PERSONA5:Masses In The Wonderland. 作:キナコもち
「アリス……雪雫のペルソナ…か? 本当に?」
「さぁな…。少なくともペルソナが単独で行動するなんて聞いた事ねぇぜ。増してや、意志の疎通が出来るなんてな。シャドウと言われた方がしっくりくるぜ」
見知った姿に武器を握る手を緩めた一同だが、警戒までは解いていない。
アリスの外見を被ったシャドウ…シドウパレスの例が余計にそうさせていた。
『シャドウとペルソナ…そこの区別ってそんなに重要かしら? どちらもニンゲンが持つ仮面の一部だというのに』
無意味な問答は好きだけどね。とアリスはクスクスと嗤った。
「じゃあ質問を変えるわ。アリス…貴女は雪雫の一部なの?」
『新島真…ずっと、あの子の中で見てきたわ。答え合わせを貰わないと気が済まない性質は相変わらずね。これも
「……うん、そうだね。皆、警戒を解いていいよ。敵意は見られない。この子は間違いなく雪雫の一部…ペルソナで…シャドウ」
『分かってくれて嬉しいわ』
くるりと身体を翻して、アリスは更なる奥地へ進む。
ついてこいと言わんばかりに。
『不思議の国にはガイドが必要でしょ? 私はあの子が残した白ウサギ。後の話は道すがら、ね?』
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アリスは機嫌良さげなリズムで、今すぐにでもスキップでもする様な軽やかさで先導する。
まるでこの世界は自分の庭だと言う様に。
「……詳しいのね。この世界のこと」
『それは帽子屋に時間を尋ねる様なものよ、新島真』
「無意味な問い掛けだと?」
『ええ。そしてバカげた質問は時に人を苛立たせるの。憶えておいて、雨宮蓮』
クイーンと眼が合う。
今のアリスの返事で仮説が真説へと変わったのをお互いが理解したのだ。
アリスにとってワンダーランドに詳しいのは当たり前。そしてアリスは自分自身の存在について雪雫の側面であることを肯定した。シャドウワーカーが示した雪雫=メメントスのコア…即ちオタカラというのは事実らしい。
「………何であの子がこんなことを…」
『それも愚問よ。ジャバウォッキーは敵に相応しい。白ウサギはガイド役であるべきだ。姿形は時として違えども、この子はこうであって欲しいという願いがあるでしょ? 貴方達は認知…なんて言っていたわね。雪雫はそんな認知の押し付けを律儀に守っているだけよ』
「分からんな……何故ただの少女である筈の雪雫に認知が押し付けられる? そもそも向けられる認知というのは何だ?」
まず最初に思いつくのは歌手というステータスだろうか。
陰陽への出演が決まり、活動量が増えた雪雫。
本人は飄々とした態度であったが、生活、そして精神面での変化の切っ掛けとしては分かりやすい。それらが転じて、大衆全体への認知の改変を──。
(いや、違うな)
認知改変自体は恐らく過去から行われていた。
彼女の入学当初、誰もが天城雪雫という少女を見逃していた。俺達だって、直接会って初めて歌手の雪雫と秀尽生の雪雫が繋がった位だ。
(そもそも、そうだとしたら余りにも行動がチグハグだ)
聞かれればあっさりと自身の素性を話す。メディア露出も全くしない訳じゃないし、りせさんとの関りもオープンで余計に注目を集めている。少なくとも隠そうとしている人間の行動とは思えない。
であるならば。
認知改変は、雪雫が無意識下で都合の良い様に行っていたペルソナの特殊能力。そして──。
「……待ってくれ。認知が向けられている…そう言ったな。ならば、雪雫をこうなるように仕向けた第三者が居るとは考えられないか?」
アリスがピタリと足を止めた。
こちらを振り返っては、怪しい瞳を細ませ、微かに笑っている。
そして三日月の様に歪めた口で
『50点』
と囁いた。
「何?」
『良い線いっているわ、雨宮蓮。仲間を真っ直ぐ信じ続けるその清い心。あの子を加害者にさせたくないという真心…とってもステキ』
「んで? 結局どうなんだよ」
『貴方達の言う第三者は存在する。そうでなければ、
「…誰なの? ソイツは……」
『────お前達』
思考が止まった。
一瞬、この少女が何を言っているか、脳が理解を拒んだ。
アリスは笑う。
「俺達……だと?」
『ええ、もう少し詳しく言うなら人類そのもの』
悪魔の様に嗤う。
戸惑う俺達の反応をじっくり覗き込んで、この悪魔は思考がぐちゃぐちゃになるのを楽しんでいる。
「……分からないよ。なんで雪雫みたいなただの純粋な女の子が…………。人類なんて大きなものを背負うなんて……」
パンサーが心境を吐露しつつも、その顔に浮かんでいるのは同情と哀れみ。
「人気歌手だから、か?」
「スカル…? 何こんな時に冗談を言ってんだオマエ…?」
「だってよ、雪雫ってスゲー人気じゃん。それこそ獅童とタメ張るくらいにはさ。んでその獅童を俺達が倒しちまったから………」
「獅童と分割していた支持も期待も全部雪雫に寄った……? 確かに、筋は通るけど………」
『ふぅん…、まぁそういう事もあるかもね』
悪魔はクスクスと未だに嗤っている。
(大衆の人気を総取りした結果、コアになった……?)
いや、もう一つ、可能性がある。
「……まさか」
「ジョーカー?」
「前提が…違うんじゃないか?」
雪雫がコアになったのではない。
コアが雪雫だったのではないだろうか。
だから認知の改変が出来る。
だから人類の認知が寄せられる。
だって雪雫はメメントスの核で、メメントスは大衆のパレスで。
『気付いた? さっきからあの子の事、普通普通って言っているけど、そんなものはただの
少し後ろに居るりせさんから、袖をぎゅっと掴む音が聞こえた。
『普通なワケ無いじゃない。ね、新島真。それと久慈川りせ』
「……りせさん…貴女も……………!」
「…あーうん……。黙ってて、ごめんね? 混乱させちゃうって思って………」
どういう事だ、と問えば、2人はつらつらと話し始めた。
大山田の言う通り、実際に雪雫は一度死んでいて、今は第二の生であること。死亡した原因は病気による衰弱などでは無く、シャドウ事案に巻き込まれたということ。その雪雫を殺したシャドウというのが、アリスそのものだという事。
そしてりせは続けて語る雪雫の身体の事。
これには真も知らなかったようで驚愕で目を丸くしていた。
黄昏の羽根という詳細不明の超遺物を心臓代わりにしており、最早人間と呼べるような状態では無いと。
『まぁこれも50点の認識。確かに羽根は雪雫に人間離れした産物をもたらした。けどこれもまた前提が違う。雪雫自身の人外的な本質は最初から決まっていた。羽根が雪雫を怪物にしたのではなく、雪雫が怪物だから羽根が今の様に馴染んだ。というのが正しいわ』
「……もう訳わからない……………」
『高巻杏、ステキな感想ありがとうね。分からないなんて最高じゃない!』
あの子は我慢ならなかったみたいだけど。
吐き捨てる様にアリスは呟いた。
『雪雫の本質は空っぽの器。何になるかは注がれる中身次第。古来より、そういう機能を持つ人間は度々現れていたわ』
「何のためにだ?」
『知らない。例え理由があっても私には分からないわ。そうね……。たまたま…神様の気まぐれ…じゃないかしら?』
うーん。と指を頬にあてて首を傾げるアリス。
本当に理由は知らないらしい。
『時折現れる空っぽの器は巫女や聖女、シャーマンと呼ばれた。本質的に空っぽな分、より高次の存在からの施しを受け取りやすいから。それこそ神の子を孕んだり、お告げを聞いたり……悪魔に誘惑されたり』
一際アリスの瞳が輝いて見えた。
『神サマでも悪魔でも、それこそシャドウでも人間自身でも! そういう器は大好物! だってそうでしょ? 空っぽなら己の欲を満たせ、好きに扱える。己の願いを、欲をありのままに受け止めてくれるモノを嫌いになれる?』
「……ろくでもないわね…」
クイーンが身震いした様子で、嫌悪感に満ちた視線をアリスに送った。
『私だってその一つ。でも残念なことに、私が雪雫の一部となった時点で、あの子は人類のネガイを感じ取ってしまっていた。それ以降はもう取り合い。人類のネガイと私があの子を満たし、それぞれがそれぞれの行く末を主張した』
「……雪雫の身体で勝手に…」
『勘違いしないで頂戴。これでも雪雫の事は大好きなのよ? 人類のネガイとやらのために己を律する彼女が嫌で私なりに頑張ったんだから。もっと人間は利己的であるべきだわ。欲のまま謳歌し、己が願望を優先する。カオスが人間の本質でしょう? 私は雪雫に欲の限りを尽くして欲しかった』
私は雪雫の欲の全てを肯定する。
そう、アリスは語る。
『久慈川りせと明智吾郎…二人は良い線行くと思ったんだけどね。久慈川りせは性愛で狂わせてくれると思ったんだけど……最後の最後で2人ともブレーキ掛かっちゃって一線超えなかったし』
「うぐっ!」
『明智吾郎は嫌悪と憎悪。精神暴走の力を使ってくれて、獣に堕ちる良い機会だったのに。結局、雪雫は最後まで明智と張り合えなかった』
「欲を尽くせば貴女が台頭するって、気付いていたのかもね」
ざまぁみろ。とクイーンはアリスを嘲笑する。
『新島真、勝ち誇っているようだけれど、最悪のケースよ。欲を恥じた雪雫は欲を捨て人類のネガイを叶えに地の底へ。このパレスは私が切り離された事によって出来たただ副産物に過ぎない』
「……つまり、今の雪雫は」
『無情な機械乙女。人類のネガイを聞き届ける使いであり器』
「………それが雪雫の行く末ってこと?」
りせさんが拳を握り締めながらアリスに問う。
きつく目を吊り上げて。
『そうならない様に、私はそそのかしていた。でも最終的に「こうありたい」という雪雫自身の思いがそれを拒んだ。それは好きな人の前では綺麗で居たいとか、仲間の前では正しく居たいとか、そんな普遍的な願い。でもあの子は悪くないと思うの。だって、そうであって欲しいとお前達も望んだでしょ?』
空っぽな器はありのままに受け止める。
それは隣人が抱く小さな思いであっても。
『本気で雪雫がそう思っているのか、それとも天秤が傾いた時点でこうなるように引っ張られたのか。どちらかは分からない。でも、私を捨てる直前まで彼女はネガイが正しいと、貴女達の為と信じていたわ』
「………その人類のネガイって…なんなの?」
『────────怠惰なる破滅』
分かりにくかったらすみません。
アリス主張:CHAOS
ネガイ主張:LAW
でお互いが
『雪雫たんはこっちが似合う!異論は認めん! 』
って精神世界でずっと喧嘩していたと思って頂けると