

 

 ジャバウォックの真価は「良く分からない事」であるから、その時々で都合の良い様に役割と外見を当て嵌められるもの。

 その多くに共通するのは、ソレが竜であること。

 

 そしてそれはこのパレスでも例外ではない。

 

 

『───────!!』

 

 

 それは獣の声だった。

 

 地を揺らすほどの咆哮が上空から響き、そして次に空を切る音が一同の耳へ届く。

 

 

(……いつの間に!)

 

 

 一瞬の出来事であった。

 

 獣の唸り声が聞こえたかと思えば、次には目の前に壁の様に彼女が立ち塞がっていた。

 

 

「……なるほど、彼女…」

 

 

 ジョーカーは呟きながらナイフを構え臨戦態勢へ。他のメンバーも続いて姿勢を低く構え、備える。

 

 

 王冠を携えた七首の紅い竜だった。14の眼を怪盗団に向け、生暖かい息をそれぞれが意思を持って吐き出している。

 そして、その竜の上に腰掛ける紅いローブの骸骨の女性。

 

 

「内容に偽り無し、か」

 

 

 再び、竜は吠えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻 渋谷駅 構内 ヒカリエ前

 

 

 

「やっば」

 

 

 覇気がない人々が行き交う中、1人スマホを睨み付け茶髪の女性は頬を掻いた。

 

 

「迷った!」

 

 

 こんなんじゃ1人で行けるなんて見栄を張らなければ良かった。

 そう里中千枝は肩を落とす。

 

 

「ちっくしょー花村め。何が「スクランブル交差点の辺りで待ってるゼ!」だよ! キョーツー言語を使いなさいよ! キョーツー言語!! 田舎出身舐めるなよあのヤロー!」

 

 

 田舎に流刑を受けた落ち武者の良い笑顔が浮かび、千枝はますます不機嫌そうに眉を顰める。

 

 

「大体皆、なんでそんなに都会慣れしてるのよ」

 

 

 仲間一人一人の顔を思い浮かべる。

 

 元々、都会出身の花村と鳴上くん。

 仕事柄こっちに居る事が多い、りせちゃんと直斗くん。

 一人暮らししている雪雫と、妹のサポートで内見から引っ越しまで何度もこっちに来ていた雪子。

 

 慣れていないのは私、完二、くまだけ*1

 

 

「クソ~。地図見れば行けると思ったんだけどな~。最近、教官にもその辺り褒められたし……」

 

 

 ちなみにスクランブル交差点とヒカリエは真逆の場所である。

 

 

 

 

 

「あ゛~~。わりぃ、ちょっと休憩!」

 

 

 スカルが羊歯に背中を預け、地面に寝転がる。皆も息絶え絶えという様子でその場に座り込み、呼吸を整え始めた。

 

 

「……うん、周囲に敵反応ナシ。いやー強敵だったねぇ。まさか毎回弱点変わるなんて!」

 

 

 そうりせさんが俺の肩をポンと叩きにこやかに笑う。

 一見、余裕そうに見えるが、実際には彼女の額にも汗が流れている。一体の敵に対して、何回もアナライズを繰り返したのだ。ナビともども疲労は少なく無いだろう。

 

 

「名前通り、よく分からない敵だったわね。弱点も耐性も、繰り出す攻撃も毎回バラバラで一貫性が無かった」

 

「手強かったが、芸術的な観点で及第点のようなヤツだった。言ってしまえば、子どもの落書きのような」

 

「まーた始まった。おイナリの芸術論」

 

 

 やれやれとナビが首を振る、がフォックスの瞳は真剣そのもの。

 

 

「皆は戦ってて思わなかったか? らしくない、と」

 

「あ、何がだよ?」

 

「雪雫のパレスに出てくる敵としては相応しくない。そうでしょ?」

 

 

 クイーンの問いに、フォックスは首を縦に振る。

 

 

「洗練された動きと天才的な直感力。それらが織りなす計算された表現。演者、そして怪盗団での雪雫はそれを得意とし、本人も美徳としていた筈だ」

 

「……うん…つまり?」

 

「要は無駄を好む様な性格じゃないってコト。やるからには意味が欲しい雪雫にとってジャバウォックは対極の存在なのよ」

 

「ああ、だから雪雫が主ならここに存在する訳無いってことか」

 

 

 ポン。っとスカルは拳を叩いて納得を示す。

 

 

「そこの所、どうなんですか? りせさん」

 

「んー?」

 

 

 皆の視線を受けるりせは変わらず笑みを浮かべているが、ほんの少し瞳が迷いで揺れていた。

 語るべきか、それとも──。

 

 

「……まぁ、分かるよ。すぐに」

 

 

 パチパチパチパチパチパチ。

 

  

 乾いた音が辺りに響く。

 軽やかで、リズミカルで、拍手と言うには少し無感動なソレは段々と大きくなって。

 少女の言葉と替わるように拍手は鳴りやんだ。

 

 

『思ったより早かったじゃない。もう少し苦戦するかと思ったわ』

 

 

 底冷えする様な少女の声だった。

 

 羊歯を下敷きにしていた一同は一斉に立ち上がり、各々の武器を手にして──その姿を見て僅かに力を緩めた。

 

 青白い肌。艶やかな金髪。怪しく光る金色の瞳。

 10代の少女を思わせる、その容姿。

 

 

『こんにちは…怪盗団。そして久慈川りせ。初めましての挨拶は……不要よね?』

 

 

 陰鬱な木々を掻き分け、羊歯を踏みながら、魔人アリスは優雅に微笑んでいた。

 

*1
完二とくまは直斗が迎えに行ったため、迷う要素は皆無。千枝は入れ違ったため知らない




七首の竜に乗った骸骨と言えばこの女~!
真3HDベストオブ悪魔:第11位 大淫婦バビロン:マザーハーロット!

はい。

実は雪雫のペルソナとして起用する案があったのですが

・伏線を凌駕した厄ネタ臭が凄い
・描写が某作品のローマ皇帝に引っ張られそう

という事で没案になりました。
その為、最終番のここで供養。

ちなみに私はペルソナ、メガテンとも毎回使ってます。

最近フィギュア買った
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