PERSONA5:Masses In The Wonderland.   作:キナコもち

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ちょっと箸休め。
短めです


147.5:After

 

 

 12月25日 日曜日 

 

 深夜2時44分

 

 

「コノハナサクヤ!」

 

 

  女性らしい細いシルエットと、手に咲きほこる満開の桜の花弁。天城雪子のペルソナ・コノハナサクヤが一度現れれば、視界のシャドウは漏れなく灰となる。

 

 

「ふぅー」

 

 

 戦いが始まってからもうすぐ4時間。雑魚が相手とは言え連戦に次ぐ連戦。久方ぶりの戦線という事もあり、身体は少しばかりの疲労感を訴えていた。

 

 

「ホアチャ! アチョー!」

 

 

 そんな雪子をフォローする様に、得意の足技で大立ち回りを見せる里中千枝。現役の警察官…志望の彼女は昔からの体力自慢。警察学校内部でもカンフー使いの婦警候補と話題で、なんなら学生当時よりもその動きはキレキレであった。

 

 

「ゴォォットハンドォ!」

 

 

 叫び声と共に上空から降りてくる巨大な腕。何体かのシャドウを纏めてぺしゃんこに圧し潰し、綺麗に整備された道に大きなヒビを作る。

 真田明彦を二重の意味で師と崇める*1彼女の戦い方はやはり豪快。身体付きが女性らしくなり、髪が幾分か伸びてもその気質は変わらない。

 

 

(誰が補修、するんだろう)

 

 

 千枝が作った地面のクレーターを見て、雪子はぼんやりと思う。そういえば私も結構やっちゃったな……と。

 向かいのビルの壁に出来た焦げ跡、熱で湾曲した道路標識……エトセトラ…エトセトラ………。

 

 うん、見なかったことにしよう。

 

 

(美鶴さんが何とかしてくれるでしょ)

 

 

 ああ、偉大なる桐条財閥。

 雪子は勝手な決めつけの元、都合の良い便利屋のポジションを獲得した桐条美鶴に内心で手を合わせる。

 

 

「お疲れ、千枝」

 

「雪子もね!」

 

 

 一旦、波は引いたらしい。周囲にシャドウの気配は無く、訪れる一時の静寂。

 二人は息を整えながら、すぐ近くのマンション5Fの角……つまり雪雫の家を見上げる。普段は入居者で賑わうこのマンションも一室を除きもぬけの殻。唯一、雪雫の家のガラス窓…その曇り具合がこの場における入居者の痕跡であった。

 

 

「…………」

 

「あのー雪子さん?」

 

 

 無。無だった。全く感情の無い表情で、雪子は妹の家をただただ見つめていた───その時。

 ガラガラと小さな音を立てて件の窓は開かれた。

 

 

「あ、終わったみたい」

 

 

 窓の奥の暗闇から姿を見せた良く知る二人。

 普段から距離が近い二人であったが、なんかいつも以上に距離が近い。手をつなぐにしても、腕を組むにしても、なんか全体的に所作一つ一つが粘着質。

 少なくとも雪子から見れば一目瞭然だった。

 

 

「何か喋ってるね」

 

 

 流石に地上から5階で行われている会話は聞こえない。何やら雪雫は何時も通り、りせは顔を青ざめている様な様子であるが。

 

 

「なんかサイレントコント観てるみたいだね」

 

 

 やはり雪子は無表情のまま言う。

 普段はちょっとの事で爆笑する癖に、なんならサイレントという一般的に笑い所難しいコント、一番笑う癖に。と千枝は内心で呟く。

 怖いから声には出さない。

 

 そうしているうちに、雪雫は諦めた様に溜息を吐いて……りせを抱きかかえた。所謂お姫様抱っこ。そしてそのまま軽々と跳躍し──ベランダを飛び越えた。

 

 

「ぅぁぁぁぁあああああああ!」

 

 

 素っ頓狂な、テレビでは拝めないアイドルのガチ絶叫。

 どうやらこのまま飛び降りるか飛び降りないかで相談をしていたらしい。

 

 

「あー影時間って機械動かないもんねぇ」

 

 

 千枝が納得と声を漏らせば、軽やかに着地した雪雫が「ん」と短く返す。

 

 

「こ、怖かった………」

 

 

 雪雫に地上に降ろされたりせの膝は笑っていた。バラエティーで何度か身体も張った事あるりせではあるが、流石にひも無し、クッション無しのフリーダイブは怖い。

 そのヘニョヘニョな腰のりせを見て、雪雫は「さっきと逆だね」なんて口角を上げれば

 

 

「──はっ?」

 

 

 雪子から漏れ出た乾いた声。

 

 

(まーたこのパターンかぁ)

 

 

 何で私ばかり貧乏くじを引くんだろう。

 千枝は内心項垂れた。昔からそうだ。りせちゃんの暴走に対し、雪子が荒れ、千枝が宥める。そして大体渦中の雪雫は状況を分かってないのか第三者の立場に落ち着く。

 

 二人が何をしていたか…なんて想像に難くない。

 まぁというか、そうなる様にお膳立てしたのはこっちではあるんだけど。

 

 

(それはそれで怒るんだ……)

 

 

 しかし、般若を鎮める方法はこの世にはある。怒りの要因が妹であれば、怒りを鎮めるのも妹というワケだ。

 

 

「………ゆき…お姉ちゃん…!」

 

 

 りせを降ろした雪雫は感極まった様に走り出し、姉に抱き着く。

 

 

「雪雫……!」

 

 

 雪子もそれに応え、全身で受け止める。線の細い雪子ではあるが、肉体年齢が小学生で停止している雪雫を受け止めるくらいは余裕を持って行えた。

 能面の様な表情はすっかり笑顔に変わり、高揚で頬を赤に染め、抱き留めた妹の感触を確かめる様に強く抱きしめ返す。

 

 ふんわりと白い髪が宙に揺れ、雪子にとって久方ぶりの雪雫の香りが鼻腔を擽る。

 

 

「嗚呼…無事で良かった……!」

 

 

 お互いが何処まで知っているかなんて分からない。

 でも今は純粋に、姉は妹の無事を喜び。妹は抱えていたプレッシャーを発散する様に。

 

 

「あの2人揃っているとやっぱ安心するよね」

 

「ですね!」

 

 

 甘える様に胸に顔を鎮める妹。

 肺一杯に甘い香りを吸い込む姉。

 頬と頬をこすり合わせて笑い合う姉妹。おでことおでこを合わせて───。

 

 

「……ちょっとスキンシップ激しいけどね」

 

「ずるーい! 雪子センパイ!!!」

 

 

 しかし、雪子は感じていた。

 雪雫を堪能しながらも、その身体に染みついたもう一人の存在。

 

 合間合間に香る良く知るアイドルの香水の匂い。

 チョーカーで隠す様に付けられた赤い跡。

 

 妹を感じている間は雪子は優しい顔で。合間にその存在を感じれば再び般若へ。妹の存在一つでかき乱される情緒は正に感情のジェットコースター。

 明智もビックリの二面性に、ようやくりせは気が付いた。

 

 

「じゃ、じゃあ…私も山岸さんの手伝いしてこよーカナー」

 

 

 影時間では特例を除いて電気系統は動かない。

 当然、シャワーなんて望めないため、そこは雪雫が扱う魔法の応用で、汚れやら何やらを落としてきた。

 だから気分的にはお風呂入りたいが、肉体的には綺麗な筈なのだ。それこそ汗とかその辺りの髪、服、身体に染み込みそうなヤツは無い……!

 

 と、りせは思っているのだが。

 

 彼女は一つ思い違いをしているのだ。

 確かに雪雫はりせの思い浮かべる通りの事をした。しかしそれはりせの身体のみ。何を消すか、何を残すかは雪雫の匙加減で調整でき、雪雫は「折角貰ったものだし」とりせから受けたものに関してはそのまんま。

 

 だから、分かる人には分かる。

 少なくとも、妹の変化を見逃すほど、姉の眼は曇ってはいない。

 

 雪子は未だ尚、久しぶりの妹を楽しんでいる。

 しかし、その合間。闇夜の筈なのに輝く黒目が、この場を去ろうとするりせの背中を確かに射抜いた。

 

 

「りせちゃん? 後で話、ゆっくり聞かせてね?」

 

「はひぃ!?」

*1
ペルソナ使いと警官として。あんな恰好しているけど一応警察の人間。裸マントだけど




久しぶりにR-18を更新しました。
前話と今回の間にあった出来事が内容です。

興味ありましたら是非

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